「親や子どもに相場より安く家を貸したいけど、税金が心配…」「家賃は固定資産税の3倍から5倍くらいが目安って聞いたけど本当?」そんな疑問をお持ちではありませんか?特に親族間で不動産を貸し借りする場合、家賃設定はとてもデリケートな問題ですよね。この記事では、よく耳にする「固定資産税の3〜5倍」という説の真偽と、税務署に認められる適正な家賃の考え方について、わかりやすく解説していきます。
「固定資産税の3~5倍」に税法上の根拠はありません
まず結論からお伝えしますと、「賃料を固定資産税・都市計画税の合計額の3倍~5倍に設定すれば税務上問題ない」という考え方には、所得税法や相続税法といった税法上の明確な根拠はありません。これは、あくまで実務上の経験則や俗説として広まっているものなんです。
税務調査で「なぜこの家賃設定にしたのですか?」と質問された際に、「固定資産税の3倍を目安にしました」と答えても、それが直接的な理由として認められるわけではないため、注意が必要ですよ。
なぜ「固定資産税の3~5倍」という話が広まったの?
では、なぜこのような目安が広まったのでしょうか。これは、不動産を貸し出す上で最低限かかる経費をカバーするための、一つの分かりやすい指標だったからと考えられます。
不動産を所有していると、固定資産税の他にも、建物の価値が年々減っていく分(減価償却費)、修繕にかかる費用、火災保険料など、さまざまな経費が発生しますよね。これらの経費の合計額が、地域や物件によっては、おおよそ「固定資産税の3倍から5倍」くらいになるケースがあったため、「この範囲なら赤字にならず、事業として不自然ではないだろう」という考え方が広まったのかもしれません。
あくまで一つの「目安」に過ぎない
例えば、年間の固定資産税が20万円の物件があったとします。この3倍なら60万円(月5万円)、5倍なら100万円(月約8.3万円)です。もし周辺の家賃相場が月7万円であれば、この範囲内に収まることも多いでしょう。
しかし、都心部の築浅マンションと、地方の築年数が経過した戸建てでは、固定資産税評価額と実際の家賃相場のバランスは全く異なります。そのため、この「3〜5倍」という数字だけを鵜呑みにして家賃を決めてしまうのは、とても危険なんです。
税務署が考える「適正な賃料」の計算方法
税務署が問題視するのは、設定された家賃が「通常の取引価額(時価)」、つまり世間一般の相場と比べて著しく低いかどうかという点です。特に親族間で不動産を貸し借りする場合、実質的な贈与とみなされないように、「相当の対価」を受け取っているかがとても重要になります。
ここでは、土地と建物に分けて、税法上の「相当の対価」の考え方を見ていきましょう。
土地だけを貸す場合(相当の地代)
親族などに土地だけを貸す場合、借主から受け取るべき地代の目安として「相当の地代」という考え方があります。もし無償(タダ)で土地を貸してしまうと、借地権という権利を贈与したとみなされ、高額な贈与税がかかるリスクがあります。
このリスクを避けるための一つの基準が「相当の地代」で、原則として次の計算式で求められます。
| 相当の地代(年額) | その土地の更地としての評価額 × おおむね年6% |
ただし、この計算方法は実態と合わないことも多いため、実務上は少なくとも「その土地の固定資産税・都市計画税の合計額の2倍~3倍程度」を地代として受け取っていれば、税務上問題とされる可能性は低いと言われています。これが「3倍」という俗説の根拠の一つになっていると考えられます。
建物だけを貸す場合(相当の家賃)
建物を貸す場合の「相当の家賃」は、次の合計額とされています。
| ① その年度の建物の固定資産税・都市計画税の合計額 | ①と②の合計額 |
| ② その建物の敷地(土地)の固定資産税・都市計画税の合計額 |
つまり、建物と土地にかかる固定資産税・都市計画税の合計額を年間の家賃として受け取っていれば、少なくとも贈与税の問題は生じないとされています。これは、相場よりもかなり低い金額になることが多いですが、税務上のリスクを回避するための最低ラインとして覚えておくと良いでしょう。
土地と建物の両方を貸す場合
一般的に行われる土地と建物をセットで貸す場合は、周辺の家賃相場を参考にすることが基本です。もし相場より著しく低い家賃で貸してしまうと、その差額が贈与とみなされる可能性があります。
どうしても相場より安く貸したい、でも贈与税は避けたいという場合は、最低ラインとして先ほどの「建物を貸す場合」の計算式(土地・建物の固定資産税・都市計画税の合計額)を参考にすることをおすすめします。
適正な賃料より低いとどうなる?税務上のリスク
もし適正な賃料よりも低い金額で不動産を貸した場合、貸主と借主のそれぞれに税務上のリスクが生じる可能性がありますので、しっかり確認しておきましょう。
借主(借りる側)のリスク:贈与税
個人(例えば子ども)が親から相場より著しく安い家賃で物件を借りた場合、相場の家賃と実際に支払った家賃との差額分について、「親から経済的な利益を受けた」とみなされ、贈与税の対象となる可能性があります。この差額の年間合計額が110万円の基礎控除額を超えると、贈与税の申告と納税が必要になる場合があります。
