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NISA口座相続時の評価額と所得原価を解説!租税特別措置法もわかりやすく

2025-07-03
目次

NISA口座で運用していた大切な資産、もし相続が発生したらどうなるのでしょうか?特に気になるのが、相続税申告の時の「評価額」と、その後の売却時の利益計算の元となる「所得原価」ですよね。この記事では、その根拠となる法律「租税特別措置法」にも触れながら、NISA口座の株式や投資信託を相続した場合の評価方法について、誰にでも分かるように優しく解説していきます。

NISA口座を相続するってどういうこと?基本的なルールを知ろう

まず、大切なご家族がNISA口座に資産を残して亡くなられた場合、その資産がどうなるのか基本的なルールから確認していきましょう。相続と聞くと少し難しく感じてしまうかもしれませんが、大事なポイントを押さえれば心配いりませんよ。

NISA口座そのものは相続できない

実は、NISA口座という「非課税の枠」そのものを、相続人が引き継ぐことはできません。亡くなられた方(被相続人)のNISA口座は、その方が亡くなった時点で役割を終えることになります。この非課税の特典は、あくまで口座名義人ご本人だけの一生涯の制度なのです。

NISA口座の資産はどうなるの?

NISA口座で運用されていた株式や投資信託といった金融商品は、もちろん相続財産として相続人が引き継ぐことになります。ただし、非課税の恩恵は受けられなくなり、相続人の課税口座(特定口座や一般口座)へ移し替える手続きが必要になります。ここが通常の預金相続とは少し違う点ですね。

相続手続きの簡単な流れ

手続きは以下の様な流れで進みます。まず、被相続人が取引をしていた金融機関(銀行や証券会社)に連絡し、亡くなったことを伝えます。その後、金融機関の案内に従って「非課税口座開設者死亡届出書」などの必要書類を提出します。遺産分割協議で誰がどの資産を相続するかが決まったら、相続人の課税口座へ資産を移す(移管)手続きを行う、という流れになります。

相続税申告におけるNISA資産の評価額

NISA口座で運用されていた資産も、預貯金や不動産などと同じように相続税の課税対象となります。では、相続税の申告書に記載する「評価額」は、どのように計算するのでしょうか。ここは相続税額に直結する、とても重要なポイントになります。

上場株式の評価方法

上場株式の評価額は、相続人にとって最も有利な価格、つまり一番税金が安くなるように、以下の4つの価格の中から一番低い金額を選ぶことが認められています。価格が日々変動する株式だからこその、特別な評価ルールなんです。

評価の基準となる価格 内容
① 課税時期(亡くなった日)の終値 亡くなったその日の、取引所の最後の取引価格です。
② 課税時期の月の毎日の終値の月平均額 亡くなった月の、毎営業日の終値を平均した価格です。
③ 課税時期の前月の毎日の終値の月平均額 亡くなった月の、前の月の終値を平均した価格です。
④ 課税時期の前々月の毎日の終値の月平均額 亡くなった月の、2ヶ月前の終値を平均した価格です。

投資信託の評価方法

投資信託の場合は、上場株式とは少し評価方法が異なります。基本的には、課税時期(亡くなった日)の基準価額を基にして評価額を計算します。

項目 説明
評価額の計算式 課税時期の1口あたりの基準価額 × 口数 − 課税時期に解約した場合にかかる源泉徴収所得税額相当額 − 信託財産留保額および解約手数料
実務上のポイント 計算が少し複雑ですが、金融機関に「相続税申告用の残高証明書」の発行を依頼すると、評価額が記載されていることがほとんどですので安心してください。

売却時の所得原価はどうなる?租税特別措置法が根拠!

ここがNISA口座の相続で一番特徴的で、知っておくと得をするかもしれないポイントです。相続した株式や投資信託を将来売却するとき、利益を計算するための元手、つまり「取得価額(所得原価)」がどうなるのか。その根拠となっているのが、「租税特別措置法 第三十七条の十四(非課税口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の非課税) 第十四項」という法律です。

租税特別措置法の規定とは?

この法律の条文では、NISA口座内の資産が相続によって払い出される場合、「相続開始の時における価額」、つまり「亡くなった日の時価」で新たに取得したものとみなす、と定められています。少し難しい言葉ですが、相続した時点の時価が、新しいスタート価格になる、と考えると分かりやすいですね。

通常の相続との大きな違い

通常の課税口座(特定口座や一般口座)の株式を相続した場合は、亡くなった方が最初にその株式を購入したときの価格を、取得価額としてそのまま引き継ぎます。しかし、NISA口座の場合はこのルールが適用されず、相続が発生した日の時価に取得価額がリセットされる、というのが最大の違いです。

所得原価がリセットされるメリット

亡くなった方がNISA口座で安く買った株が、亡くなった日に大きく値上がりしていた場合、その値上がりした利益(含み益)には所得税がかからずに済みます。なぜなら、相続人は「亡くなった日の時価」を元手として取得したことになるからです。そのため、将来その株を売却したときは、相続した日からの値上がり分に対してのみ所得税がかかることになり、税金の負担を軽くできる可能性があるのです。

