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遺留分算定が時価なのはなぜ?その根拠と不動産評価のポイントを解説

2025-06-23
目次

ご家族が亡くなり、遺言書が見つかったけれど、その内容に「どうして私だけこんなに少ないの?」と納得できない気持ちを抱えていらっしゃいませんか。そんな時にあなたの権利を守ってくれるのが「遺留分」という制度です。ただ、遺留分を計算するとき、特に土地や建物といった不動産の価値をどう評価するのかは、とても重要な問題になります。相続税の申告で使った「路線価」や、毎年払っている固定資産税の基準になる「固定資産税評価額」ではいけないのでしょうか?
結論から言うと、遺留分の算定は「時価」で行うのが原則です。この記事では、なぜ遺留分の算定が時価で行われるのか、その法的な根拠から、具体的な不動産の評価方法、そして評価額について他の相続人と意見が合わない場合の対処法まで、優しく丁寧に解説していきます。

遺留分の算定が「時価」で行われる根拠とは?

遺留分を計算する際の財産の評価は、「相続開始時(被相続人が亡くなった時点)の時価」を基準にする、というのが法律上のルールであり、裁判例でも確立されています。なぜ、他の評価額ではなく「時価」なのでしょうか。その背景には、相続人間の「公平性」を保つという大切な考え方があります。

遺留分という権利の基本的な考え方

そもそも遺留分とは、配偶者や子、親など、一定の法定相続人に法律で保障された、最低限の遺産の取り分のことをいいます。たとえ遺言書に「全財産を長男に相続させる」とか「愛人にすべて遺贈する」と書かれていたとしても、他の相続人は自身の遺留分に相当する金額を請求することができます。これは、残された家族の生活保障や、相続人間の公平を図るために設けられた、とても重要な権利なのです。

なぜ「相続開始時」の時価なのか?その根拠

遺留分を算定する財産の評価基準時が「相続開始時」であること、そしてその評価は「時価」によるべきだということは、最高裁判所の判例(最高裁昭和51年3月18日判決)で示されています。

その理由は、遺留分という権利は、被相続人が亡くなった瞬間に具体的に発生すると考えられているからです。そのため、財産の価値も、その権利が発生した「相続開始時」の客観的な価値、つまり「時価」で評価するのが最も合理的で公平だと判断されています。相続が始まってから不動産価格が上がったり下がったりしても、遺留分を計算する上での財産評価額は、あくまで亡くなった日の価値で固定されるのです。

「時価」とは具体的にどんな価格?

「時価」と聞くと少し難しく感じるかもしれませんが、簡単に言うと「その財産が、市場で自由に売り買いされた場合に、いくらで取引されるか」という客観的な価格のことです。これを「実勢価格」とも呼びます。
例えば、預貯金であれば、亡くなった日の残高がそのまま時価になります。上場株式であれば、亡くなった日の終値などが基準になります。そして、一番問題になりやすい不動産の場合は、その時に売却したらいくらになるか、という価格が時価の目安になります。

なぜ相続税評価額や固定資産税評価額ではダメなの?

相続の手続きでは、「相続税評価額(路線価)」や「固定資産税評価額」といった言葉をよく耳にします。これらは行政が定めた公的な評価額ですが、遺留分の算定では原則として使われません。なぜなら、これらの評価額は、実際の取引価格である「時価」とは目的が異なり、多くの場合、時価よりも低い金額に設定されているからです。

評価額によって請求できる金額はこんなに違う!

どの評価方法を使うかで、あなたが請求できる遺留分の金額は大きく変わってきます。具体的な例で見てみましょう。

【例】
・相続財産:土地のみ(父の遺産)
・相続人:長男と次男の2人(遺留分はそれぞれ遺産全体の1/4)
・遺言内容:「全財産を長男に相続させる」
・土地の評価額:
時価:5,000万円
– 固定資産税評価額:3,500万円

この場合、財産を全くもらえなかった次男が長男に請求できる遺留分侵害額は…

  • 時価で計算した場合:
    5,000万円 × 1/4 = 1,250万円
  • 固定資産税評価額で計算した場合:
    3,500万円 × 1/4 = 875万円

