新築で事業用の建物を建てたとき、「固定資産税」と「償却資産税」という2種類の税金がかかります。市町村は建物の調査(家屋調査)に来て、固定資産税の対象を細かく把握しているはずなのに、償却資産税の申告対象については「ご自身で判断してください」と言われてしまい、戸惑った経験はありませんか?「家屋に含まれるものを教えてくれれば、残りを償却資産として正確に申告できるのに…」と感じますよね。このブログでは、なぜ市町村が明確に教えてくれないのか、その理由と納税者がどう対応すればよいのかを、分かりやすく解説していきます。
そもそも固定資産税と償却資産税って何が違うの?
まず、基本となる2つの税金の違いについておさらいしておきましょう。どちらも「固定資産税」という大きな枠組みの中にある税金ですが、対象となる資産や課税の仕組みが異なります。特に、建物に取り付けられた「建物附属設備」の扱いが、納税者を悩ませる一番の原因になっています。
固定資産税(家屋)とは?
建物そのもの(家屋)と、その建物と一体となって機能する建築設備(電気配線、給排水設備、空調設備など)に対して課される税金です。市町村の職員が家屋調査を行い、資産を評価して税額を決定します。これを「賦課課税方式」といい、納税者は市町村から送られてくる納税通知書に基づいて税金を納めるだけで、原則として申告の必要はありません。
償却資産税とは?
土地や家屋以外の、事業のために使われる資産(これを償却資産といいます)に対して課される税金です。例えば、工場の機械、お店の陳列棚、パソコン、そして建物附属設備の一部などが該当します。こちらは、納税者自身が所有している資産を把握し、毎年1月1日時点の状況を市町村に申告する必要があります。これを「申告納税方式」といい、納税者に資産を正しく申告する義務があります。
区別が難しいのは「建物附属設備」
問題は、建物と一体になっているように見える「建物附属設備」の扱いです。例えば、同じ空調設備でも、建物全体に空気を送るような大規模なセントラル空調は「家屋」として評価されることが多いですが、個別に設置された天井カセット型や壁掛け型のエアコンは「償却資産」として申告が必要になる場合があります。この区分が、納税者にとって非常に分かりにくいのです。
市町村が償却資産税の対象を教えてくれない3つの理由
「市町村は家屋調査で全部見ているんだから、どれが償却資産税の対象か教えてくれてもいいのに」と思うのは当然です。しかし、市町村側にも明確に教えられない、制度上の理由があるのです。
理由1:課税の根拠と責任の所在が違うから
最も大きな理由は、税金の仕組みの違いです。固定資産税(家屋)は、市町村がその責任において資産を評価し、税額を決定する「賦課課税方式」です。一方、償却資産税は、納税者が自らの責任で申告する「申告納税方式」です。もし市町村が「この資産を申告してください」と具体的に指示してしまうと、その申告内容の責任を市町村が負うことになりかねません。これは、納税者の申告責任を基本とする申告納税方式の根幹を揺るがす行為となるため、市町村は安易に「これが対象です」とは言えないのです。
理由2:家屋調査の目的が違うから
市町村が行う家屋調査は、あくまで「家屋」の評価額を正しく算出するための調査です。調査員は、建物の構造、屋根や壁の材質、内装の仕上げ、設備のグレードなどを確認し、総務省が定めた「固定資産評価基準」に基づいて評価額を計算します。償却資産を一つひとつリストアップし、その取得価額や耐用年数を確認することが目的ではありません。そのため、調査時点では償却資産の対象を特定するための十分な情報を持っていないのです。
理由3:納税者ごとに会計処理が異なるから
償却資産税の対象となるのは、「法人税法または所得税法の計算上、損金または必要経費に算入されるもの」です。例えば、取得価額が10万円未満の資産は、多くの会社で消耗品費などとして一時に費用処理(損金算入)されます。この場合、税務会計上は資産として計上されないため、償却資産税の対象外となります。しかし、会社の方針で資産として計上し、減価償却することも可能です。このように、どの資産をどう会計処理するかは納税者次第であり、市町村は納税者の個別の会計処理まで把握できないため、一律に「これが対象です」と断定することが難しいのです。
納税者の疑問に答えます!よくあるケースとその対応
制度上の理由は分かっても、納税者としては「じゃあ、どうすればいいの?」という疑問が残りますよね。ここでは、よくある疑問にお答えします。
Q1. 固定資産税の対象か分からず、二重で償却資産税を申告したらどうなる?
