ご家族が亡くなられ、遺された財産の中に海外の銀行口座が見つかった場合、日本の銀行と同じように手続きを進められるのだろうかと、不安に思われるかもしれませんね。海外の金融機関とのやり取りは、言語の壁や法律の違いなど、戸惑うことも多いものです。この記事では、海外銀行口座の相続手続きについて、口座解約の流れから必要書類、税金の注意点まで、分かりやすく丁寧にご説明しますので、ぜひ参考にしてください。
海外銀行口座の相続手続き、まずはここから始めよう
海外の銀行口座の相続は、国内の手続きに比べて時間も手間もかかることが多いです。まずは慌てずに、全体像を把握して一つひとつ進めていきましょう。最初にすべきことを3つのステップでご紹介します。
相続財産の全体像を把握する
はじめに、故人(被相続人)がどのような財産を遺したのかをすべて洗い出すことから始めます。海外の銀行預金だけでなく、国内の預貯金、不動産、有価証券などのプラスの財産はもちろん、借入金などのマイナスの財産もすべてリストアップしましょう。このとき、遺言書が遺されていないかどうかの確認も非常に重要です。遺言書があれば、原則としてその内容に従って手続きを進めることになります。
海外の金融機関へ連絡し、必要書類を確認する
次に、口座がある海外の金融機関へ連絡を取ります。電話やメールで、口座名義人が亡くなったこと(相続が発生したこと)を伝え、相続手続きに必要な書類のリストを送ってもらうよう依頼しましょう。国や金融機関によって求められる書類は大きく異なります。手続きの第一歩として、この「必要書類の確認」が最も重要です。英語でのやり取りが基本となるため、不安な場合は翻訳サービスを利用したり、英語が得意な親族に協力してもらったりすると良いでしょう。
現地の法律や専門家の確認も視野に
海外の財産については、日本の法律だけでなく、その財産がある国の法律(現地法)が適用される場合があります。特に、アメリカやイギリスなどの英米法の国では、「プロベイト(Probate)」と呼ばれる裁判所での遺言検認手続きが必要になることも少なくありません。手続きが複雑でご自身での対応が難しいと感じた場合は、国際相続に詳しい日本の弁護士や、現地の専門家に相談することも大切な選択肢の一つです。早めに相談することで、スムーズに手続きを進められます。
海外銀行口座の相続に必要な書類
海外口座の相続手続きでは、日本の公的書類に加え、海外で通用するための認証を受けた書類や翻訳文など、特殊な書類が必要になります。ここでは、一般的に必要となる書類をご紹介します。
日本の相続手続きで必要な基本書類
まずは、日本の相続手続きでも基本となる書類を準備します。これらの書類が、海外での手続きの基礎となります。
| 書類名 | 説明 |
| 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本(除籍謄本) | 死亡の事実を公的に証明する書類です。 |
| 相続人全員の現在の戸籍謄本 | 誰が法的な相続人であるかを証明します。 |
| 遺産分割協議書 | 相続人全員で遺産の分け方を合意したことを証明する書類です。 |
| 遺言書(ある場合) | 故人の意思を証明する最も重要な書類です。公正証書遺言以外は家庭裁判所の検認が必要です。 |
海外の金融機関へ提出する特殊な書類
日本の書類をそのまま提出しても、海外では公的な書類として認められないことがほとんどです。そのため、以下のような手続きや追加の書類が必要になります。
| 書類名 | 説明 |
| プロベイト(Probate)を経た書類 | 英米法の国(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなど)で要求されることが多い、裁判所による遺言の検認手続きを経た証明書です。 |
| 死亡証明書(Death Certificate) | 日本の戸籍謄本の英訳だけでなく、現地の様式に合わせた死亡証明書が求められる場合があります。 |
| 公証人による認証やアポスティーユ | 日本の公文書が海外でも正式な書類として通用するように、公証役場での認証や、外務省による証明(アポスティーユ)が必要になることがあります。 |
書類は英語への翻訳が必要
戸籍謄本や遺産分割協議書など、日本で発行された公文書は、基本的に英語へ翻訳する必要があります。金融機関によっては、誰が翻訳しても良いわけではなく、専門の翻訳会社による「翻訳証明書」の添付を求められることもあります。どのレベルの翻訳が必要か、事前に金融機関へ確認しておきましょう。
海外銀行口座の解約・名義変更手続きの流れ
必要書類がわかったら、いよいよ具体的な手続きに進みます。海外とのやり取りは時間がかかるため、計画的に進めることが大切です。
ステップ1:金融機関への連絡と書類の取り寄せ
まず、口座のある金融機関に連絡し、相続が発生した旨を伝えます。手続きに必要な申請書や書類のリストを送ってもらいましょう。このとき、手続き全体の流れやおおよその所要期間についても確認しておくと安心です。
ステップ2:必要書類の準備と翻訳・認証
取り寄せた書類リストに基づき、日本の役所(市区町村役場)、公証役場、外務省などで必要書類を収集・作成します。すべての書類が揃ったら、指定された形式で英語に翻訳し、必要であれば公証役場や外務省で認証(アポスティーユ取得など)を受けます。
ステップ3:金融機関へ書類を提出
準備したすべての書類を、海外の金融機関へ国際郵便(追跡可能なEMSやDHLなどがおすすめ)で送付します。書類に不備があると、再提出のためにさらに時間がかかってしまいますので、送付前に何度もチェックしましょう。
ステップ4:口座解約と送金
金融機関側で書類の審査が完了し、手続きが承認されると、口座が解約(または名義変更)され、指定した日本の銀行口座などへ預金が送金されます。この際、高額な海外送金手数料がかかることや、為替レートの変動によって受け取る円貨額が変わる点に注意が必要です。
相続税の申告はどうなる?
