税理士法人プライムパートナーズ

宅地比準方式で評価する農地・山林|利用価値が著しく低下している場合の減額要件

2025-09-23
目次

相続税の計算、特に土地の評価はとても複雑ですよね。中でも農地や山林を「宅地だとしたら」という宅地比準方式で評価するとき、ある特定の条件を満たすと評価額を大きく下げられる可能性があるんです。今回は、造成しても宅地としての価値が著しく低いと見なされる農地や山林の評価減について、その具体的な要件や注意点をわかりやすく解説していきます。

「利用価値が著しく低下している宅地」の評価とは?

まず、この評価減の基本的な考え方についてお話ししますね。これは、周辺の宅地と比べて、土地の利用価値が著しく低いと認められる場合に、相続税評価額を10%減額できるという特例です。この特例は「宅地」という名前がついていますが、宅地だけでなく、宅地比準方式によって評価する農地や山林にも適用することができるんです。

評価減が適用できるケース

国税庁では、利用価値が著しく低下している宅地の例として、以下のようなケースを挙げています。ご自身の土地が当てはまるか、イメージしてみてください。

  • 道路より高い、または低い位置にあり、付近の宅地と比べて著しく高低差があるもの
  • 地盤にひどい凹凸があるもの
  • 振動がひどいもの
  • 騒音、日照阻害、悪臭、嫌悪施設(墓地など)の存在により、取引金額に影響があると認められるもの

これらの要因によって、土地の使い勝手が悪かったり、住環境として好ましくなかったりする場合が対象となります。

農地や山林に適用される場合のポイント

今回のテーマである農地や山林については、国税庁は少し特別な表現を使っています。それは、「その農地または山林を宅地に転用する場合において、造成費用を投下してもなお宅地としての利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて著しく低下していると認められる部分を有するもの」というものです。

少し難しい言葉ですが、ポイントは「造成費用を投下してもなお」という部分です。つまり、宅地にするための整地や土留めといった一般的な造成工事を行っても、解消できないほどの大きなマイナス要因が残ってしまう場合に、この評価減が認められるということなんです。

減額の計算方法

もし、この評価減が適用できる場合、評価額は次のように計算します。

(利用価値が低下していないものとして評価した価額)-(利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額 × 10%)

簡単に言うと、まずはマイナス要因がない pristine な状態の土地として評価額を計算し、そこからマイナス要因の影響を受ける部分について10%を差し引く、というイメージです。土地全体が影響を受けている場合は、評価額全体から10%を引くことになります。

具体的にどんな農地や山林が対象になるの?

では、造成費をかけても価値が低いと判断されるのは、具体的にどのような農地や山林なのでしょうか。いくつか代表的な例を見ていきましょう。

周辺と比べて著しい高低差がある

土地が面している道路や隣の土地と比べて、極端な高低差がある場合です。例えば、2メートル以上の崖地になっていて、宅地にするには大規模な擁壁工事が必要になり、その費用が通常の造成費を大幅に超えてしまうようなケースが考えられます。ただし、その地域全体が丘陵地で、周りの土地も同じように高低差がある場合は、「その土地だけが著しく価値が低い」とは認められにくいので注意が必要です。

地盤に甚だしい凹凸や問題がある

土地の表面に大きな岩がゴロゴロしていたり、地盤が極端に軟弱だったりして、通常の造成工事だけでは安全な宅地にならない場合です。地盤改良に多額の費用がかかる、あるいは過去に液状化現象が起きたことがあるような土地も、このケースに該当する可能性があります。

騒音や振動が甚だしい

高速道路や鉄道の線路、大きな工場などに隣接している農地や山林も対象になることがあります。防音壁などを設置する造成を行ったとしても、日常生活に支障をきたすほどの騒音や振動が残ってしまう場合です。客観的な判断基準として、環境省が定める騒音の環境基準値を超えるかどうかが一つの目安になります。

騒音の環境基準の一例(住居の用に供される地域)
時間の区分 基準値
昼間(午前6時~午後10時) 55デシベル以下
夜間(午後10時~翌日午前6時) 45デシベル以下