ただし、先ほどご説明したように、最低でも土地・建物の固定資産税・都市計画税の合計額以上の家賃を支払っていれば、通常はこの問題は生じません。
貸主(貸す側)のリスク:所得税
貸主側では、不動産所得の計算で問題が生じることがあります。通常、不動産貸付で赤字(不動産所得の損失)が出た場合、給与所得など他の所得と相殺(損益通算)して、所得税や住民税を減らすことができます。
しかし、親族への貸付けなどで、その不動産を維持するために必要な固定資産税などの経費すら回収できないような低い家賃設定にしている場合、その赤字のうち回収できない部分については「なかったもの」とみなされ、損益通算が認められない可能性があります。
親族間での不動産賃貸で失敗しないためのポイント
思わぬトラブルや税務上のリスクを避けるために、親族間で不動産を貸す際は、次の3つのポイントを必ず押さえておきましょう。
賃貸借契約書を必ず作成する
どんなに親しい間柄であっても、口約束ではなく必ず賃貸借契約書を作成しましょう。家賃の金額、支払日、契約期間などを明確に書面で残すことで、税務署への説明資料になるだけでなく、将来の「言った・言わない」のトラブルを防ぐことにも繋がります。
家賃の支払いは銀行振込で行う
家賃のやり取りは、手渡しではなく銀行振込にしましょう。毎月、誰から誰へ、いくら支払われたかが通帳に記録として残るため、実際に金銭の授受があったことの客観的な証拠となり、税務調査の際もスムーズです。
周辺の家賃相場を調べておく
設定した家賃が妥当であることを客観的に説明できるように、不動産情報サイトなどで周辺の類似物件(広さ、築年数、駅からの距離などが近いもの)の家賃相場を調べて、その情報を印刷したりスクリーンショットを撮ったりして記録として残しておくと、より安心です。
まとめ
今回は、不動産の家賃設定と税金の関係について解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度確認しておきましょう。
| ポイント | 内容 |
| 「固定資産税の3〜5倍」説 | 税法上の根拠はない俗説であり、鵜呑みにするのは危険です。 |
| 適正な賃料の基本 | まずは周辺の家賃相場を参考にすることが大切です。 |
| 贈与税を避ける最低ライン | 最低でも、土地と建物にかかる固定資産税・都市計画税の合計額は年間の家賃として受け取りましょう。 |
| 親族間取引での注意点 | 賃貸借契約書を作成し、家賃は銀行振込で記録を残すことがトラブル防止の鍵です。 |
親族間の不動産の貸し借りは、税金のルールが複雑に関わってきます。家賃設定に少しでも不安がある場合は、ご自身で判断せず、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。正しい知識を身につけて、安心して大切な資産を活用していきましょう。
参考文献
国税庁 タックスアンサー No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
国税庁 タックスアンサー No.5300 損金の額に算入される租税公課等の範囲と損金算入時期
国税庁 タックスアンサー No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額
固定資産税額を目安にした家賃設定のよくある質問まとめ
Q. 家賃を固定資産税・都市計画税の3倍~5倍にすれば、税務上問題ないですか?
A. 一概に問題ないとは言えません。これは税法上の明確な基準ではなく、あくまで実務上の「目安」の一つです。税務調査では、近隣の家賃相場など、より客観的な証拠に基づいて総合的に判断されます。
Q. 「固定資産税の3倍~5倍」という家賃設定に、税法上の根拠はあるのですか?
A. いいえ、この計算方法を直接定めた税法の条文はありません。過去の判例や実務上の慣行から生まれた経験則であり、法的な拘束力を持つものではありません。
Q. なぜ「固定資産税の3倍~5倍」が家賃の目安と言われるのですか?
A. 不動産の所有者が、最低限の必要経費(固定資産税、減価償却費、修繕費など)を賄える水準として、簡便的に計算されたものと考えられます。特に客観的な相場が分かりにくい同族間取引などで参考にされることがあります。
Q. 税務調査で家賃が「不適正」と判断されると、どうなりますか?
A. 相場より著しく低い家賃は貸主から借主への「寄附金」に、逆に著しく高い家賃は借主から貸主への「寄附金」や「役員賞与」と認定されるリスクがあります。その場合、経費として認められず追徴課税が発生する可能性があります。
Q. 税務上、問題になりにくい「適正な家賃」はどのように決めればよいですか?
A. 最も有効なのは、賃貸物件の周辺にある類似物件の家賃相場を調査することです。不動産情報サイトで調べたり、不動産会社から情報収集したりして、その記録を証拠として保管しておくことが重要です。
Q. この「固定資産税の3~5倍」という目安が当てはまらないケースはありますか?
A. はい。土地のみの賃貸借(借地)や、地価が非常に高い都心部、あるいは逆に極端に低い地域などでは、実態と大きく乖離することがあります。あくまで一般的な建物賃貸借における大まかな参考値と捉えるべきです。