税理士法人プライムパートナーズ

配偶者が相続した家はすぐ売却OK?小規模宅地等の特例の期限を解説

2025-12-11
目次

大切な方が亡くなり、ご自宅を相続された後、「この家を売却したい」と考える方は少なくありません。しかし、相続税の負担を軽くする「小規模宅地等の特例」を使うには、「相続税の申告期限まで持ち続けないといけないのでは?」と心配になりますよね。特に配偶者の方が相続した場合、この特例はどうなるのでしょうか。この記事では、配偶者が相続したご自宅を相続税の申告期限までに売却しても特例が使えるのか、その条件や注意点を分かりやすく解説します。

小規模宅地等の特例とは?相続税が大幅に減る仕組み

小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)が住んでいた土地などを相続した場合に、一定の要件を満たすことで、その土地の相続税評価額を最大で80%も減額できる、非常に節税効果の高い制度です。この制度は、残されたご家族が相続税の支払いのために自宅を手放すことがないように、生活の基盤を守る目的で作られました。

具体的にどれくらい安くなるの?

例えば、評価額が5,000万円の土地があったとします。この特例を使えると、評価額が80%減額されて1,000万円になります。相続税は評価額をもとに計算されるため、評価額がこれだけ下がると、支払う相続税も大幅に少なくなる可能性があるんです。相続財産の中で不動産の占める割合は大きいことが多いので、この特例が使えるかどうかはとても重要になります。

特例を使うための基本的な条件

小規模宅地等の特例は、土地の利用状況によっていくつかの種類に分かれますが、ご自宅の場合は「特定居住用宅地等」に該当します。この特例の適用を受けるためには、主に以下のような条件があります。

  • 対象となる宅地:被相続人や、被相続人と生計を一つにしていた親族が住んでいた宅地であること
  • 面積の上限:330㎡(約100坪)までの部分が対象
  • 取得する人:配偶者や同居していた親族など、一定の条件を満たす人

この「取得する人」の条件が、誰が相続するかによって大きく変わるのがポイントです。

【結論】配偶者なら相続税申告期限までの売却でも特例が使える!

それでは本題です。被相続人のご自宅を配偶者が相続した場合、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに売却しても、小規模宅地等の特例は使えるのでしょうか。
結論から言うと、「はい、使えます」。なぜなら、配偶者が被相続人のご自宅(特定居住用宅地等)を相続する場合には、「保有継続要件」というものがないからです。これは、配偶者だけに認められた特別な優遇措置なのです。

なぜ配偶者だけ特別なの?

相続税の制度では、配偶者は特別な立場にあります。これは、亡くなった方と一緒に財産を築き上げてきた貢献や、残された配偶者の今後の生活を保障するという考え方に基づいています。例えば、相続税には「配偶者の税額軽減」という制度があり、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額までは相続税がかかりません。小規模宅地等の特例で保有継続要件がないのも、こうした配偶者保護の考え方の一環と言えるでしょう。

配偶者が相続した場合の要件まとめ

配偶者の方が被相続人のご自宅(特定居住用宅地等)を相続する場合の要件は、他の親族に比べてとてもシンプルです。簡単に表にまとめてみました。

取得者 配偶者
居住要件 不要(被相続人と別居していても適用可能です)
保有継続要件 不要(相続税の申告期限までに売却しても適用可能です)

このように、配偶者の方が相続する場合は、相続後すぐに売却活動を始めて、申告期限前に売却が完了したとしても、小規模宅地等の特例の適用が受けられるのです。

配偶者以外が相続した場合はどうなる?

配偶者の場合はとても有利な条件でしたが、お子さんなど他の親族が相続した場合はルールが異なります。ここをしっかり理解しておかないと、「特例が使えると思っていたのに使えなかった」ということになりかねません。

同居していた親族が相続した場合

被相続人と一緒に住んでいたお子さんなどがご自宅を相続した場合、小規模宅地等の特例を使うためには、「相続税の申告期限まで、その土地を所有し続け、かつ、その家に住み続ける」必要があります。これを「保有継続要件」および「居住継続要件」と言います。もし申告期限前に売却してしまったり、引っ越してしまったりすると、この特例は使えなくなってしまいます。

別居していた親族(家なき子)が相続した場合

一定の条件を満たすことで、別居していた親族も特例を使える場合があります。これを一般的に「家なき子特例」と呼びます。主な条件は以下の通りです。

  • 被相続人に配偶者や同居の相続人がいないこと
  • 相続開始前3年以内に、自分や配偶者などが所有する家に住んだことがないこと

この「家なき子特例」を使って相続した場合でも、相続税の申告期限までその土地を所有し続ける「保有継続要件」が求められます。住み続ける必要はありませんが、売却は申告期限後に行う必要があります。

取得者別の要件比較表

誰が相続するかによって、申告期限までの売却が可能かどうかが変わります。違いを比較してみましょう。

取得者 保有継続要件(申告期限までの所有)
配偶者 不要
同居親族 必要
別居親族(家なき子) 必要

売却のタイミングで注意すべき「引渡日」

では、配偶者以外の方が相続した場合、売却活動を始めることすら申告期限後まで待たなければいけないのでしょうか?
実はそうではありません。保有継続要件で問われるのは「所有していること」です。不動産売買の世界では、一般的に「引渡日」をもって所有権が買主に移ると考えます。つまり、売買契約を結んだ日ではなく、引渡日がいつになるかが重要なのです。