いかがでしょうか。計算の基準にする評価額が違うだけで、請求できる金額に375万円もの差が生まれてしまうのです。相続人間の公平を保つためには、実際の財産価値に近い「時価」で計算する必要があることがお分かりいただけると思います。

各評価額の目的の違い

そもそも、それぞれの評価額は作られた目的が異なります。この違いを理解することが大切です。

評価方法 目的と特徴
時価(実勢価格) 実際に市場で取引される客観的な価値です。遺産分割や遺留分算定など、当事者間の公平な分配を目的とする場面で用いられます。
路線価(相続税評価額) 相続税や贈与税を計算するために国税庁が定めた土地の価格です。課税の公平性が目的で、一般的に時価の80%程度が目安とされています。
固定資産税評価額 固定資産税や不動産取得税などを計算するために市町村が定めた価格です。こちらも課税の公平性が目的で、一般的に時価の70%程度が目安とされています。

このように、路線価や固定資産税評価額は、あくまで税金を計算するための「物差し」であり、財産の本当の価値を示すものではないのです。

不動産の「時価」はどうやって調べる?

預貯金と違って、不動産には「定価」がありません。そのため、遺留分を計算する際には、この「時価」をどうやって調べるかが非常に重要になり、相続人間で意見が分かれやすいポイントでもあります。主な調べ方は以下の通りです。

不動産会社による査定

最も一般的で手軽な方法が、不動産会社に査定を依頼することです。近隣の取引事例や土地の状況などから「今売ったらいくらになるか」という売却査定額を出してもらえます。多くの不動産会社では無料で査定を行ってくれます。
ただし、査定額はあくまで「売却予想価格」であり、会社によって金額にばらつきが出ることがあります。そのため、複数の不動産会社(できれば3社以上)に査定を依頼し、その査定書を比較検討するのがおすすめです。当事者双方が納得すれば、その平均額などを時価として合意することもあります。

不動産鑑定士による鑑定評価

当事者間で査定額についての合意が難しい場合や、調停・裁判に発展した場合には、不動産鑑定士による鑑定評価が最も信頼性の高い方法となります。不動産鑑定士は、不動産の価格を評価する国家資格を持つ専門家です。
鑑定評価書は法的な証拠能力が高く、裁判所もこの評価を非常に重視します。ただし、専門家による詳細な調査が行われるため、費用が数十万円から100万円以上かかることもあり、誰がその費用を負担するのかも問題になります。

公示価格・基準地価を参考にする

国(国土交通省)が公表する「公示価格」や、都道府県が公表する「基準地価」も、土地の時価を知る上での参考になります。これらは公的な土地評価の指標であり、インターネットで誰でも調べることができます。
ただし、これらはあくまで「標準的な土地」の1㎡あたりの価格です。評価したい土地の形、道路への接し方、周辺環境といった個別の事情は反映されていないため、専門的な補正をしない限り、そのまま時価として使うのは難しいでしょう。

遺留分の話し合いで評価額の合意ができない場合

遺留分を請求する側は、財産評価額をできるだけ高くしたいと考え、逆に請求される側(財産を多くもらった側)は、支払う金額を抑えるために評価額を低く主張したいと考えます。そのため、特に不動産の評価額をめぐっては、意見が対立しがちです。

まずは当事者間での協議

まずは、お互いが集めた資料(不動産会社の査定書など)を持ち寄って、冷静に話し合うことが第一歩です。感情的にならず、客観的なデータに基づいて協議を進めることが大切です。例えば、お互いが出した査定額の中間値をとるなど、歩み寄りの姿勢で合意点を探ります。

家庭裁判所での調停

当事者同士の話し合いでどうしても解決しない場合は、家庭裁判所に「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てることになります。調停では、調停委員という中立な第三者が間に入り、双方の主張を聞きながら、法的な観点や公平な解決案を示してくれます。この調停の場で、裁判所から不動産鑑定を行うよう勧められることもよくあります。

最終的には裁判(訴訟)で決着

調停でも話がまとまらず不成立となった場合は、最終的に「訴訟(裁判)」で争うことになります。訴訟では、裁判官が提出された証拠(特に不動産鑑定評価書が重視されます)に基づいて、法的な判断を下します。裁判所が不動産の時価を認定し、それに基づいて支払うべき遺留分侵害額が確定します。

