ご家族が亡くなり、相続税の納税通知が届いたとき、「思ったより金額が大きくて、一括で支払うのは難しいかもしれない…」と不安に感じていませんか?相続税は高額になることも多く、納税期限内に2回など、複数回に分けて支払いたいと考えるのは自然なことです。この記事では、相続税の納税を複数回に分けて行うことができるのか、具体的な方法やそれぞれのメリット・デメリットを分かりやすく解説していきます。ご自身の状況に合った納税方法を見つけるお手伝いができれば幸いです。
相続税の納税は分割できる?原則は「現金一括納付」
まず大切なこととして、相続税の納税は、申告期限(被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内)までに現金で一括納付するのが原則です。税務署から送られてくる納付書も、基本的には全額を一括で納めるためのものになっています。
しかし、だからといって分割払いが一切認められないわけではありません。いくつかの方法を使えば、実質的に複数回に分けて納税することが可能です。ここでは、その具体的な方法について見ていきましょう。
期限内であれば自主的な分割納付も可能
実は、定められた納付期限内であれば、納税額を複数回に分けて金融機関の窓口で支払うこと自体は可能です。例えば、納税額が500万円の場合、今日250万円、来週250万円というように、期限内に完納すれば問題ありません。
ただし、手元にある納付書は1枚のはずです。複数回に分けて納付したい場合は、事前に管轄の税務署に連絡し、分割で納付したい旨を伝えて指示を仰ぐのが確実です。場合によっては、納付額を分けた納付書を追加で発行してもらえることもあります。
クレジットカード納付を利用して分割する
より手軽な方法として、クレジットカードでの納税が挙げられます。国税は専用サイトを通じてクレジットカードで納付することができ、その際にカード会社の分割払いやリボ払いを選択すれば、実質的に納税を分割することが可能です。
ただし、この方法にはメリットだけでなく、注意すべき点もいくつかあります。
| メリット | ・24時間いつでも自宅のPCやスマホから手続きができる ・カード会社のポイントが貯まる ・手元に現金がなくても納税できる |
| デメリット | ・納税額に応じた決済手数料がかかる ・1回あたりの納付額に上限がある(約990万円) ・領収書が発行されない ・分割払いやリボ払いの金利は自己負担 |
決済手数料は、納付税額1万円ごとに83.6円(税込)がかかります。ポイント還元率が手数料を上回る場合はお得になりますが、そうでない場合は現金納付より総支払額が増えるので注意が必要です。
納税が困難な場合は「延納」という制度がある
「期限内にどうしても全額を支払うのが難しい…」という場合には、「延納」という制度を利用できる可能性があります。これは、税務署に申請し、許可を得ることで、相続税を年単位で分割して納めることができる制度です。ただし、誰でも利用できるわけではなく、いくつかの条件を満たす必要があります。
期限までの支払いが難しい方のための「延納」制度
延納は、相続税の納税が困難な方のための救済措置として設けられている正式な制度です。自主的な分割納付とは異なり、法律で定められた手続きに沿って申請し、税務署長の許可を得る必要があります。許可が下りれば、納税を長期間にわたって分割できますが、その分、利子にあたる「利子税」を支払う必要があります。
延納を利用するための4つの要件
延納を申請するためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- 相続税額が10万円を超えていること
- 金銭で一括納付することが困難な理由があること
(手持ちの預貯金では足りない、すぐに換金できる資産がないなど、客観的な事実が必要です) - 延納税額と利子税額に見合う担保を提供すること
(延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下の場合は担保不要です。不動産や国債などが担保として認められます) - 納期限(申告期限と同じ)までに延納申請書と担保提供関係書類を税務署に提出すること
特に「金銭での納付が困難」という点は、厳密に審査されます。手持ちの預貯金で支払えるのに延納を申請しても、許可されない可能性が高いです。
延納できる期間と利子税
延納できる期間(延納期間)と利子税の割合は、相続した財産の内容によって変わります。主に、相続財産に占める不動産などの割合が多いほど、期間は長く、利子税は低くなる傾向があります。
| 相続財産に占める不動産等の割合 | 延納期間(最長) |
| 75%以上 | 20年 |
| 50%以上75%未満 | 15年 |
| 50%未満 | 5年 |
