相続税の申告で「家なき子特例」を使おうと考えているけれど、「添付する登記簿って、亡くなった親の家のもの?それとも、今自分が住んでいるアパートのもの?」と迷っていませんか?相続税の申告は専門的な書類が多くて、どれを準備すれば良いのか分からなくなってしまいますよね。
この記事では、家なき子特例で必要となる登記簿がどちらの建物のものなのか、その理由や他の必要書類とあわせて、誰にでも分かるように優しく解説していきます。この記事を読めば、書類準備の疑問がスッキリ解決しますよ。
そもそも「家なき子特例」ってどんな制度?
まず、添付書類の話の前に「家なき子特例」がどんな制度なのか、簡単におさらいしておきましょう。この特例は、正式には「小規模宅地等の特例」の一部です。相続税の負担を軽くするための、とても心強い制度なんですよ。
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)が住んでいた土地などを相続した場合に、その土地の評価額を最大で80%も減額してくれる制度です。例えば、5,000万円と評価された土地なら、1,000万円の評価額として相続税を計算できるため、税金の負担が大きく減る可能性があります。
この特例は、残された家族が住む家を失うことなく生活を続けられるように、という目的で作られました。
家なき子特例が使えるのはどんな人?
小規模宅地等の特例は、基本的には亡くなった方と一緒に住んでいた配偶者や同居の親族が対象です。しかし、仕事の都合などで実家を離れて暮らしているお子さんもいらっしゃいますよね。
そういった方が「実家を相続したくても、相続税が高くて手放さざるを得ない」という事態にならないように、一定の条件を満たす別居の親族も特例を使えるようにしたのが、通称「家なき子特例」なんです。
「持ち家がなく、賃貸暮らしをしている子ども」などが典型的なケースであることから、このような愛称で呼ばれています。
家なき子特例の適用要件をチェックしよう
家なき子特例は誰でも使えるわけではなく、いくつかの細かい要件をすべてクリアする必要があります。特に平成30年度の税制改正で要件が厳しくなったため、注意が必要です。主な要件を確認してみましょう。
亡くなった方(被相続人)の要件
まず、亡くなった方に関する要件です。
| 配偶者がいないこと | 亡くなった時点で、配偶者(夫または妻)がいないことが前提です。 |
| 同居の相続人がいないこと | 亡くなった家に、同居していた法定相続人(相続権のある親族)がいないことも条件となります。 |
土地を相続する人(相続人)の要件
次に、土地を相続するご自身に関する要件です。ここが一番複雑な部分なので、しっかり確認してくださいね。
| 相続開始前3年以内に持ち家に住んでいないこと | 相続が始まる前の3年間に、ご自身や配偶者、三親等内の親族、特別な関係の法人が所有する家に住んだことがない、という要件です。ずっと賃貸アパートなどに住んでいる必要があります。 |
| 今住んでいる家を過去に所有したことがないこと | 相続が始まった時点で住んでいる家を、過去に一度も所有したことがない、という要件も加わりました。例えば、以前所有していた家を売却し、その後その家を借りて住んでいる(リースバック)ようなケースは対象外となります。 |
| 申告期限まで土地を所有し続けること | 相続した土地を、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)まで売却せずに持ち続ける必要があります。 |
【本題】添付する登記簿は被相続人と相続人のどちらのもの?
さて、ここからが本題です。家なき子特例を申告する際に添付が必要な「登記簿(登記事項証明書)」は、亡くなった方の家のものなのか、それともご自身が住んでいるアパートの建物に関するものなのでしょうか。
結論:相続人が住んでいる(いた)家屋の登記簿です
結論から言うと、家なき子特例の要件を証明するために添付するのは、「相続人が相続開始時に住んでいる家屋の登記簿」です。また、場合によっては「相続開始前3年以内に住んでいた家屋の登記簿」も必要になります。
亡くなった方(被相続人)が住んでいた家の登記簿は、相続財産である土地の情報を申告書に記載するために必要となりますが、「家なき子」であることを証明するための添付書類としては、相続人ご自身の居住状況を証明する書類が求められるのです。
なぜ相続人の家の登記簿が必要なの?
