相続税の延納を申請されたのですね。高額な相続税を一括で納めるのは大変なことですから、分割で納付できる延納制度はとても助かりますよね。でも、実際に申請するとなると、「納税のために手元の資金が全部なくなってしまうのでは…」「これからの生活費は大丈夫かな?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。実は、延納の申請では、当面の生活費や事業資金などを手元に残すことが認められています。この記事では、相続税の延納を申請した際に、具体的にどれくらいの金額を手元に残せるのか、その計算方法を分かりやすく解説していきます。
相続税の延納とは?まずはおさらい
相続税の延納制度について、まずはおさらいしておきましょう。相続税は、原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、現金で一括納付しなければなりません。しかし、相続財産の多くが不動産であったり、手元に十分な現金がなかったりすると、期限内の一括納付は難しいですよね。そんなときに利用できるのが「延納」という制度です。延納とは、一定の条件を満たす場合に、税務署長の許可を得て、相続税を年単位で分割して納めることができる制度のことです。
延納が認められるための4つの条件
延納は誰でも利用できるわけではなく、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
| 相続税額が10万円を超えること | 納付すべき相続税額が10万円以上である必要があります。 |
| 金銭で納付することが困難であること | 納期限までに金銭で一括納付することが難しい理由がある場合に限られます。これが今回のテーマの核心部分ですね。 |
| 担保を提供すること | 延納税額が100万円を超え、かつ延納期間が3年を超える場合は、延納税額に見合う担保(不動産や国債など)を提供する必要があります。 |
| 期限内に申請書を提出すること | 相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに、延納申請書と担保提供関係書類を税務署に提出する必要があります。 |
延納と物納の違い
延納と似た制度に「物納」があります。延納は分割で「現金」を納める制度ですが、物納は延納を使っても現金での納付が難しい場合に、不動産や株式といった「モノ」で税金を納める制度です。物納は延納よりもさらに条件が厳しく、最終手段と位置づけられています。まずは延納が可能かどうかを検討するのが一般的です。
延納期間と利子税
延納が許可されると、相続税を分割で納めることができますが、その期間中は利子税という利息がかかります。延納できる期間(最長20年)や利子税の割合は、相続財産に占める不動産などの割合によって変わります。延納はあくまで借金のようなものなので、利子がかかる点は覚えておきましょう。
本題!延納で手元に残せる金額の計算方法
さて、ここからが本題です。延納を申請する際、「金銭で納付することが困難」と判断される金額は、どのように計算されるのでしょうか。この「納付困難な金額」が、延納を申請できる上限額となり、言い換えれば、この計算で考慮される生活費などが「手元に残せるお金」の目安になります。
延納許可限度額の計算式
延納が許可される金額(延納許可限度額)は、とてもシンプルに言うと以下の考え方で計算されます。
延納許可限度額 = 納付すべき相続税額 - 納税に充てられるお金
この「納税に充てられるお金」の計算がポイントです。これは、あなたが今持っている現金や預貯金、そして今後入ってくる臨時収入などから、当面の生活費や事業資金を差し引いた金額になります。つまり、手元のお金がすべて納税に消えてしまうわけではないのです。ご安心ください。
手元に残せる「生活費」と「事業資金」
税務署は、納税者の生活を脅かすような徴収はしません。そのため、延納の審査では、納税者の手元資金から以下の金額を控除してくれます。これが、実質的に「手元に残せる金額」となります。
| 控除できる項目 | 内容 |
| 当面の生活費 | 納税者と、その人と生計を同じくするご家族の3か月分の生活費が目安です。 |
| 事業上の運転資金 | 納税者が事業を営んでいる場合、その事業を継続するために必要な当面の運転資金です。業種や規模によって異なります。 |
つまり、延納の申請をしても、少なくとも3か月分の生活費は手元に残すことができるのです。生活費の金額は、家族構成やこれまでの生活水準などを基に、社会通念上妥当な金額を申告します。
具体例でシミュレーションしてみよう
言葉だけだと分かりにくいので、具体的なケースでシミュレーションしてみましょう。
ケース1:サラリーマン家庭の場合
以下の条件で計算してみます。
- 納付すべき相続税額:1,000万円
- 相続人の手元の現金・預貯金:500万円
- 今後1年以内の臨時収入(ボーナスなど):100万円
- 1か月の生活費:30万円
まず、手元に残せる生活費を計算します。
30万円(1か月の生活費)× 3か月 = 90万円
次に、納税に充てなければならない金額を計算します。
(500万円 + 100万円) - 90万円 = 510万円
最後に、延納できる金額を計算します。
1,000万円(相続税額) - 510万円 = 490万円
