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不整形地の補正率調整、低い方を選ぶのはなぜ?計算の趣旨を徹底解説

2025-11-08
目次

相続税申告で土地を評価するとき、不整形地は評価額が下がることがあります。その計算で「不整形地補正率×間口狭小補正率」と「間口狭小補正率×奥行長大補正率」の低い方を選ぶ場面がありますよね。なぜこのような複雑な計算をするのでしょうか?今回は、その計算の趣旨や具体的な方法を、相続税に詳しくない方でもわかるように、優しく解説していきます。

不整形地の評価額を下げる「画地補正」とは?

相続税を計算する際、土地の評価は非常に重要です。特に、形が整っていない「不整形地」は、正方形や長方形の「整形地」と比べて使い勝手が悪いため、評価額を減額できる仕組みがあります。これを「画地補正(かくちほせい)」と呼びます。画地補正にはいくつかの種類があり、土地の個性に応じて適切に適用することで、相続税の負担を軽減できるんですよ。

不整形地補正率

不整形地補正率は、土地の形がいびつであることによる利用価値の低下を評価額に反映させるための補正率です。土地の形が複雑であるほど、評価額はより大きく減額されます。この補正率は最大で40%(補正率0.60)も評価額を下げることができる、とても重要な補正なんです。

間口狭小補正率

間口、つまり道路に接している部分の幅が狭い土地も、車の出し入れがしにくかったり、建物の配置に制限が出たりして使い勝手が悪くなります。このような土地の評価額を下げるのが「間口狭小補正率」です。例えば、普通住宅地区で間口が4m未満の場合、評価額を10%(補正率0.90)減額できます。

奥行長大補正率

間口の幅に対して奥行きが極端に長い、いわゆる「うなぎの寝床」のような土地も、奥の部分が有効活用しにくいため評価が下がります。この補正が「奥行長大補正率」です。普通住宅地区で、奥行きが間口の2倍以上ある場合に適用され、最大で10%(補正率0.90)評価額を減額できます。

なぜ低い方の計算結果を選ぶの?計算の趣旨を解説

ここからが本題です。不整形地の評価では、「不整形地補正率 × 間口狭小補正率」と「間口狭小補正率 × 奥行長大補正率」の2つの計算を行い、その結果のいずれか低い方を最終的な補正率として採用します。これは、土地の価値を下げる要因が重複している部分を適切に評価するためなんです。少し難しいかもしれませんが、一つずつ見ていきましょう。

土地のマイナス要因を二重に評価しないため

不整形地は、形がいびつであると同時に、間口が狭かったり、奥行きが長すぎたりすることがよくあります。つまり、「不整形であること」と「間口が狭いこと」や「奥行きが長いこと」というマイナス要因が、互いに影響し合っている状態です。もし、これらの補正率を単純にすべて掛け合わせてしまうと、同じマイナス要因を二重、三重に評価してしまい、過度に評価額を下げすぎてしまう可能性があります。それを防ぐために、どちらか影響の大きい(=評価額が低くなる)方を採用するというルールになっているのです。

「不整形地補正率」と「奥行長大補正率」は併用できない

国税庁のルールでは、「不整形地補正率」と「奥行長大補正率」は併用できないことになっています。なぜなら、「奥行きが長大である」という土地の形状は、「不整形である」という評価の中にすでに含まれていると考えられるからです。奥行きが長い土地は、それ自体が不整形な土地の一種とみなされるんですね。そのため、この2つの補正率を同時に適用することはできず、どちらか一方(より有利な方)を選択する必要があるのです。

間口狭小補正率は両方の計算に含まれる理由

一方で、「間口狭小補正率」はどちらの計算にも含まれています。これは、「間口が狭い」というマイナス要因は、「不整形であること」や「奥行きが長いこと」とは独立した、別の減価要因だと考えられているためです。間口が狭いことは、土地の利用価値を直接的に大きく下げる要因なので、不整形地補正や奥行長大補正と組み合わせて評価することが認められています。

具体的な計算方法を見てみよう

それでは、実際の計算の流れを見ていきましょう。前提として、土地の評価額は「路線価 × 各種補正率 × 面積」で計算します。ここでは、各種補正率の部分をどう計算するかに焦点を当てます。

ステップ1:各補正率を調べる

まず、評価対象の土地について、以下の3つの補正率を国税庁の補正率表から調べます。

  • 不整形地補正率
  • 間口狭小補正率
  • 奥行長大補正率

それぞれの補正率は、土地の地区区分(普通住宅地区など)や面積、形状によって細かく定められています。

ステップ2:2通りの計算を行う

次に、調べた補正率を使って、以下の2つの計算をします。

  • 計算A:不整形地補正率 × 間口狭小補正率
  • 計算B:間口狭小補正率 × 奥行長大補正率

例えば、不整形地補正率が0.85、間口狭小補正率が0.94、奥行長大補正率が0.96だったとします。

  • 計算A:0.85 × 0.94 = 0.799
  • 計算B:0.94 × 0.96 = 0.9024

ステップ3:低い方の数値を採用する

最後に、ステップ2で計算した2つの数値(AとB)を比べて、低い方の数値を最終的な補正率として採用します

  • 計算A(0.799) < 計算B(0.9024)

