会社のオーナー経営者様が亡くなられた場合、相続税の計算のために、ご自身が経営されていた会社の株式(非上場株式)の価値を評価する必要があります。その際、もし会社が事業用の土地などを借りるために「権利金」を支払っていると、「この権利金は、会計帳簿の金額そのままでいいの?それとも違う評価方法があるの?」と疑問に思われるかもしれません。この点は、株式の評価額に大きく影響するとても大切なポイントです。結論から言うと、会計上の帳簿価額ではなく、相続税独自のルールで評価し直す必要があります。今回は、法人が支払った権利金の相続発生時における株式評価上の正しい扱いについて、わかりやすく解説していきますね。
株式評価では「相続税のルール」で資産を評価し直す
まず大前提として、相続時の株式評価、特に「純資産価額方式」という評価方法では、会社の貸借対照表(バランスシート)に載っている資産や負債を、すべて相続税の評価ルールに基づいて「時価」に洗い替えする必要があります。法人が支払った権利金も、もちろんその対象になります。
そもそも権利金とは?
権利金とは、土地や建物を借りる際に、借主から貸主(地主さん)に対して支払われる一時金のことです。これは、その土地を利用できる権利、つまり「借地権」を設定するための対価としての性質を持っています。一般的に、権利金は家賃の前払いや保証金とは異なり、契約が終了しても返還されないお金です。
法人税法(会計)での権利金の扱い
法人が権利金を支払った場合、会計上や法人税法上では、その支出は「借地権」という名前の無形固定資産として資産計上されます。そして、この資産計上された金額は、建物の減価償却と同じように、契約期間などの一定のルールに基づいて毎年少しずつ費用(減価償却費)として処理されていきます。
そのため、会社の貸借対照表に載っている借地権の金額(帳簿価額)は、年数が経つにつれてだんだん少なくなっていきます。
| 会計上の処理 | 権利金を「借地権」として資産計上し、毎年減価償却を行う。 |
| 帳簿価額 | 時の経過とともに減少していく。 |
相続税法での権利金の扱い(株式評価)
一方、相続税のルールでは、会社の資産を「相続が起きた時点での時価」で評価します。法人が持つ借地権(権利金)も例外ではありません。
この場合の時価評価は、法人税法のように償却していく考え方ではなく、その土地が持つ本来の価値から計算します。具体的には、以下の計算式で評価するのが原則です。
借地権の評価額 = 土地の自用地評価額 × 借地権割合
つまり、相続時の株式評価においては、法人税法に倣って償却した残高(帳簿価額)で評価するのではなく、土地の自用地評価額に借地権割合を乗じて評価するのが正しい方法ということになります。
なぜ帳簿価額ではなく相続税評価額で評価するのか
「どうしてわざわざ評価し直す必要があるの?」と疑問に思われるかもしれませんね。これには、株式評価の考え方が関係しています。
純資産価額方式の考え方
非上場株式の評価方法の一つである「純資産価額方式」は、「もし相続が発生した時点で会社を解散・清算した場合、株主の手元にいくら財産が残るか」という考え方に基づいています。
会社を清算するとなると、会社の持っている資産は帳簿上の古い価格ではなく、現在の時価で売却されることになりますよね。そのため、株式の価値を計算するときも、すべての資産を現在の時価(相続税評価額)に置き換えて、会社の純資産を計算し直す必要があるのです。
例えば、会社が50年前に1,000万円で取得した土地の帳簿価額が1,000万円のままでも、現在の時価が1億円であれば、株式評価では1億円として計算します。これと同じように、権利金(借地権)も、償却後の帳簿価額ではなく、現在の時価である「自用地評価額 × 借地権割合」で評価し直すというわけです。
権利金(借地権)の相続税評価額の計算ステップ
それでは、実際にどのように権利金(借地権)の相続税評価額を計算するのか、具体的なステップを見ていきましょう。
ステップ1:土地の自用地評価額を計算する
まず、法人が借りている土地そのものの評価額を計算します。この「誰も権利を持っていない更地としての評価額」を「自用地評価額」といいます。
自用地評価額は、主に国税庁が定めている「路線価」を使って計算します。
- 路線価方式:道路に面する土地の1平方メートルあたりの価格(路線価)を基に計算します。計算式: 路線価 × 各種補正率 × 土地の面積
- 倍率方式:路線価が定められていない地域で、土地の固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて計算します。計算式: 固定資産税評価額 × 評価倍率
ステップ2:借地権割合を確認する
次に、その土地が所在する地域の「借地権割合」を調べます。借地権割合は、土地の利用価値のうち借地権が占める割合のことで、国税庁のホームページにある路線価図や評価倍率表で確認できます。
路線価図では、路線価の数字の横にA~Gまでのアルファベットが記載されており、それぞれに対応する割合が定められています。
| 記号 | 借地権割合 |
| A | 90% |
| B | 80% |
| C | 70% |
| D | 60% |
| E | 50% |
| F | 40% |
| G | 30% |