海外にある銀行口座も、日本の相続税の対象になるのでしょうか。税金に関するルールは複雑ですが、基本的なポイントを押さえておきましょう。
海外の銀行口座も日本の相続税の対象
結論から言うと、被相続人(故人)が亡くなったときに日本に住んでいた場合、その方が所有していた財産は、国内外を問わずすべて日本の相続税の課税対象となります。したがって、海外の銀行口座にある預金も、日本の税務署へ申告し、相続税を納める必要があります。
相続税の納税義務者の判定
相続人の方が海外に住んでいる場合など、状況によっては課税される財産の範囲が変わることがあります。基本的なパターンをみてみましょう。
| 被相続人と相続人の状況 | 課税対象となる財産 |
| 被相続人・相続人ともに国内に住所がある | 国内財産+国外財産(すべての財産) |
| 被相続人:国内に住所がある 相続人:国外に住所がある(※) |
国内財産+国外財産(すべての財産) |
| 被相続人・相続人ともに10年超国外に住所がある | 国内財産のみ |
※相続人が日本国籍を持つ場合、過去10年以内に日本に住所があったかなどで判断されます。非常に複雑なため、詳しくは専門家にご確認ください。
外国税額控除を忘れずに
もし、口座のある国で相続税(アメリカの遺産税など)を支払った場合、日本でも相続税を支払うと二重課税になってしまいます。それを避けるため、「外国税額控除」という制度があります。これは、外国で支払った税額を、日本の相続税額から一定の範囲で差し引くことができる制度です。適用を受けるためには、相続税の申告書に必要事項を記載し、外国で税金を納めたことを証明する書類を添付する必要がありますので、忘れずに手続きしましょう。
海外口座の相続手続きで注意すべきポイント
最後に、海外口座の相続をスムーズに進めるために、特に気をつけておきたい点を3つご紹介します。
手続きに時間と費用がかかる
海外との書類のやり取りには、国際郵便だけでも往復で数週間かかることがあります。また、書類の翻訳や認証、現地の専門家への依頼などで、数万円から時には数十万円以上の費用がかかることもあります。相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)に間に合うよう、早め早めに行動を開始することが重要です。
為替レートの変動リスク
海外預金を相続する場合、2つのタイミングで為替レートが関係します。1つ目は、相続税申告のための財産評価です。このときは、被相続人が亡くなった日(相続開始日)の為替レート(TTBレート)で日本円に換算します。2つ目は、実際に日本で預金を受け取る時の為替レートです。この2つの時点ではレートが異なるため、評価額と実際の受取額に差が生じる可能性があることを覚えておきましょう。
専門家への相談も検討しよう
ここまでご説明したように、海外口座の相続は国内手続きとは勝手が違い、非常に複雑です。もし手続きに少しでも不安を感じたら、無理せず専門家に相談することをおすすめします。国際相続の実績が豊富な税理士や弁護士、司法書士に依頼することで、書類の不備を防ぎ、時間的・精神的な負担を大きく減らすことができます。
まとめ
被相続人が遺した海外の銀行口座の相続は、まず金融機関に連絡して必要書類を確認することから始まります。日本の戸籍謄本などに加え、翻訳文やアポスティーユといった海外での手続き特有の書類準備が必要です。また、海外資産も日本の相続税の課税対象となることを忘れずに、期限内に申告・納税しましょう。手続きは複雑で時間がかかりますが、一つひとつのステップを確実に進めていけば、必ず完了できます。もし困ったときには、専門家の力も借りながら、大切な財産をしっかりと受け継いでください。
参考文献
海外銀行口座の相続手続きに関するよくある質問
Q.海外銀行口座の相続、まず何から始めればいいですか?
A.まずは、被相続人の海外口座がある銀行に連絡し、相続が発生したことを伝えます。その上で、必要書類や手続きの流れを確認しましょう。多くの場合、現地の法律や銀行独自のルールに従う必要があります。
Q.海外銀行口座の相続手続きには、どのような書類が必要ですか?
A.一般的に、被相続人の死亡証明書、相続人であることを証明する戸籍謄本、遺言書や遺産分割協議書などが必要です。これらの書類は、現地の言語への翻訳と、アポスティーユなどの公的な認証を求められることがほとんどです。
Q.手続きはどこの国の法律に従うのですか?
A.預金口座のある国の法律(現地法)が適用されるのが一般的です。日本の法律とは異なる相続制度(プロベートなど)が適用される場合があるため、現地の法律に詳しい専門家への相談をおすすめします。
Q.手続きにはどのくらいの費用がかかりますか?
A.書類の翻訳・認証費用、現地弁護士や専門家への報酬、国際送金手数料などがかかります。資産額や手続きの複雑さによって費用は大きく変動するため、事前に見積もりを取ると良いでしょう。
Q.海外口座の解約と送金まで、どのくらいの時間がかかりますか?
A.国や金融機関、手続きの複雑さによりますが、数ヶ月から1年以上かかることも珍しくありません。特に、現地の裁判所の手続きが必要な場合は、長期化する傾向があります。
Q.海外の預金も日本の相続税の対象になりますか?
A.はい、なります。被相続人・相続人のいずれかが日本に居住している場合、海外にある預金も日本の相続税の課税対象となります。申告漏れがないよう、すべての財産を正確に把握することが重要です。