相続財産に土地が含まれる場合、その評価額が相続税を大きく左右します。もしその土地が、周辺の宅地と比べて利用しにくい状況にあるなら、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」という特例を使って評価額を下げられるかもしれません。この特例は、相続税の負担を軽くするための大切なポイントです。この記事では、どんな土地が対象になるのか、どうやって評価するのかを、具体例を交えながら分かりやすく解説していきますね。
利用価値が著しく低下している宅地の評価とは?
この評価方法は、周辺の土地と比べて「なんだか使いにくいな」と感じるような宅地の価値を、実態に合わせて低く評価するための制度です。具体的には、通常の評価額から最大10%を控除できる可能性があるんです。例えば、5,000万円の土地なら、最大500万円も評価額が下がる計算になります。相続税の負担を大きく減らせるかもしれない、とても重要な特例なんですよ。
10%評価減が適用できる4つのケース
国税庁では、この特例が適用できるケースを主に4つ挙げています。ご自身の土地が当てはまるか、チェックしてみてくださいね。
| 道路との高低差 | 道路より著しく高い、または低い位置にあり、付近の宅地と比べて高低差が際立っている宅地。 |
| 地盤の凹凸 | 地盤が著しくデコボコしており、通常の利用が困難な宅地。 |
| 甚だしい震動 | 電車の線路沿いなどで、日常生活に支障が出るほどの震動がある宅地。 |
| その他の要因 | 騒音、日照阻害、悪臭、周辺に墓地やごみ処理場などの忌み施設があることで取引金額に影響を受ける宅地。 |
計算方法の具体例
実際にどれくらい評価額が下がるのか、簡単な例で見てみましょう。この特例を適用できると、相続税評価額を大きく引き下げることができます。
【計算例】
路線価:300,000円/㎡
土地の面積:200㎡
通常の評価額(自用地評価額)
300,000円 × 200㎡ = 60,000,000円
控除額
60,000,000円 × 10% = 6,000,000円
特例適用後の評価額
60,000,000円 – 6,000,000円 = 54,000,000円
この例では、600万円も評価額を下げることができ、相続税の節税につながります。
【ケース別】評価減のポイントと注意点
それでは、具体的にどのような状況なら評価減が認められるのでしょうか。ケースごとに詳しく見ていきましょう。ただし、どんな場合でも認められるわけではないので、注意点もしっかり確認してくださいね。
道路との高低差がある宅地
道路から土地に入るのに、急な階段を上り下りしないといけないような宅地が対象です。ポイントは「付近にある他の宅地と比べて著しく高低差がある」ことです。例えば、周りの土地は平坦なのに、ご自身の土地だけが崖の上や下にあるようなケースです。地域全体が坂道で、どの家も同じように高低差がある場合は、特例の対象外になる可能性が高いので注意が必要です。何メートル以上という明確な基準はありませんが、客観的に見て利用しにくいかどうかが判断の分かれ目になります。
騒音や震動が甚だしい宅地
電車の線路沿いや幹線道路の近く、工場の隣などで、日常的に騒音や震動に悩まされる土地が該当します。これも主観だけでなく、客観的な基準が大切になります。
騒音の目安
環境省が定める「騒音に係る環境基準」が参考になります。この基準を超える騒音がある場合は、評価減が認められる可能性が高まります。
| 地域の類型 | 基準値(住居地域の場合の例) |
| 昼間(午前6時~午後10時) | 55デシベル以下 |
| 夜間(午後10時~翌日午前6時) | 45デシベル以下 |
震動
電車が通るたびに家が揺れるなど、生活に支障が出るレベルであることが求められます。
日照阻害や周辺環境に問題がある宅地
周辺に高層マンションが建って日当たりが極端に悪くなった場合や、近くに墓地、ごみ焼却場、下水処理場など、一般的に避けられがちな施設(忌み施設)がある場合も対象になることがあります。
日照阻害
建築基準法第56条の2で定められた「日影規制」を超える時間の日照阻害があることが一つの目安になります。
忌み施設など
墓地が隣接している、強い臭気がするなど、その土地の取引価格に実際に影響を与えていると客観的に証明できることが重要です。ただ「気になる」という主観的な理由だけでは認められにくいのが実情です。
評価減が認められないケース
この特例はとても魅力的ですが、適用するにはいくつかのハードルがあります。特に注意したいポイントを2つご紹介します。
路線価にすでに反映されている場合
最も注意したいのがこのケースです。土地の評価の基準となる路線価や倍率に、すでに騒音や高低差といったマイナスの要因が織り込まれている場合があります。例えば、線路沿いの土地の路線価が、一本奥の静かな土地の路線価より元々低く設定されているような場合です。この場合、すでに評価額は調整済みと見なされ、さらに10%の評価減を適用することはできません。周辺の路線価と比較して、ご自身の土地の路線価が不自然に低くなっていないか確認することが大切です。
「著しい」低下とは言えない場合
もう一つのポイントは、利用価値の低下が「著しい」と客観的に認められるかどうかです。少し高低差がある、少し音が気になる、という程度では適用は難しいでしょう。あくまでも「周辺の宅地と比べて、明らかに使い勝手が悪い」というレベルであることが求められます。この判断は専門的な知識が必要になるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
複数の要因がある場合は重複適用も可能?