ステップ3:借地権の相続税評価額を計算する
ステップ1とステップ2で算出した数字を使って、借地権の相続税評価額を計算します。
例えば、以下のようなケースで計算してみましょう。
- 土地の自用地評価額:1億円
- 借地権割合:60%(記号Dの地域)
借地権の相続税評価額 = 1億円 × 60% = 6,000万円
この6,000万円が、株式評価で使うべき借地権の評価額となります。もし、この会社の貸借対照表上の借地権の帳簿価額が償却によって500万円まで減っていたとしても、株式評価では6,000万円として資産に計上します。
【注意】権利金の評価がゼロになるケースも
原則として権利金(借地権)は上記のように評価しますが、地主さんとの契約内容によっては、評価方法が大きく変わる、あるいは評価額がゼロになるケースもあるので注意が必要です。
相当の地代を支払っている場合
権利金を支払う代わりに、その土地の自用地評価額に対して年6%程度の高額な地代(これを「相当の地代」といいます)を地主さんに支払っている場合があります。この場合、借地権の価値は地代として毎年支払っていると考えられるため、相続税評価上の借地権の価額はゼロとして扱われます。
「土地の無償返還に関する届出書」を提出している場合
特に同族会社などでよく見られるケースですが、権利金を支払わずに土地を借り、将来契約が終わったときには無償で土地を返すことを約束する「土地の無償返還に関する届出書」を、あらかじめ税務署に提出していることがあります。
この届出書を提出している場合も、法人に借地権は帰属しないものとして扱われるため、原則として借地権の評価額はゼロになります。ただし、土地の所有者(地主)が会社の株主であるなど一定の条件下では、株式評価上、自用地評価額の20%を資産として計上する場合があります。
まとめ
今回は、法人が支払った権利金の相続発生時における株式評価上の扱いについて解説しました。ポイントをまとめると以下の通りです。
- 法人が支払った権利金は、相続時の株式評価(純資産価額方式)において、法人税法上の償却後残高(帳簿価額)ではなく、相続税法上のルールで時価評価し直します。
- 原則的な評価方法は、「土地の自用地評価額 × 借地権割合」で計算します。
- この評価額と帳簿価額との差額は、会社の含み益となり、株価を大きく引き上げる要因になります。
- ただし、「相当の地代」を支払っている場合や「土地の無償返還に関する届出書」を提出している場合は、評価額がゼロになるなど、取り扱いが異なるため注意が必要です。
非上場株式の評価は非常に専門的で、特に土地に関する権利が絡むと複雑になりがちです。評価方法を一つ間違えるだけで、相続税額が大きく変わってしまう可能性もあります。ご自身の会社の株式評価に不安がある場合は、必ず相続に詳しい税理士などの専門家にご相談くださいね。
参考文献
- 国税庁 タックスアンサー No.4611 借地権の評価
- 国税庁 財産評価基本通達 第2章 宅地及び宅地の上に存する権利
- 国税庁 法令解釈通達 相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
法人所有の借地権がある場合の株式評価(相続税)のよくある質問まとめ
Q. 法人が権利金を支払って土地を借りている場合、相続時の株式評価でこの借地権はどう評価するのですか?
A. 法人税法上の帳簿価額(権利金の償却残高)ではなく、相続税の財産評価基本通達に基づき評価します。具体的には、その土地の「自用地としての価額」に国税庁の定める「借地権割合」を乗じて計算した金額となります。
Q. なぜ法人税の帳簿価額ではなく、わざわざ相続税評価額で計算し直すのですか?
A. 非上場株式の純資産価額を計算する際、会社が保有する資産・負債をすべて相続開始時点の時価(相続税評価額)に置き換えて評価するというルールがあるためです。帳簿価額は過去の価額であり、時価とは異なるため評価替えが必要になります。
Q. 株式評価額は、帳簿価額で計算するより高くなりますか?
A. はい。一般的に、土地の価格が購入時より上昇している場合や、権利金の償却が進んでいる場合には、相続税評価額の方が帳簿価額よりも高くなる傾向があります。その結果、株価も高くなります。
Q. もし帳簿価額のまま株式評価をしてしまったら、どうなりますか?
A. 会社の純資産価額が本来よりも低く評価され、株価が過小に計算されてしまいます。その結果、相続税の申告額が過少となり、後の税務調査で追徴課税や延滞税、過少申告加算税が課されるリスクがあります。
Q. 「自用地としての価額」や「借地権割合」はどこで確認できますか?
A. 「自用地としての価額」は、国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」で確認できる路線価や評価倍率を用いて計算します。「借地権割合」も同じく「路線価図」にアルファベット(A~G)で記載されており、それぞれに対応する割合(90%~30%)が定められています。
Q. この借地権の評価は、どのような株式評価方法で必要になりますか?
A. 主に、同族株主等が株式を取得する際に用いる「純資産価額方式」で必要となります。この方式では会社の資産を時価評価するため、借地権も相続税評価額に洗い替える必要があります。