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NISA口座の相続|取得価額の考え方は?租税特別措置法を解説

2025-07-02
目次

ご家族が大切に育ててきたNISA口座。もし相続が発生したら、その中の株式や投資信託はどうなるのでしょうか?特に、将来売却するときの税金計算の基礎となる「取得価額」がどう扱われるのかは、とても重要なポイントです。実は、NISA口座の相続には特別なルールがあり、その根拠が「租税特別措置法」に定められています。この記事では、専門用語をなるべく使わずに、NISA口座を相続したときの取得価額の考え方と、その根拠となる法律について、わかりやすく解説していきます。

租税特別措置法 第三十七条の十四 第十四項とは?

少し難しく聞こえるかもしれませんが、NISA口座の相続ルールを理解する上で欠かせないのが、この法律の条文です。まずは、この法律が何を定めているのか、ポイントを押さえていきましょう。

この法律が定める重要なポイント

この条文の結論をひとことで言うと、「NISA口座内の金融商品を相続した場合、その金融商品の取得価額は、亡くなった方(被相続人)が購入したときの価格ではなく、相続が発生した日(相続開始日)の時価になる」ということです。

つまり、相続によって資産が次の世代に移るタイミングで、取得価額がリセットされ、新しい価格に更新される、とイメージしてください。

なぜこのルールがあるの?

NISA口座は、もともと個人の資産形成を応援するための非課税制度です。そのため、非課税の恩恵は、その口座の名義人一代限りのもの、という考え方が基本にあります。相続によってNISA口座の非課税の地位がそのまま引き継がれるわけではないため、資産が課税の世界に移るタイミングで、その時点での価値(時価)を新しいスタートライン(取得価額)に設定する、という考え方に基づいています。

条文をわかりやすく解説

実際の条文は非常に専門的な言葉で書かれていますが、内容をかみ砕くと以下のようになります。

「亡くなった方(被相続人)のNISA口座から、相続人が株式などの資産を受け取った場合、相続人は『相続したその日の時価』でその資産を買ったものとして扱いますよ。」

このルールによって、相続後の税金計算が大きく変わってくるのです。

NISA口座を相続したときの基本ルール

次に、NISA口座の相続における基本的な流れを確認しておきましょう。通常の預金などとは少し違う特徴があります。

NISAの非課税メリットは引き継げない

最も大切なルールは、「NISA口座そのものを相続することはできない」という点です。亡くなった方のNISA口座を、相続人がそのまま引き継いで非課税で運用を続けることはできません。非課税投資枠も引き継ぐことはできず、NISAの非課税メリットは、口座名義人の死亡とともに終了します。

相続財産は課税口座へ移されます

亡くなった方のNISA口座にあった株式や投資信託は、自動的に解約・売却されるわけではありません。これらの金融商品は、相続人の「課税口座(特定口座や一般口座)」に移管(移し替え)されます。この移管手続きを経て、相続人は資産を自分のものとして管理・運用・売却できるようになります。

相続したNISA資産の「所得原価(取得価額)」の考え方

ここからが本題です。課税口座に移された資産を将来売却するとき、譲渡所得(売却益)にかかる税金を計算する必要があります。その計算の元となる取得価額は、先ほど解説した法律に基づいて決まります。

結論:新しい取得価額は「相続開始日の時価」

繰り返しになりますが、相続したNISA口座内の資産の取得価額は、亡くなった方が実際に購入した金額ではなく、「相続開始日(通常は亡くなった日)の時価」となります。この新しい取得価額が、将来売却する際の計算のスタート地点になります。

具体例で見てみましょう

言葉だけだと分かりにくいので、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。

【例】
亡くなったお父様が、NISA口座でA社の株式を100万円で購入しました。

その後、株価が値上がりし、お父様が亡くなった日(相続開始日)のA社の株価は150万円になっていました。

相続したお子様が、このA社の株を自分の課税口座に移管後、さらに値上がりした180万円で売却しました。

この場合、お子様の譲渡所得(売却益)の計算は以下のようになります。

180万円(売却価格) – 150万円(取得価額) = 30万円

この30万円に対して、所得税・住民税(合計20.315%)が課税されます。もし、お父様の購入価格である100万円が取得価額だったら、利益は80万円となり、税額も大きく変わっていました。これが、租税特別措置法が定めるルールの効果です。

通常の相続との違いを比較

NISA口座の相続ルールが、いかに特別かが分かるように、通常の課税口座の資産を相続した場合と比較してみましょう。

課税口座の資産を相続した場合

通常の課税口座(特定口座や一般口座)にある株式などを相続した場合、適用される法律は所得税法第60条です。この法律では、亡くなった方の取得価額と取得時期を、相続人がそのまま引き継ぐことになっています。取得価額がリセットされるNISAとは、根本的に考え方が異なります。

