一度、相続税の申告を済ませた後に、遺留分侵害額請求によって相続財産が変わってしまったら…。「払い過ぎた税金は戻ってくるの?」「追加で税金を納める必要があるの?」と不安になりますよね。遺留分侵害額請求で勝って財産が増えた場合、負けて減ってしまった場合、それぞれで必要な手続きは異なります。このブログでは、そんなもしもの時に慌てないための準備や手続きについて、わかりやすく解説していきます。
遺留分侵害額請求ってそもそも何?
「遺留分(いりゅうぶん)」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、親など)に法律で保障されている、最低限の遺産の取り分のことです。たとえば、遺言書に「全財産を長男に相続させる」と書かれていた場合でも、他の相続人は自身の遺留分を主張できます。
この遺留分が侵害されているときに、侵害された分のお金を請求することを「遺留分侵害額請求」といいます。2019年7月の民法改正で、以前の「遺留分減殺請求」から名称が変わり、原則として不動産などの現物ではなく、金銭で解決することになりました。この請求が行われると、一度確定したはずの各相続人の財産額が変動するため、相続税の申告にも影響が出てくるのです。
申告後の遺留分請求…相続税はどうなるの?
相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行うのが原則です。もし、この申告期限後に遺留分侵害額請求によって財産の分け方が変わった場合、どうなるのでしょうか。
多くの場合、遺産全体の総額は変わりません。変わるのは、「誰が」「どれだけ」の財産を取得したかという割合です。そのため、相続税の総額は同じでも、各相続人が負担すべき税額が変わってきます。この差額を調整するために、税務署に対して手続きを行う必要があるのです。
遺留分請求で負けた!相続財産が減った場合の手続き
遺留分侵害額請求をされて、相手に金銭を支払うことになった…つまり、相続財産が減ってしまった場合ですね。この場合、当初の申告で納めた相続税は、本来納めるべき額よりも多くなっている可能性があります。払い過ぎた税金は、手続きをすることで取り戻すことができます。
払い過ぎた相続税を取り戻す「更正の請求」
払い過ぎた税金を返してもらうための手続きを「更正の請求」といいます。これは、税務署に対して「申告内容に間違いがあったので、正しい税額に直して、払い過ぎた分を返してください」とお願いする手続きです。請求が認められれば、差額の税金が還付されます。
「更正の請求」の期限はいつまで?
この手続きには期限があります。とても重要なのでしっかり覚えておきましょう。
更正の請求ができるのは、遺留分侵害額が確定したこと(例:当事者間の合意が成立した日、調停が成立した日など)を知った日の翌日から4か月以内です。この期間を過ぎてしまうと、払い過ぎた税金を取り戻せなくなってしまう可能性があるので、速やかに手続きを進めることが大切です。
「更正の請求」で準備すべきものリスト
更正の請求を行う際に、一般的に必要となる書類は以下の通りです。事前に準備しておくとスムーズに進みますよ。
| 準備すべきもの | 説 明 |
| 相続税の更正の請求書 | 税務署の窓口や国税庁のホームページから入手できます。 |
| 遺留分侵害額が確定したことを証明する書類 | 当事者間で作成した合意書の写しや、家庭裁判所の調停調書の謄本などです。 |
| 当初の相続税申告書の控え | どの部分を訂正するのかを明確にするために必要です。 |
遺留分請求で勝った!相続財産が増えた場合の手続き
次に、遺留分侵害額請求をして、相手から金銭を受け取った…つまり、相続財産が増えた場合です。この場合は、当初の申告で納めた税額、あるいは当初申告義務がなかった場合でも、追加で相続税を納める必要が出てきます。
追加で相続税を納める「修正申告」または「期限後申告」
相続財産が増えたことで追加の税金を納める手続きは、当初の申告状況によって名前が変わります。
- 修正申告:当初、相続税申告書を提出していて、税額が増える場合に行います。
- 期限後申告:当初は財産が基礎控除以下で申告していなかったけれど、遺留分を受け取ったことで申告義務が発生した場合に行います。
どちらの手続きになるかはご自身の状況によりますが、いずれも増えた財産に対応する税金を正しく納めるための大切な手続きです。
「修正申告」の期限とペナルティについて
こちらも期限が重要です。財産が減った場合と同様に、遺留分侵害額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に修正申告(または期限後申告)と納税を行えば、通常、申告が遅れた場合にかかる延滞税などのペナルティはかかりません。しかし、この期間を過ぎてしまうとペナルティが課される可能性があるので、こちらも速やかに行いましょう。
「修正申告・期限後申告」で準備すべきものリスト
修正申告や期限後申告で準備するものは、以下の通りです。
| 準備すべきもの | 説 明 |
| 相続税の修正申告書(または期限後申告書) | 税務署の窓口や国税庁のホームページから入手できます。 |
| 遺留分侵害額が確定したことを証明する書類 | 合意書の写しや、調停調書の謄本などです。 |
| 当初の相続税申告書の控え(修正申告の場合) | 当初の申告内容を基に作成するために必要です。 |
手続きをしなくても良いケースもある?