日照阻害が著しい

すぐそばに高層マンションや高架橋などがあり、一日中ほとんど日が当たらないような土地も考えられます。宅地として造成しても、日当たりが悪すぎて居住用としての価値が著しく低くなってしまう場合です。この場合、建築基準法で定められている「日影規制」の基準を超える日照阻害があるかどうかが、判断のポイントになります。

嫌悪施設(忌み施設)が隣接している

墓地、ゴミ焼却場、火葬場、下水処理場といった、一般的に周辺住民から敬遠されがちな施設(嫌悪施設)に直接隣接している土地です。このような土地は、きれいに造成して宅地として売り出しても、心理的な抵抗感から買い手がつきにくく、周辺の相場よりも取引価格が著しく低くなる傾向があります。この価格差が造成費だけでは埋められないほど大きい場合に、評価減が認められることがあります。

造成費を考慮しても「なお」価値が低いとは?

この特例を理解するうえで、最も大切なのが「造成費」と「利用価値低下の減額」の関係です。この二つは、評価額を下げるための別々のステップだと考えてください。

宅地比準方式における造成費控除の基本

まず、宅地比準方式では、その農地や山林が「もし宅地だったら」という価額を計算し、そこから宅地にするために通常必要となる「宅地造成費」を差し引くのが基本ルールです。これは、どんな市街地農地・山林でも適用される基本的な計算方法です。

「造成費控除」と「利用価値低下の減額」は別物

一方で、「利用価値低下の10%減額」は、この基本的な造成費控除だけではカバーしきれない、特別なマイナス要因がある場合に追加で適用できるものです。つまり、二段階で評価額を下げることができる可能性があるのです。その違いを表にまとめてみました。

項目 内容
宅地造成費の控除 農地や山林を宅地にするための標準的な工事費用(整地、土盛り、土止めなど)を評価額から差し引くことです。
利用価値低下の減額 標準的な造成費をかけても解消できない特別なマイナス要因(著しい騒音、高低差、日照阻害など)について、さらに評価額を10%減額することです。

この2つの減額を正しく理解し、適用できるか検討することが、節税への大きな一歩となります。

評価額の計算例を見てみよう

それでは、具体的な数字を使って、どのように評価額が変わるのかシミュレーションしてみましょう。

計算の前提条件

  • 対象地:市街地山林
  • 面積:500㎡
  • 宅地であるとした場合の1㎡あたりの価額:200,000円
  • 宅地造成費(1㎡あたり):30,000円
  • 土地全体が高速道路に隣接し、騒音が著しい(利用価値低下の減額が適用できると仮定)

通常の宅地比準方式による評価

もし利用価値低下の減額を考慮しない場合、評価額は以下のようになります。
(宅地としての価額)200,000円/㎡ × 500㎡ = 100,000,000円
(宅地造成費)30,000円/㎡ × 500㎡ = 15,000,000円
評価額:100,000,000円 – 15,000,000円 = 85,000,000円

利用価値低下の減額を適用した場合

次に、利用価値低下の10%減額を適用します。この減額は、造成費を引く前の「宅地であるとした場合の価額」に対して行います。
1. 宅地であるとした場合の価額:100,000,000円
2. 利用価値低下による減額:100,000,000円 × 10% = 10,000,000円
3. 減額後の価額:100,000,000円 – 10,000,000円 = 90,000,000円
4. 宅地造成費の控除:90,000,000円 – 15,000,000円 = 75,000,000円

この例では、利用価値低下の減額を適用することで、評価額を1,000万円も引き下げることができました。相続税率によっては、数百万円単位での節税につながる大きな違いです。

減額適用時の注意点

この評価減は大きな節税効果が期待できる一方で、適用するにはいくつか注意すべき点があります。税務署に否認されないためにも、しっかり押さえておきましょう。

路線価や倍率に減価要因が反映されていないか

これが最も重要なポイントです。例えば、線路沿いの土地の路線価が、少し離れた静かな場所の路線価よりもともと低く設定されている場合があります。これは、路線価を決める段階で、すでに騒音というマイナス要因が価格に織り込まれていることを意味します。このような場合に、さらに10%の減額を適用することは、二重の減額となり認められません。適用を検討する際は、必ず周辺の路線価と比較し、減価要因が反映済みでないかを確認する必要があります。