この例では、計算Aの方が低いので、最終的に適用する補正率は「0.799」となります。ただし、計算結果が0.60を下回る場合は、下限である0.60を適用します。これは、評価額が下がりすぎないようにするためのルールです。

計算例で理解を深めよう

具体的な土地を想定して、計算してみましょう。

  • 地区区分:普通住宅地区
  • 面積:300㎡
  • かげ地割合:40%
  • 間口:5m
  • 奥行:60m
  • 路線価:200,000円/㎡

各補正率の算出

まず、それぞれの補正率を補正率表から求めます。

補正率の種類 数値
不整形地補正率 普通住宅地区、地積区分A、かげ地割合40% → 0.85
間口狭小補正率 普通住宅地区、間口5m → 0.94
奥行長大補正率 奥行60m ÷ 間口5m = 12倍。普通住宅地区、8倍以上 → 0.90

2つの計算と比較

次に、2パターンの計算をします。

  • 計算A:不整形地補正率(0.85) × 間口狭小補正率(0.94) = 0.799
  • 計算B:間口狭小補正率(0.94) × 奥行長大補正率(0.90) = 0.846

計算A(0.799)の方が低いので、こちらを採用します。

最終的な土地の評価額

最終的な土地の評価額は以下のようになります。

  • 路線価(200,000円) × 採用した補正率(0.799) × 面積(300㎡) = 47,940,000円

もし、この補正をしなかった場合(整形地として評価した場合)は、200,000円 × 300㎡ = 60,000,000円なので、大幅に評価額を下げられていることがわかりますね。

注意点:すべての不整形地でこの計算が必要なわけではない

ここまで解説してきた計算方法は、不整形地であり、かつ間口が狭く、さらに奥行きも長い、という複数のマイナス要因を持つ土地で必要になります。

例えば、単に不整形なだけで間口や奥行きに問題がない土地の場合は、不整形地補正率だけを適用します。また、不整形で間口が狭いけれど奥行きは長くない、という土地の場合は、「不整形地補正率 × 間口狭小補正率」の計算のみを行います。土地の状況に応じて、適用する補正率が変わってくるので注意が必要ですね。

まとめ

今回は、不整形地の評価で「不整形地補正率×間口狭小補正率」と「間口狭小補正率×奥行長大補正率」の低い方を選ぶ理由について解説しました。

この計算の趣旨は、土地の価値を下げる複数の要因が重なっている場合に、評価額を過度に下げすぎないように調整するためでしたね。土地の評価は非常に専門的で、どの補正を適用するかで相続税額が大きく変わってきます。もしご自身の相続で不整形地があり、評価に不安を感じる場合は、相続税に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。正しい評価で、適切な相続税申告を行いましょう。

参考文献

国税庁 タックスアンサー No.4602 土地家屋の評価

国税庁 不整形地の評価

不整形地の補正率計算に関するよくある質問

Q.不整形地の評価で、なぜ2つの計算式のうち低い方を選ぶのですか?

A.土地の利用価値を最も下げている要因を重視し、評価をより実態に近づけるためです。特に間口が狭いという制約がある場合、不整形や奥行長大といった他のマイナス要因と比較し、より厳しい(補正率が低い)方を適用します。

Q.「不整形地補正率×間口狭小補正率」の計算は何を意味しますか?

A.土地が「不整形であること」と「間口が狭いこと」の2つのマイナス要因を掛け合わせて評価したものです。土地の形と入口の狭さが、複合的に利用価値を下げている度合いを示します。

Q.「間口狭小補正率×奥行長大補正率」の計算は何を意味しますか?

A.土地が「間口が狭いこと」と「奥行きが長すぎること」の2つのマイナス要因を掛け合わせて評価したものです。入口が狭く奥に細長い、いわゆる「うなぎの寝床」のような土地の使いにくさを示します。

Q.この計算方法は、すべての不整形地に適用されるのですか?

A.いいえ、間口が狭く、かつ奥行きが標準的な長さを超える不整形地など、特定の条件を満たす場合にのみ適用される計算方法です。

Q.低い方の補正率を選ぶと、土地の評価額はどうなりますか?

A.評価額は低くなります。補正率は1.0より低い数値で、値が小さいほど評価額が大きく減額されます。より低い補正率を選ぶことは、より大きく評価額を下げることを意味します。

Q.この計算の趣旨を簡単に教えてください。

A.間口が狭い土地の「使いにくさ」を適正に評価するための調整です。不整形であることの不利さと、奥行きが長すぎることの不利さを比べ、より土地の価値を下げている方を採用することで、過大評価を防ぐ目的があります。

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