利子税の割合は、国の政策金利などによって変動しますが、令和5年時点の特例割合が適用されると、年0.4%~0.7%程度となっています。銀行のローンなどと比較すると低い利率ですが、長期間にわたる支払いになるため、総額ではかなりの負担になることもあります。
延納も難しい場合の最終手段「物納」
現金での納付も、分割払いである延納も難しいという場合には、最終的な手段として「物納」という制度があります。これは、現金(金銭)の代わりに、相続した不動産や株式といった「物」で相続税を納める方法です。
物納が認められる条件
物納はあくまで最終手段であり、誰でも簡単に選択できるわけではありません。物納を申請するには、まず「延納によっても金銭で納付することが困難」であることが大前提です。その上で、物納に充てる財産が国に納めるのに適しているか(管理や処分がしやすいかなど)が厳しく審査されます。
例えば、境界が不明確な土地や、他人の権利(抵当権など)がついている不動産は、物納財産として認められにくい傾向があります。
物納できる財産の種類と優先順位
物納できる財産には優先順位が定められています。基本的には、国が管理・処分しやすいものから優先的に納める必要があります。
- 第1順位:不動産、国債、地方債、上場株式など
- 第2順位:非上場株式など
- 第3順位:動産(美術品など)
物納を検討する場合は、手続きが非常に複雑で時間もかかるため、必ず税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
自分に合った納税方法は?納税方法の比較一覧
ここまでご紹介した納税方法を一覧表にまとめました。それぞれのメリット・デメリットを比較して、ご自身の状況に最も合った方法を検討してみてください。
| 納税方法 | 特徴と注意点 |
| 現金一括納付 | 最もシンプルで追加の費用がかからない原則的な方法です。 |
| 期限内の自主的な分割納付 | 期限内に完納できる見込みがある場合に有効です。事前に税務署への相談が必要です。 |
| クレジットカード納付 | 手軽に実質的な分割払いができますが、決済手数料やカードの利用限度額に注意が必要です。 |
| 延納 | 税務署の許可を得て年単位で分割する方法です。利子税がかかり、担保が必要な場合があります。 |
| 物納 | 現金・延納でも納付できない場合の最終手段です。手続きが非常に複雑で、条件も厳しいです。 |
まとめ
相続税の納税は、原則として期限内に現金で一括納付することになっています。しかし、それが難しい場合でも、今回ご紹介したように、いくつかの選択肢があります。
納付期限内に完納できる見込みがあるなら、クレジットカード納付を利用したり、税務署に相談して複数回での窓口納付を検討するのが良いでしょう。期限内の納付が難しい場合は、要件を満たせば「延納」という形で分割払いが認められます。そして、それも困難な場合の最終手段が「物納」です。
どの方法が最適かは、納税額やお手持ちの資産状況、相続財産の内容によって異なります。納税期限はあっという間に来てしまうため、早めに資金計画を立て、どの方法を選択するか決めることが大切です。もし判断に迷ったり、手続きに不安を感じたりした場合は、一人で抱え込まずに、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
相続税の分割納付に関するよくある質問まとめ
Q.相続税の納税は、納付期限内に2回以上に分けて支払うことはできますか?
A.はい、可能です。納付書を使って金融機関などで納付すれば、納付期限内であれば複数回に分けて支払うことができます。ただし、必ず期限内に全額を納付する必要があります。
Q.相続税を複数回に分けて納付する場合、特別な手続きは必要ですか?
A.特別な申請手続きは必要ありません。税務署から送付された納付書、または税務署で追加発行してもらった納付書を使って、その都度納付すれば問題ありません。
Q.納付期限内に分割で支払うことと「延納」は違うのですか?
A.はい、全く異なります。期限内に複数回で納めるのは単なる「分割での納付」です。一方「延納」は、税務署の許可を得て納付期限を延長してもらう制度で、担保の提供や利子税の支払いが必要になる場合があります。
Q.納付期限までに全額を支払えなかった場合はどうなりますか?
A.納付期限の翌日から、納付が完了する日までの日数に応じて延滞税というペナルティが課されます。1日でも遅れると発生するため注意が必要です。
Q.相続税はどのような方法で納付できますか?
A.金融機関や税務署の窓口での現金納付のほか、e-Tax(電子納税)、クレジットカード納付、コンビニ納付(30万円以下の場合)などの方法があります。
Q.期限内にどうしても全額を納付できる見込みがありません。どうすればよいですか?
A.資金が不足し、期限内の一括納付が困難な場合は、「延納」や「物納」といった制度を利用できる可能性があります。適用には一定の要件があるため、早めに税務署や専門家に相談することをおすすめします。