がんの治療法として耳にすることが多い「抗がん剤治療」。もし自分や家族が受けることになったら、どんな治療で、どれくらいの費用がかかるのか、不安に感じますよね。特に治療が長引くこともあるため、経済的な負担は大きな心配事だと思います。この記事では、抗がん剤治療の基本的な知識から、1回あたりの具体的な費用、そしてその負担を少しでも軽くするための公的な制度について、わかりやすく解説していきます。お金の心配を減らして、安心して治療に専念するためにも、ぜひ参考にしてくださいね。
抗がん剤治療ってどんな治療?
抗がん剤治療とは、お薬を使ってがん細胞が増えるのを抑えたり、破壊したりする治療法です。手術や放射線治療ががんのある部分だけを狙う「局所治療」なのに対して、抗がん剤は血液に乗って全身に広がるため「全身治療」と呼ばれています。目に見えない小さながん細胞にも効果が期待できるのが特徴です。
抗がん剤治療の目的
抗がん剤治療は、がんの種類や進行度、患者さんの体の状態によって、さまざまな目的で行われます。
- 根治を目指すため:白血病や悪性リンパ腫など、一部のがんでは抗がん剤治療だけで完治を目指せます。また、手術や放射線治療と組み合わせて、治療効果を高める目的でも使われます。
- 再発や転移を防ぐため:手術で目に見えるがんを取り除いた後も、体の中に残っているかもしれない小さながん細胞をなくし、再発を防ぐために行われます。
- がんの進行を抑え、症状を和らげるため:がんが進行して手術が難しい場合でも、抗がん剤でがんの成長を遅らせたり、小さくしたりすることで、痛みなどのつらい症状を軽くする効果が期待できます。
抗がん剤治療の主な副作用
抗がん剤はがん細胞だけでなく、分裂が活発な正常な細胞にも影響を与えてしまうため、副作用が出ることがあります。副作用の種類や程度は、使うお薬や人によってさまざまですが、代表的なものには以下のようなものがあります。
- 吐き気、嘔吐
- 脱毛
- 口内炎
- 倦怠感(だるさ)
- 下痢や便秘
- 白血球の減少(感染しやすくなる)
- 手足のしびれ
最近では、副作用を軽くするためのお薬も進歩しているので、つらい症状があれば我慢せず、医師や看護師に相談することが大切です。
治療は入院?それとも通院?
以前は入院して行うことが多かった抗がん剤治療ですが、最近では副作用を抑えるお薬の進歩などにより、通院で治療を受けるケースが増えています。治療当日に病院へ行き、数時間かけて点滴を受け、終わったら帰宅するという流れが一般的です。ただし、初めての治療で体の変化を慎重に見る必要がある場合や、副作用が強く出た場合、また、使うお薬の種類によっては入院が必要になることもあります。
抗がん剤治療、1回あたりの費用はどれくらい?
一番気になるのが費用ですよね。抗がん剤治療の費用は、がんの種類や進行度、使用する薬剤、治療期間によって大きく異なります。ここでは、あくまで一例として、肺がんと乳がんの場合の費用を見ていきましょう。ご自身の状況とは異なる場合があるため、正確な金額は必ず医療機関にご確認ください。
【例】肺がんの抗がん剤治療費
肺がんの治療で使われる薬は多岐にわたります。以下は治療法ごとの費用の目安です(公的医療保険が適用され、自己負担が3割の場合)。
| 治療法 | 1回または1か月あたりの自己負担額(3割)の目安 |
|---|---|
| プラチナ併用療法(3〜4週間ごと) | 約1万円~6万円 |
| 分子標的治療薬(4週間ごと) | 約2万円~23万円 |
| 免疫チェックポイント阻害薬(1回) | 約9万円~17万円 |
※上記は薬剤費の目安です。別途、診察料や検査料がかかります。
【例】乳がんの抗がん剤治療費
乳がんも、がんのタイプによって使われる薬剤が異なります。術後の再発予防として行われる代表的な治療法の費用目安は以下の通りです。
| 治療法(レジメン) | 1回あたりの自己負担額(3割)の目安 |
|---|---|
| EC療法(3週間ごと) | 約2万5,000円 |
| FEC療法(3週間ごと) | 約3万円 |
| パクリタキセル+トラスツズマブ(ハーセプチン)療法(3週間ごと) | 約13万円 |
※上記は薬剤費の目安です。別途、診察料や検査料がかかります。
薬剤費以外にかかる費用
がん治療では、高額な薬剤費のほかにもさまざまな費用がかかります。
- 診察料・検査料:治療の前後には、血液検査やCT検査などが行われます。
- 入院費:入院した場合は、入院基本料や食事代がかかります。個室などを希望した場合は、差額ベッド代も必要です。
- 交通費:通院治療の場合、病院までの交通費も積み重なると大きな負担になります。
- その他:副作用対策のウィッグ代や、栄養補助食品の購入費なども考えられます。
抗がん剤治療は保険適用されるの?
