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NISA口座の証券を相続!相続税評価額の計算と手続きを解説

2025-07-01
目次

NISA口座で資産運用をしていた大切なご家族が亡くなられた場合、その証券がどうなるのか、特に相続税の評価額がどう計算されるのか、ご不安に感じていらっしゃるかもしれませんね。NISA口座の相続は、通常の預貯金や証券とは少し異なるルールがあります。この記事では、NISA口座の証券を相続した場合の相続税評価額の計算方法から、具体的な手続き、知っておくべき注意点まで、わかりやすく丁寧にご説明します。

NISA口座の証券を相続する際の基本ルール

まず、NISA口座の相続について、基本的なルールを3つ押さえておきましょう。このポイントを知っておくだけで、ぐっと理解が深まりますよ。

NISA口座の資産も相続税の課税対象です

「NISAは非課税だから相続税もかからないのでは?」と思われるかもしれませんが、それは少し違います。NISA制度は、運用して得られた利益(配当金、分配金、譲渡益)にかかる所得税(20.315%)が非課税になる制度です。NISA口座内の株式や投資信託そのものは、預貯金や不動産と同じように「相続財産」として扱われ、相続税の課税対象となります。遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続税の申告が必要になる可能性があります。

非課税メリットは被相続人の死亡で終了します

NISA口座の最大のメリットである「運用益の非課税」という特典は、残念ながら相続人に引き継がれません。口座の名義人が亡くなられた時点で、そのNISA口座の非課税の役割は終了します。相続人がご自身のNISA口座に、亡くなった方のNISA資産を移して非課税運用を続けることはできない、ということを覚えておいてください。

死亡日までの運用益は非課税が維持されます

亡くなられた方のNISA口座は終了しますが、嬉しい点もあります。それは、亡くなられた日(相続開始日)までに発生していた含み益については、所得税がかからないということです。例えば、100万円で買った株が、亡くなられた日に150万円に値上がりしていた場合、その差額の50万円の利益には所得税がかかりません。これはNISA口座ならではのメリットと言えますね。

NISA口座にある証券の相続税評価額

それでは、今回のテーマである「相続税評価額」の計算方法について見ていきましょう。NISA口座内の資産であっても、評価の方法は通常の課税口座(特定口座や一般口座)にある有価証券と同じルールが適用されます。

上場株式の相続税評価額の計算方法

上場株式の評価額は、株価が日々変動することを考慮して、相続人にとって最も有利な(つまり、最も低い)価格を選べるようになっています。具体的には、以下の4つの価格のうち、最も低い金額をその株式の相続税評価額とします。

評価の基準となる日 価格
① 相続開始日(亡くなられた日) その日の終値
② 相続開始日の属する月 その月の毎日の終値の平均額
③ 相続開始日の属する月の前月 その月の毎日の終値の平均額
④ 相続開始日の属する月の前々月 その月の毎日の終値の平均額

どの価格を選ぶかで相続税額が変わってくる可能性があるため、金融機関から残高証明書などを取得し、4つの価格をしっかり確認することが大切です。

投資信託の相続税評価額の計算方法

投資信託の場合は、相続開始日に解約したらいくらになるか、という考え方で評価します。具体的な計算式は以下の通りです。

相続税評価額 = 相続開始日の1口あたりの基準価額 × 口数 - 解約時にかかる税金(源泉徴収所得税)など

こちらも金融機関で発行される残高証明書などで確認することができます。

相続したNISA証券の取得価額はどうなる?

相続税評価額と並んで、非常に重要なのが「取得価額」の扱いです。これは、相続した証券を将来売却するときの税金計算に関わるもので、NISA口座の相続では特別なルールがあります。

取得価額は「相続開始日の時価」になります

通常の課税口座の証券を相続した場合、相続人は亡くなった方(被相続人)がその証券を買ったときの価格(取得価額)を引き継ぎます。しかし、NISA口座の証券を相続した場合、相続人の新しい取得価額は「相続開始日(亡くなられた日)の時価(終値)」となります。つまり、相続人は、亡くなった日にその証券を時価で新たに購入した、とみなされるのです。これは非常に大きな違いなので、しっかり理解しておきましょう。

通常の課税口座を相続した場合との比較

この取得価額のルールの違いが、将来の税金にどう影響するのか、例を見てみましょう。

ケース NISA口座の証券を相続した場合
被相続人の取得価額が100万円、相続開始日の時価が150万円、その後相続人が200万円で売却した場合 相続人の取得価額は150万円
売却益は200万円 – 150万円 = 50万円となり、この50万円に対して所得税がかかります。
被相続人の取得価額が100万円、相続開始日の時価が80万円、その後相続人が120万円で売却した場合 相続人の取得価額は80万円
売却益は120万円 – 80万円 = 40万円となり、この40万円に対して所得税がかかります。

