「75歳以上になって、株の売却で1000万円の利益が出た!嬉しいけれど、病院にかかったときの医療費負担が1割から上がってしまうのでは…?」そんな風に心配になっていませんか?
実は、株の利益があっても、手続きの仕方によっては医療費の自己負担割合を1割のままにできる可能性があります。この記事では、75歳以上の方の医療費負担の仕組みと、株の譲渡益がどう影響するのかを、具体例を交えながら優しく解説していきます。ご自身の状況と照らし合わせながら、最適な方法を見つけるお手伝いができれば嬉しいです。
75歳以上の医療費負担割合の決まり方
まずは、私たち75歳以上の医療制度である「後期高齢者医療制度」の自己負担割合が、どのように決まるのか基本から確認していきましょう。ご自身の負担割合がどのくらいになるのか、仕組みを知ることが大切ですよ。
後期高齢者医療制度の基本
75歳になると(一定の障がいがある方は65歳から)、それまで加入していた国民健康保険や会社の健康保険から、「後期高齢者医療制度」に切り替わります。この制度によって、病院にかかったときの医療費の自己負担割合が決まります。
負担割合はどうやって決まる?所得区分について
医療費の自己負担割合は、1割・2割・3割の3段階に分かれています。この割合は、前年の所得をもとに毎年8月1日に見直されます。具体的には、住民税の課税所得や年金収入、その他の合計所得金額によって判定されます。
| 負担割合 | 所得区分の目安 |
| 3割 | 現役並み所得者 |
| 2割 | 一般所得者Ⅱ |
| 1割 | 一般所得者Ⅰ・低所得者 |
所得区分の具体的な基準
負担割合を決める「所得区分」は、少し複雑ですが、ご自身の状況がどこに当てはまるか見てみましょう。特に「現役並み所得者」に該当するかどうかが大きなポイントになります。
| 負担割合 | 具体的な基準(同じ世帯に75歳以上の方がご自身一人の場合) |
| 3割(現役並み所得者) | 住民税の課税所得が145万円以上の方。 |
| 2割 | 課税所得が28万円以上で、かつ「年金収入+その他の合計所得金額」が200万円以上の方。 |
| 1割 | 上記の3割・2割の基準に当てはまらない方。 |
※同じ世帯に75歳以上の方が複数いる場合は、基準額が変わります。
※現役並み所得者(3割負担)と判定されても、収入額によっては申請により2割または1割負担になる場合があります。
株の譲渡益と医療費負担の関係
ここからが本題です。今回のケースのように、株で1000万円の利益が出た場合、それが所得としてどのように扱われ、医療費の負担割合にどう影響するのでしょうか。鍵を握るのは「確定申告」です。
確定申告は必要?「申告不要制度」とは
株の取引には、証券会社に開設する「特定口座」があります。このうち「源泉徴収あり」の特定口座で取引をして利益が出た場合、利益に対して所得税と住民税(合計20.315%)が自動的に天引き(源泉徴収)されます。この仕組みのおかげで、原則として確定申告をする必要がありません。これを「申告不要制度」といいます。
確定申告をしない場合、所得にカウントされない
ここが最も重要なポイントです。申告不要制度を選択し、確定申告をしなかった場合、その株の利益は後期高齢者医療制度の所得判定の対象にはなりません。つまり、いくら株で利益が出ていても、医療費負担割合の計算上の所得は「ゼロ」として扱われるのです。
今回の「株の譲渡益1000万円、その他所得ゼロ」というケースでは、確定申告をしなければ、所得はゼロと判定され、医療費の負担割合は1割のままということになります。
確定申告をすると所得にカウントされる
一方で、他の口座との損益通算(利益と損失を相殺すること)や、損失を翌年以降に繰り越す「繰越控除」を利用するために確定申告をすることもできます。しかし、確定申告をすると、株の譲渡益は「所得」として正式にカウントされます。その結果、住民税の課税所得が計算され、医療費の自己負担割合の判定に使われます。
1000万円の利益を申告すれば、課税所得は145万円を大幅に超えるため、「現役並み所得者」と判定され、医療費の負担割合は3割になってしまいます。
【税制改正】所得税と住民税の課税方式が統一されました
以前は、所得税では確定申告し、住民税では申告不要制度を選ぶ、という柔軟な選択が可能でした。しかし、税制改正により、令和5年分の確定申告(令和6年度の住民税)から、所得税と住民税の課税方式を統一しなければならなくなりました。
つまり、「所得税の還付のために確定申告しつつ、住民税には影響させない」という方法が使えなくなったのです。この変更は非常に重要ですので、覚えておきましょう。
医療費負担以外への影響
