「贈与」と聞くと、親から子へといった個人同士のやり取りをイメージしますよね。でも実は、贈与は個人と法人の間でも行われます。そして法人がからむと、税金の種類は贈与税ではなく法人税と所得税に変わります。特に個人から法人への贈与は、もらった法人に法人税、あげた個人にも所得税がかかる「双方課税」が原則で、ここを知らないまま実行してしまうと思わぬ納税が発生します。まずは4パターンの結論を一覧表で押さえてから、ひとつずつご説明しますね。
【結論】贈与4パターンで誰にどの税金がかかるか
個人と法人の組み合わせは4通りです。先に結論だけまとめると、次のようになります。
| 贈与のパターン | あげた側にかかる税金 | もらった側にかかる税金 |
| 個人 → 法人 | 所得税(みなし譲渡所得) | 法人税(受贈益) |
| 法人 → 個人 | 法人税(寄附金・賞与などの扱い+譲渡益) | 所得税(給与所得または一時所得) |
| 法人 → 法人 | 法人税(寄附金+譲渡益) | 法人税(受贈益) |
| 個人 → 個人 | なし | 贈与税 |
法人がからむ3パターンでは、あげた側ともらった側の双方に課税されるのが原則、と覚えておくと整理しやすいですよ。それでは、いちばんご相談の多い「個人から法人への贈与」から見ていきましょう。
個人から法人への贈与でかかる税金
個人の方が会社などの法人に財産を贈与するケースです。この場合、財産をあげた個人と、もらった法人の両方に税金がかかる可能性があります。
法人(もらった側)には受贈益として法人税
個人から財産を無償でもらった法人は、その財産を時価で受け取ったと考え、「受贈益(じゅぞうえき)」として利益計上します。この受贈益は、会社の利益の一部となるため、法人税の課税対象になります。例えば、時価3,000万円の土地を個人から贈与された場合、法人は3,000万円の受贈益を計上する必要があるんです。
法人側の会計処理のイメージは、次のとおりです。現金が動いていないのに利益だけが立つため、納税資金の準備が必要になる点に注意してくださいね。
| 借方 | 貸方 |
| 土地 3,000万円 | 受贈益 3,000万円 |
個人(あげた側)にはみなし譲渡所得として所得税
意外に思われるかもしれませんが、財産をあげた個人の方にも所得税がかかります。これは「みなし譲渡所得課税」という考え方に基づくもので、個人が法人へ財産を贈与したときは、その時の時価で売却があったものとして扱い、譲渡所得を計算する決まりになっているからですe-Gov法令検索 所得税法第59条。国税庁も、個人が土地・建物・株式などを法人に寄附したときは寄附時の時価により譲渡があったものとみなされる、と明記しています国税庁 No.3108 国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人等に財産を寄附したとき。
例えば、1,000万円で購入した土地が、法人へ贈与した時点で時価3,000万円に値上がりしていた場合、値上がり益が譲渡所得として課税対象になります。
お金は1円も受け取っていないのに、2,000万円の譲渡所得に対して所得税・住民税を納めることになる、というのがこの制度のこわいところです国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法。
ただし、現金を贈与した場合は値上がり益がないため、この所得税はかかりません。みなし譲渡所得課税の対象になるのは、土地・建物・株式など値上がり益(含み益)が生じうる資産を贈与したときです。
時価の2分の1未満で売った場合も「時価で売った」とみなされる
「贈与ではなく、安く売れば大丈夫では?」と考える方もいらっしゃいます。ところが、個人が法人に対して時価の2分の1未満の対価で資産を譲渡した場合も、贈与と同じように時価で譲渡したものとみなされますe-Gov法令検索 所得税法施行令第169条。
時価3,000万円の土地を法人へ1,000万円(時価の3分の1)で売った場合は、次のように計算します。
一方の法人側は、時価と支払った対価との差額2,000万円が受贈益となり、法人税の対象になります。つまり低額譲渡は、贈与と同じ課税結果になりやすいということですね。
関連コラム親から子への不動産低額譲渡は危険?みなし贈与の注意点と対策▸
同族会社への贈与では株主にも贈与税がかかることがある
個人が自分の経営する会社(同族会社)に財産を贈与した場合は、さらに注意が必要です。贈与によって会社の財産が増えると、その会社の株式の価値も上がりますよね。相続税法では、対価を支払わないで利益を受けた場合には、その利益を受けさせた人から贈与を受けたものとみなす、と定められていますe-Gov法令検索 相続税法第9条。
そのため、贈与によって株価が上がった分については、会社の株主が贈与者から贈与を受けたとみなされ、贈与税が課税されることがあります。例えば、子どもが株主になっている同族会社に父親が財産を贈与すると、父親の財産は減り子どもの株式の価値は増えるため、実質的には父から子への贈与と変わらない、という理屈です。
