「相続したけど、遠くて管理できない」「売るにも売れない山林や畑をどうにかしたい」そんなお悩みはありませんか?2023年4月27日から、そんな悩みを解決するかもしれない新しい制度、相続土地国庫帰属制度がスタートしました。これは、一定の要件を満たした土地であれば、国に引き取ってもらえる画期的な制度です。この記事では、相続土地国庫帰属制度の対象者や条件、手続きの流れ、費用などを分かりやすく解説していきます。
相続土地国庫帰属制度ってどんな制度?
相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈によって取得した、不要な土地の所有権を国に渡す(国庫に帰属させる)ことができる制度です。近年、管理されずに放置される「所有者不明土地」が社会問題となっており、その発生を防ぐ目的で創設されました。この制度を使えば、管理の負担や固定資産税の支払いから解放される可能性があります。
どんな人が利用できるの?
この制度を利用できるのは、相続または遺贈(いぞう)によって土地の所有権を取得した方に限られます。ご自身で購入した土地や、贈与で受け取った土地は対象外となるので注意が必要です。もし、土地を複数の相続人で共有している場合は、共有者全員が共同で申請する必要があります。一人でも反対する人がいると、申請はできません。
相続放棄との違いは?
「土地を手放すなら相続放棄でも良いのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、この二つには大きな違いがあります。相続放棄は、プラスの財産(預貯金など)もマイナスの財産(借金など)もすべて手放す手続きです。一方、相続土地国庫帰属制度は、必要な財産は相続しつつ、不要な土地だけを手放せるという点が大きなメリットです。
| 制度 | 特徴 |
| 相続土地国庫帰属制度 | 不要な土地だけを国に引き渡すことができる。他の財産は相続可能。 |
| 相続放棄 | 預貯金や自宅などを含め、すべての財産の相続権を放棄する。 |
制度開始前に相続した土地も対象になる?
はい、対象になります。この制度は令和5年4月27日にスタートしましたが、それより前に相続した土地であっても申請することが可能です。昔に相続したまま、どうしようもなかった土地を手放すチャンスかもしれません。
国に引き取ってもらえない土地とは?却下・不承認の要件
残念ながら、どんな土地でも国が引き取ってくれるわけではありません。国が管理するのに過大なコストや手間がかかる土地は対象外となります。審査の段階で「却下」または「不承認」となるケースがあり、その要件は法律で細かく定められています。
そもそも申請ができない「却下事由」
以下の条件に一つでも当てはまる土地は、申請自体が受け付けられません(却下されます)。申請前に必ず確認しましょう。
| 却下事由 | 具体例 |
| 建物がある土地 | 家、倉庫、ビニールハウスなどがある土地。更地にする必要があります。 |
| 担保権などが設定されている土地 | 抵当権などが設定されている土地。 |
| 他人の利用が予定されている土地 | 通路として使われている土地、墓地、境内地など。 |
| 土壌汚染されている土地 | 特定有害物質によって汚染されている土地。 |
| 境界が明らかでない土地 | 隣の土地との境界が不明確であったり、所有権について争いがあったりする土地。 |
申請できても承認されない「不承認事由」
申請が受け付けられても、審査の結果、管理が難しいと判断されると承認されません(不承認となります)。
| 不承認事由 | 具体例 |
| 管理に多額の費用がかかる崖がある土地 | 高さ5メートル以上で、勾配が30度以上ある崖など。 |
| 管理を邪魔するものがある土地 | 放置された車両、廃屋、管理が大変な樹木などがある土地。 |
| 地下に除去すべきものがある土地 | 古い井戸、浄化槽、産業廃棄物などが埋まっている土地。 |
| 隣地と争訟が必要な土地 | 不法占拠者がいるなど、隣地の所有者と裁判などによらなければ管理できない土地。 |
| その他、管理・処分が難しい土地 | 動物による被害がある土地、頻繁な草刈りが必要な土地など。 |
制度利用にかかる費用はどのくらい?
