ご所有の土地が市街地開発事業の対象地域になっていると、いざ相続が発生したときに「相続税の評価額はどう計算するの?」と不安になりますよね。この事業は完了までに数年から十数年かかることもあり、相続がどのタイミングで起こるかによって、土地の評価方法が大きく変わってきます。この記事では、市街地開発事業の進み具合と、それに伴う土地の相続税評価額への影響について、専門用語をかみ砕きながら、わかりやすく解説していきます。
市街地開発事業とは?
まずは、「市街地開発事業」がどのようなものか、簡単におさらいしましょう。市街地開発事業とは、都市計画法に基づいて、快適で機能的な街づくりを目指す事業のことです。具体的には、古くなった建物が密集していたり、道路が狭くて危険だったりするエリアを整備し直します。代表的なものに「土地区画整理事業」や「市街地再開発事業」があります。土地の所有者にとっては、ご自身の土地がより価値の高いものに生まれ変わる可能性がある一方、事業中は権利関係が複雑になったり、一時的に土地の利用が制限されたりすることがあります。
土地区画整理事業
土地区画整理事業は、道路や公園などの公共施設を整備し、宅地の利用価値を高めるための事業です。地権者(土地の権利を持つ人)から土地の一部を提供してもらい(これを「減歩(げんぶ)」と言います)、その土地で道路を広げたり公園を造ったりします。事業後は、整備されたきれいな区画の土地が地権者に再配分されます(これを「換地(かんち)」と言います)。不整形な土地がきれいな四角い土地になったり、狭い道路にしか面していなかった土地が広い道路に面するようになったりして、資産価値が上がることが期待できます。
市街地再開発事業
市街地再開発事業は、主に駅前など都市部の密集したエリアで行われることが多いです。老朽化した木造建築物などを取り壊し、共同で高層ビルやマンションを建設して、土地を有効活用するのが目的です。元の土地や建物の権利者は、事業後に完成する新しいビルの床(区分所有権)を「権利床(けんりしょう)」として受け取ることになります。土地の所有権が、新しい建物の共有持分に変わる、というイメージですね。
事業の流れと相続税評価のポイント
これらの事業は、計画決定から工事完了、権利の確定まで、非常に長い期間を要します。相続税を計算する際の土地評価では、相続が発生した時点で事業がどの段階にあるかが非常に重要になります。大きく分けて、事業開始前、事業中(仮換地指定後など)、事業完了後(換地処分後)の3つのステージで評価方法が異なってくるのが最大のポイントです。
事業の進捗状況で変わる!土地の相続税評価方法
ここからは、市街地開発事業(主に土地区画整理事業を例にします)の進捗状況に応じて、土地の相続税評価方法がどのように変わるのかを具体的に見ていきましょう。相続が発生したタイミングによって評価額が大きく変わる可能性があるので、一つひとつ丁寧に確認してくださいね。
【ステージ1】仮換地指定前:「従前の宅地」で評価
事業計画は決まったけれど、まだ具体的な土地の割り当て(仮換地指定)が行われていない段階で相続が発生した場合です。この場合、評価は市街地開発事業の影響を考慮せず、「従前の宅地(じゅうぜんのたくち)」、つまり事業前の土地のまま評価します。通常の土地評価と同じように、路線価が定められていれば路線価方式で、なければ倍率方式で計算することになります。
【ステージ2】仮換地指定後~換地処分前:「仮換地」で評価が原則
事業が進み、「この土地の代わりとして、事業後はこの区画を差し上げます」という「仮換地(かりかんち)」が指定された後、事業が完了する(換地処分)までの間に相続が発生した場合です。この段階では、原則として「仮換地の価額」で評価します。仮換地は事業後の整備された土地を想定しているため、一般的に従前の宅地よりも評価額が高くなる傾向があります。
【ステージ3】換地処分後:「換地」で評価
すべての工事が完了し、新しい土地の権利が法的に確定する「換地処分(かんちしょぶん)」が行われた後に相続が発生した場合です。この場合は、新しく割り当てられた「換地(かんち)」を通常の宅地として評価します。登記も完了し、権利関係が確定しているため、評価方法は最もシンプルになります。
要注意!仮換地評価の例外的なケース
「仮換地が指定されたら、必ず仮換地で評価する」と思いがちですが、実はそうではない例外的なケースもあります。これらのケースに当てはまると評価方法が変わり、相続税額にも影響するため、しっかりと確認しておくことが重要です。
仮換地が使えない場合:従前の宅地で評価
仮換地が指定されていても、次の2つの条件に両方とも当てはまる場合は、実態に合わせて「従前の宅地」で評価します。
- 仮換地の使用収益開始日がまだ到来しておらず、使うことができないこと
- 仮換地の造成工事が行われていないこと
まだ仮換地が全く使えない状態なので、事業前の土地で評価する、ということですね。この判断は重要なので、事業の施行者に状況をよく確認する必要があります。
造成工事が長引く場合:評価額が5%減額
仮換地が指定され、使用も開始できる状態であっても、造成工事がまだ終わっておらず、工事完了まで相続開始日から1年を超えると見込まれる場合は、土地の利用に制限があると考えられるため、評価額が減額されます。具体的には、仮換地が完成したものとして評価した価額から5%を控除して評価します。
計算式:仮換地の評価額 × 95%
清算金が見込まれる場合:評価額に加算・減算