このように、相続開始日の時価が取得価額になることで、相続後に売却した際の課税対象となる利益が変わってきます。

NISA口座の相続手続きの流れ

実際に相続が発生した場合、どのような手順で手続きを進めればよいのでしょうか。大まかな流れは以下の通りです。

金融機関への連絡と必要書類の準備

まず、被相続人がNISA口座を開設していた証券会社や銀行などの金融機関に、口座名義人が亡くなったことを連絡します。すると、金融機関から相続手続きに必要な書類の案内があります。一般的には、「非課税口座開設者死亡届出書」の提出が求められます。その他、戸籍謄本や遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書などが必要となります。

遺産分割協議

遺言書がない場合は、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)、誰がNISA口座の証券を相続するのかを決めます。決まった内容は遺産分割協議書という書面にまとめ、相続人全員が署名・捺印します。

相続人の課税口座へ移管(払い出し)

相続する人が決まったら、金融機関に所定の書類を提出し、NISA口座内の証券を、相続人名義の課税口座(特定口座または一般口座)に移管してもらいます。この手続きをもって、相続は完了となります。手続きの簡便さから、移管先は「特定口座(源泉徴収あり)」を選ぶ方が多いです。

NISA口座を相続するときの注意点

最後に、NISA口座の相続において特に注意していただきたい点を3つご紹介します。

相続人のNISA口座へは移管できません

繰り返しになりますが、最も重要な注意点です。亡くなった方のNISA口座の非課税メリットは、相続人に引き継ぐことはできません。相続した証券は、必ず相続人の課税口座(特定口座・一般口座)に移管されます。

被相続人と同じ金融機関に口座が必要です

相続した証券は、被相続人がNISA口座を開設していたのと同じ金融機関の、相続人名義の口座に移管する必要があります。もし相続人がその金融機関に口座を持っていない場合は、新たに口座を開設する必要がありますので、少し時間がかかることを見越しておくと安心です。

死亡日以降の配当金や分配金は課税対象です

NISA口座の非課税措置は亡くなられた日で終了します。そのため、亡くなられた後に受け取る配当金や分配金は非課税にはならず、通常通り20.315%の所得税・住民税が課税されます。

まとめ

今回は、NISA口座の証券を相続した場合の相続税評価額や手続きについて解説しました。ポイントをまとめます。

  • NISA口座の資産も相続税の課税対象。ただし死亡日までの運用益は非課税。
  • 相続税評価額は、上場株式の場合4つの価格から最も低いものを選択できる。
  • 相続後の取得価額は、亡くなった日の時価となり、被相続人の取得価額は引き継がない
  • 相続した証券は、相続人のNISA口座ではなく課税口座に移管される。

NISA口座の相続は、少し特殊なルールがありますが、ポイントを押さえておけば落ち着いて対応できます。もし手続きにご不安な点があれば、金融機関や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

No.1464 譲渡した株式等の取得費|国税庁

No.4105 相続税がかかる財産|国税庁

No.4632 上場株式の評価|国税庁

NISA口座の証券相続に関するよくある質問まとめ

Q.NISA口座の証券を相続した場合、相続税はかかりますか?

A.はい、かかります。NISA口座の非課税メリットは所得税に関するもので、相続税は対象外です。そのため、NISA口座内の証券も通常の相続財産として相続税の課税対象となります。

Q.NISA口座の証券の相続税評価額はどのように計算しますか?

A.被相続人(亡くなった方)が亡くなった日の最終価格(終値)で評価するのが原則です。もし亡くなった日に取引がなかった場合は、その日に最も近い過去の日の終値など、いくつかの評価方法から最も低い価格を選択できます。

Q.NISAの非課税メリットは相続人に引き継がれますか?

A.いいえ、引き継がれません。相続人がNISA口座内の証券を引き継ぐ場合、その証券は相続人の課税口座(特定口座または一般口座)に移管され、その後の利益は課税対象となります。

Q.故人のNISA口座の証券を、相続人が自分のNISA口座に移すことはできますか?

A.いいえ、できません。相続した証券は相続人自身のNISA口座には移管できず、課税口座(特定口座または一般口座)で受け入れることになります。

Q.相続したNISA口座の証券の取得価額はどうなりますか?

A.被相続人が亡くなった日の時価(相続税評価額)が、相続人の新しい取得価額となります。被相続人がNISA口座で取得した時の価格ではない点に注意が必要です。

Q.NISA口座の相続手続きはどのように進めればよいですか?

A.まず、被相続人が口座を開設していた金融機関に連絡し、相続が発生したことを伝えます。その後、金融機関の案内に従い、戸籍謄本や遺産分割協議書などの必要書類を提出して手続きを進めます。

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