制度の利用には、大きく分けて「審査手数料」と「負担金」の2種類の費用がかかります。決して無料ではないので、事前に把握しておくことが大切です。
審査手数料
申請時に、審査のための手数料として土地一筆あたり14,000円を納付する必要があります。この手数料は、もし審査の結果、却下や不承認となった場合でも返還されませんのでご注意ください。
負担金(10年分の管理費相当額)
無事に審査が承認された場合、その土地を今後10年間管理するために必要な費用として「負担金」を納付します。この負担金を納付した時点で、土地の所有権が国に移ります。金額は土地の種類によって異なります。
| 土地の種類 | 負担金の目安 |
| 宅地・その他(雑種地など) | 原則20万円(市街化区域など一部の宅地は面積に応じて算定) |
| 田・畑 | 原則20万円(農用地区域など一部の農地は面積に応じて算定) |
| 森林 | 面積に応じて算定 |
申請から国庫帰属までの5ステップ
実際に制度を利用する場合、どのような流れで進むのでしょうか。ここでは、申請から完了までの5つのステップをご紹介します。
ステップ1:法務局への事前相談
まずは、引き取ってほしい土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局(本局)に事前相談をしましょう。制度の対象になりそうか、どのような書類が必要かなどを確認できます。相談は予約制の場合が多いので、事前に連絡することをおすすめします。
ステップ2:申請書類の作成・収集
相談を終えたら、申請に必要な書類を準備します。主な書類は以下の通りです。
・承認申請書
・土地の位置や範囲がわかる図面
・土地の境界点がわかる写真
・申請者の印鑑証明書 など
書類作成が難しい場合は、司法書士などの専門家に依頼することも可能です。
ステップ3:法務局へ申請
書類がすべて揃ったら、管轄の法務局に申請します。申請方法は、窓口に直接持参するか、郵送でも可能です。このとき、審査手数料(1筆14,000円)を収入印紙で納付します。
ステップ4:審査と承認通知
申請後、法務局による書面審査と、職員が現地に赴く実地調査が行われます。審査にはおよそ半年から1年程度の時間がかかると言われています。審査の結果、承認されるか不承認となるか、書面で通知が届きます。
ステップ5:負担金の納付
承認の通知を受け取ったら、通知が届いた日の翌日から30日以内に負担金を納付します。納付が完了した時点で、土地の所有権は正式に国に移転します。これで、すべての手続きは完了です。
制度利用のメリット・デメリット
この制度を利用すべきか判断するために、メリットとデメリットを整理してみましょう。
メリット
一番のメリットは、売却も活用もできない土地を手放せることです。これにより、毎年の固定資産税の支払いや、草刈りなどの管理の手間、近隣への迷惑の心配といった精神的な負担から解放されます。また、相続放棄と違って、必要な財産は手元に残せる点も大きな利点です。
デメリット
デメリットとしては、費用がかかる点が挙げられます。審査手数料と負担金を合わせると、最低でも20万円以上の出費になります。また、すべての土地が対象になるわけではなく、却下・不承認の要件が厳しいこと、そして申請から承認まで半年~1年と時間がかかることも念頭に置く必要があります。
まとめ
相続土地国庫帰属制度は、不要な土地の管理に悩む方々にとって、まさに救世主となりうる制度です。しかし、利用するには厳しい要件があり、費用もかかります。ご自身の土地が対象になるか、費用をかけてでも手放す価値があるかを慎重に検討することが重要です。まずは管轄の法務局に相談してみるか、司法書士などの専門家にアドバイスを求めることから始めてみてはいかがでしょうか。長年の悩みの種だった土地を手放し、次の世代に負担を残さないための一歩を踏み出しましょう。
参考文献
相続土地国庫帰属制度のよくある質問まとめ
Q.相続土地国庫帰属制度とは何ですか?
A.相続や遺贈によって取得した、不要な土地の所有権を国に引き渡すことができる制度です。管理が難しい山林や原野などを手放したい場合に利用が検討されます。
Q.どんな土地でも国庫に帰属させられますか?
A.いいえ、全ての土地が対象ではありません。建物がある土地、境界が不明な土地、担保権が設定されている土地、管理や処分に過大な費用・労力がかかる土地などは却下される可能性があります。
Q.制度の利用にはどのくらいの費用がかかりますか?
A.申請時に審査手数料として1筆あたり14,000円が必要です。承認された場合は、土地の性質に応じた10年分の標準的な管理費用(負担金)を納付する必要があります。負担金は最低でも20万円からとなります。
Q.相続土地国庫帰属制度のデメリットは何ですか?
A.申請しても必ず承認されるとは限らない点、審査手数料や高額になる可能性のある負担金がかかる点、承認のハードルが高い点などが挙げられます。また、一度国庫に帰属した土地を取り戻すことはできません。
Q.申請はどこに行えばよいですか?
A.対象となる土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局に申請します。郵送での申請も可能です。申請には、申請書のほか、所在図や写真、登記事項証明書などの書類が必要です。
Q.制度が利用できない場合、他に土地を手放す方法はありますか?
A.売却や寄付が考えられます。隣地の所有者に買い取ってもらったり、自治体や法人への寄付を検討したりする方法があります。ただし、いずれも相手方の同意が必要となります。