ご家族が亡くなられて相続手続きを進める中で、故人(被相続人)が過去にどのような確定申告をしていたか、その内容を知りたい場面が出てくることがあります。特に、相続税の申告や、亡くなった方の最後の確定申告である「準確定申告」を行う際には、生前の所得や財産の状況を正確に把握することがとても大切です。でも、「申告書の控えが見つからない…」とお困りの方も多いのではないでしょうか。この記事では、そんな時に役立つ被相続人の確定申告書の内容を確認するための具体的な方法を、手続きの流れや必要書類とあわせて分かりやすく解説していきますね。
なぜ被相続人の確定申告書の内容が必要なの?
そもそも、なぜ亡くなった方の過去の確定申告書を確認する必要があるのでしょうか。主な理由として、次の3つのケースが挙げられます。いずれも、相続手続きを正しく、そしてスムーズに進めるために欠かせない情報となります。
準確定申告の手続きに必要
準確定申告とは、亡くなった方のその年の1月1日から亡くなった日までの所得を計算し、相続人が代わって申告・納税する手続きのことです。この準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行う必要があります。被相続人が生前にどのような所得があり、どんな控除を受けていたかを知るために、過去の確定申告書はとても重要な参考資料になるんです。
相続税申告を正しく行うため
相続税の申告においても、過去の確定申告書は重要な役割を果たします。特に、以下のような特例を適用する場合や、生前の贈与状況を確認する際に必要となります。
- 生前贈与加算の確認:相続開始前3年以内(令和9年以降の相続では段階的に7年以内に延長)の贈与は、相続税の課税対象となります。贈与税の申告書を確認することで、加算すべき贈与がないかチェックできます。
- 相続時精算課税制度の利用状況の確認:この制度を利用していた場合、贈与された財産はすべて相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。過去の申告内容がわからないと、正しい申告ができません。
- 相次相続控除の適用:10年以内に2回以上の相続があった場合に適用できる「相次相続控除」では、前回の相続で支払った相続税額をもとに計算します。前回の相続税申告書の内容確認が必須です。
被相続人の財産状況を把握するため
確定申告書には、給与所得だけでなく、不動産所得や事業所得、株式の配当金や売却益など、さまざまな所得が記載されています。申告書の内容を確認することで、ご家族も知らなかった財産が見つかるきっかけになることもあります。相続財産を正確に把握し、遺産分割協議を円滑に進めるためにも役立ちます。
被相続人の確定申告書の内容を知る3つの方法
「過去の申告内容が必要なのはわかったけど、どうやって調べればいいの?」と思いますよね。ここでは、具体的な3つの方法をご紹介します。まずは簡単な方法から試してみてください。
申告書の控えを探す
一番手軽な方法は、被相続人が保管していた確定申告書の控えを探すことです。紙で申告していた場合は申告書の控えが、電子申告(e-Tax)を利用していた場合はデータが残っている可能性があります。以下のような場所を探してみましょう。
| 主な保管場所の例 | ・書斎のファイルや引き出し ・金庫や貸金庫 ・パソコンや外付けハードディスク内(e-Taxの場合) ・顧問税理士の事務所 |
| ポイント | 税務署からの「確定申告のお知らせ」などの郵便物も手がかりになります。また、生前に税理士に依頼していた場合は、税理士が控えを保管している可能性が高いので、連絡してみるのが確実です。 |
税務署の「申告書等閲覧サービス」を利用する
申告書の控えが見つからない場合、税務署で過去の申告書を確認することができます。その一つが「申告書等閲覧サービス」です。これは、税務署に保管されている申告書を、その場で閲覧させてもらえる制度です。手数料は無料で、内容をメモしたり、条件付きで写真撮影したりすることもできます。
税務署に「保有個人情報の開示請求」をする
もう一つの方法が、「保有個人情報の開示請求」です。閲覧サービスとの大きな違いは、申告書の「写し(コピー)」を交付してもらえる点です。手続きに手数料(1件につき300円)がかかり、開示までに少し時間がかかりますが、手元に申告書のコピーを残しておきたい場合に適しています。じっくり内容を確認したい、他の相続人と共有したいといった場合に便利です。
申告書等閲覧サービスを利用する手続き
ここでは、手数料がかからず、比較的早く内容を確認できる「申告書等閲覧サービス」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
どんな人が利用できるの?
被相続人の確定申告書を閲覧できるのは、原則として相続人です。相続人が複数いる場合は、相続人全員で申請する必要があります。もし全員で税務署に行くのが難しい場合は、行けない相続人からの委任状を用意することで、代表者が手続きを行うことも可能です。また、相続人から委任を受けた税理士などの代理人も申請できます。
手続きの流れと必要書類
閲覧サービスを利用するには、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署で手続きを行います。事前に電話で予約をしておくとスムーズです。必要な書類は以下の通りです。
| 書類の種類 | 具体的な内容 |
| 申告書等閲覧申請書 | 税務署の窓口で受け取るか、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。 |
| 申請者の本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証など。 |
| 相続関係を証明する書類 | ・被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本(除籍謄本) ・申請者が相続人であることがわかる戸籍謄本 (法定相続情報一覧図の写しでも可) |
| 委任状(代理人が申請する場合) | 行けない相続人全員の実印が押された委任状と、印鑑登録証明書(発行後30日以内のもの)が必要です。 |
注意点(写真撮影は可能?)