もし誤って家屋として評価されている資産を償却資産として申告してしまった場合でも、過剰に税金を支払う心配はほとんどありません。市町村は申告書を受け取った後、家屋の評価内容と照合して審査を行います。その過程で重複が判明すれば、市町村から納税者に連絡があり、申告内容の修正を求められます。結果として、その資産は償却資産税の課税対象から除外されます。ただし、確認や修正の手間は発生してしまいます。
Q2. なぜ申告漏れは指摘されるのに、事前に教えてくれないの?
これは多くの方が感じる矛盾だと思います。市町村は、地方税法に基づき、申告内容が正しいかどうかを確認するための調査(実地調査など)を行う権限を持っています。また、国税庁の資料(法人税申告書など)を閲覧することも可能です。こうした調査の結果、本来申告すべき資産が漏れていることが判明した場合に、納税者へ指摘が行われます。これはあくまで「提出された申告内容の事後確認」であり、「事前に何を申告すべきかを教える」という能動的なサービスとは性質が異なるのです。制度上、まずは納税者が正しく申告することが前提となっています。
Q3. 結局、納税者はどうやって区分を判断すればいいの?
最も確実な方法は、まずご自身の市区町村のウェブサイトなどで「家屋と償却資産の区分表」といった資料を探して確認することです。多くの自治体で、判断基準となる一覧表が公開されています。その上で、建物の建築請負契約書や見積書、設計図などの内訳を確認し、個々の設備がどちらに該当するかを一つずつ判断していくのが基本となります。どうしても判断に迷う場合は、資産税課などの担当窓口に「この〇〇という設備は、家屋の評価に含まれていますか?」と、個別の資産について問い合わせることは可能です。
家屋と償却資産の具体的な区分例
判断に迷いやすい建物附属設備について、一般的な区分例をまとめました。ただし、これはあくまで一例であり、最終的な判断は各市町村によって異なる場合がありますので、必ずご自身の市町村の基準をご確認ください。
建物附属設備の区分例(一般的な例)
| 資産の種類 | 家屋として評価されるもの |
|---|---|
| 電気設備 | 建物と一体の照明設備、配線、分電盤など |
| 空調設備 | ダクトを通じて建物全体に冷暖気を送るセントラル空調設備 |
| 給排水衛生設備 | 建物と一体構造の給排水配管、衛生器具(トイレ、洗面台など) |
| 内装・造作 | 建物本体と一体の壁、床、天井、造り付けの棚など |
| 外構工事 | (原則として家屋には含まれない) |
| 資産の種類 | 償却資産として申告するもの |
|---|---|
| 電気設備 | 受変電設備、自家発電設備、特定の業務用の動力配電設備 |
| 空調設備 | 天井カセット型、壁掛け型などの個別パッケージエアコン |
| 給排水衛生設備 | 特定の業務用の給排水設備(工場の冷却水配管など)、独立した屋外タンク |
| 内装・造作 | テナント(賃借人)が施工した内装、可動式間仕切り、ルームサイン |
| 外構工事 | 門、塀、フェンス、舗装路面、植栽、独立した屋外看板(広告塔)など |
償却資産税の申告で注意すべきポイント
正確な申告を行うために、特に注意が必要な点を2つご紹介します。
少額の資産でも申告が必要なケース
法人税や所得税の計算では、取得価額が30万円未満の資産について、一定の要件を満たす中小企業者等は年間300万円を上限に一括で経費にできる「少額減価償却資産の特例」という制度があります。税務会計上は経費として処理していても、この特例を適用した資産は、償却資産税の申告対象となります。これは非常に間違いやすいポイントなので注意が必要です。
一方で、以下の資産は償却資産税の申告対象外です。
- 取得価額が10万円未満で、一時に損金算入(費用処理)した資産