株の利益を確定申告すると、医療費の自己負担割合だけでなく、他の社会保険料にも影響が及びます。影響は一つだけではないことを知っておくことが大切です。
後期高齢者医療保険料への影響
後期高齢者医療制度の保険料は、加入者全員が負担する「均等割額」と、所得に応じて負担する「所得割額」の合計で決まります。確定申告をして所得が増えれば、この「所得割額」が増加し、年間の保険料が大幅に上がることになります。所得によっては、保険料が上限額に達してしまう可能性もあります。
介護保険料への影響
65歳以上の方が支払う介護保険料も、前年の所得に基づいて決まります。株の利益を申告して合計所得金額が増えると、介護保険料も段階的に高くなります。お住まいの市区町村によって保険料の段階や金額は異なりますが、こちらも負担増につながる可能性があります。
確定申告をするかどうかの判断ポイント
結局、確定申告はするべきなのでしょうか、しないべきなのでしょうか。ご自身の状況に合わせて、メリットとデメリットを天秤にかける必要があります。
確定申告するメリット
確定申告には、もちろんメリットもあります。特に、他の取引で損失が出ている場合には大きな意味を持ちます。
| メリット | 内容 |
| 損益通算 | 複数の証券口座を持っている場合、A口座の利益とB口座の損失を合算して、税金の負担を軽くできます。 |
| 繰越控除 | その年に引ききれなかった損失を、翌年以降3年間にわたって利益と相殺できます。 |
確定申告するデメリット
一方で、これまで見てきたように、社会保険全体で考えるとデメリットが大きくなることがあります。
| デメリット | 内容 |
| 医療費自己負担の増加 | 所得が増えることで、負担割合が1割から2割や3割に上がる可能性があります。 |
| 後期高齢者医療保険料の増加 | 所得割額が増え、年間の保険料が高くなります。 |
| 介護保険料の増加 | 所得段階が上がり、保険料が高くなります。 |
まとめ
75歳以上で株の譲渡益が1000万円あっても、「源泉徴収ありの特定口座」を利用し、「確定申告をしない(申告不要制度を選択する)」ことで、医療費の自己負担を1割に保つことは可能です。
しかし、損益通算などのために確定申告をすると、その利益は所得として算定され、医療費の自己負担が3割になるだけでなく、後期高齢者医療保険料や介護保険料も増額となる可能性が非常に高いです。税金の還付額と、社会保険料や医療費の負担増の金額をよく比較して、ご自身にとってどちらが有利になるか、慎重に判断することが大切ですね。もし判断に迷われる場合は、税務署やお住まいの市区町村の担当窓口に相談してみることをお勧めします。
参考文献
国税庁 タックスアンサー No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
75歳以上の医療費負担と株の利益に関するよくある質問
Q. 75歳以上で株の譲渡益が1000万円、その他所得がゼロの場合、医療費の窓口負担は1割のままですか?
A. はい、1割負担のままになる可能性が非常に高いです。医療費の負担割合は「課税所得」と「年金収入+その他の合計所得金額」で判定されます。ご質問のケースでは後者の基準を満たすため、1割負担が維持されると考えられます。
Q. 後期高齢者の医療費負担割合は、どのように決まるのですか?
A. 住民税の「課税所得」と、「年金収入+その他の合計所得金額」という2つの基準で判定されます。所得が一定の基準を超えると2割または3割負担になりますが、どちらか一方でも基準を下回っていれば、負担割合は上がりません。
Q. 株の利益で医療費負担を増やさない方法はありますか?
A. 「源泉徴収ありの特定口座」を利用し、確定申告をしない(申告不要制度を選択する)方法があります。この場合、株の利益は医療費負担割合を計算する際の所得に含まれなくなるため、負担割合に影響を与えません。
Q. 「源泉徴収ありの特定口座」で確定申告しない場合のデメリットはありますか?
A. デメリットとして、他の金融商品の損失との損益通算や、損失の繰越控除が利用できなくなります。節税メリットと医療費負担への影響を総合的に比較して判断することが重要です。
Q. 医療費の負担割合はいつ見直されるのですか?
A. 毎年1回、8月1日に見直されます。前年(1月~12月)の所得状況にもとづいて新しい負担割合が決定され、その年の8月1日から翌年7月31日まで適用されます。
Q. 株の譲渡益があると、必ず医療費負担は増えますか?
A. いいえ、必ず増えるわけではありません。確定申告不要制度を選択する場合や、譲渡益を含めても所得が負担割合の変更基準に達しない場合は、負担割合は変わりません。