もし、ご自身やご家族が「がん」と診断されたら、治療内容とともに「費用はどれくらいかかるんだろう?」と不安に思いますよね。がん治療は高額なイメージがありますが、実は日本の公的医療保険制度には、私たちの負担を大きく軽くしてくれる仕組みがあります。この記事では、がん治療にかかる費用の平均額から、治療法別の具体的な金額、そして必ず知っておきたい公的制度まで、優しく分かりやすく解説していきます。いざという時に慌てないために、正しい知識を一緒に学んでいきましょう。
がん治療で実際にかかる費用の内訳
がん治療にかかる費用は、病院で支払う治療費だけではありません。大きく分けて「公的医療保険が適用される費用」と「適用されない費用」の2種類があり、それぞれを理解しておくことが大切です。
公的医療保険が適用される費用
まず、がん治療の中心となる部分の多くは、公的医療保険の対象となります。これには、診察、検査、手術、放射線治療、抗がん剤治療などの費用が含まれます。私たちは保険証を提示することで、これらの医療費の原則3割(年齢や所得によって1〜2割)を自己負担すればよいことになっています。例えば、医療費の総額が100万円だったとしても、窓口で支払うのは30万円になる、という仕組みですね。
公的医療保険が適用されない費用
一方で、公的医療保険が適用されず、全額自己負担となる費用もあります。代表的なものは以下の通りです。
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- 先進医療の技術料:厚生労働省が認めた高度な医療技術ですが、技術料そのものは全額自己負担です。例えば、重粒子線治療や陽子線治療などがこれにあたり、数百万円かかることもあります。
– 差額ベッド代:希望して個室や少人数の病室に入院した場合にかかる費用です。1日あたり数千円から数万円かかることもあります。
- 入院中の食事代:入院中の食事代の一部(1食490円 ※標準的な場合)は自己負担となります。
- その他の雑費:通院のための交通費、入院中の日用品やパジャマ代、ご家族がお見舞いに来るための費用など、治療以外にも様々な費用がかかります。
近年のがん治療の傾向と費用の考え方
最近のがん治療は、医療技術の進歩により、入院日数が短くなる傾向にあります。その一方で、通院での抗がん剤治療や放射線治療が増え、治療期間が長期化することも珍しくありません。入院が短くなるのは嬉しいことですが、通院回数が増えるとその分交通費がかさみますし、副作用で仕事に行けない日が増えれば収入への影響も心配になります。治療費だけでなく、こうした生活に関わる費用も含めて、トータルでどれくらいかかるのかを考えておくことが大切なんです。
【部位・治療法別】がん治療にかかる費用の目安
「がん治療」と一言でいっても、がんの種類(部位)や進行度、選択する治療法によって費用は大きく異なります。ここでは、具体的な数字を見ながら、どれくらいの費用がかかるのかイメージを掴んでいきましょう。
部位別に見る1入院あたりの治療費の平均
がんの種類によって、入院した場合の医療費は変わってきます。以下は、主な部位별の1入院あたりの医療費総額(10割)と、私たちが窓口で支払う自己負担額(3割)の目安をまとめた表です。(※あくまで平均的なデータであり、実際の費用は個々の状況で異なります。)
| がんの部位 | 医療費総額(10割)の目安 |
| 胃がん | 約69万円 |
| 肺がん | 約73万円 |
| 乳がん | 約62万円 |
| 大腸がん(結腸・直腸) | 約70万円~80万円 |
| 肝がん | 約67万円 |
※上記の金額は医療費の総額です。実際の窓口負担は、この金額の3割(後期高齢者などは1~2割)になります。例えば、胃がんの場合、約69万円の3割で約21万円が自己負担の目安となります。ただし、後ほど説明する「高額療養費制度」を使えば、この負担はさらに軽くなります。
手術にかかる費用
がん治療の基本となる手術も、部位や手術の方法によって費用が異なります。内視鏡を使った体への負担が少ない手術も増えていますが、開腹手術など大きな手術になると費用も高くなる傾向があります。例えば、乳がんの温存手術で約30万円(3割負担)、胃がんの切除術で約20万円~50万円(3割負担)などが目安として挙げられます。
薬物療法(抗がん剤治療)にかかる費用
