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投資信託の相続税評価額は?取得原価の計算までやさしく解説

2025-06-26
目次

ご家族が亡くなり、遺産の中に投資信託が見つかったら、どうすればいいのでしょうか?「相続税の計算はどうするの?」「将来売却するときの税金は?」といった疑問が浮かびますよね。この記事では、投資信託の相続税評価額の計算方法と、売却時の譲渡所得を計算するために必要な取得原価の把握方法について、わかりやすく解説していきます。

投資信託の相続税評価額はどうやって計算するの?

投資信託を相続した場合、相続税を計算するためにその価値(評価額)を算定する必要があります。投資信託は種類によって評価方法が異なるため、まずは故人が保有していた投資信託がどのタイプに該当するのかを確認することが大切です。大きく分けて3つのパターンがあります。

【一般の投資信託】ほとんどがこのタイプ

日々決算型や上場投資信託(ETFなど)以外の、いわゆる「一般の投資信託」の評価方法です。現在販売されている投資信託の多くがこのタイプに該当します。評価額は、相続開始日(故人が亡くなった日)の基準価額をもとに、解約した場合にかかる税金や手数料を差し引いて計算します。

計算式 (課税時期の1口あたり基準価額 × 口数) – 源泉徴収されるべき所得税額等 – 信託財産留保額および解約手数料
ポイント 相続開始日に解約したと仮定して評価するのが特徴です。もし投資信託に含み益(購入時より値上がりしている状態)があれば、その利益にかかる所得税・住民税など(20.315%)を差し引くことができます。これにより、評価額を少し下げることができます。

※課税時期とは、相続開始日(亡くなった日)のことです。
※相続開始日が土日祝日などで基準価額がない場合は、相続開始日より前の最も近い営業日の基準価額を使用します。

【上場投資信託(ETF・REIT)】株式と同じ考え方

証券取引所に上場しているETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)は、上場株式と同じように評価します。この方法の大きな特徴は、相続税の負担が最も軽くなるように、4つの価格の中から一番低い価格を選べる点です。

評価額の計算に使うのは、以下の4つの価格のうち、最も低いものです。

  • 相続開始日(亡くなった日)の終値
  • 相続開始があった月の毎日の終値の月間平均額
  • 相続開始があった月の前月の毎日の終値の月間平均額
  • 相続開始があった月の前々月の毎日の終値の月間平均額

この最も低い価格に、保有していた口数を掛けて評価額を算出します。どの価格を選ぶかによって評価額が大きく変わることもあるため、慎重に確認しましょう。

【日々決算型投資信託(MRFなど)】シンプルな計算

MRF(マネー・リザーブ・ファンド)に代表される、毎日決算が行われるタイプの投資信託です。証券会社の口座に入金した資金が自動的にMRFで運用されていることも多いです。評価方法は比較的シンプルです。

計算式 (課税時期の1口あたり基準価額 × 口数) + 未収分配金 – 源泉徴収されるべき所得税額等 – 信託財産留保額および解約手数料
ポイント MRFの基準価額は通常1口あたり1円で固定されています。また、現在の低金利環境では未収分配金はごくわずか、またはゼロになることがほとんどです。信託財産留保額や解約手数料もない商品が多いため、実質的に「保有口数=評価額」となるケースが多くなっています。

相続した投資信託を売却!譲渡所得の取得原価はどうなる?

相続した投資信託を将来売却(譲渡)して利益が出た場合、譲渡所得として所得税・住民税がかかります。その税金を計算するうえで非常に重要になるのが「取得原価」です。相続した資産の取得原価には、特別なルールがあるのでしっかりと理解しておきましょう。

取得原価は亡くなった方の購入価格を引き継ぐ

相続によって取得した投資信託の取得原価は、亡くなった方(被相続人)がその投資信託を購入したときの価格を引き継ぎます。自分が相続したときの時価(相続税評価額)ではない、という点が非常に重要なポイントです。

例えば、お父様が100万円で購入した投資信託を相続し、相続時の評価額が150万円だったとします。その後、あなたが200万円で売却した場合、譲渡所得の計算に使う取得原価は、お父様が購入した100万円となります。

  • 売却価格:200万円
  • 取得原価:100万円(相続時の150万円ではありません)
  • 譲渡所得(課税対象):200万円 – 100万円 = 100万円(ここから手数料などを引いて税金を計算します)

取得原価がわからない場合はどうする?

