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地区整備計画で相続税評価額は下がる?都市計画道路予定地の評価方法を解説

2025-09-03
目次

ご自身の土地や、相続した土地が「地区整備計画」の対象になっていると知ったら、「これからどうなるの?」「土地の価値は変わるの?」と不安になりますよね。特に、相続税評価額への影響は大きな関心事だと思います。実は、地区整備計画の内容によっては、土地の利用に制限がかかるため、その分、相続税を計算する際の評価額が減額されることがあるんです。この記事では、地区整備計画の基本から、土地の相続税評価額への具体的な影響、そして評価額の計算方法まで、専門的な内容をできるだけ分かりやすく、丁寧にご紹介していきます。

地区整備計画とは?

「地区整備計画」と聞いても、あまりピンとこないかもしれませんね。これは、都市計画法という法律にもとづく「地区計画」という、まちづくりのルールの一部です。それぞれの地域が持つ特性を活かしながら、より良い市街地環境をつくるために、市区町村が定める具体的な計画のことを指します。簡単に言うと、「この地区を、こんな素敵な街にしていきましょう」という目標を実現するための、詳細な設計図のようなものです。

地区計画と地区整備計画の違い

「地区計画」と「地区整備計画」はよく似ていますが、少し役割が違います。「地区計画」が地区全体の大きな方針や目標(例:「緑豊かな住宅街を目指す」)を定めるのに対し、「地区整備計画」は、その方針を実現するための、より具体的で細かいルールを定めます。例えば、道路や公園の配置、建物の建て方に関する詳細な決まりごとなどがこれにあたります。地区計画の区域の全部または一部について、必要に応じて定められるのが地区整備計画です。

地区整備計画で定められる主な内容

地区整備計画では、私たちの土地利用に直接関わる、さまざまなルールが定められます。代表的なものを下の表にまとめました。

地区施設 道路、公園、広場など、地区に必要な公共施設の配置や規模を定めます。
建築物等の制限 建物の用途(住宅しか建てられない、お店もOKなど)、容積率(敷地面積に対する延床面積の割合)、建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)、高さ、デザイン、色合い、垣根の構造など、細かいルールを定めます。

これらの制限によって、街並みの統一感が生まれたり、安全で快適な環境が保たれたりするわけです。

自分の土地が対象か調べる方法

ご自身の土地が地区整備計画の対象区域に含まれているかどうかは、その土地がある市区町村の役所で確認することができます。「都市計画課」や「まちづくり課」といった部署が担当していることが多いです。窓口で尋ねるか、多くの自治体ではウェブサイトで都市計画図を公開しているので、インターネットで調べることも可能です。相続などで土地を取得した際は、一度確認してみることをおすすめします。

地区整備計画が土地の相続税評価額に与える影響

地区整備計画によってさまざまな制限が課されると、土地の自由な利用が難しくなります。その結果、土地の財産的な価値も影響を受けます。相続税の評価額は、土地の利用価値を反映するため、厳しい制限がある場合は、その分評価額が低くなる可能性があるのです。特に、評価額に大きな影響を与えるのが、地区整備計画によって「都市計画道路予定地」に指定されているケースです。

都市計画道路予定地とは?

都市計画道路予定地とは、その名の通り、将来、道路を新設したり、既存の道路を拡幅したりするために、都市計画法にもとづいて「ここは道路になりますよ」とあらかじめ決められている土地のことです。計画が決定されると、すぐに工事が始まるわけではなく、実際に事業が開始されるまでには10年、20年と長い年月がかかることも珍しくありません。

都市計画道路予定地の建築制限

ご自身の土地が都市計画道路予定地に含まれている場合、その土地の上には自由に建物を建てることができなくなります。これは都市計画法第53条で定められているルールで、建物を建てる際には、原則として都道府県知事(または市長)の許可が必要になります。この許可は、将来の道路整備の際に、簡単に移転や取り壊しができる建物でないと下りないのが一般的です。具体的には、以下のような要件を満たす建物が想定されています。

  • 階数が2階以下で、地下がないこと
  • 主要な構造が木造、鉄骨造、コンクリートブロック造などであること

このように、建てられる建物に制限がかかるということは、土地の利用価値が通常よりも低いとみなされます。これが、相続税評価額を引き下げる大きな理由になるのです。

都市計画道路予定地の相続税評価方法

では、具体的に都市計画道路予定地はどのように評価されるのでしょうか。計算は、以下の式で行われます。

都市計画道路予定地区域内の土地の価額 = 予定地でないとした場合の土地の評価額 × 補正率

ポイントは「補正率」です。この補正率をかけることで、建築制限による利用価値の低下分を評価額から差し引くことができます。補正率は、土地の状況によって変わり、最大で評価額が半分になるケースもあります。

評価額を左右する3つの要素

補正率の数値は、以下の3つの要素の組み合わせによって決まります。これらの情報は、路線価図や役所での調査で確認することができます。

地区区分 土地がどのエリアにあるかを示す区分です。「ビル街地区」「高度商業地区」「普通住宅地区」など7種類あり、国税庁が公表する路線価図で確認できます。
容積率 敷地面積に対する建物の延べ床面積の上限割合です。容積率が高いほど、本来は大規模な建物を建てられるため、建築制限による影響が大きくなります。市区町村の都市計画課などで確認できます。
地積割合 所有する土地全体の面積のうち、都市計画道路予定地にかかっている部分の面積の割合です。(道路予定地部分の面積 ÷ 土地全体の面積)で計算します。