- 取得価額が20万円未満で、「一括償却資産」として3年間で均等償却している資産
申告漏れが発覚した場合のペナルティ
もし申告漏れが後から発覚した場合、資産を取得した翌年度まで遡って課税されることになります。遡及期間は、地方税法の規定により最大で5年度分(偽りその他不正な行為があった場合は7年度分)に及びます。さらに、本来の税額に加えて延滞金も課されるため、納税額が大きく膨らんでしまう可能性があります。意図的でなくても、ミスによる申告漏れはペナルティの対象となるため、慎重な確認が求められます。
まとめ
市町村が償却資産税の対象を一つひとつ丁寧に教えてくれないのは、不親切だからではなく、固定資産税(家屋)と償却資産税の制度上の違いや責任の所在が大きく関係しています。納税者は、申告納税方式の原則に基づき、自らの責任で資産を正しく把握し、申告する義務があります。
このプロセスは確かに煩雑ですが、まずは自治体が公表している「家屋と償却資産の区分表」を確認し、建築時の見積書などと照らし合わせることで、大半の資産は区分できるはずです。判断に迷った際は、担当窓口に個別の資産について確認を取りながら、申告漏れのないよう正確な申告を心がけましょう。
参考文献
新築建物の固定資産税と償却資産税の疑問解消!なぜ市町村は教えてくれない?よくある質問まとめ
Q.なぜ市区町村は、固定資産税の調査をしたのに償却資産税の対象資産を具体的に教えてくれないのですか?
A.償却資産税は、納税者が自ら所有する事業用資産を申告する「申告納税制度」だからです。市区町村は家屋調査で全体の状況は把握しますが、個々の資産が事業用か、取得価額はいくらかといった詳細までは判断できないため、最終的な判断と申告は納税者の責任とされています。
Q.固定資産税(家屋)の評価明細を教えてくれれば、どれが償却資産税の対象か判断できるのに、なぜ明細をくれないのですか?
A.固定資産税(家屋)の評価は、建物全体を一体として評価するため、どの設備が家屋評価に含まれているかという詳細なリストは、そもそも存在しないことが多いためです。そのため、個別の資産ごとの評価額を明示することは困難となっています。
Q.もし間違って、固定資産税の対象になっている設備を償却資産税として申告してしまったら、市町村は指摘してくれますか?
A.はい、指摘される可能性が高いです。市区町村は固定資産税(家屋)の評価内容と、提出された償却資産税の申告内容を照合します。家屋と一体として評価されている資産が申告された場合、二重課税を避けるため、申告から除くよう指導が入ることが一般的です。
Q.償却資産税の対象ではないと思っていた資産が、固定資産税の対象にもなっていなかった場合、なぜ後から申告漏れとして指摘されるのですか?
A.納税者は「家屋に含まれる」と考え、市区町村は「独立した償却資産」と判断した場合に起こります。償却資産税は申告がなければ課税されず、後日の調査で申告すべき資産が判明した場合に、申告漏れとして指摘されることになります。
Q.固定資産税と償却資産税の区分が曖昧で分かりにくいです。どうすれば正確に申告できますか?
A.まずは、お住まいの市区町村の固定資産税担当課に問い合わせることが重要です。特に判断に迷う資産については、「この資産は家屋の評価に含まれますか?」と具体的に確認しましょう。その上で、ご自身の資産状況を正確に申告することが大切です。
Q.結局、固定資産税の対象か償却資産税の対象かの最終的な判断は誰がするのですか?
A.最終的な課税権者である市区町村が判断します。しかし、その判断の元となるのは、納税者からの償却資産税の申告です。納税者は自己の資産を正しく把握し、申告する義務があります。判断に迷う場合は、事前に市区町村に確認し、その判断基準に従って申告することがトラブルを避ける最善の方法です。