昔に購入した投資信託などで、亡くなった方の購入価格を示す取引報告書などが見つからないケースも少なくありません。証券会社に問い合わせても、古い記録は残っていないこともあります。
その場合は、売却価格の5%を取得原価として計算することが認められています。これを「概算取得費」といいます。

例えば300万円で売却した場合、概算取得費は「300万円 × 5% = 15万円」となります。ただし、実際の取得原価がこれより高いはずなのに証明できない場合、税金の負担がかなり重くなってしまう可能性があります。できる限り、購入時の資料を探すことが大切です。

NISA口座で保有していた投資信託の注意点

亡くなった方がNISA(少額投資非課税制度)口座で投資信託を保有していた場合、注意が必要です。相続人がその投資信託を引き継ぐ際には、NISA口座の非課税メリットは引き継ぐことができません
相続人の課税口座(特定口座や一般口座)に移管されることになり、その後の売却で利益が出れば通常どおり課税対象となります。このとき、取得原価は相続開始日(亡くなった日)の時価となり、亡くなった方の購入価格は引き継がないという特殊なルールになっています。

節税につながる「取得費加算の特例」とは?

相続税を支払った方が、相続した投資信託を一定期間内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得原価に上乗せできる特例があります。これを「取得費加算の特例」といいます。取得原価が増えることで譲渡所得が減り、結果的に所得税・住民税の節税につながります。

特例の適用要件

この特例を使うには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 相続や遺贈によって財産を取得した人であること。
  • その財産を取得したことで、相続税が課されていること。
  • その財産を、相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内に売却していること。

取得費に加算できる金額の計算

取得費に加算できる相続税額は、以下の計算式で算出されます。

その人が支払った相続税額 ×(その人が売却した財産の相続税評価額 ÷ その人の相続税の課税価格)

少し計算は複雑ですが、適用できれば税負担を軽減できる可能性がある重要な制度です。相続した投資信託の売却を考えている場合は、3年10ヶ月という期限に注意して、この特例の利用を検討しましょう。

まとめ

投資信託の相続は、まず種類に応じた正しい方法で相続税評価額を算定することが第一歩です。そして、将来の売却に備えて、亡くなった方の取得原価を把握しておくことが譲渡所得の計算において非常に大切になります。取得原価が不明な場合は売却額の5%を概算取得費とすることができますが、税負担が重くなる可能性もあるため、できるだけ購入時の資料を探しましょう。
また、相続税を納税した方が3年10ヶ月以内に売却する場合には、「取得費加算の特例」という節税制度も活用できます。一連の手続きが複雑で不安に感じる場合は、無理せず税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価

国税庁 No.1464 譲渡した株式等の取得費

国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

投資信託の相続と税金のよくある質問まとめ

Q.投資信託の相続税評価額はどうやって計算するのですか?

A.相続開始日(亡くなった日)の基準価額をもとに評価します。具体的には、相続開始日の基準価額から、解約した場合に源泉徴収される所得税などの税額相当額を差し引いた金額が評価額となります。

Q.MRFやMMFなど日々決算型の投資信託の評価方法は異なりますか?

A.はい、異なります。MRFなどの日々決算型投資信託は、相続開始日の「1口あたりの純資産価額」に口数を掛け、そこから経過利子に相当する分配金と源泉徴収税額相当額を加減算して評価します。

Q.まだ受け取っていない分配金(未収分配金)はどうなりますか?

A.未収分配金も相続財産に含まれます。相続開始日時点で権利が確定している未収分配金は、源泉徴収される税額を差し引いた後の金額を、投資信託本体とは別に相続財産として計上する必要があります。

Q.相続した投資信託を売却する場合、取得費(取得原価)はどうなりますか?

A.被相続人(亡くなった方)がその投資信託を購入したときの価格と取得時期をそのまま引き継ぎます。被相続人の購入価格が、相続したあなたの取得費となり、譲渡所得(売却益)を計算する際の基礎となります。

Q.被相続人の購入価格がわからない場合、取得費はどうやって確認すればよいですか?

A.まずは証券会社に「取引報告書」や「取引残高報告書」の履歴を請求して確認します。それでも不明な場合は、売却代金の5%を概算取得費として計算する方法もありますが、税負担が大きくなる可能性があるため、専門家への相談をおすすめします。

Q.支払った相続税は、投資信託を売却したときの税金計算に関係しますか?

A.はい、「相続税の取得費加算の特例」という制度があります。相続により取得した投資信託を、相続開始の翌日から3年10ヶ月以内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得を圧縮して税負担を軽減できる可能性があります。

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