補正率表の見方と具体的な計算例

これらの3つの要素をもとに、国税庁が定める「都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価についての補正率表」から、適用する補正率を探します。ここでは、簡略化した例で計算の流れを見てみましょう。

【計算例】

  • 土地の状況
    • 土地全体の面積:400㎡
    • 都市計画道路予定地部分の面積:100㎡
    • 地区区分:普通商業・併用住宅地区
    • 容積率:400%
    • 路線価:1㎡あたり30万円

1. 地積割合を計算する
100㎡(道路予定地) ÷ 400㎡(全体) = 25%

2. 補正率を確認する
国税庁の補正率表で、「地区区分:普通商業・併用住宅地区」「容積率:400%」「地積割合:30%未満」が交わる箇所を探すと、補正率は0.94となります。

3. 評価額を計算する
まず、予定地でないとした場合の評価額を計算します。
30万円/㎡ × 400㎡ = 1億2,000万円
次に、この評価額に補正率をかけます。
1億2,000万円 × 0.94 = 1億1,280万円

この結果、通常の評価額よりも720万円低い金額で評価されることになります。相続税の負担を大きく左右する重要なポイントですね。

地区整備計画のその他の影響

相続税評価額に最も大きな影響を与えるのは都市計画道路予定地ですが、それ以外にも評価額が減額されるケースは考えられます。例えば、地区整備計画によって、周囲の土地に比べて極端に厳しい高さ制限や用途制限が課せられている場合などです。ただし、これらは個別の土地の状況に応じて判断が異なり、評価が非常に難しくなります。もし「うちの土地も該当するかも?」と感じた場合は、安易に自己判断せず、土地評価に詳しい専門家に相談することが不可欠です。

地区整備計画区域内の土地を相続する際の注意点

もし相続した土地が地区整備計画の区域内にある場合、以下の点に注意してください。

  • まずは役所で正確な情報を確認する
    計画の具体的な内容、特に都市計画道路予定地にかかっている範囲を正確に把握することが第一歩です。市区町村の都市計画担当部署で、必ず最新の情報を確認しましょう。
  • 評価減の適用を忘れない
    都市計画道路予定地の補正は、自動的に適用されるわけではありません。相続税申告の際に、納税者側で正しく計算し、評価減を適用した評価額を申告する必要があります。この適用を忘れると、本来よりも高い相続税を納めてしまうことになります。
  • 専門家への相談を検討する
    地区整備計画の内容の確認や、正確な地積割合の算出、そして適切な評価額の計算は、専門的な知識が必要です。特に土地の境界が不明確な場合は、測量が必要になることもあります。不安な場合は、相続税に強く、土地評価の実績が豊富な税理士に相談することをおすすめします。

まとめ

今回は、地区整備計画と土地の相続税評価額への影響について解説しました。最後に、大切なポイントを振り返っておきましょう。

  • 地区整備計画は、良好なまちづくりを目指すための詳細なルールです。
  • 計画によって都市計画道路予定地に指定されると、建築制限がかかるため、土地の利用価値が下がります。
  • そのため、相続税評価額は「地区区分」「容積率」「地積割合」に応じた補正率を用いて減額することができます。
  • 相続した土地が対象かどうかを役所で確認し、申告の際には評価減の適用を忘れないようにすることが重要です。

土地の評価は相続税額に直結する非常に重要な部分です。ご自身での判断が難しいと感じたら、専門家の力を借りながら、適切に手続きを進めていきましょう。

参考文献

都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価|国税庁

路線価図・評価倍率表|国税庁

地区整備計画と相続税評価額のよくある質問まとめ

Q. 地区整備計画とは何ですか?

A. 地区整備計画とは、特定の地区の住環境や機能性を向上させるために、国や地方公共団体が定める都市計画の一種です。具体的には、土地区画整理事業や市街地再開発事業などがあり、道路の拡幅や公園の整備などが行われます。

Q. 地区整備計画の対象区域にある土地の相続税評価額は変わりますか?

A. はい、変わる可能性があります。地区整備計画の対象区域内の土地は、建築制限など都市計画法上の制限を受けるため、その制限の度合いに応じて相続税評価額が減額(減価補正)されることがあります。

Q. 土地区画整理事業中の土地はどのように評価するのですか?

A. 土地区画整理事業中の土地は、原則として「仮換地」の価額に基づいて評価します。ただし、使用収益が開始されていない場合や、清算金の交付が見込まれる場合など、状況に応じて評価方法が異なるため専門家への相談が推奨されます。

Q. 市街地再開発事業の対象になると、相続税評価額はどうなりますか?

A. 市街地再開発事業の対象となった土地は、事業の進捗状況によって評価方法が異なります。権利変換を受ける前の宅地として評価する場合や、権利変換後に取得する施設建築物(マンションなど)の価額を基に評価する場合があります。

Q. どのような制限があれば相続税評価額が減額されるのですか?

A. 都市計画道路予定地や土地区画整理事業地内など、建築基準法や都市計画法によって建築できる建物の種類や階数、構造などに制限がある場合、その不便さを考慮して評価額が減額される可能性があります。

Q. 地区整備計画による減価補正を知らずに相続税申告をしてしまった場合はどうすればよいですか?

A. 相続税を過大に納付してしまった可能性がある場合、申告期限から5年以内であれば「更正の請求」という手続きを行うことで、納め過ぎた税金の還付を受けられる可能性があります。まずは税理士などの専門家にご相談ください。

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