NISA口座相続との比較表

2つのケースの違いを表にまとめました。

項目 NISA口座の資産を相続
適用される法律 租税特別措置法 第37条の14 第14項
取得価額 相続開始日の時価にリセットされる
将来の売却益の計算 相続開始日の時価から値上がりした分が利益となる
項目 通常の課税口座の資産を相続
適用される法律 所得税法 第60条
取得価額 被相続人の取得価額をそのまま引き継ぐ
将来の売却益の計算 被相続人の購入時から値上がりした分が利益となる

どちらが有利?ケースバイケースです

NISA口座の相続ルールは、状況によって有利にも不利にもなります。

  • 有利になるケース:亡くなった方が購入した時よりも、相続開始日の株価が値上がりしている場合。
    取得価額が高くなるため、その後に売却した際の利益が圧縮され、結果的に所得税を抑えることができます。これを「取得価額のステップアップ」と呼びます。
  • 不利になるケース:亡くなった方が購入した時よりも、相続開始日の株価が値下がりしている場合。
    取得価額が低くなってしまうため、その後に株価が回復して売却すると、利益が大きく計算されてしまい、税負担が増える可能性があります。

相続発生後の手続きと注意点

実際に相続が発生した場合の、大まかな流れと注意点も確認しておきましょう。

金融機関への連絡と手続き

まずは、亡くなった方がNISA口座を開設していた金融機関(証券会社や銀行)に連絡し、相続が発生した旨を伝えます。その後、金融機関の案内に従って、以下のような書類を提出し、相続人の課税口座への移管手続きを進めます。

  • 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本
  • 相続人全員の同意を示す遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書 など

必要書類は金融機関や相続の状況によって異なりますので、必ず事前に確認してください。

相続税の課税対象であることも忘れずに

NISA口座の資産は、相続税の課税対象となります。相続開始日の時価で評価され、他の相続財産(預貯金、不動産など)と合算して相続税が計算されます。譲渡所得税(所得税)とは別の税金ですので、混同しないように注意しましょう。財産の合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告が必要です。

まとめ

今回は、NISA口座の相続発生時における取得価額の考え方について、その根拠となる法律を交えながら解説しました。最後にポイントを振り返りましょう。

  • NISA口座の相続では、租税特別措置法 第三十七条の十四 第十四項に基づき、取得価額が「相続開始日の時価」にリセットされます。
  • これは、亡くなった方の取得価額を引き継ぐ通常の相続とは異なる、NISA特有の重要なルールです。
  • 相続時に資産が値上がりしていれば、将来の売却時の税負担が軽くなるというメリットがあります。
  • 相続が発生したら、まずは金融機関に連絡し、課税口座への移管手続きを進めましょう。
  • NISA資産は相続税の課税対象になる点も忘れないでください。

相続の手続きは複雑に感じられるかもしれませんが、一つひとつのルールを正しく理解することで、安心して手続きを進めることができます。ご不明な点があれば、税理士などの専門家に相談することも検討してみてください。

参考文献

NISA口座の相続と取得価額に関するよくある質問まとめ

Q.NISA口座で保有していた株式を相続しました。売却するときの取得価額(所得原価)はどうなりますか?

A.相続人が相続した日(被相続人が亡くなった日)の時価が新しい取得価額になります。これは租税特別措置法 第三十七条の十四 第十四項に定められています。

Q.なぜNISA口座の相続では、亡くなった日の時価が取得価額になるのですか?

A.NISA口座の非課税の恩恵は、口座名義人の死亡によって終了するためです。相続後は通常の課税口座に移管され、その時点の時価を新たな取得価額として再スタートするという考え方に基づいています。

Q.故人がNISAで100万円で買った株が、亡くなった日に150万円になっていました。相続してすぐに150万円で売却した場合、税金はかかりますか?

A.税金はかかりません。相続時の時価である150万円があなたの取得価額になるため、150万円で売却しても利益(譲渡所得)は0円と計算されます。

Q.相続したNISAの株式は、そのまま非課税で保有し続けられますか?

A.いいえ、できません。NISA口座の非課税制度は一代限りです。相続した株式は、相続人の課税口座(特定口座または一般口座)に移管され、その後の値上がり益や配当金は課税対象となります。

Q.相続したNISA株式の取得価額の根拠となる法律は何ですか?

A.租税特別措置法 第三十七条の十四 第十四項が根拠となります。この条文で、NISA口座内の上場株式等を相続または遺贈により取得した場合、その取得価額は相続開始の日の時価とすることが定められています。

Q.相続したNISA株式の評価額が、購入時より下がっていた場合はどうなりますか?

A.その場合でも、相続開始日(亡くなった日)の時価が新しい取得価額となります。例えば、100万円で買った株が亡くなった日に80万円になっていた場合、相続人の取得価額は80万円になり、その後90万円で売却すると10万円の利益に対して課税されます。

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