土地区画整理事業では、従前の宅地と新しく割り当てられる換地の価値の差額を調整するために「清算金(せいさんきん)」が交付されたり、逆に徴収されたりすることがあります。相続発生時点で、この清算金の授受が確実に見込まれる場合は、その金額を評価額に反映させる必要があります。
| ケース | 計算方法 |
| 清算金が交付される(もらえる)と見込まれる場合 | 仮換地の価額 + 交付が見込まれる清算金額 |
| 清算金が徴収される(支払う)と見込まれる場合 | 仮換地の価額 - 徴収が見込まれる清算金額 |
「個別評価」とは?税務署への手続き
市街地開発事業中の土地は、路線価図を見ると路線価が設定されておらず、「個別評価」と記載されていることがほとんどです。これは、区画が変更される途中で標準的な評価が難しいため、一件ごとに評価を依頼する必要があるという意味です。この場合、相続税申告の前に税務署へ特別な手続きをする必要があります。
個別評価申出書の手続き
「個別評価」となっている土地を評価するためには、土地の所在地を管轄する税務署に「個別評価申出書」を提出し、評価の基準となる路線価などを設定してもらう必要があります。税務署からの回答には、通常1か月程度の時間がかかるため、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)から逆算して、早めに準備を始めることが大切です。
申出に必要な書類
個別評価申出書には、いくつかの添付書類が必要です。事業の施行者(市区町村や土地区画整理組合など)から取り寄せる書類も多いので、事前に確認しておきましょう。
| 書類の例 | 入手先など |
| 案内図(住宅地図など) | ご自身で用意 |
| 仮換地指定通知書、仮換地位置図 | 事業の施行者(役所や組合) |
| 仮換地の公図または実測図 | 法務局、事業の施行者 |
| 従前地の公図または実測図 | 法務局 |
| 使用収益開始日の通知書 | 事業の施行者(役所や組合) |
これらの書類を基に、税務署がその土地の評価額を算定するための基準価額を回答してくれます。
建物はどう評価する?権利変換の場合
市街地再開発事業などで、従前の建物が取り壊され、将来新しいビルの床を取得する権利(権利床)に変換された場合はどうなるのでしょうか。この場合、相続財産は「建物」そのものではなく、「完成後の建物を取得できる権利」という債権として評価します。
権利の評価方法
この「建物を取得できる権利」の評価は、少し特殊です。一般的には、権利変換計画で定められた元の建物の評価額(権利変換価額)を基に計算します。国税不服審判所の裁決例などを参考にすると、以下のように評価されることが多いです。
権利変換価額(建物部分) × 70%
これは、建築中の家屋の評価が費用現価の70%で評価されること(財産評価基本通達91)に準じた考え方です。なお、ここでも新しい建物の工事完了まで1年超が見込まれる場合は、さらに5%控除できる可能性があります。
まとめ
市街地開発事業の対象地域にある土地の相続は、事業の進捗状況によって評価方法が大きく変わるため、非常に専門的な知識が求められます。
- 相続発生時点での事業の進捗ステージ(仮換地指定の有無など)を正確に把握すること。
- 仮換地が指定されていても、例外的な評価方法に当てはまらないか確認すること。
- 「個別評価」が必要な場合は、申告期限に間に合うよう早めに税務署への手続きを行うこと。
これらのポイントを押さえることが、適正な相続税評価の第一歩です。ご自身の土地の状況を正確に把握し、もし評価方法に迷ったり、手続きが複雑で不安に感じたりした場合は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
市街地開発事業と相続税評価額のよくある質問まとめ
Q.市街地開発事業とは何ですか?
A.都市計画法に基づき、計画的なまちづくりを行うために道路、公園、下水道などの公共施設を整備したり、土地の利用を促進したりする事業の総称です。代表的なものに「土地区画整理事業」や「市街地再開発事業」があります。
Q.市街地開発事業の対象地になると相続税評価額は変わりますか?
A.はい、変わります。事業の種類や進捗状況によって評価方法が異なり、通常の評価額よりも低くなるケースがあります。例えば、造成中の宅地として評価され、造成費用相当額が控除されることがあります。
Q.土地区画整理事業中の土地はどのように評価するのですか?
A.原則として、造成工事完了後に割り当てられる「仮換地」を基準に評価します。ただし、使用収益が開始されていないなど、利用に制限がある場合は、その状況に応じて評価額が減額される可能性があります。
Q.「造成中の宅地」とはどのような土地ですか?
A.宅地造成の工事中で、まだ宅地として利用できない状態の土地のことです。相続税評価では、その土地が造成完了後の宅地であると仮定した場合の価額から、国が定めた造成費を控除して評価額を算出します。
Q.事業によって土地面積が減る「減歩」は評価額にどう影響しますか?
A.減歩により土地の面積は減りますが、道路が広くなるなど利便性が向上するため、1㎡あたりの土地単価は上昇する傾向にあります。そのため、面積が減っても土地全体の評価額が必ずしも下がるとは限りません。
Q.相続した土地が市街地開発事業の対象か調べる方法はありますか?
A.所在地の市区町村役場の都市計画担当部署(都市計画課など)に問い合わせることで確認できます。また、自治体のホームページで公開されている都市計画図などで調べることも可能です。