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相次相続!貸付事業用宅地の3年保有要件は?特例は使える?

2025-07-27
目次

親から貸付事業用の土地を相続したものの、ご自身もすぐに亡くなってしまった…。このような「相次相続」が起きたとき、残されたご家族は「小規模宅地等の特例」を使えるのでしょうか?特に、貸付事業用宅地には「相続開始前3年以内」というルールがあり、不安に思われる方も多いかもしれません。今回は、このような複雑なケースについて、分かりやすく解説していきますね。

まずはおさらい!小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地)とは?

相続税の計算をするときに、土地の評価額を大幅に減額できる、とてもありがたい制度が「小規模宅地等の特例」です。この特例が使えると、相続税の負担をぐっと軽くすることができます。今回は、その中でもアパートや駐車場、貸店舗など、人に貸している土地である「貸付事業用宅地」について、基本的なルールを確認しておきましょう。

どんな土地が対象になるの?

亡くなった方(被相続人)や、その方と生計を一つにしていたご親族が、貸付事業に使っていた土地が対象となります。具体的には、土地の評価額を最大で半分にすることができます。

宅地の種類 貸付事業用宅地
上限面積 200㎡まで
減額割合 50%

誰が相続すれば使えるの?(相続人の要件)

誰が相続しても使えるわけではなく、いくつかの要件をクリアする必要があります。簡単に言うと、「亡くなった方の事業をきちんと引き継いで、しばらくは土地も持ち続けてくださいね」ということです。

事業承継要件 相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに貸付事業を引き継ぎ、その申告期限まで事業を続けていること。
保有継続要件 その土地を、相続税の申告期限まで保有し続けていること。

「3年以内貸付宅地」の注意点

この特例には、相続税対策として駆け込みで貸付を始めるのを防ぐためのルールがあります。それが「3年以内貸付宅地」のルールです。
原則として、亡くなる直前の3年以内に新しく貸付事業を始めた土地については、この特例を使うことができません。ただし、事業的規模(例えば、アパートなら10室以上、戸建てなら5棟以上)で3年を超えて事業を行っていた場合は、このルールの例外として特例が認められることがあります。

相次相続のケーススタディで見てみよう

それでは、今回のテーマである具体的なケースを見ていきましょう。ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてくださいね。

登場人物と状況の整理

今回のケースは、おじいさま(Aさん)、お父さま(Bさん)、そしてご相談者であるお子さま(Cさん)の三世代にわたる相続です。

登場人物 状況
祖父Aさん 3年以上、貸付事業(事業的規模ではない)を営んでいました。Aさんが亡くなり、子のBさんがその土地を相続しました。このときBさんは小規模宅地等の特例を使いました。
父Bさん Aさんの貸付事業を引き継ぎましたが、相続から2年後に亡くなってしまいました。土地の保有期間は3年未満です。
子Cさん 父Bさんからその土地を相続します。このときに、Cさんが貸付事業用宅地の特例を使えるかが問題となっています。

論点は「Bさんの保有期間が3年未満」なこと

Cさんが不安に思われているのは、お父さまであるBさんの土地の保有期間が2年と、3年に満たない点です。先ほどご説明した「3年以内貸付宅地」のルールに引っかかってしまい、「Bさんが新たに事業を始めた土地」と見なされて、特例が使えないのではないか?と心配になるのは当然ですよね。

結論!Cさんは特例を使える?

ご安心ください。結論から言うと、Cさんは一定の要件を満たせば、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地)を使うことができます。

なぜ使えるの?「新たに貸付事業の用に供された」の解釈

ポイントは、「新たに貸付事業の用に供された」という言葉の解釈にあります。
今回のような相次相続の場合、税務署はBさんが事業を始めた時点ではなく、最初に事業を始めたAさんが事業を開始した時点から、ずっと事業が継続していると見てくれます。

つまり、Bさんが相続してから亡くなるまでの期間が3年未満であっても、Aさんの事業期間と通算して判断されるのです。Aさんは3年以上事業を行っていましたから、Bさんが相続した土地は「新たに貸付事業の用に供された宅地」には該当しない、ということになります。そのため、Bさんの相続(二次相続)でCさんが土地を取得した場合も、この「3年以内ルール」で弾かれることはないのです。

Cさんが満たすべき要件は?

ただし、Cさんが自動的に特例を使えるわけではありません。Cさん自身が、通常の貸付事業用宅地の特例の要件をしっかりと満たす必要があります。

Cさんの事業承継要件 父Bさんの貸付事業を、Bさんの相続税申告期限までに引き継ぎ、その申告期限まで事業を継続すること。
Cさんの保有継続要件 相続した土地を、Bさんの相続税申告期限まで保有し続けること。

この2つの要件をクリアすれば、Cさんは無事に特例の適用を受けることができます。

もしもAさんの事業期間が3年未満だったら?