もし、一つの土地に「高低差がある」うえに「騒音もひどい」といったように、利用価値が低下する要因が複数ある場合はどうなるのでしょうか。実は、過去の国税不服審判所の裁決では、複数の要因についてそれぞれ10%の評価減を重複して適用することが認められたケースがあります(平成13年6月15日裁決事例)。例えば、騒音で10%、忌み施設の存在で10%の評価減が認められれば、評価額を大きく下げられる可能性があります。ただし、これは非常に個別性の強い判断となるため、必ず認められるわけではありません。慎重な調査と検討が必要です。
農地や山林でも適用できる?
この特例は「宅地」という名前がついていますが、実は宅地比準方式で評価する農地や山林にも適用できる場合があります。宅地比準方式とは、その農地や山林がもし宅地だったとしたらいくらになるか、という基準で評価する方法です。その農地や山林を宅地に転用しようとしても、造成費用をかけてもなお、周辺の宅地と比べて利用価値が著しく低いと認められる場合には、この10%評価減の特例を適用できる可能性があります。
まとめ
「利用価値が著しく低下している宅地の評価」は、相続税の負担を大きく軽減できる可能性を秘めた重要な特例です。ご自身の土地が、道路との高低差、騒音、日照阻害、周辺環境などの問題を抱えている場合は、この特例が使えないか一度検討してみる価値は十分にあります。
ただし、適用できるかどうかの判断は「路線価に織り込み済みでないか」「低下の度合いが著しいか」など、専門的な視点が必要です。安易に自己判断で申告すると、後から税務調査で否認されてしまうリスクもあります。少しでも可能性があると感じたら、土地評価に詳しい税理士などの専門家に相談し、適切な評価で相続税申告を行うようにしましょう。
参考文献
国税庁 : No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価
利用価値が著しく低下している宅地の評価に関するよくある質問まとめ
Q.そもそも「利用価値が著しく低下している宅地」とは何ですか?
A.騒音、日照阻害、高低差、土壌汚染などの理由で、周辺の宅地と比べて利用価値が著しく低いと認められる土地のことです。相続税評価額の減額対象になる可能性があります。
Q.どのような土地が評価減の対象になりますか?具体例を教えてください。
A.例えば、線路沿いの騒音がひどい土地、高圧線下の土地、がけ地や傾斜地、道路に接していない無道路地、セットバックが必要な土地などが対象となる可能性があります。
Q.「広大地評価」はなくなりましたが、広い土地の評価減はないのですか?
A.はい、広大地評価は廃止されましたが、代わりに「地積規模の大きな宅地の評価」という制度があります。一定の要件を満たす広い土地は評価額が減額されます。
Q.土地の評価額を減額するには、どうすればよいですか?
A.相続税の申告時に、利用価値が低下していることを証明する資料(写真、測量図、専門家の意見書など)を添付し、評価額の減額を主張する必要があります。専門家への相談をおすすめします。
Q.自分で評価減を判断するのは難しいですか?
A.はい、非常に専門的な知識が必要です。適用要件は複雑で、現地の状況や法令の解釈が関わるため、専門家でなければ適切な判断は困難です。まずは専門家に相談することが重要です。
Q.評価減が認められると、どのくらい相続税が安くなりますか?
A.減額の割合は土地の状況によって大きく異なります。例えば、利用価値が10%低下していると認められれば、路線価から10%を引いた額で評価されます。土地の評価額が下がることで、相続税の負担が軽減されるケースもあります。