この場合、あげた個人(所得税)・もらった法人(法人税)・法人の株主(贈与税)という三者に課税が生じることになります。同族会社への贈与や低額譲渡を検討するときは、必ず株主への影響まで確認してくださいね。
関連コラム同族会社の株式譲渡で注意!みなし贈与リスクと具体的な回避策▸
国・地方公共団体や公益法人への寄附は非課税になることがある
個人から法人への贈与でも、みなし譲渡所得課税が行われない場合があります。国や地方公共団体に財産を寄附した場合は特に手続きなく非課税となり、公益を目的とする事業を行う法人に寄附した場合も、一定の承認要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは非課税になります国税庁 No.3108 国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人等に財産を寄附したとき。
ただし公益法人への寄附は、寄附があった日から4か月以内(またはその年分の確定申告期限のいずれか早い日まで)に申請書を提出する必要があり、寄附した財産が2年以内に公益目的事業の用に直接使われないと承認が取り消される場合もあります。手続きの期限が短いので、実行前の準備が欠かせません。
法人から個人への贈与でかかる税金
次に、法人が個人へ財産を贈与するケースです。この場合も、財産をあげた法人と、もらった個人の両方に税金がかかります。ただし、個人にかかるのは「贈与税」ではないのがポイントです。
個人(もらった側)には所得税
法人から財産をもらった個人には、贈与税ではなく所得税がかかります。国税庁も「法人から財産を贈与により取得した場合には贈与税ではなく所得税がかかります」としています国税庁 No.4405 贈与税がかからない場合。
この所得の種類は、法人と個人の関係性によって変わります。
| もらった個人と法人の関係 | 所得の種類 |
| 法人の役員や従業員の場合 | 給与所得(ボーナスをもらったのと同じ扱いです) |
| 上記以外の方(雇用関係がない場合) | 一時所得 |
給与所得は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算します国税庁 No.1400 給与所得。これに対して一時所得は、収入金額からその収入を得るために支出した金額と特別控除額(最高50万円)を差し引いて求め、さらにその2分の1が総所得金額に算入されます国税庁 No.1490 一時所得。
同じ金額をもらっても、役員・従業員かどうかで税負担が変わるということですね。
法人(あげた側)には法人税
財産をあげた法人側にも税金がかかります。法人が個人に財産を贈与した場合、その財産を時価で譲渡(売却)したとみなされます。もし、贈与した資産の時価が帳簿価額を上回っていれば、その差額(売却益)に対して法人税が課税されます。
また、この贈与は税務上、相手との関係によって経費(損金)の扱いが変わります。
| 贈与した相手 | 税務上の処理 |
| 従業員 | 給与・賞与(原則として損金算入可能) |
| 役員 | 役員給与(定期同額給与・事前確定届出給与などに当たらなければ損金算入不可) |
| 第三者 | 寄附金(損金算入できる金額に上限あり) |
役員へ臨時に財産を渡すと、定期同額給与や事前確定届出給与といった損金算入が認められる給与に当たらず、会社の経費にならないまま役員には所得税がかかるという二重の負担になりがちです国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)。第三者への贈与も、寄附金として損金に算入できる金額には限度額があります国税庁 No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算。誰に贈与するかによって法人の税負担も変わってくるんですね。
関連コラム法人から個人への株式譲渡の注意点!寄附金や一時所得を解説▸
法人から法人への贈与でかかる税金
法人同士で贈与が行われるケースもあります。この場合、あげた側ともらった側、両方の法人に法人税がかかることになります。
財産をもらった法人は、個人からもらった時と同じように「受贈益」として利益を計上し、法人税の課税対象となります。
一方、財産をあげた法人は、「寄附金」として処理します。寄附金は、税務上、損金(経費)として認められる金額に上限があるため、全額が経費になるわけではありません。上限を超えた部分は所得に加算され、法人税がかかります。また、時価が簿価を上回る資産を贈与した場合は、その差額(譲渡益)にも法人税が課されます。
関連コラム法人間の非上場株式譲渡で注意すべき「受贈益」と「寄附金」の罠▸
【比較】個人から個人への贈与
ここまで法人がかかわるケースを見てきましたが、比較のために一般的な個人間の贈与についても触れておきましょう。これが唯一、贈与税が登場するパターンです。
