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相続税申告の税理士費用は損金にできる?確定申告で経費計上できるケースを解説

2025-07-29
目次

相続が発生すると、相続税申告のために税理士に依頼したり、不動産の名義変更(相続登記)のために司法書士に依頼したりと、専門家へ支払う費用がかかりますよね。これらの費用は決して安くないため、「どうにかして税金の負担を減らせないかな?」「自分の確定申告で経費にできないかな?」と考える方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、相続にかかる専門家への費用は、特定のケースに限り、相続人の確定申告で経費(損金)として計上することが可能です。
この記事では、どのような場合に税理士や司法書士への費用を経費にできるのか、その具体的な条件や注意点について、わかりやすく解説していきます。

相続にかかる費用は原則、経費(損金)にできない

まず、大原則として知っておいていただきたいのは、相続税申告に要した税理士費用や、遺産分割協議書の作成・不動産登記に要した司法書士費用は、基本的に相続人個人の確定申告で経費(損金)にすることはできません。
なぜなら、これらの費用は「所得を得るために直接必要な経費」とは考えられていないからです。あくまで、相続という個人的な財産の移転手続きに伴う支出とみなされるため、事業所得や不動産所得などの計算上、必要経費として差し引くことは認められていないのです。

相続税申告の税理士費用

相続税申告そのものは、相続によって得た財産に対してかかる税金を計算し、申告するための手続きです。これは、相続人がこれから所得を生み出すための活動とは直接関係がありません。そのため、相続税申告を税理士に依頼した際の費用は、所得税の確定申告において必要経費にすることはできません。

遺産分割や不動産登記の司法書士費用

遺産分割協議書の作成や、戸籍謄本などの資料収集、不動産の名義変更(相続登記)にかかる司法書士費用も同様です。これらは、相続財産を法的に確定させ、相続人のものにするための手続き費用です。所得を生み出すための費用ではないため、原則として必要経費には算入できません。

相続税の計算上も控除できない

「所得税の経費にならないなら、相続税を計算するときに財産から差し引けないの?」と思うかもしれませんが、残念ながらそれもできません。
相続税の計算上、遺産総額から差し引くことができるのは、被相続人(亡くなった方)の借金などの債務や、葬儀費用などに限られています。相続手続きのために相続人が支払った税理士費用や司法書士費用は、これらの「債務控除」や「葬式費用」には該当しないため、相続税の課税対象額を減らす効果もありません。

例外!相続手続き費用が経費になる2つのケース

原則は経費にできませんが、ここからが本題です。例外的に、相続手続きにかかった費用の一部を経費として計上できるケースが2つあります。それは、相続した財産を使って「不動産所得」や「譲渡所得」を得る場合です。

所得の種類 経費にできる費用の例
不動産所得 相続した賃貸アパートや駐車場の相続登記費用(登録免許税、司法書士報酬など)
譲渡所得 相続した土地や建物を売却した際の、その不動産にかかる相続登記費用など

このように、相続した財産がその後の所得に直接結びつく場合に限り、関連する手続き費用が必要経費として認められる可能性があるのです。それぞれ詳しく見ていきましょう。

ケース1:不動産所得の必要経費にする場合

亡くなった方がアパートや駐車場などの賃貸経営をされていて、それを相続人が引き継いだケースです。

どのような場合に経費にできる?

相続人が賃貸経営を引き継ぐと、その後は家賃収入を得ることになります。この家賃収入は「不動産所得」として、相続人自身の確定申告が必要です。
この不動産所得を得るために直接必要だった費用として、賃貸物件の名義を自分に変更するための相続登記費用が必要経費として認められます。

経費にできる費用の具体例

不動産所得の必要経費として計上できるのは、主に以下の費用です。

  • 登録免許税:法務局で不動産の名義変更をする際に納める税金です。相続の場合は、不動産の固定資産税評価額の0.4%がかかります。
  • 司法書士への報酬:相続登記の手続きを司法書士に依頼した場合の報酬です。
  • その他:登記に必要な戸籍謄本や固定資産評価証明書の取得費用など。

確定申告の際には、これらの費用を「租税公課」や「支払手数料」といった勘定科目で計上します。

注意点

注意していただきたいのは、経費にできるのはあくまで「賃貸経営に関連する不動産」にかかった費用のみという点です。例えば、ご自身が住むための自宅と賃貸アパートを同時に相続し、まとめて司法書士に登記を依頼した場合、経費にできるのは賃貸アパート分の登記費用だけです。司法書士の請求書などで費用が分かれていない場合は、不動産の評価額などで按分計算する必要があります。
また、このケースでも相続税申告にかかった税理士費用は、不動産所得の必要経費にはできませんのでご注意ください。

ケース2:譲渡所得の取得費にする場合

次に、相続した土地や建物、株式などを売却(譲渡)したケースです。

どのような場合に経費にできる?