客観的な根拠資料の準備

「利用価値が著しく低い」という判断は、あくまで主観ではなく、客観的な事実に基づいて行う必要があります。なぜ評価減を適用したのかを税務署にきちんと説明できるよう、以下のような根拠資料を準備しておくことが望ましいです。

  • 不動産業者が作成した、取引価格への影響に関する意見書
  • 造成業者が作成した、特殊な工事が必要となる旨の見積書
  • 騒音計で測定したデータや、公的機関が公表している騒音マップ
  • 日照時間を証明する資料

専門家への相談が不可欠

ここまでご説明したように、この評価減の適用判断は非常に専門的で、一般の方がご自身で行うのは難しいのが実情です。どの程度のマイナス要因があれば「著しく低下している」と言えるのか、路線価に影響が織り込み済みかどうかなど、判断に迷う点が多くあります。誤った判断で申告すると、後の税務調査で指摘を受け、過少申告加算税や延滞税といったペナルティが課されるリスクもあります。安心して手続きを進めるためにも、土地評価に詳しい税理士や不動産鑑定士といった専門家に相談することを強くおすすめします。

まとめ

今回は、宅地比準方式で評価する農地や山林について、「利用価値が著しく低下している」場合の評価減について解説しました。
ポイントをまとめると、以下のようになります。

  • 通常の宅地造成費の控除に加えて、評価額を10%減額できる可能性がある。
  • 対象となるのは、造成してもなお解消されない、著しい高低差、騒音、日照阻害などの特別なマイナス要因がある土地。
  • 適用するには、路線価などに減価要因が反映されていないことの確認と、客観的な根拠資料の準備が重要。
  • 判断が非常に専門的なため、土地評価に詳しい税理士など専門家への相談が不可欠。

ご自身の所有する農地や山林がもしかしたら…と思われた方は、一度専門家に相談してみてはいかがでしょうか。この特例を正しく適用することで、大切な財産を守り、相続税の負担を大きく軽減できるかもしれません。

参考文献

宅地比準方式における農地・山林評価のよくある質問まとめ

Q. 宅地比準方式で評価する土地で「宅地としての利用価値が著しく低下している部分」とは具体的にどのような土地ですか?

A. 農地や山林を宅地に転用する際、多額の造成費用をかけても、急傾斜地、日当たりが悪い、形状が悪いなどの理由で、周辺の宅地と比べて利用価値が著しく劣ってしまう部分のことです。例えば、がけ地や窪地などが該当します。

Q. 農地や山林に「利用価値が著しく低下している部分」があると、相続税評価額はどのように変わりますか?

A. その部分については、宅地比準方式の計算上、造成費を控除した後の価額からさらに最大50%の減額が認められる場合があります。これにより、土地の評価額が低く抑えられ、相続税の負担が軽減される可能性があります。

Q. 宅地造成しても利用価値が低いと判断されるのは、どのようなケースですか?

A. 主に、①急傾斜地で有効利用できる面積が極端に少ない、②高圧線下地で建物の建築に制限がある、③著しい高低差がありアクセスが困難、④日照条件が極めて悪い、といったケースが該当します。

Q. 「造成費の控除」と「利用価値が著しく低下している部分の減額」の違いは何ですか?

A. 「造成費の控除」は、宅地にするために通常かかる費用(整地費、土盛費など)を評価額から差し引くものです。一方、「利用価値が著しく低下している部分の減額」は、造成費をかけてもなお残る、土地そのものの不利な条件(がけ地など)に対して行われる追加的な減額措置です。

Q. このような特殊な土地の評価を自分で行うことはできますか?

A. 評価は非常に専門的です。造成費の見積もりや、利用価値の低下度合いの判断には専門知識が必要です。正確な評価額を算出するためには、土地評価に詳しい専門家に相談することをお勧めします。

Q. この減額評価を受けるために注意すべき点はありますか?

A. はい。「利用価値が著しく低下している」という客観的な根拠を税務署に提示する必要があります。測量図、高低差がわかる資料、造成業者の見積書、現地の写真などを準備し、なぜ減額が妥当なのかを申告書に明記することが重要です。

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