実は、必ずしも全員が税務署で手続きをしなければならないわけではありません。相続人同士の話し合いで、お互いの相続税負担分を直接精算するという方法もあります。
例えば、財産が減ったAさんが、財産が増えたBさんの代わりに相続税を追加で支払い、その分をBさんから受け取る遺留分侵害額から差し引いて調整する、といったケースです。相続税の総額は変わらないため、税務署から見れば誰が納付しても問題ない、という考え方です。
当事者間で税額を精算する場合の注意点
この方法は、税務署での手続きが不要になるため手間が省けるように思えますが、注意点もあります。
まず、精算する税額の計算が正確でなければ、後で「金額が違う」といったトラブルになりかねません。また、口約束だけでなく、誰がいくら負担するのかを明確にした合意書を作成しておくことが非常に重要です。後々のトラブルを防ぐためにも、書面での記録は必ず残しましょう。
配偶者の税額軽減を使っている場合は注意!
特に注意が必要なのが、配偶者の税額の軽減(配偶者控除)の特例を使っているケースです。この特例は、配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税がかからないというものです。
もし、この特例の適用を受けていた配偶者が遺留分侵害額を支払った場合、配偶者が取得した財産額が減ることになります。その結果、配偶者控除の額が変わり、相続税の総額自体が変動してしまう可能性があります。このような場合は、当事者間での精算だけでは済まず、必ず税務署での手続き(更正の請求や修正申告)が必要になります。
まとめ
一度相続税申告を終えた後でも、遺留分侵害額請求によって相続財産が変動することはあり得ます。その際は、慌てずにご自身の状況を確認することが大切です。
● 相続財産が減った人 → 払い過ぎた税金を返してもらう「更正の請求」
● 相続財産が増えた人 → 追加で税金を納める「修正申告」または「期限後申告」
どちらの手続きも、原則として遺留分侵害額が確定した日の翌日から4か月以内に行う必要があります。この期限内に手続きをすれば、ペナルティの心配もありません。もし手続きに不安を感じたり、計算が複雑で難しいと感じたりした場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。正しい手続きで、後々のトラブルがないようにしましょう。
参考文献
遺留分請求後の相続税申告に関するよくある質問まとめ
Q. 遺留分侵害請求で金銭を支払い、相続財産が減りました。一度納めた相続税は還付されますか?
A. はい、還付される可能性があります。「更正の請求」という手続きを税務署に行うことで、払い過ぎた相続税を返してもらうことができます。
Q. 遺留分侵害請求によって金銭を受け取り、相続財産が増えました。どのような手続きが必要ですか?
A. 増えた財産に対して追加で相続税を納める「修正申告」が必要です。申告と納税を速やかに行いましょう。
Q. 払い過ぎた相続税の還付を受ける「更正の請求」は、いつまでに行えばよいですか?
A. 遺留分侵害額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内です。通常の更正の請求期限(法定申告期限から5年)とは異なるため、期限に注意してください。
Q. 追加で相続税を納める「修正申告」の期限はいつですか?
A. 遺留分侵害額が確定し、財産を受け取ったことを知った日の翌日から10か月以内です。この期限を過ぎると延滞税などがかかる場合があります。
Q. 「更正の請求」や「修正申告」で準備すべきものは何ですか?
A. 一般的に、当初の相続税申告書の控え、遺留分侵害額の支払い・受け取りが確定したことを証明する書類(例:裁判の判決書、和解調書、当事者間の合意書など)が必要になります。
Q. 遺留分を支払ったのに、受け取った相手が修正申告をしてくれません。私の還付手続きはできますか?
A. 相手方の手続き状況に関わらず、ご自身の「更正の請求」は可能です。遺留分を支払ったことを証明する客観的な資料を揃えて、税務署に還付手続きを進めてください。