税理士法人プライムパートナーズ

共有持分の小規模宅地特例、面積計算は?複数土地の限度額を解説

2025-07-28
目次

相続税の負担を大きく減らせる可能性がある「小規模宅地等の特例」。とても心強い制度ですが、相続する土地が共有持分だったり、特例を使いたい土地が複数あったりすると、「限度面積ってどうやって計算するの?」と悩んでしまいますよね。特に、「土地全体の面積で考えるの?それとも自分の持分だけで計算するの?」という点は、多くの方が疑問に思うポイントです。そこで今回は、共有持分の土地が複数ある場合の小規模宅地等の特例について、限度面積の計算方法をわかりやすく解説していきます。

そもそも小規模宅地等の特例とは?

まずは基本のおさらいから始めましょう。小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)が住んでいた土地や事業をしていた土地などを相続した場合に、一定の要件を満たすことで、その土地の評価額を最大80%も減額できる制度のことです。相続財産の中でも不動産、特に土地は評価額が大きくなりがちなので、この特例が使えるかどうかで相続税額が大きく変わってきます。残されたご家族の生活を守るための、とても重要な制度なんです。

特例が使える土地の種類と限度面積

この特例は、土地の利用状況によっていくつかの種類に分かれています。それぞれに適用できる面積の上限(限度面積)と減額される割合が決まっています。主な種類は以下の通りです。

土地の種類 限度面積と減額割合
特定居住用宅地等 330㎡まで80%減額
特定事業用宅地等 400㎡まで80%減額
特定同族会社事業用宅地等 400㎡まで80%減額
貸付事業用宅地等 200㎡まで50%減額

例えば、被相続人が住んでいたご自宅の土地(特定居住用宅地等)であれば、330㎡(約100坪)までの部分について、評価額を80%も下げることができる、ということですね。

特例を適用するための主な要件

この特例を使うためには、土地の種類ごとに定められた要件を満たす必要があります。誰がその土地を相続するのかによって、要件は変わってきます。例えば、特定居住用宅地等の場合、配偶者が相続すれば比較的緩やかな要件で適用できますが、同居していたお子さんや別居のお子さんが相続する場合には、「相続税の申告期限まで住み続けること」や「申告期限まで所有し続けること」といった、より厳しい要件が課せられます。ご自身の状況が要件に当てはまるか、事前にしっかり確認することが大切です。

【本題】共有持分の土地の面積計算方法

さて、ここからが本題です。相続する土地が共有持分である場合、限度面積の計算は土地全体の物理的な面積で考えるのでしょうか、それともご自身の持分割合に応じた面積で考えるのでしょうか。結論からお伝えすると、「持分割合に応じた面積」で計算します。つまり、土地全体の広さではなく、亡くなった方が所有していた持分に相当する面積が、特例の対象となる面積になるんです。

具体的な計算式

計算はとてもシンプルです。以下の式で、特例の対象となる面積を算出します。

(敷地全体の面積)×(被相続人の持分割合)= 特例の対象となる面積

例えば、土地全体が400㎡で、被相続人の持分が2分の1だった場合、特例の対象として考える面積は「400㎡ × 1/2 = 200㎡」となります。あくまで被相続人が持っていた権利の分だけが、特例の対象になる、と覚えておいてくださいね。

計算例で見てみよう(土地が1つの場合)

具体的な数字で見てみると、より分かりやすいですよ。

【ケース1:限度面積の範囲内に収まる場合】

  • 土地の種類:特定居住用宅地等(限度面積330㎡)
  • 敷地全体の面積:500㎡
  • 被相続人の持分:2分の1

この場合、特例の対象となる面積は「500㎡ × 1/2 = 250㎡」です。
250㎡は限度面積の330㎡よりも小さいので、この250㎡すべてについて評価額の80%減額が適用できます。