相続した資産を売却して利益が出た場合、その利益は「譲渡所得」として所得税の課税対象となり、確定申告が必要です。
譲渡所得は、以下の計算式で求めます。
譲渡所得 = 売却価格 − (取得費 + 譲渡費用)
この計算式の中の「取得費」に、相続手続きにかかった費用の一部を含めることができます。取得費が大きくなれば、その分、利益(譲渡所得)が圧縮され、結果的に所得税を節税できることになります。

取得費にできる費用の具体例

不動産を売却した場合、その不動産の名義変更(相続登記)にかかった登録免許税や司法書士報酬は、取得費に含めることが認められています。これにより、譲渡所得の計算上有利になります。

【重要】相続税額も取得費に加算できる特例

さらに、譲渡所得の計算では非常に強力な特例があります。それが「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」です。

特例の名称 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算の特例)
概要 納付した相続税額の一部を、売却した資産の取得費に加算できる制度です。これにより、譲渡所得を大幅に減らすことができます。
主な要件
  1. 相続または遺贈により財産を取得していること
  2. その財産を取得した人に相続税が課税されていること
  3. その財産を、相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内に譲渡していること

この特例は、相続税と譲渡所得税の二重課税のような負担を軽減するための制度です。期限内に相続した財産を売却する予定がある方は、必ず知っておきたい重要なポイントです。

確定申告で損金にするための注意点

相続に関する費用を経費計上する際に、いくつか注意すべき点があります。

領収書は必ず保管しておくこと

税理士や司法書士に支払った費用、登録免許税の納付書など、経費の根拠となる書類(領収書など)は絶対に保管しておきましょう。税務調査などで提示を求められた際に、証明できなければ経費として認められません。

準確定申告と相続人の確定申告は別物

亡くなった方のその年1月1日から死亡日までの所得を申告する手続きを「準確定申告」といいます。これは相続人が代わりに行いますが、今回解説しているのは、相続人自身が翌年に行う自分自身の所得税の確定申告の話です。2つは全く別の手続きですので、混同しないようにしましょう。

判断に迷ったら専門家に相談を

「この費用は経費になるのかな?」「複数の不動産があるけど、どうやって按分すればいいの?」など、ご自身での判断が難しい場合もあるかと思います。申告内容に誤りがあると、後から追加で税金を納めることになるリスクもあります。不安な点があれば、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

最後に、今回の内容をまとめます。
相続税申告の税理士費用や一般的な相続手続きの司法書士費用は、原則として相続人の確定申告で経費(損金)にすることはできません。
ただし、例外として以下の2つのケースでは、関連する費用を経費として計上することが可能です。

  1. 相続した賃貸物件の経営を引き継ぐ場合 → 相続登記費用などを「不動産所得」の必要経費にできる。
  2. 相続した資産を売却する場合 → 相続登記費用などを「譲渡所得」の取得費にできる。さらに、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例もある。

相続に関連する費用は高額になりがちですが、条件に当てはまれば、確定申告で税負担を軽減できる可能性があります。ご自身の状況がこれらのケースに当てはまるかどうかを確認し、適切な申告を心がけましょう。

参考文献

国税庁 タックスアンサー No.2215 固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合

国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

相続関連費用の確定申告に関するよくある質問まとめ

Q. 相続税申告のために支払った税理士費用は、私の確定申告で経費にできますか?

A. 原則として、相続税申告のための税理士費用は、ご自身の所得税の確定申告(事業所得や給与所得など)で経費(損金)にすることはできません。これは相続手続きにかかる費用であり、所得を得るための費用とはみなされないためです。

Q. 税理士費用が経費として認められる例外的なケースはありますか?

A. はい、あります。相続した不動産や株式などを売却(譲渡)した場合、その譲渡所得を計算する際に、支払った税理士費用の一部を「取得費」に加算して経費として計上できる場合があります。

Q. 相続した不動産の登記で司法書士に支払った費用も経費になりますか?

A. こちらも同様に、相続した不動産を将来売却した場合、その譲渡所得の計算上、登記にかかった費用(登録免許税や司法書士報酬)を「取得費」に含めることができます。

Q. 遺産分割協議書の作成や戸籍収集にかかった費用はどうなりますか?

A. これらの費用も、基本的には所得税の経費にはなりません。ただし、不動産の売却に関連するものであれば、譲渡所得の計算上、取得費に含められる可能性があります。

Q. 相続したアパートの不動産所得の経費に、税理士費用は計上できますか?

A. いいえ、できません。相続税申告にかかった税理士費用は、アパート経営で得られる不動産所得の必要経費にはなりません。あくまで相続財産を「売却」した際の「譲渡所得」の計算でのみ考慮されます。

Q. 結局、相続関連の専門家費用が経費になるのはどのような時ですか?

A. 「相続した財産(不動産、株式など)を売却し、譲渡所得の確定申告をする時」に、その売却した財産にかかった相続税申告費用や登記費用などを「取得費」として経費計上できる、と覚えておくとよいでしょう。

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