閲覧サービスは、原則として内容を書き写す(筆記)ことによる記録が認められています。ただし、令和元年9月からは、スマートフォンやデジタルカメラでの撮影も可能になりました。ただし、撮影時には収受日付印や氏名などの個人情報部分を隠すなどのルールがありますので、当日の職員の方の指示に従ってくださいね。コピー機での複写はできませんのでご注意ください。
保有個人情報の開示請求を利用する手続き
次に、申告書の写しが手に入る「保有個人情報の開示請求」について解説します。手元に資料を残したい場合に有効な方法です。
閲覧サービスとの違いは?
一番の違いは、申告書の「写し」が交付される点です。これにより、税務署に行かなくても、後でじっくりと内容を確認できます。ただし、閲覧サービスとは異なり、以下の点で違いがあります。
- 手数料がかかる:1件の申請につき300円の開示請求手数料が必要です。収入印紙で納付します。
- 時間がかかる:請求してから開示決定まで、原則として30日以内とされています。急いでいる場合には注意が必要です。
手続きの流れと必要書類
開示請求も、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署で行います。郵送での請求も可能です。必要書類は以下の通りです。
| 書類の種類 | 具体的な内容 |
| 保有個人情報開示請求書 | 国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。 |
| 開示請求手数料 | 300円分の収入印紙を請求書に貼り付けます。 |
| 本人確認書類 | 運転免許証のコピー、住民票の写し(発行後30日以内のもの)など。 |
| 相続関係を証明する書類 | 閲覧サービスと同様に、戸籍謄本などが必要です。 |
開示までにかかる期間
開示請求を行うと、税務署は原則として30日以内に開示するかどうかの決定をし、その結果を書面で通知します。その後、窓口で写しを受け取るか、郵送で送ってもらうことになります。準確定申告や相続税申告には期限がありますので、開示請求を利用する場合は、余裕を持ったスケジュールで手続きを進めることが大切です。
こんな時は特に過去の申告内容の確認を!
相続の状況によっては、過去の申告内容の確認が特に重要になるケースがあります。ご自身の状況が当てはまらないか、チェックしてみてください。
相続時精算課税制度を利用していた可能性がある場合
相続時精算課税制度は、生前贈与の際に選択できる制度で、2,500万円までの贈与が非課税になります。しかし、この制度を使って贈与された財産は、相続が発生したときにすべて相続財産に持ち戻して相続税を計算しなくてはなりません。もし被相続人がこの制度を利用していたか不明な場合や、贈与額がわからない場合は、過去の贈与税申告書を確認することが不可欠です。
相次相続控除を適用したい場合
お父様が亡くなった後、10年以内にお母様も亡くなられた、というように短期間に相続が続いた場合、相次相続控除という税額控除が受けられる可能性があります。この控除額は、前回の相続で支払った相続税額を基に計算されるため、前回の相続税申告書の内容が必ず必要になります。控えが見つからない場合は、閲覧サービスや開示請求を利用して確認しましょう。
生前贈与の状況がわからない場合
被相続人が生前に誰に、いつ、いくら贈与したか正確にわからない、というケースは少なくありません。しかし、相続開始前3年(将来的に7年)以内の暦年贈与は、相続財産に加算して相続税を計算する「生前贈与加算」の対象となります。贈与税の申告書を確認することで、こうした加算漏れを防ぎ、後々の税務調査で指摘されるリスクを減らすことができます。
まとめ
今回は、被相続人の確定申告書の内容を知るための方法について解説しました。相続手続きはただでさえ複雑で、心身ともに大変な時期かと思います。そんな中で、申 dearest 控えが見つからないと焦ってしまいますよね。
まずは落ち着いて、申告書の控えを探してみてください。見つからない場合は、税務署の「申告書等閲覧サービス」や「保有個人情報の開示請求」といった公的な制度を利用すれば、過去の申告内容を確実に確認することができます。どちらの制度を利用するかは、手数料の有無や申告書の写しが必要かどうか、手続きにかけられる時間などを考慮して選ぶと良いでしょう。
準確定申告や相続税申告には期限があります。手続きには戸籍謄本を集めるなど時間もかかりますので、必要だと分かった時点ですぐに行動を始めることが大切です。もし手続きが難しいと感じたり、相続税申告も必要で不安な点が多い場合は、税理士などの専門家に相談することも検討してみてくださいね。
参考文献
国税庁|No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
被相続人の確定申告書に関するよくある質問まとめ
Q.亡くなった人(被相続人)の過去の確定申告書はどこで確認できますか?
A.被相続人の最後の住所地を管轄する税務署で「保有個人情報開示請求」という手続きを行うことで、過去の確定申告書の内容を確認できます。
Q.被相続人の確定申告書の控えが見つからない場合はどうすればいいですか?
A.税務署で「申告書等閲覧サービス」を利用するか、写しの交付が必要な場合は「保有個人情報開示請求」を行います。相続人であれば手続きが可能です。
Q.確定申告書の開示請求は誰でもできますか?
A.いいえ、誰でもできるわけではありません。請求できるのは、原則として法定相続人に限られます。手続きの際に、相続人であることを証明する戸籍謄本などが必要になります。
Q.確定申告書の開示請求にはどのような書類が必要ですか?
A.一般的に、開示請求書、本人確認書類(運転免許証など)、相続関係を証明する戸籍謄本、手数料(収入印紙)などが必要です。詳しくは管轄の税務署にご確認ください。
Q.被相続人の確定申告書の内容から何がわかりますか?
A.所得の種類や金額、所得控除の内訳、生命保険料や医療費の支払い状況などがわかります。不動産所得や事業所得の有無など、遺産を把握するための重要な手がかりになります。
Q.開示請求の手続きにはどれくらいの時間がかかりますか?
A.請求してから開示決定まで、通常30日程度の期間がかかります。書類に不備がある場合などはさらに時間がかかることもあるため、余裕をもって手続きをすることをおすすめします。