薬物療法(抗がん剤治療)は、新しい薬が次々と開発されており、使う薬の種類や治療期間によって費用が大きく変動します。通院で行うことが多く、1回の治療で数万円の自己負担がかかることも少なくありません。また、保険適用外の薬剤を使用する場合は、治療費が数百万円にのぼる可能性もあります。
放射線治療にかかる費用
放射線治療も、照射する回数や方法によって費用が変わります。一般的な放射線治療(外部照射)であれば、公的医療保険が適用されます。例えば、乳がんの術後に25回程度の照射を行った場合、自己負担額は約18万円~21万円程度が目安です。ただし、重粒子線治療や陽子線治療といった先進医療に該当する放射線治療を受ける場合、技術料として約300万円前後が全額自己負担となるため、高額な備えが必要になります。
知っておきたい!がん治療の自己負担を軽くする公的制度
がん治療の費用を聞いて、「そんなに払えないかも…」と心配になった方もいるかもしれません。でも、安心してください。日本には、高額な医療費による家計への負担を和らげるための、素晴らしい公的制度がいくつもあります。これを知っているかどうかで、経済的な安心感が大きく変わりますよ。
高額療養費制度
高額療養費制度は、医療費の自己負担を軽くするための最も重要な制度です。これは、1ヶ月(1日から末日まで)に支払った医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分が後から払い戻される仕組みです。事前に「限度額適用認定証」を病院の窓口に提出しておけば、支払いを上限額までに抑えることもできます。
例えば、年収が約370万円~約770万円の方の場合、1ヶ月の自己負担上限額は以下の式で計算されます。
80,100円 + (かかった医療費の総額 – 267,000円) × 1%
仮に、1ヶ月の医療費総額が100万円だったとしても、自己負担額は87,430円で済むのです。さらに、過去12ヶ月以内に3回以上上限額に達した場合は、4回目からは上限額がさらに引き下げられる「多数回該当」という仕組みもあります。がん治療のように治療が長引く場合には、とても心強い制度ですね。
傷病手当金
傷病手当金は、会社員や公務員の方が加入する健康保険の制度です。病気やケガの治療のために会社を休み、お給料がもらえない場合に、生活を支えるために支給されます。連続して3日間休んだ後の4日目から、最長で1年6ヶ月間、おおよそお給料の3分の2が支給されます。がん治療で入院したり、副作用で働けなくなったりした場合の収入減をカバーしてくれる、大切な制度です。ただし、自営業の方などが加入する国民健康保険には、この制度はありませんので注意が必要です。
医療費控除
医療費控除は、税金の負担を軽くしてくれる制度です。1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費の合計が原則10万円(総所得金額等が200万円未満の場合はその5%)を超えた場合に、確定申告をすることで、所得税や住民税が還付・軽減されます。ご自身の医療費だけでなく、生計を一つにする家族の分も合算できます。通院にかかった交通費(公共交通機関)なども対象になるので、領収書はしっかり保管しておきましょう。
治療中の収入減少にも目を向けよう
がん治療について考えるとき、どうしても治療費そのものに目が行きがちですが、同じくらい大切になるのが「治療中の収入の減少」です。治療と仕事の両立は、想像以上に大変なこともあります。家計を守るためにも、この問題についてもしっかり考えておきましょう。
治療と仕事の両立の難しさ
最近は通院で治療を続けられるケースが増えていますが、だからといって今まで通りに働けるとは限りません。抗がん剤治療の副作用で体調が優れなかったり、定期的な通院のために仕事を休まざるを得なかったりすることもあります。会社員の方であれば有給休暇を使ったり、先ほどご紹介した傷病手当金を利用したりできますが、自営業やフリーランスの方は、働けない期間は直接収入の減少につながってしまいます。
収入減による家計への影響
傷病手当金が支給されたとしても、受け取れるのはお給料の約3分の2です。収入が減る一方で、治療費や交通費などの支出は増えるため、家計のバランスが崩れてしまう可能性があります。治療に専念するためにも、こうした収入減をどうカバーするかを事前に考えておくことが、とても重要になります。貯蓄を切り崩すのか、あるいは民間の保険で備えるのか、ご自身の状況に合わせて対策を検討しましょう。
公的制度だけでは不十分?民間保険の役割
