ご家族から土地を相続したけれど、その土地が「防災街区整備事業」の対象地域になっていると知ったら、どうすれば良いか戸惑ってしまいますよね。この事業は、地震や火災に強い安全な街をつくるための大切な取り組みですが、いざ相続となると「土地の価値はどう評価されるの?」「相続税は高くなるの?」といった疑問が浮かぶかと思います。実は、防災街区整備事業の対象となる土地の相続税評価は、事業の進み具合によって評価方法が変わり、とても複雑なんです。この記事では、防災街区整備事業の基本から、土地の相続税評価額に与える影響、そして知っておきたい税金の特例まで、わかりやすく解説していきます。
防災街区整備事業ってどんな事業?
まずは、「防災街区整備事業」がどのようなものなのか、基本から見ていきましょう。この事業を理解することが、相続税評価を正しく把握するための第一歩になります。
事業の目的と概要
防災街区整備事業とは、主に木造住宅が密集していたり、道が狭くて消防車が入れなかったりするような、災害の危険性が高い市街地を、安全で安心して暮らせる街に生まれ変わらせるための事業です。具体的には、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」という法律に基づいて、道路を広げたり、公園や広場などの避難場所を確保したり、燃えにくい建物(耐火建築物など)への建て替えを促進したりします。地震時の倒壊や火災の燃え広がりを防ぎ、住民が安全に避難できるようにすることが大きな目的です。
事業の対象となるエリア
この事業の対象となるのは、先ほどお話ししたように、古い木造住宅が密集している地域や、道が狭く消防活動が困難なエリアです。都市計画によって「防災街区整備地区計画」が定められている地域が該当します。ご自身の土地が対象エリアに含まれているかどうかは、市区町村の役所の都市計画担当課などで確認できます。また、自治体のホームページで都市計画図を公開している場合も多いので、一度チェックしてみることをおすすめします。
事業の進め方
防災街区整備事業では、「権利変換(けんりへんかん)」という方法で進められるのが一般的です。これは、土地や建物の所有者さんたちが持っている権利(所有権や借地権など)を、事業によって新しく建てられるマンションなどの建物(これを「施設建築物」といいます)の床の一部と、その敷地の共有持分に置き換える仕組みです。つまり、事業前の土地や建物を一旦提供する代わりに、事業後に完成する新しい建物の一部をもらう、というイメージですね。この権利変換が行われる日を「権利変換期日」といい、この日を境に相続税の評価方法も大きく変わるため、非常に重要なポイントになります。
防災街区整備事業が土地の相続税評価額に与える影響
防災街区整備事業の対象となる土地は、その事業の進捗状況によって相続税を計算する際の評価方法が異なります。相続が発生したのがどのタイミングかによって、評価の仕方がガラリと変わるため、注意が必要です。
事業決定から権利変換期日までの評価
事業計画は決まったものの、まだ権利変換が行われる前の段階で相続が発生した場合、その土地は原則として、事業が行われていないものとして通常の評価を行います。つまり、路線価地域であれば路線価を基に、倍率地域であれば固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価します。
ただし、事業計画が決定されると、その地域では建物の建築や増改築などに制限がかかることがあります。自由に建て替えができないなど、土地の利用価値が通常よりも下がっていると考えられるため、その状況を考慮して評価額を減額できる場合があります。これは「利用価値が著しく低下している宅地」としての評価減にあたり、一定の要件を満たせば評価額を10%減額できる可能性があります。
権利変換後に相続が発生した場合の評価
権利変換期日を過ぎた後に相続が発生した場合、相続する財産は事業前の土地そのものではなくなります。代わりに相続するのは、「新しくできる施設建築物の一部などを取得する権利」です。この権利の評価は少し複雑で、基本的には「権利変換によって取得する新しい建物の価額」から「その建物を取得するために追加で負担する金額(負担金)」を差し引いて計算します。
(新しい建物の価額) - (負担金の額) = (権利の評価額)
この「新しい建物の価額」は、相続が開始した時点で、その建物が完成していたとした場合の価額で評価します。評価が専門的になるため、税理士などの専門家への相談が不可欠です。
相続税評価における具体的な評価方法
それでは、もう少し具体的に評価方法を見ていきましょう。特に、事業の進捗によってどのように評価方法が変わるのかを整理しておくと、理解が深まります。
建築制限等を考慮した評価減
先ほども少し触れましたが、事業計画決定後から権利変換期日までの土地は、建築確認が下りにくくなるなど、法的な制限を受けます。このように土地の利用が制限されることで、その土地の市場価値は下がると考えられます。相続税の評価においても、この利用価値の低下を反映させることができます。国税庁の財産評価基本通達24-7「利用価値が著しく低下している宅地の評価」の定めに従って、路線価などから計算した自用地評価額から10%を控除して評価することができます。
権利変換後の「権利」の評価方法
権利変換後の「権利」の評価は、事業前の土地の評価とは全く異なります。評価の対象は「施設建築物の一部等を取得する権利」です。この権利の価額は、相続開始時点において、権利変換によって与えられる施設建築物等が完成しているものとして評価した価額から、今後事業施行者に支払うことになる負担金の額を差し引いて算出します。この計算は非常に専門的で、再開発後の建物の評価や負担金の算定根拠などを正確に把握する必要があります。