少し視点を変えて、もし最初のおじいさま(Aさん)の貸付事業の期間が3年未満だったらどうなっていたかも考えてみましょう。この場合、状況は大きく変わってきます。

Bさんの一次相続

Aさんの事業期間が3年未満で、かつ事業的規模でもなかった場合、BさんがAさんから相続した時点で「3年以内貸付宅地」に該当してしまいます。そのため、Bさんは一次相続の際に、原則として小規模宅地等の特例を使うことができませんでした。

Cさんの二次相続

Bさんが特例を使えなかった状況で、さらにCさんの二次相続が発生した場合、Aさんが事業を始めてからBさんが亡くなるまでの期間を通算することになります。もしこの通算期間が3年を超えていればCさんは特例を使える可能性がありますが、Aさんの事業期間+Bさんの保有期間が3年未満であれば、Cさんも特例を使えない可能性が高くなります。ここでも、事業の継続期間が非常に重要になるわけですね。

相続が続いても安心するためのポイント

相次相続は予測が難しく、いざという時に慌ててしまうかもしれません。安心して手続きを進めるために、普段からできることをご紹介します。

事業の継続性を証明する書類を保管する

「いつから事業を始めたか」を証明できるように、過去の確定申告書の控えや、賃貸借契約書などの書類は、きちんと整理して保管しておきましょう。これらの書類が、特例適用のための大切な証拠となります。

早めに専門家に相談する

相次相続における小規模宅地等の特例の適用は、非常に専門的で判断が難しいケースが多いです。少しでも不安に感じたら、自己判断せずに相続に詳しい税理士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。正しい手続きで、大切な財産を守りましょう。

まとめ

今回は、相次相続で貸付事業用宅地を引き継いだ場合の小規模宅地等の特例について解説しました。
重要なポイントは、「中間の相続人(Bさん)の保有期間が3年未満でも、最初の被相続人(Aさん)から事業が継続されていれば、事業開始時期は通算して考えられる」ということです。そのため、最後の相続人(Cさん)は、3年以内ルールの心配をせずに特例を使える可能性が高いです。
ただし、Cさん自身が事業の承継と土地の保有継続という要件を申告期限までに満たす必要があります。相続税の特例は要件が複雑ですので、必ず専門家に相談しながら手続きを進めてくださいね。

参考文献

国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

国税庁 質疑応答事例 相次いで相続があった場合の小規模宅地等の特例の適用について

相次相続と小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地)のよくある質問まとめ

Q. 親から相続した貸付事業用宅地を2年で再度相続した場合、小規模宅地等の特例は使えますか?

A. はい、一定の要件を満たせば使えます。亡くなった親の事業期間が3年未満でも、その前の所有者(祖父母など)の事業期間と通算して3年を超えていれば、特例を適用できる可能性があります。

Q. 貸付事業用宅地の特例に必要な「3年以上の事業期間」は誰の期間を指しますか?

A. この要件は、亡くなった方(被相続人)が相続開始前3年以内に貸付事業を開始した土地を特例の対象から除くためのものです。相次相続の場合、前の所有者の事業期間を引き継いで計算することができます。

Q. 父の事業期間は2年です。祖父が3年以上事業をしていた場合、孫は特例を使えますか?

A. はい、使える可能性が高いです。このケースでは、祖父の事業期間が引き継がれるため、父の事業期間が3年未満であっても、3年超事業を行っていた土地とみなされ、特例の対象となり得ます。

Q. 事業的規模でなくても、相次相続で貸付事業用宅地の特例は使えますか?

A. はい、使えます。貸付事業が事業的規模であるかどうかは、このケースの特例適用の可否に直接影響しません。重要なのは、前の所有者から通算した事業期間です。

Q. 孫が特例の適用を受けるために、相続後にすべきことは何ですか?

A. 相続した土地を相続税の申告期限まで保有し、かつ貸付事業を継続する必要があります。申告期限前に土地を売却したり、事業をやめたりすると特例は適用できなくなるため注意が必要です。

Q. 相次相続で小規模宅地等の特例を使う際の最も重要な注意点は何ですか?

A. 亡くなった方の事業期間だけでなく、その前の所有者の事業期間もきちんと確認することです。また、相続人が申告期限まで土地の保有と事業継続の要件を満たす必要があります。複雑なケースのため、専門家への相談をおすすめします。

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