ご家族から土地を相続したものの、「この土地、線路の隣でうるさいな…」「隣に高い建物が建って日当たりが悪くなった…」など、周辺の環境に少し気になる点がある、という方はいらっしゃいませんか?実は、そうした土地は、通常の土地よりも利用価値が低いと見なされ、相続税の評価額を下げられる可能性があるんです。今回は、騒音や日照阻害などによって土地の評価額が減額される具体的なケースと、その評価方法について、わかりやすく解説していきますね。
「利用価値が著しく低下している宅地」とは?
まず、相続税の計算の基本となる土地の評価額は、国税庁が定めた「財産評価基本通達」というルールに基づいて計算されます。この中で、「利用価値が著しく低下している宅地」については、その価値を下げて評価して良い、と定められているんです。これは、周辺の一般的な土地と比べて、何らかの理由で使い勝手が悪かったり、住み心地が悪かったりする土地のことですね。このような土地は、実際に売買されるときも価格が低くなる傾向があるため、相続税評価でもその点を考慮してくれる、というわけです。この規定を適用できれば、評価額を大きく下げ、結果的に相続税の負担を軽くできる可能性があります。
評価額が下がる具体的な要因
では、具体的にどのような要因があると「利用価値が著しく低下している」と認められるのでしょうか。国税庁が例として挙げているのは、主に次のようなケースです。これらは一般的に「環境的瑕疵」や「心理的瑕疵」と呼ばれることもあります。
| 要因の種類 | 具体例 |
| 騒音・震動 | 鉄道、幹線道路、工場、空港などが近く、社会生活を送る上で我慢の限界を超えるほどの騒音や振動がある。 |
| 日照阻害 | 隣接地に高層マンションなどが建ち、建築基準法で定められた日影時間を超えるような著しい日照阻害がある。 |
| 臭気 | ゴミ処理場、下水処理場、化学工場、養豚場などが近く、不快な臭いがする。 |
| 忌み(嫌悪施設・心理的瑕疵) | 墓地、火葬場、刑務所、暴力団事務所などが隣接している。または、その土地で過去に自殺や殺人事件などがあった。 |
| その他の要因 | 道路との高低差が著しく大きい、地盤に大きな凹凸があるなど、物理的に利用しにくい状態。 |
これらの要因が一つ、あるいは複数あることで、土地の利用価値が周辺の土地と比べて明らかに低いと判断された場合に、評価減が認められます。
どのくらい評価額が下がるの?
利用価値が著しく低下していると認められた場合、その土地の評価額は、原則として10%減額することができます。計算方法としては、まず、そういったマイナス要因がないものとして通常通りに評価額(路線価方式または倍率方式で計算した価額)を算出します。そして、その評価額から10%を差し引いた金額が、最終的な評価額となります。
例えば、通常の評価額が3,000万円の土地であれば、3,000万円 × 10% = 300万円が減額され、評価額は2,700万円になります。相続税率が20%の方なら、これだけで60万円も税額が変わってくる計算になりますから、とても大きな違いですよね。
騒音による評価減額
「騒音」は、多くの方が経験する可能性のある評価減の要因です。ただし、単に「少しうるさい」という個人の感覚だけでは認められず、客観的な基準が求められます。
騒音の具体例と判断基準
評価減の対象となる騒音は、「社会生活上、受忍すべき限度を超えるもの」とされています。具体的には、以下のような発生源が近くにある場合が考えられます。
- 鉄道(特に新幹線や主要な在来線)
- 交通量の多い幹線道路や高速道路
- 飛行場の近く
- 大規模な工場
判断の目安として、環境省が定める「騒音に係る環境基準」が参考になります。例えば、住居地域では、昼間は55デシベル以下、夜間は45デシベル以下が基準とされています。もし、評価したい土地の騒音が、特に夜間でも常時65デシベルを超えるなど、この基準を大幅に上回っている場合は、評価減が認められる可能性が高まります。実際に主張する際には、専門業者に依頼して騒音レベルを測定し、客観的なデータとして提出することが重要になります。
日照阻害による評価減額
日当たりは、住み心地に直結する重要な要素です。周辺に高い建物ができたことで日当たりが極端に悪くなった場合も、評価減の対象となり得ます。
建築基準法上の「日影規制」がカギ
日照阻害で評価減を主張する上で最も重要なポイントは、建築基準法第56条の2に定められた「日影規制(ひかげきせい)」の基準を超えているかどうかです。日影規制とは、冬至の日を基準にして、敷地境界線から一定の範囲内に一定時間以上の日影を生じさせないように、建物の高さを制限するルールのことです。
もし、隣接する建物によって、この法律で定められた時間以上に日影ができてしまう「受忍限度を超える日照阻害」がある場合には、評価減の対象となります。
評価が認められるためのポイント
日照阻害を理由に評価減を求める場合、「昔に比べて日当たりが悪くなった」という体感だけでは不十分です。建築士などの専門家に依頼して、現状の日照状況をシミュレーションした「日影図」を作成してもらい、日影規制の基準をどれだけ超えているのかを具体的に示す必要があります。この客観的な資料があることで、税務署にも納得してもらいやすくなります。
臭気による評価減額
不快な臭いも、土地の価値を大きく下げる要因の一つです。臭気が原因で評価額が下がるケースについて見ていきましょう。
臭気の発生源と判断のポイント
臭気の発生源としては、下水処理場、ゴミ焼却場、化学薬品を扱う工場、畜産施設(養豚場や養鶏場)などが挙げられます。ここでもポイントとなるのは、騒音と同じく「社会生活上の受忍限度を超える」かどうかです。