申告期限前に売買契約、引渡しは申告期限後ならOK

例えば、相続税の申告期限が10月10日だとします。この場合、買主を見つけて9月1日に売買契約を結んだとしても、物件の引渡日を申告期限後の10月11日以降に設定すれば、保有継続要件を満たすことになります。そのため、売却活動自体は相続後すぐに始めても問題ありません。買主との交渉次第で、引渡日を調整することがポイントです。

申告期限前に引渡したら特例は使えない

反対に、どんなに早く契約しても、引渡日が相続税の申告期限よりも前になってしまうと、その時点で所有権を失うため、保有継続要件を満たさず、小規模宅地等の特例は使えなくなります。売却を急いでいる場合でも、この「引渡日」の管理は徹底するようにしましょう。

知っておきたい!「空き家の3,000万円特別控除」との関係

相続した実家を売却する際には、もう一つ有名な特例があります。それは、所得税の「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」、通称「空き家の3,000万円特別控除」です。
これは、相続した空き家を売却した際の利益(譲渡所得)から最大3,000万円を控除できる制度です。小規模宅地等の特例が「相続税」に関するものなのに対し、こちらは売却後の「所得税」に関する特例という違いがあります。

2つの特例は併用できる?

結論から言うと、要件さえ満たせば、この2つの特例は併用することが可能です。相続税は小規模宅地等の特例で安くし、売却後の所得税は空き家の3,000万円特別控除で安くするという、大きな節税効果が期待できます。ただし、両方の要件を満たすケースは限られているので注意が必要です。

配偶者が相続した場合の併用可否

「空き家の3,000万円特別控除」には、「相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたこと」という要件があります。そのため、被相続人と同居していた配偶者が相続した場合は、この要件を満たさないため併用はできません
一方で、何らかの事情で被相続人と配偶者が別居しており、被相続人が一人暮らしだった場合は、両方の特例の要件を満たす可能性があります。この場合は、小規模宅地等の特例と空き家の3,000万円特別控除の併用が可能です。

まとめ

今回は、配偶者が相続したご自宅を相続税の申告期限までに売却しても小規模宅地等の特例が使えるか、というテーマについて解説しました。最後にポイントを振り返ってみましょう。

  • 配偶者が被相続人のご自宅を相続した場合、小規模宅地等の特例の保有継続要件はありません。そのため、相続税の申告期限までに売却しても特例は使えます
  • お子さんなどの同居親族や別居親族(家なき子)が相続した場合は、原則として申告期限まで土地を所有し続ける必要があります
  • 保有継続要件の判定は「引渡日」が基準です。申告期限前に契約しても、引渡日が申告期限後であれば特例は適用できます。
  • 要件を満たせば、所得税の「空き家の3,000万円特別控除」との併用も可能です。

小規模宅地等の特例は非常に節税効果が高い一方で、適用要件が細かく定められています。特に不動産の売却が絡む場合は、判断が難しい場面も出てきます。ご自身のケースで不安な点があれば、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

小規模宅地等の特例(配偶者の相続)に関するよくある質問まとめ

Q.被相続人の家を相続した配偶者が、相続税の申告期限までに売却した場合、小規模宅地等の特例は使えますか?

A.はい、使えます。配偶者が被相続人の居住用宅地を相続した場合、相続税の申告期限まで保有し続けるといった要件はありません。そのため、申告期限前に売却しても特例の適用が可能です。

Q.配偶者ではなく、同居していた子供が相続して申告期限までに売却した場合はどうなりますか?

A.同居していた子供(同居親族)が相続した場合、原則として相続税の申告期限までその土地を保有し、かつその家に住み続ける必要があります。申告期限前に売却してしまうと、この特例は適用できなくなります。

Q.なぜ配偶者だけが売却しても特例を使えるのですか?

A.配偶者は、その後の生活保障の観点から他の相続人よりも要件が大幅に緩和されています。そのため、相続後の居住や土地の保有に関する要件が課されておらず、売却や賃貸に出した場合でも特例の対象となります。

Q.小規模宅地等の特例を使うために、何か手続きは必要ですか?

A.はい、必要です。相続税の申告が必須となり、申告書に小規模宅地等の特例を適用する旨を記載し、所定の添付書類とともに税務署へ提出する必要があります。自動的に適用されるわけではないので注意が必要です。

Q.この特例を使うと、具体的にどれくらい節税効果がありますか?

A.被相続人の居住用宅地の場合、330㎡までの部分について土地の評価額を最大で80%減額できます。例えば、評価額5,000万円の土地であれば1,000万円として相続税を計算できるため、相続税額を大幅に軽減できる可能性があります。

Q.配偶者が特例を使う際の注意点はありますか?

A.配偶者には「配偶者の税額軽減」という、最低でも1億6,000万円までは相続税がかからない強力な制度もあります。二次相続(その配偶者が亡くなった時の相続)まで考慮すると、どの特例を使うのが最も有利かは一概に言えません。専門家への相談をおすすめします。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。