個人事業主の方が納める税金には、住民税と個人事業税があります。これらは似ているようで、課税の考え方や仕組みが異なります。また、もしもの時、相続が発生した場合の税金の取り扱いも変わってきます。今回は、この2つの税金の違いと、相続時の注意点について、わかりやすく解説していきますね。
住民税と個人事業税、基本的な違いって何?
まずは、住民税と個人事業税がそれぞれどんな税金なのか、基本的なところから見ていきましょう。誰が、何に対して、どこに納めるのかがポイントです。
住民税は「地域社会の会費」
住民税は、私たちが住んでいる都道府県や市区町村が行う行政サービス(教育、福祉、ゴミ収集など)の費用を、住民みんなで分担するための税金です。所得がある個人なら、会社員でも個人事業主でも納める義務があります。いわば、地域社会の一員としての「会費」のようなイメージですね。
個人事業税は「事業を行うための税金」
一方、個人事業税は、個人が法律で定められた特定の事業(法定業種)を行って所得を得た場合に、事業所のある都道府県に納める税金です。公共サービスや施設の利用に対して、事業者がその経費の一部を負担するという考え方に基づいています。すべての個人事業主が対象ではなく、法定業種に該当する事業を行っている方が対象になります。
一目でわかる!住民税と個人事業税の比較
2つの税金の主な違いを表にまとめました。納税義務者や納税先が異なることがわかりますね。
| 項目 | 住民税 |
| 納税義務者 | 所得のある個人(個人事業主、会社員など) |
| 課税対象 | 前年の所得金額 |
| 納税先 | 都道府県と市区町村 |
| 税率 | 所得割(約10%)+均等割(約5,000円) |
| 項目 | 個人事業税 |
| 納税義務者 | 法定業種に該当する事業を行う個人事業主 |
| 課税対象 | 前年の事業所得または不動産所得 |
| 納税先 | 都道府県 |
| 税率 | 3%~5%(事業の種類による) |
課税対象となる「所得」の考え方の違い
次に、税額を計算する元となる「所得」の考え方が、住民税と個人事業税では少し異なります。特に、個人事業主の方が利用する控除に関わる部分がポイントです。
住民税の計算:幅広い所得が対象
住民税は、前年の1月1日から12月31日までのすべての所得を合算して計算します。個人事業主の方であれば事業所得のほか、例えばアルバイトによる給与所得などがあれば、それも合算されます。そこから、基礎控除や配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除といった各種所得控除が差し引かれ、課税所得が算出されます。
個人事業税の計算:事業所得に特化
個人事業税は、事業所得または不動産所得が計算のベースになります。住民税と大きく違うのは、年間290万円の事業主控除がある点です。つまり、事業所得から経費を引いた金額が290万円以下であれば、個人事業税はかかりません。また、所得税の確定申告で適用される青色申告特別控除(最大65万円)は、個人事業税の計算では適用されません。計算上、一度所得に足し戻してから事業主控除などを差し引く形になります。
所得計算の違いまとめ
控除の適用が、税額に大きく影響することがわかります。
| 項目 | 住民税 |
| 計算のベース | 事業所得、給与所得など、すべての所得の合計 |
| 事業主控除 | なし |
| 青色申告特別控除 | 適用される |
| 項目 | 個人事業税 |
| 計算のベース | 事業所得または不動産所得 |
| 事業主控除 | 年間290万円 |
| 青色申告特別控除 | 適用されない(所得に足し戻して計算) |
課税される事業は決まっている?個人事業税の法定業種
個人事業税は、すべての事業に課されるわけではありません。地方税法で定められた70の業種(法定業種)に該当する場合のみ課税対象となります。ご自身の事業が該当するか確認してみましょう。
法定業種の区分と税率
法定業種は第1種から第3種事業まで区分されており、それぞれ税率が異なります。
| 事業区分 | 税率 |
| 第1種事業(37業種) | 5% |
| 第2種事業(3業種) | 4% |
| 第3種事業(30業種) | 5%または3% |
| 事業区分 | 主な事業例 |
| 第1種事業(37業種) | 物品販売業、飲食店業、コンサルタント業、デザイン業、不動産貸付業など |
| 第2種事業(3業種) | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
| 第3種事業(30業種) | 医業、弁護士業、税理士業、理容業、美容業など(5%)、あん摩・マッサージ・指圧師業など(3%) |
ライターやプログラマーは対象になる?
例えば、Webライターやプログラマーといった職種は、法定業種に明確には記載されていません。しかし、自治体の判断によっては「請負業」や「デザイン業」「コンサルタント業」などに該当するとみなされ、課税対象となるケースがあります。判断に迷う場合は、管轄の都道府県税事務所に確認することをおすすめします。
相続が発生した時の住民税の取り扱い
もし個人事業主の方が亡くなられた場合、住民税はどうなるのでしょうか。納税義務の考え方と手続きについて解説します。
住民税の納税義務はいつ決まる?
