ご家族が亡くなられると、悲しみに暮れる間もなく様々な手続きに追われますよね。その中でも特に重要で、期限が厳しく定められているのが相続税の申告です。この期限をうっかり過ぎてしまうと、思わぬペナルティが発生してしまうこともあります。この記事では、相続税申告の期限の考え方や、キーワードとなる「応当日」について、具体例を交えながら優しく解説していきます。
相続税の申告期限はいつまで?基本ルールを解説
相続税の申告と納税には、法律で決められた期限があります。この期限を正しく理解することが、スムーズな相続手続きを進めるための第一歩になります。まずは基本的なルールから確認していきましょう。
申告と納税の期限は「死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内」
相続税の申告と納税の期限は、法律で「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」と定められています。少し難しい言葉ですが、多くの場合、「相続の開始があったことを知った日」とは、亡くなったご本人の「死亡日」を指します。つまり、亡くなった日から10ヶ月後が期限、と覚えておくと分かりやすいですよ。
キーワード「応当日」とは?具体例で計算してみよう
相続税の申告期限を計算するときに、「応当日(おうとうび)」という言葉が使われます。これは、亡くなった月の10ヶ月後の「同じ日」のことです。例えば、2024年4月15日に亡くなられた場合、10ヶ月後は翌年の2025年2月になりますので、申告期限は2025年2月15日となります。いくつか具体例を見てみましょう。
| 亡くなった日 | 申告期限(10ヶ月後の応当日) |
| 2024年5月20日 | 2025年3月20日 |
| 2024年8月10日 | 2025年6月10日 |
申告期限の日が土日祝日だったらどうなるの?
もし、計算した申告期限の日が土曜日、日曜日、祝日など、税務署がお休みの日だった場合はどうなるのでしょうか?その場合は、その日の翌開庁日(次の平日)が申告期限となります。例えば、期限の日が日曜日だった場合は、翌日の月曜日が期限になります。もし月曜日も祝日なら、火曜日が期限です。期限の計算をしたら、カレンダーで曜日の確認も忘れないようにしましょう。
応当日の計算で注意したい特殊なケース
応当日の計算は基本的にシンプルですが、少し注意が必要なケースもあります。特に、月末が亡くなった日だった場合は、間違いやすいポイントですので一緒に確認していきましょう。
10ヶ月後に同じ日がない場合(月末が死亡日)
亡くなった日が月の末日だった場合、少し計算に注意が必要です。例えば、2024年4月30日に亡くなった場合、10ヶ月後は翌年の2025年2月です。しかし、2月に30日はありませんよね。このように、10ヶ月後に同じ日が存在しない場合は、その月の末日が申告期限となります。この例ですと、2025年2月28日(うるう年の場合は29日)が期限になります。
| 亡くなった日 | 申告期限 |
| 2024年4月30日 | 2025年2月28日(2025年は平年) |
| 2024年12月31日 | 2025年10月31日 |
申告期限の起算日が「死亡日」と異なる場合
原則として、申告期限は「亡くなった日」を基準に計算しますが、全てがそうとは限りません。どのような場合に計算のスタート地点(起算日)が変わるのか、代表的な例をいくつかご紹介しますね。
死亡の事実を後から知った場合
長年離れて暮らしていたご親族が亡くなった場合など、死亡の事実を後から知るケースもあるかと思います。このような場合、申告期限の計算は、実際に死亡の事実を知った日の翌日から数えて10ヶ月以内となります。ただし、他の相続人の方の申告期限は変わりません。相続人全員で一緒に申告手続きを進める場合は、一番早い期限に合わせて準備するのが一般的です。
遺言によって財産を受け取った人(受遺者)の場合
遺言によって、相続人以外の方(例えば、生前お世話になったご友人や、かわいいお孫さんなど)が財産を受け取ることを「遺贈」といいます。この財産を受け取った人(受遺者)の申告期限は、自分のために遺贈があったことを知った日(通常は遺言書の内容を知った日)の翌日から10ヶ月以内と定められています。
期限までに申告・納税が間に合わないとどうなる?