客観的な基準としては、「悪臭防止法」で定められている臭気指数などの規制基準が参考になります。もし、その土地で測定した数値が規制基準を超えている場合や、自治体に悪臭に関する苦情が多数寄せられているような状況であれば、評価減が認められる有力な根拠となります。
忌み(心理的瑕疵)による評価減額
「忌み」と聞くと少し怖い言葉に聞こえるかもしれませんが、これは一般的に避けたいと感じるような施設が近くにあったり、土地の過去に何か特別な事情があったりすることを指します。「心理的瑕疵」とも呼ばれます。
「忌み」に該当するケース
「忌み」に該当するケースは、大きく分けて2種類あります。
- 嫌悪施設が隣接している
墓地、火葬場、斎場、ゴミ処理施設、産業廃棄物処理施設、刑務所、暴力団事務所など、多くの人が心理的な抵抗を感じる施設がすぐ近くにある場合です。 - 土地そのものに心理的瑕疵がある
いわゆる「事故物件」と呼ばれるもので、その土地や敷地内の建物で過去に自殺、殺人、孤独死などがあった場合がこれにあたります。
これらの土地は、実際に市場で売買される際に敬遠され、価格が低くなる傾向が強いため、相続税評価においてもその点が考慮されます。特に、墓地が隣接している場合は、路線価図に「G」(Graveの意)と記号が付けられ、すでに評価額に織り込まれていることもあります。
評価減額を適用する際の注意点
ここまでご紹介した評価減の特例は、適用できれば節税効果が大きいものですが、申請する際にはいくつか注意すべき点があります。
客観的な資料の準備が不可欠
税務署に評価減を認めてもらうためには、相続人が「住みにくいと思う」と主張するだけでは足りません。なぜ利用価値が著しく低いのかを、第三者が見ても納得できる客観的な証拠で示す必要があります。
- 騒音:騒音計による測定データ報告書
- 日照阻害:日影図、建築確認申請書など
- 臭気:臭気測定データ、自治体への陳情書の写しなど
- 忌み:現地の写真、周辺の取引事例、不動産鑑定士の意見書など
これらの資料をきちんと揃えることが、スムーズな申告の鍵となります。
すでに評価額に反映されているケースも
最も注意したいのが、路線価や固定資産税評価額が決められる際に、すでにそのマイナス要因が考慮されて評価額が低く設定されている場合です。例えば、線路沿いの土地や墓地に隣接する土地などは、もともと周辺の土地よりも低い路線価が設定されていることがあります。このような場合、そこからさらに10%の評価減を重ねて適用することはできませんので注意が必要です。
専門家への相談がおすすめ
ご紹介したように、「利用価値が著しく低下している宅地」の評価は、法律の知識や客観的なデータが必要となり、ご自身で判断するのはなかなか難しい部分があります。本当に評価減の対象になるのか、どのような資料を準備すればよいのかなど、判断に迷う場合は、相続税に詳しい税理士や不動産鑑定士といった専門家に相談することをおすすめします。専門家の力を借りることで、適切な財産評価を行い、損をしない相続税申告につながりますよ。
まとめ
今回は、騒音、日照阻害、臭気、忌みなどの理由で「利用価値が著しく低下している宅地」の相続税評価について解説しました。ご自身の相続した土地がこれらのケースに当てはまるかもしれないと感じたら、評価額を10%減額できる可能性があります。ただし、そのためには「受忍限度を超える」といった客観的な証明が必要であり、すでに路線価に反映されている場合は適用できないなど、注意点も多いのが実情です。大切な財産を正しく評価し、払い過ぎのない適切な相続税申告を行うために、少しでも不安な点があれば、ぜひ一度専門家にご相談くださいね。
参考文献
国税庁: No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価
不動産の価格に影響する環境要因(騒音・日照・臭気等)のよくある質問まとめ
Q.騒音や日照阻害がある物件は、どのくらい価格が下がりますか?
A.一概には言えませんが、一般的に取引価格の5%~20%程度の影響が出ることがあります。騒音の程度、日照が遮られる時間、周辺環境との比較など、個別の状況によって大きく変動するため、専門家による査定が必要です。
Q.建築基準法の日影規制を超える日照阻害は、資産価値に影響しますか?
A.はい、資産価値にマイナスの影響を与える可能性が高いです。建築基準法で定められた日影時間を超える日照阻害は、買主にとって重要な判断材料となり、売買価格の減額要因と見なされるのが一般的です。
Q.近くに工場やゴミ処理場などがある場合、売主の告知義務はありますか?
A.はい、あります。臭気、騒音、振動などを発生させる施設が近くにあることは「環境的瑕疵」にあたり、買主の購入判断に影響を与える重要な事実として、売主には告知する義務があります。
Q.価格に影響する「忌み」とされる嫌悪施設には何がありますか?
A.墓地、火葬場、ごみ焼却場、下水処理場、刑務所、暴力団事務所などが一般的に嫌悪施設(忌み施設)と見なされます。これらの施設が近隣にある場合、心理的な抵抗感から取引価格に影響を及ぼすことがあります。
Q.線路や幹線道路沿いの騒音は、取引価格に影響しますか?
A.はい、影響します。多くの人が快適な居住環境を求めるため、交通騒音は価格が低く設定される要因となります。ただし、駅が近いなどの利便性と相殺される側面もあり、防音対策の有無によっても影響度は変わります。
Q.購入前に騒音や臭気などの環境的な問題を確認する方法はありますか?
A.平日と休日、昼と夜など、時間帯や曜日を変えて現地を複数回訪れることが最も重要です。また、市役所で都市計画図やハザードマップを確認したり、不動産会社の担当者に重要事項説明書の内容を詳しく質問したりすることも有効です。