住民税は、その年の1月1日時点で住所のある市区町村に納税義務が発生します。そのため、もし年の途中で亡くなられた場合でも、その年の1月1日に存命であれば、その年度分の住民税の納税義務は残ります。例えば、3月15日に亡くなった場合でも、その年の1月1日には存命だったため、前年の所得に対する住民税を納める必要があります。
納税義務は相続人が引き継ぐ
亡くなった方の納税義務は、相続人が引き継ぐことになります。亡くなった年の住民税で未納分がある場合や、亡くなった翌年に課税される住民税(前年の所得に対するもの)は、相続人が納付しなければなりません。この未払いの住民税は、相続税を計算する際に債務として財産から控除することができます。
翌年以降の住民税は?
亡くなった翌年以降は、故人に対する住民税は発生しません。例えば、2024年12月30日に亡くなった場合、2025年1月1日にはすでに故人となっているため、2025年度の住民税(2024年の所得に対するもの)は課税されません。課税の基準日が1月1日であることがポイントです。
相続が発生した時の個人事業税の取り扱い
個人事業税も、亡くなられた場合には相続人が手続きを引き継ぎます。住民税とは少し異なる点があるので注意が必要です。
亡くなった年にも個人事業税はかかる?
はい、かかります。個人事業税は、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの事業所得に対して課税されます。年の途中で事業を廃止した扱いになるためです。
申告と納税の手続き
亡くなった場合、相続人は事業の廃止の日から4か月以内に、個人事業税の申告と納税を行う必要があります。これは、所得税の準確定申告(亡くなった日から4か月以内)とは別の手続きです。申告を忘れないように注意しましょう。
事業主控除と未払い税金の扱い
年の途中で亡くなった場合でも、事業主控除は適用されます。ただし、年間の290万円を満額使えるわけではなく、事業を行っていた月数に応じて月割りで計算されます。例えば、6月末で亡くなった場合は、6か月分の145万円が控除額となります。そして、この未払いの個人事業税も、住民税と同様に相続税の計算上で債務控除の対象となります。
まとめ
住民税と個人事業税は、どちらも個人事業主に関わりの深い税金ですが、その性質は大きく異なります。住民税は「生活」に、個人事業税は「事業」に着目した税金と考えると分かりやすいかもしれません。
・住民税は、所得があれば原則すべての人が納める「地域社会の会費」。
・個人事業税は、法定業種で一定以上の所得がある事業者が納める「事業のための税金」。
・相続が発生した場合、どちらの税金も未納分は相続人が納税義務を引き継ぎ、相続財産から債務として控除できます。
・特に個人事業税は、亡くなった後の申告期限が定められているため、手続きを忘れないようにしましょう。
税金の仕組みは複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつの違いを理解することで、いざという時に慌てずに対処できます。もしご不明な点があれば、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
参考文献
No.5300 損金の額に算入される租税公課等の範囲と損金算入時期|国税庁
住民税と個人事業税、相続時の違いに関するよくある質問
Q.住民税と個人事業税の基本的な違いは何ですか?
A.住民税は所得を得た個人に対して課される「人」への税金、個人事業税は法律で定められた特定の事業を行うことに対して課される「事業」への税金です。課税の根拠が異なります。
Q.事業が赤字でも住民税は支払う必要がありますか?
A.はい、支払う必要があります。住民税には所得に応じて課税される「所得割」と、所得に関わらず定額で課される「均等割」があります。赤字で所得割がゼロでも、均等割は発生します。
Q.個人事業税がかからない業種はありますか?
A.はい、あります。個人事業税は法律で定められた70の法定業種にのみ課税されます。例えば、システムエンジニアやライター、翻訳家などの一部の業種は法定業種に該当しないため、課税対象外です。
Q.個人事業税には控除がありますか?
A.はい、年間290万円の事業主控除があります。そのため、年間の事業所得が290万円以下の場合は、個人事業税は課税されません。
Q.親が亡くなった場合、住民税と個人事業税の支払いはどうなりますか?
A.亡くなった方の住民税は、相続人が納税義務を引き継ぎます。一方、個人事業税は事業主個人にかかる税金のため、亡くなった時点で納税義務は消滅し、相続人に引き継がれません。ただし、生前の未納分は支払う必要があります。
Q.相続で事業を引き継いだ場合、個人事業税は課税されますか?
A.はい、課税されます。事業を相続し、ご自身が新たに事業主として事業を継続する場合、その事業所得に対して個人事業税が課税されることになります。これは亡くなった方の税金ではなく、新しい事業主であるあなた自身への課税です。