【ケース2:限度面積を超える場合】

  • 土地の種類:特定居住用宅地等(限度面積330㎡)
  • 敷地全体の面積:800㎡
  • 被相続人の持分:2分の1

この場合の対象面積は「800㎡ × 1/2 = 400㎡」となります。
400㎡は限度面積の330㎡を超えてしまっていますね。そのため、特例を適用できるのは、限度面積である330㎡までとなります。超えた分の70㎡については、特例の対象外です。

複数の共有地がある場合の限度面積計算

では、特例を適用したい共有持分の土地が複数ある場合はどう考えれば良いのでしょうか。この場合も考え方は同じで、それぞれの土地について「持分割合に応じた面積」を計算し、それらを合計した面積で限度面積の判定を行います。

複数の土地を併用する場合の調整計算

複数の土地に特例を適用する場合、注意が必要なのは、異なる種類の土地を組み合わせる時です。特に「貸付事業用宅地等」が含まれると、計算が少し複雑になります。
特定居住用宅地等や特定事業用宅地等と、貸付事業用宅地等を組み合わせて適用する場合、単純にそれぞれの限度面積まで使えるわけではなく、下の式のような調整計算が必要になります。

(特定事業用等宅地等の適用面積 × 200/400) + (特定居住用宅地等の適用面積 × 200/330) + (貸付事業用宅地等の適用面積) ≦ 200㎡

この計算式を満たす範囲内で、それぞれの土地に適用する面積を決めなければなりません。少し難しく感じるかもしれませんが、「種類が違う土地を組み合わせる場合は、使える面積の上限が調整される」と覚えておきましょう。

計算例で見てみよう(土地が複数の場合)

ここでも具体例で考えてみましょう。

  • 自宅の土地(特定居住用):全体200㎡、被相続人の持分1/2 → 対象面積 100㎡
  • アパートの土地(貸付事業用):全体300㎡、被相続人の持分1/2 → 対象面積 150㎡

この2つの土地に特例を適用したい場合、先ほどの調整計算式に当てはめてみます。
(100㎡ × 200/330) + 150㎡ ≒ 60.6㎡ + 150㎡ = 210.6㎡

合計が200㎡を超えてしまいましたね。このままでは両方の面積をまるごと適用することはできません。この場合、例えば貸付事業用宅地の適用面積を少し減らすなどして、合計が200㎡以下になるように調整する必要があります。どの土地を優先するかによって節税効果が変わってくるため、慎重な判断が求められます。

相続によって共有になる場合の考え方

これまでお話ししてきたのは、主に亡くなった方が生前から土地を共有していたケースです。では、相続が発生したことによって、複数の相続人が1つの土地を共有で相続する場合はどうなるのでしょうか。この場合は、相続人一人ひとりが取得した持分に対して、それぞれが特例の要件を満たしているかを個別に判断します。

相続人ごとに適用要件を判定

例えば、お父様が単独で所有していたご自宅の土地を、お母様(配偶者)とお子様が2分の1ずつの持分で共有相続したとします。この場合、

  • お母様(配偶者)が取得した持分:配偶者には居住継続などの厳しい要件がないため、特例を適用しやすいです。
  • お子様が取得した持分:お子様がお父様と同居していたか、いわゆる「家なき子特例」の要件を満たすかなど、個別の状況によって特例が使えるかどうかが決まります。

このように、同じ土地を共有で相続したとしても、お母様の持分には特例が使えて、お子様の持分には使えない、といったケースも起こりうるのです。

共有地の特例適用における注意点

最後に、共有持分の土地に小規模宅地等の特例を適用する上での注意点をいくつかお伝えします。

遺産分割が前提

小規模宅地等の特例を適用するには、原則として、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割協議がまとまっている必要があります。誰がどの土地をどれくらいの割合で相続するのかが決まっていないと、特例は使えません。もし期限までに分割が難しい場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、分割後に特例を適用できる可能性があります。