表で見る!事業進捗と評価方法の変化
事業の進み具合と評価方法の関係を、表にまとめると以下のようになります。
| 事業の進捗段階 | 相続税評価の方法 |
|---|---|
| 事業決定前 | 通常の土地評価(路線価方式や倍率方式) |
| 事業決定後~権利変換期日まで | 通常の土地評価を基本とし、建築制限などを考慮して評価額を減額できる場合がある(10%減額など) |
| 権利変換後 | 「施設建築物の一部等を取得する権利」として評価する |
防災街区整備事業に関連する税金の特例措置
防災街区整備事業に関連して、相続税以外にも知っておくと役立つ税金の特例があります。これらを活用することで、税負担を軽減できる可能性があります。
所得税の5,000万円特別控除
もし、防災街区整備事業などの公共事業のために土地や建物を売却(譲渡)した場合、その譲渡所得から最高5,000万円を控除できる特例があります。これは、相続した土地を事業のために売却するようなケースで適用できる可能性がある制度です。ただし、適用には細かい要件があるため、事前に税務署や税理士に確認することが大切です。
固定資産税・都市計画税の減額措置
防災街区整備事業の施行に伴って、元の権利者が新しい建物を取得した場合、その建物にかかる固定資産税や都市計画税が減額される措置があります。新たに建築された建物について、最初の5年間、税額が2分の1に減額されるなどの内容です。この措置は、法律で期限が定められており、税制改正によって延長されることがありますので、最新の情報を確認するようにしましょう。
注意点と専門家への相談の重要性
ここまで見てきたように、防災街区整備事業対象地の相続税評価は非常に特殊です。ご自身で判断するのは難しく、リスクも伴いますので、いくつか注意点をお伝えします。
評価が複雑で専門知識が不可欠
防災街区整備事業対象地の評価は、事業の進捗段階、権利関係、建築制限の有無など、多くの要素を総合的に判断する必要があります。通常の土地評価とは全く異なる専門知識が求められるため、相続税申告の経験が豊富な税理士、特に再開発案件に詳しい税理士に相談することを強くおすすめします。評価を誤ると、本来よりも高い税金を納めてしまったり、逆に後から税務署に申告漏れを指摘され、追徴課税や延滞税が発生してしまったりする可能性があります。
最新の情報を確認すること
税金の法律や特例措置は、毎年の税制改正で見直されることがあります。また、防災街区整備事業の計画自体も、社会情勢の変化などによって変更される可能性がないわけではありません。そのため、相続が発生した時点での最新の法律や事業計画の内容を、市区町村の担当窓口や国税庁のホームページなどで確認することがとても大切です。
まとめ
今回は、防災街区整備事業と、それが土地の相続税評価額に与える影響について解説しました。ポイントをまとめると、以下のようになります。
- 防災街区整備事業は、災害に強い街をつくるための事業です。
- 対象となる土地の相続税評価は、事業の進捗状況(特に権利変換期日の前後)で大きく異なります。
- 権利変換前は、建築制限などを理由に評価額を減額できる可能性があります。
- 権利変換後は、土地そのものではなく「新しい建物を取得する権利」として評価します。
- 評価方法が非常に複雑なため、相続税専門の税理士への相談が必須です。
相続した大切な土地の価値を正しく評価し、適切な相続税申告を行うためには、専門家の力が不可欠です。もし対象地域内の土地を相続されてお困りの場合は、一人で悩まず、まずは専門家にご相談くださいね。
参考文献
防災街区整備事業と相続税評価額のよくある質問まとめ
Q. 防災街区整備事業とは何ですか?
A. 災害の危険性が高い密集市街地などで、建物の建て替えや公共施設の整備を一体的に行い、防災機能を高めて安全な街づくりを目指す事業です。火災の延焼防止や避難路の確保などが主な目的です。
Q. 防災街区整備事業の対象になると、土地の相続税評価額は変わりますか?
A. はい、変わる可能性が高いです。事業により道路が拡幅されたり、土地が整形地になったりして利用価値が向上するため、一般的に評価額は上昇する傾向にあります。ただし、事業段階によっては評価が下がるケースもあります。
Q. 事業の工事期間中、土地の相続税評価額はどうなりますか?
A. 工事期間中は建築制限などが課されるため、土地の利用が制限されます。そのため、その不便性を考慮し、通常の評価額から一定割合を減額する「造成中の宅地」としての評価が適用される場合があります。
Q. 防災街区整備事業で「換地」を受け取りました。相続税の評価方法は?
A. 換地処分後は、事業完了後の新しい土地(換地)の状況に基づいて評価します。換地は従前の土地よりも利便性が向上していることが多く、評価額が上がる可能性があります。受け取ったり支払ったりした清算金も評価に影響します。
Q. 事業で土地の評価額が上がると、相続税は必ず高くなりますか?
A. 評価額が上がれば相続税額も増えるのが基本です。しかし、事業後の土地が居住用や事業用であれば「小規模宅地等の特例」が適用できる可能性があり、評価額を最大80%減額できる場合があります。特例の適用可否の確認が重要です。
Q. 防災街区整備事業地の相続税評価で、特に注意すべき点は何ですか?
A. 相続が発生した時点での「事業の進捗段階」を正確に把握することです。事業計画決定前、工事中、換地処分後など、段階によって評価方法が大きく異なります。適切な評価を行うためには、自治体への確認や専門家への相談が不可欠です。