このケースでは、490万円を延納で分割払いし、残りの510万円を一括で納付します。そして、手元には当面の生活費として90万円を残すことができます。
ケース2:個人事業主の場合
事業を営んでいる場合は、運転資金も考慮されます。
- 納付すべき相続税額:2,000万円
- 相続人の手元の現金・預貯金:800万円
- 今後1年以内の臨時収入:なし
- 1か月の生活費:40万円
- 当面の事業運転資金:200万円
手元に残せる金額を計算します。
(40万円 × 3か月) + 200万円 = 120万円 + 200万円 = 320万円
納税に充てなければならない金額を計算します。
800万円 - 320万円 = 480万円
延納できる金額を計算します。
2,000万円(相続税額) - 480万円 = 1,520万円
この場合、1,520万円を延納申請し、480万円を納付します。手元には生活費と事業資金として合計320万円を残せる計算になります。
延納申請で手元資金を申告する際の注意点
延納を申請する際には、「金銭納付を困難とする理由書」という書類を作成し、手元の資産状況を詳しく記載する必要があります。ここで注意すべき点がいくつかあります。
虚偽の申告は絶対にしない
手元に残すお金を多くしたいからといって、預貯金を少なく申告したり、生活費を過大に計上したりするのは絶対にやめましょう。税務署は金融機関への照会権限を持っており、虚偽の申告は必ず発覚します。ペナルティが課されるだけでなく、延納許可が取り消される可能性もあります。
換金しやすい資産も申告対象
申告対象となるのは現金や預貯金だけではありません。上場株式や投資信託など、比較的簡単に換金できる資産も含まれます。これらの資産も正直に申告する必要があります。
生活費の根拠を明確に
「当面の生活費」を計算する際は、なぜその金額が必要なのか、客観的な根拠を示せるようにしておくとスムーズです。家計簿や過去の支出記録などを参考に、妥当な金額を算出しましょう。あまりにも高額な生活費を申告すると、税務署から説明を求められることがあります。
延納以外の選択肢も検討しよう
相続税の納税資金が足りない場合、延納は有効な手段ですが、他の方法と比較検討することも大切です。
金融機関からの借り入れ(ローン)
延納には利子税がかかります。現在の低金利の状況では、金融機関のローン金利の方が延納の利子税率よりも低い場合があります。銀行の相続税納税ローンなどを利用した方が、トータルの支払額を抑えられる可能性もありますので、一度相談してみるのも良いでしょう。
相続した不動産の売却
もし相続財産の中に活用予定のない不動産があれば、それを売却して納税資金に充てるという方法もあります。ただし、不動産の売却には時間がかかることもあるため、相続税の納期限(10か月)に間に合うように、早めに準備を始めることが重要です。
まとめ
今回は、相続税の延納申請をした際に手元に残せる金額について解説しました。ポイントをまとめます。
- 相続税の延納を申請しても、手元の資金がすべてなくなるわけではない。
- 少なくとも「3か月分の生活費」と、事業をしている場合は「当面の運転資金」を手元に残すことが認められている。
- 延納できる金額は、「納付すべき相続税額」から「納税に充てられる資金(手元資金-生活費等)」を差し引いて計算される。
- 延納申請時の資産申告は正直に行い、生活費などは客観的な根拠をもって計算することが大切。
- 延納だけでなく、金融機関からの借り入れや不動産の売却といった選択肢も併せて検討してみましょう。
相続税の延納は、手続きが複雑で不安に感じることも多いと思います。手元に残せる金額の計算や申請手続きで迷ったら、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。ご自身の状況に合った最適な納税方法を見つけ、安心して次のステップに進んでくださいね。
参考文献
相続税の延納と手元資金に関するよくある質問
Q.相続税の延納は、税額がいくらから申請できますか?
A.相続税額が10万円を超え、一括で納付することが難しい理由がある場合に申請できます。
Q.延納を申請する場合、手元にある預貯金はすべて納税に使わないといけませんか?
A.いいえ、すべてを使い切る必要はありません。納税後の当面の生活費や事業の運転資金などを考慮した上で、納付が困難と認められる金額について延納が許可されます。
Q.相続税を延納すると、利息のようなものはかかりますか?
A.はい、「利子税」がかかります。利率は延納する財産の種類や期間によって異なります。延納する税額とは別に納付する必要があります。
Q.延納申請には、必ず担保が必要になりますか?
A.延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下の場合は原則として担保は不要です。これを超える場合は、不動産や国債など、税務署が認める担保を提供する必要があります。
Q.延納申請が許可されないのは、どのような場合ですか?
A.納期限までに申請書を提出しなかった場合や、担保の提供がない場合(必要な場合)、提出書類に不備がある場合、納税資金が十分にあると判断された場合などに許可されないことがあります。
Q.延納中にまとまった資金ができた場合、繰り上げて納付することはできますか?
A.はい、可能です。延納期間の途中で残りの税額を繰り上げて納付することができます。繰り上げ納付をすることで、将来支払う利子税を減らすことができます。