例えば、故人が50万円でNISA口座で購入した株式が、亡くなった日に時価100万円になっていたとします。相続人はこの株式を100万円で取得したものとして扱われます。もし後日、この株式を120万円で売却した場合、利益は20万円(120万円 – 100万円)となり、この20万円に対してのみ所得税(20.315%)がかかります。これが通常の相続であれば、利益は70万円(120万円 – 50万円)で計算されるため、税負担が大きく変わってくることが分かりますね。

NISA口座の相続で注意したいポイント

NISA口座の相続には、他にも知っておきたい注意点がいくつかあります。手続きをスムーズに進めるためにも、事前に確認しておきましょう。

相続後の運用益は課税対象

NISA口座の非課税の恩恵は、口座名義人が亡くなった日までで終了します。相続手続き中に発生した配当金や分配金、また相続人の課税口座に移管した後の値上がり益には、通常通り20.315%の税金がかかりますので覚えておきましょう。

相続人のNISA口座には移せない

たとえ相続人自身がNISA口座を持っていたとしても、亡くなった方のNISA資産をそこに移すことはできません。必ず、相続人名義の課税口座(特定口座または一般口座)に移管する必要があります。相続した資産で非課税投資を続けることはできない、ということです。

金融機関は同じにする必要がある

亡くなった方がNISA口座を開設していた金融機関と、相続人が資産を受け取るための課税口座は、原則として同じ金融機関でなければなりません。もし相続人がその金融機関に口座を持っていない場合は、相続手続きのために新たに口座を開設する必要があります。

2024年からの新NISAと相続

2024年から新しいNISA制度がスタートし、非課税で保有できる期間が無期限になりました。これにより、NISA口座を長期で保有する方が増え、相続の場面もより一層重要になってきます。

非課税期間が無期限化された影響

新NISAでは、非課税で保有できる期間に制限がなくなりました。これにより、亡くなるまでNISA口座で資産を保有し続けるケースが今後増えていくでしょう。相続時の基本的なルールはこれまでと変わりませんが、NISA口座の相続について知っておくことの重要性はさらに高まっています。

今後の相続でNISAがより身近に

生涯にわたる資産形成のツールとして新NISAが活用されることで、NISA口座内の資産が相続財産に含まれるケースはますます一般的になります。今回解説した相続税評価額の考え方や、所得原価が時価にリセットされるという特例をしっかり理解しておくことが、ご家族にとって円満な相続手続きにつながります。

まとめ

今回は、NISA口座の相続が発生した際の、株式や投資信託の評価額と所得原価について解説しました。大切なポイントは、相続税申告時の評価額は4つの価格から最も有利なものを選べること、そして売却時の所得原価は租税特別措置法に基づき、亡くなった日の時価にリセットされるという2点です。この所得原価のリセットは、相続人にとって有利になることが多い大切なルールですので、ぜひ覚えておいてください。NISA口座の相続は少し特殊な部分もありますが、正しい知識を持っていれば、落ち着いて対応できます。もし手続きで不安なことや分からないことがあれば、取引金融機関や税理士などの専門家に相談するのも良いでしょう。

参考文献

国税庁 No.1464 譲渡した株式等の取得費

国税庁 NISA及びつみたてNISAの手続に関するQ&A

NISA口座の相続と相続税評価額のよくある質問まとめ

Q.NISA口座で保有していた株式や投資信託を相続しました。相続税の申告では、どのように評価すればよいですか?

A.相続税申告では、被相続人が亡くなった日(死亡日)の終値で評価するのが原則です。投資信託の場合は、死亡日の基準価額で評価します。

Q.NISA口座の非課税メリットは相続できますか?

A.いいえ、NISA口座の非課税メリットは相続できません。相続が発生すると、NISA口座内の金融商品は相続人の課税口座(特定口座または一般口座)に移管されます。

Q.相続したNISA口座の株式を売却する場合、取得価額(所得原価)はどうなりますか?

A.租税特別措置法の規定により、取得価額は被相続人が亡くなった日の時価(終値)となります。被相続人がNISA口座でいくらで買ったかは関係ありません。

Q.なぜ相続したNISA株式の取得価額が死亡日の時価になるのですか?

A.法律(租税特別措置法 第三十七条の十四 第十四項)でそのように定められているためです。NISA口座から課税口座に移管される際に、死亡日の時価で新たに取得したものとみなして、その後の譲渡所得を計算します。

Q.相続でNISA口座から課税口座に移管された株式に含み益がありました。この含み益に税金はかかりますか?

A.相続によって課税口座に移管された時点では、譲渡所得税はかかりません。税金がかかるのは、相続人がその株式を売却して利益が出た時です。その際の利益計算は、死亡日の時価を取得価額として行います。

Q.相続税の評価額と、売却時の取得価額は同じ金額と考えてよいですか?

A.はい、原則として同じです。どちらも被相続人が亡くなった日の時価(株式なら終値、投資信託なら基準価額)を基準にするため、相続税申告で使った評価額が、将来売却する際の取得価額になります。

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