高額療養費制度などの公的制度は非常に手厚いですが、残念ながらがん治療にかかるすべての費用をカバーしてくれるわけではありません。公的制度で足りない部分を補い、より安心して治療に専念するために、民間の保険、特に「がん保険」が大きな役割を果たしてくれます。
がん保険で備えられること
がん保険は、その名の通り「がん」に特化した保険で、がん治療を手厚くサポートしてくれます。主な保障には以下のようなものがあります。
- 診断一時金(診断給付金):がんと診断が確定した時点で、まとまった一時金(例:100万円など)を受け取れます。使い道は自由なので、当面の治療費はもちろん、収入が減ってしまった分の生活費に充てることもでき、精神的な安心につながります。
- 入院・通院給付金:がん治療のための入院や通院に対して、1日あたりいくら、という形で給付金が支払われます。最近の通院治療の増加に合わせて、通院保障が手厚いプランも増えています。
- 手術・放射線・抗がん剤治療給付金:がんの三大治療(手術、放射線治療、抗がん剤治療)を受けた際に、給付金を受け取れます。
- 先進医療特約:全額自己負担となる先進医療を受けた場合に、その技術料を保障してくれます。数百万円かかることもある先進医療の費用をカバーできるので、治療の選択肢が広がります。
医療保険との違い
「医療保険に入っているから、がん保険は要らないのでは?」と思う方もいるかもしれません。医療保険は、病気やケガ全般の入院・手術を広くカバーする保険です。一方、がん保険は保障範囲をがんに絞っている分、診断一時金など、がんならではの手厚い保障が受けられます。また、医療保険の入院給付金には支払日数に上限(例:1入院60日までなど)があることが多いですが、がん保険は日数無制限で保障されることが多く、治療が長期化しやすいがん治療に適しています。それぞれの特徴を理解して、ご自身に必要な保障を組み合わせることが大切です。
まとめ
今回は、「がん治療にどれくらいかかるか」というテーマについて、具体的な費用の目安から、負担を軽くするための公的制度、そして民間の保険の役割までを詳しく見てきました。がん治療には確かにお金がかかりますが、高額療養費制度をはじめとする公的制度を上手に活用すれば、自己負担額を大きく抑えることができます。まずは、こうした心強い制度があることを知り、安心することが第一歩です。その上で、公的保険ではカバーしきれない先進医療の費用や、治療中の収入減少にどう備えるかをご自身のライフプランに合わせて考えてみてください。そのための選択肢として、貯蓄やがん保険があります。この記事が、万が一の時に備え、お金の不安なく安心して治療に専念するための一助となれば幸いです。
参考文献
がん治療の費用に関するよくある質問まとめ
Q.がん治療の費用は総額でどれくらいかかりますか?
A.がんの種類や進行度、治療法によって大きく異なりますが、公的医療保険を利用した場合の自己負担額は年間数十万円から100万円以上になることが多いです。高額療養費制度の利用でさらに負担を軽減できます。
Q.がん治療は健康保険(公的医療保険)が適用されますか?
A.はい、手術や放射線治療、抗がん剤治療など、国が承認した標準的な治療の多くは健康保険が適用されます。自己負担割合は年齢や所得に応じて1割から3割となります。
Q.高額療養費制度とはどのような制度ですか?
A.医療機関や薬局で支払った医療費が、ひと月で上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。上限額は年齢や所得によって定められており、経済的負担を大きく軽減できます。
Q.保険適用外の治療(先進医療など)にはどれくらい費用がかかりますか?
A.先進医療や自由診療は全額自己負担となり、治療法によっては数百万円から1,000万円以上かかることもあります。先進医療の技術料は高額ですが、民間の医療保険でカバーできる場合があります。
Q.治療費以外にかかる費用はありますか?
A.はい、通院のための交通費や宿泊費、差額ベッド代、食事代、ウィッグの購入費、ご家族のサポート費用など、治療費以外にも様々な費用がかかることがあります。
Q.がん治療費の支払いが難しい場合、どうすればよいですか?
A.まずは病院のがん相談支援センターやソーシャルワーカーに相談しましょう。高額療養費制度の利用や、公的な貸付制度、医療費控除など、利用できる制度についてアドバイスをもらえます。