それは、先ほど説明した家なき子特例の要件である「今住んでいる家を過去に所有したことがない」ことや「相続開始前3年以内に自分や親族の持ち家に住んでいない」ことを客観的に証明するためです。
登記簿には、その建物の所有者が誰であるか、過去に誰が所有していたかの履歴が記録されています。これを提出することで、ご自身が住んでいる家が賃貸物件であり、過去にも所有したことがないという事実を税務署に証明するわけですね。
家なき子特例の申告に必要な添付書類一覧
登記簿以外にも、家なき子特例の適用を受けるためにはいくつかの書類が必要です。ここで、申告に必要な書類をまとめて確認しておきましょう。
共通で必要な主な書類
まず、小規模宅地等の特例を適用する際に共通して必要となる書類です。
| 被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本等 | 法定相続人が誰であるかを示すために必要です。法定相続情報一覧図の写しでも構いません。 |
| 遺言書の写し又は遺産分割協議書の写し | 誰がその土地を相続したかを証明します。 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 遺産分割協議書に押印した印鑑が本人のものであることを証明します。 |
家なき子特例で追加で必要な書類
上記の共通書類に加えて、家なき子特例の要件を満たすことを証明するために、以下の書類が必要になります。
| 相続開始前3年以内に住んでいた家屋が自己等の所有家屋でないことを証明する書類 | 住んでいた家が賃貸だったことを証明するために、賃貸借契約書の写しなどを提出します。もし社宅などであれば、その証明書が必要です。 |
| 相続開始時に住んでいる家屋を過去に所有したことがないことを証明する書類 | これが、今回テーマになっている書類です。法務局で取得した「登記事項証明書(登記簿謄本)」を添付します。 |
※マイナンバー(個人番号)を申告書に記載することで、相続人の住民票の写しや戸籍の附票の写しの添付は原則不要になりました。これにより、相続開始前3年以内の住所の変遷は税務署側で確認できるようになっています。
登記簿(登記事項証明書)の取得方法
「相続人が住んでいるアパートの登記簿なんて、どうやって取るの?」と不安に思うかもしれませんが、大丈夫です。建物の登記事項証明書は、所有者でなくても誰でも取得することができます。大家さんの許可なども必要ありません。
取得方法は主に3つあります。
- 法務局の窓口で請求する:最寄りの法務局へ行き、申請書を記入して請求します。手数料は1通600円です。
- 郵送で請求する:申請書と手数料分の収入印紙、返信用封筒を同封して法務局に郵送で請求します。
- オンラインで請求する:法務局の「登記ねっと」というサービスを利用してオンラインで請求できます。郵送で受け取る場合は手数料が500円、近くの法務局で受け取る場合は480円と、窓口より少しお得です。
請求する際には、アパートの正確な住所(地番)が必要になるので、賃貸借契約書などで確認しておくとスムーズですよ。
まとめ
今回は、家なき子特例を申告する際の登記簿について解説しました。ポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 家なき子特例で添付する登記簿は、亡くなった方の家のものではなく、相続人ご自身が住んでいる(いた)賃貸アパートなどの家屋のものです。
- これは、ご自身が「持ち家がない」という特例の要件を満たしていることを証明するために必要です。
- 登記簿(登記事項証明書)は、所有者でなくても法務局で誰でも取得できます。
- その他にも賃貸借契約書の写しなど、複数の書類が必要になるので、早めに準備を始めましょう。
家なき子特例は、適用できれば相続税を大きく減らせる可能性がある一方、要件の判定や書類の準備が非常に複雑です。もし少しでも不安な点があれば、無理せず相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。正確な申告で、大切な財産をしっかりと守ってくださいね。
参考文献
家なき子特例の添付書類(登記簿)に関するよくある質問まとめ
Q.家なき子特例の申告で添付する登記簿は、被相続人の建物と相続人の住むアパート、どちらのものが必要ですか?
A.被相続人が所有していた建物の登記簿謄本(登記事項証明書)が必要です。相続人が住んでいる賃貸アパートの登記簿は不要です。代わりに、相続人が賃貸物件に住んでいることを証明するために賃貸借契約書のコピーなどを提出します。
Q.なぜ相続人が住んでいるアパートの登記簿ではなく、賃貸借契約書が必要なのですか?
A.相続人が過去3年間に自己所有の家に住んでいなかったこと(=家なき子)を証明するためです。賃貸借契約書は、他人の家に住んでいた客観的な証拠となるため提出を求められます。
Q.被相続人の建物の登記簿謄本はどこで取得できますか?
A.全国の法務局の窓口で取得できます。また、オンラインの「登記・供託オンライン申請システム」を利用して請求し、郵送で受け取ることも可能です。
Q.提出する登記簿謄本に有効期限はありますか?
A.税務署に提出する登記簿謄本に法律上の有効期限はありません。しかし、相続開始日以降の最新の状況を証明する必要があるため、申告手続きの直前に取得したものを使用するのが一般的です。
Q.家なき子特例では、登記簿謄本の他にどのような書類が必要ですか?
A.主に、被相続人の戸籍謄本、相続人の戸籍謄本と住民票の写し、そして相続人の賃貸借契約書のコピーなどが必要です。個別の状況によって追加の書類が求められる場合もあります。
Q.そもそも「家なき子特例」とはどのような制度ですか?
A.正式には「小規模宅地等の特例」の一つです。被相続人の自宅の土地を、持ち家のない親族が相続した場合などに、その土地の評価額を最大80%減額できる制度で、相続税の負担を大きく軽減できる可能性があります。