生前贈与された財産の評価も「相続開始時」の時価

遺留分の計算の基礎となる財産には、亡くなった時に残っていた財産だけでなく、過去に行われた一定の生前贈与も含まれます。そして、ここでも重要なのが、その生前贈与された財産の評価も、贈与された時点の価値ではなく、「相続開始時(亡くなった時点)」の価値に引き直して計算するというルールです。

例えば、父親が亡くなる10年前に、長男が時価2,000万円の土地を生前贈与されていたとします。その後、その土地の周辺が開発され、父親が亡くなった時点(相続開始時)には、土地の価値が3,000万円に値上がりしていました。この場合、遺留分の計算に加える贈与財産の価額は、贈与時の2,000万円ではなく、相続開始時の3,000万円として扱われます。

もし贈与時の価値で計算してしまうと、早くに贈与を受けた人が有利になり、他の相続人との間に不公平が生じてしまいます。そのため、すべての財産を「相続開始時」という一つの時点の価値にそろえることで、相続人間の公平を保っているのです。

まとめ

今回は、「なぜ遺留分の算定は時価なのか」という疑問について、その根拠と具体的なポイントを解説しました。最後に、大切な点をもう一度確認しましょう。

  • 遺留分を算定する際の財産評価は、相続人間の公平を保つため、「相続開始時(亡くなった時)の時価」で行うのが大原則です。
  • 相続税の申告で使う路線価や固定資産税の計算に使う固定資産税評価額は、時価よりも低く設定されているため、遺留分の算定には使えません。
  • 不動産の時価は、複数の不動産会社による査定や、より正確性を求めるなら不動産鑑定士による鑑定評価によって調べます。
  • 評価額について相続人間で合意できない場合は、調停や裁判といった法的な手続きを通じて、最終的に裁判所が判断します。
  • 生前贈与された財産も、贈与時ではなく相続開始時の時価に評価し直して遺留分計算に加えます。

遺留分の計算、特に不動産が絡むケースは非常に複雑で、専門的な知識が求められます。もしご自身での対応に不安を感じたり、他の相続人との話し合いがうまくいかなかったりした場合は、お早めに弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

遺留分の時価算定に関するよくある質問まとめ

Q. なぜ遺留分の計算は「時価」で行うのですか?

A. 遺留分は、相続開始時(被相続人が亡くなった時)における財産の実質的な価値を確保するための制度だからです。もし購入時の価格で計算すると、不動産のように価値が大きく変動する財産で不公平が生じるため、相続人間の公平を保つために時価で算定されます。

Q. 遺留分を計算する際の「時価」とは、いつの時点の価格ですか?

A. 相続開始時、つまり被相続人が亡くなった時点での時価が基準となります。例えば、生前に贈与された土地の価格が上がっていた場合も、相続開始時の価格で計算に含める必要があります。

Q. 遺留分の時価算定の法的根拠は何ですか?

A. 民法第1043条が根拠となります。この条文では、遺留分の基礎となる財産を「相続開始の時において有した財産の価額」と定めており、この「価額」が時価を指すと解釈されています。

Q. 不動産の時価はどのように評価するのですか?

A. 相続税評価額(路線価や固定資産税評価額)を参考にしつつ、最終的には実勢価格(実際の取引価格)に近い価額で評価します。当事者間で合意できない場合は、不動産鑑定士による鑑定評価額が基準となることもあります。

Q. 生前贈与された財産も、亡くなった時点の時価で計算するのですか?

A. はい、その通りです。生前贈与された財産も、相続開始時の時価に評価し直して遺留分算定の基礎財産に加えます。ただし、贈与されたものが金銭の場合は、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算して計算します。

Q. 遺留分の計算で時価を使うことのメリットは何ですか?

A. 最大のメリットは、相続人間の公平性が保たれることです。物価や資産価値の変動を反映させることで、各相続人が受け取るべき財産の実質的な価値を正しく算定し、特定の相続人だけが不当に有利・不利になるのを防ぎます。

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