抗がん剤治療の費用は、その治療が公的医療保険の対象になるかどうかで大きく変わります。
基本的には保険適用されます
日本国内で承認されている抗がん剤を用いた治療の多くは、公的医療保険の対象となります。そのため、窓口での支払いはかかった医療費の原則3割(70歳未満の場合)で済みます。70歳~74歳の方は2割、75歳以上の方は1割負担です(所得によって異なります)。保険が適用されるのは、薬剤費のほか、診察料や検査料、入院基本料などです。
保険適用外(自由診療)になるケース
一方で、保険が適用されないケースもあります。それは、国内ではまだ承認されていない「未承認薬」を使ったり、承認はされているものの保険適用の対象外の病気に使ったりする「適応外使用」の場合です。これらの治療は自由診療となり、治療費は全額自己負担になります。自由診療では、本来保険が適用されるはずの診察料や検査料なども含めてすべてが自己負担となるため、1か月に100万円以上の費用がかかることも珍しくありません。
高額な抗がん剤治療の費用負担を軽くする方法
「自己負担が3割でも、毎月何万円も払うのは大変…」と感じる方も多いと思います。でも、安心してください。日本には、医療費の負担を軽くするための公的な制度がいくつか用意されています。
高額療養費制度
高額療養費制度は、医療費の家計への負担が重くなりすぎないように、1か月(1日から末日まで)に医療機関や薬局の窓口で支払った額が上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。上限額は、年齢や所得によって決まっています。
【70歳未満の方の自己負担上限額(月額)の例】
| 所得区分(年収の目安) | 自己負担上限額(月額) |
|---|---|
| 年収約1,160万円~ | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
| 年収約770万~約1,160万円 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
| 年収約370万~約770万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
| ~年収約370万円 | 57,600円 |
| 住民税非課税者 | 35,400円 |
例えば、年収500万円の方が1か月に100万円の医療費がかかった場合、3割負担だと窓口で30万円支払うことになりますが、この制度を使えば自己負担額は「87,430円」に抑えられます。事前に申請して「限度額適用認定証」を提示すれば、窓口での支払いを上限額までにすることも可能です。
医療費控除
医療費控除は、1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費の合計が10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)を超えた場合に、確定申告をすることで所得税や住民税が還付・軽減される制度です。抗がん剤治療の費用はもちろん、通院のための交通費(公共交通機関)なども対象になります。領収書は必ず保管しておきましょう。
傷病手当金
傷病手当金は、会社の健康保険に加入している方が、病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給される制度です。連続して3日間休んだ後、4日目以降、最長1年6か月にわたって、給与のおおよそ3分の2が支給されます。治療のために仕事を休まざるを得ない場合の、大切な生活保障となります。
それでも治療費が払えないときの対処法
高額療養費制度は後から払い戻されるため、一時的に窓口で高額な医療費を立て替える必要があります。その支払いが難しい場合は、以下のような方法も検討しましょう。
高額療養費貸付制度
高額療養費が支給されるまでの間の生活費に困ることがないよう、支給見込み額の8割程度を無利子で前借りできる制度です。加入している公的医療保険(健康保険組合や協会けんぽなど)に相談してみましょう。
民間のがん保険
もしもの時に備えて、民間のがん保険に加入しておくのも一つの方法です。「がんと診断されたら一時金を受け取れる」「抗がん剤治療を受けたら月々給付金が出る」など、さまざまな保障があります。公的保険ではカバーされない費用や、治療中の収入減少を補うのに役立ちます。
まとめ
抗がん剤治療には、確かに高額な費用がかかることがあります。しかし、日本には高額療養費制度をはじめとする、医療費の負担を軽減するための手厚い公的制度が整っています。まずは、これらの制度をしっかり活用することが大切です。費用について不安なことや分からないことがあれば、一人で抱え込まずに、病院の「がん相談支援センター」やソーシャルワーカー、ご加入の健康保険組合などに相談してみてくださいね。経済的な不安を少しでも軽くして、安心して治療に臨みましょう。
参考文献
抗がん剤治療の費用とよくある質問まとめ
Q.そもそも抗がん剤治療とは何ですか?
A.がん細胞の増殖を抑えたり、破壊したりする薬(抗がん剤)を使ってがんを治療する方法です。点滴や注射、飲み薬などの投与方法があり、がんの種類や進行度に応じて使い分けられます。
Q.抗がん剤治療1回あたりの費用はどれくらいかかりますか?
A.費用は使用する薬剤や治療法によって大きく異なり、保険適用(3割負担)でも1回あたり数万円から数十万円かかることがあります。ただし、高額療養費制度を利用することで自己負担額には上限が設けられています。
Q.抗がん剤治療の費用を抑える方法はありますか?
A.「高額療養費制度」の利用が一般的です。この制度は、1か月の医療費の自己負担額が上限を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。事前に「限度額適用認定証」を取得すれば、窓口での支払いを上限額までに抑えられます。
Q.抗がん剤治療にはどのような副作用がありますか?
A.代表的な副作用には、吐き気、脱毛、口内炎、倦怠感、白血球の減少などがあります。最近では副作用を軽減する薬も進歩しており、症状を和らげながら治療を進めることが可能です。
Q.治療期間はどれくらいかかりますか?
A.がんの種類、進行度、治療計画によって様々です。数ヶ月で終了する場合もあれば、年単位で治療を続ける場合もあります。詳しくは主治医にご確認ください。
Q.抗がん剤治療は入院が必要ですか?
A.以前は入院が主流でしたが、副作用を抑える薬の進歩により、現在は外来(通院)での治療が中心となっています。ただし、患者さんの状態や治療内容によっては入院が必要な場合もあります。