どの土地に適用するかは選択可能

特例の対象となる土地が複数ある場合、どの土地に、どれくらいの面積を適用するかは相続人が自由に選ぶことができます。一般的には、路線価が高く、評価額が大きくなる土地に優先して特例を適用した方が、節税効果は高くなります。最も有利な選択ができるよう、シミュレーションしてみることが大切です。

判断が難しい場合は専門家へ相談

共有持分や複数の土地が絡むケースでは、限度面積の調整計算や適用要件の判断が非常に複雑になります。どの組み合わせが最も節税になるのか、ご自身で判断するのは難しいことも多いでしょう。少しでも不安に感じたら、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

今回は、共有持分の土地が複数ある場合の小規模宅地等の特例について、限度面積の計算方法を中心にお話ししました。最後にポイントを振り返っておきましょう。

  • 共有地の限度面積計算は、土地全体の面積ではなく「被相続人の持分割合に応じた面積」で行う。
  • 複数の土地がある場合は、それぞれの持分に応じた面積を合計して限度面積を判定する。
  • 利用状況の違う土地を組み合わせる場合(特に貸付事業用を含む場合)は、特別な調整計算が必要になる。
  • 相続によって共有になる場合は、相続人ごとに要件を満たすか個別に判断される。
  • 特例の適用には申告期限内の遺産分割が原則であり、どの土地に適用するか有利な選択をすることが重要。

小規模宅地等の特例は、正しく活用すれば相続税を大きく減らすことができる強力な味方です。しかし、共有持分が絡むと計算や要件が複雑になりがちです。この記事が、皆さんの疑問を解消する一助となれば幸いです。もしご自身のケースで判断に迷うことがあれば、一人で悩まず専門家を頼ってくださいね。

参考文献

共有持分の土地と小規模宅地の特例|限度面積計算のよくある質問まとめ

Q.小規模宅地の特例で、共有名義の土地があります。限度面積の計算は、土地全体の物理的な面積で考えるのですか?

A.いいえ、土地全体の物理的な面積ではなく、亡くなった方(被相続人)の共有持分に応じた面積で計算します。例えば、300㎡の土地を1/2の持分で所有していた場合、特例の計算に使う面積は150㎡(300㎡ × 1/2)となります。

Q.なぜ限度面積の計算は、物理的な面積ではなく持分割合をかけるのですか?

A.小規模宅地の特例は、相続財産に対して適用される制度だからです。そのため、相続の対象となる「亡くなった方の共有持分」に対応する部分の面積で計算するのが原則となります。

Q.共有の自宅敷地と共有の貸付事業用宅地など、特例の対象地が複数あります。両方に適用できますか?

A.はい、限度面積の範囲内であれば両方に適用できます。ただし、特例の種類ごとに限度面積が定められており、有利な選択が必要です。例えば、特定居住用宅地等(限度330㎡)と貸付事業用宅地等(限度200㎡)を併用する場合、調整計算が必要になります。

Q.親子3人(父、長男、次男)で共有している土地について父が亡くなりました。面積計算はどうなりますか?

A.この場合も原則通り、亡くなったお父様の持分に応じた面積のみが、小規模宅地の特例の計算対象となります。相続人である長男・次男が元々所有していた持分は相続財産ではないため、特例の対象にはなりません。

Q.限度面積の具体的な計算例を教えてください。

A.例えば、自宅敷地(全体200㎡・持分1/2)とアパート敷地(全体300㎡・持分1/2)がある場合、まず持分に応じた面積(自宅100㎡、アパート150㎡)を算出します。この場合、両方とも各限度面積内に収まるため、合計250㎡について特例を適用できます。

Q.共有持分の土地で小規模宅地の特例を使う際の最大の注意点は何ですか?

A.最も重要なのは、必ず「共有持分に応じた面積」で限度面積を計算することです。土地全体の物理的な面積で誤って計算すると、特例を過大に適用してしまい、後日、税務調査で指摘され追徴課税となるリスクがありますのでご注意ください。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。