相続税の申告期限は、とても厳格なルールです。もし、この期限を守れなかった場合、本来納めるべき税金に加えて、ペナルティとしての税金が課せられてしまう可能性があります。
ペナルティとしての「加算税」と「延滞税」
期限までに申告をしなかった場合には「無申告加算税」が、申告はしたものの納税が遅れてしまった場合には「延滞税」が、本来の税金に上乗せして課されます。無申告加算税の税率は、税務署から指摘される前に自主的に申告した場合は5%ですが、税務調査の連絡を受けてから申告すると10%または15%、調査後に指摘されてから申告すると15%または20%と、状況によって税率が上がってしまいます。延滞税も、納付が遅れるほど増えていくため、期限を守ることがとても大切です。
使えなくなる税金の特例がある
相続税には、税金の負担を大きく軽くしてくれる特例がいくつかあります。特に節税効果が高い「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」は、多くの方が利用を検討される制度です。しかし、これらの特例は期限内に申告することが適用の条件の一つとなっています。期限を過ぎてしまうと、これらの特例が使えなくなり、結果として納税額が何倍にも増えてしまう恐れがあるのです。
期限に間に合いそうにない時の対処法
相続財産の調査に予想以上に時間がかかったり、相続人同士での話し合い(遺産分割協議)がなかなかまとまらなかったりと、どうしても期限に間に合いそうにない状況も考えられます。そんな時のための対処法を知っておくと、少し安心できるかもしれません。
遺産分割が決まらない場合は「未分割申告」
遺産分割協議がまとまらない場合でも、残念ながら申告期限は延長されません。このような場合は、まず法定相続分で財産を分けたと仮定して、期限内に一度申告を行う必要があります。これを「未分割申告」といいます。この申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を一緒に提出しておくことで、後日、無事に遺産分割が確定した際に、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった重要な特例を適用し直すことが可能になります。
納税資金が足りない場合は「延納」や「物納」
相続した財産が不動産ばかりで、納税のためのお金をすぐに用意するのが難しい、というケースもありますよね。その場合は、税金を分割で納める「延納」や、不動産などの財産そのもので税金を納める「物納」という制度を利用できる可能性があります。ただし、どちらの制度を利用する場合も税務署長の許可が必要で、担保の提供など厳しい要件が定められています。利用を検討される場合は、早めに税務署や専門家へ相談することが大切です。
まとめ
相続税の申告期限は、原則として亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月後の応当日です。10ヶ月という期間は長いように感じられるかもしれませんが、戸籍謄本の収集や財産調査、遺産分割協議など、やるべきことはたくさんあり、時間はあっという間に過ぎてしまいます。まずは申告期限を正しく把握し、計画的に手続きを進めることが何よりも大切です。もし手続きに不安を感じたり、期限が迫っていたりする場合は、一人で抱え込まず、早めに税理士などの専門家に相談してみてくださいね。
参考文献
国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
相続税申告の期限と応当日に関するよくある質問
Q.相続税申告の期限はいつまでですか?
A.相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。
Q.相続税申告の期限日が土日や祝日だった場合はどうなりますか?
A.申告期限が土曜日、日曜日、祝日などの休日にあたる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
Q.相続税の期限で聞く「応当日」とは何ですか?
A.「応当日」とは、特定の月日と同じ月日のことです。例えば、1月15日に亡くなった場合、10か月後の応当日は11月15日となり、この日が申告期限日となります。
Q.相続税の申告期限を過ぎるとどうなりますか?
A.期限後に申告すると、本来の税額に加えて無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。また、税額を軽減できる特例が使えなくなる場合もあります。
Q.遺産分割が間に合わず、期限までに申告できそうにない場合はどうすれば良いですか?
A.まず法定相続分で計算した相続税を期限内に申告・納税します。その後、遺産分割が確定してから修正申告等を行うことで、配偶者の税額軽減などの特例を適用できる場合があります。