もらった個人に贈与税がかかる
個人から個人へ財産が贈与された場合、財産をあげた側には税金はかからず、もらった側に贈与税がかかります国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合。贈与税は、1年間(1月1日〜12月31日)にもらった財産の合計額が基礎控除額である110万円を超える場合に、その超えた部分に対して課税されます国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)。
つまり、年間110万円までの贈与であれば、贈与税はかからず申告も不要です。なお個人間でも、著しく低い価額で財産を譲り受けたときは、時価との差額について贈与があったものとして扱われ、贈与税がかかります国税庁 No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき。
贈与のパターン別!かかる税金を一覧表で比較
ここまで解説してきた4つのパターンを、かかる税金の中身まで含めて表にまとめてみました。誰にどんな税金がかかるのか、一目で確認できますよ。
| 贈与のパターン | かかる税金 |
| 個人 → 法人 | 【あげた個人】所得税(みなし譲渡) 【もらった法人】法人税(受贈益) 【同族会社の株主】贈与税(株価上昇分) |
| 法人 → 個人 | 【あげた法人】法人税(寄附金・役員給与など) 【もらった個人】所得税(給与所得・一時所得) |
| 法人 → 法人 | 【あげた法人】法人税(寄附金) 【もらった法人】法人税(受贈益) |
| 個人 → 個人 | 【あげた個人】なし 【もらった個人】贈与税 |
こうして見ると、贈与税がかかるのは「個人から個人へ」のケースだけだということがよく分かりますね。
個人から法人への贈与で失敗しないための3つの確認事項
実務でつまずきやすいポイントを3つに絞ってご説明しますね。
- 贈与する財産に含み益があるか……現金なら個人側の所得税は生じませんが、土地・建物・株式など値上がりしている資産だと、代金を受け取っていないのに所得税がかかります。
- 時価をどう算定したか……みなし譲渡も受贈益も「時価」が出発点です。時価の根拠資料(不動産なら鑑定評価や取引事例、非上場株式なら評価計算書)を残しておきましょう。
- 同族会社の株主構成はどうなっているか……贈与者以外の株主がいる同族会社では、株価上昇分について株主に贈与税が生じます。実行前に株主名簿を確認してください。
個人から法人へ贈与したときにかかる税金の全体像は、次のコラムで、みなし譲渡・受贈益・みなし贈与の三段階に分けてさらに詳しく解説しています。
関連コラム個人から法人への贈与にかかる税金|贈与税ではなく法人税・所得税に注意▸
まとめ
今回は、個人と法人の間で行われる贈与と、それにかかる税金について解説しました。
贈与は誰から誰に行うかによって、かかる税金が贈与税、所得税、法人税と大きく異なります。特に、法人がかかわる場合は、財産を「あげた側」と「もらった側」の双方に課税されるのが原則です。個人から法人への贈与では、もらった法人の受贈益課税に加え、あげた個人にもみなし譲渡所得課税が及び、同族会社なら株主にも贈与税が生じることがあります。
安易に「贈与だから贈与税だろう」と考えてしまうと、思わぬ税負担が発生する可能性があります。個人と法人の間で財産の移転を考えている場合は、どのパターンに当てはまるのかをしっかり確認し、実行の前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
この記事を読んだ方へ
Gift Tax 贈与税申告の料金を確認する 暦年課税・相続時精算課税の申告に対応。料金表を掲載しています。 贈与税申告の料金を見る
Prime Souzoku Club
生前対策は、プライム相続クラブで早めに
相続税の試算や対策の相談を、継続して受けられる会員サービスです。
相続クラブを見る
参考文献
国税庁 No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
国税庁 No.3108 国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人等に財産を寄附したとき
国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
個人と法人の間の贈与に関するよくある質問まとめ
Q.個人から法人へ贈与すると、贈与した個人にも税金はかかりますか?
A.はい、かかることがあります。個人が法人へ資産を贈与した場合は、その時の時価で売却があったものとして扱う「みなし譲渡所得課税」の対象となり、値上がり益に対して所得税・住民税が課されます。ただし現金の贈与には値上がり益がないため、この課税は生じません。
Q.個人から法人へ贈与はできますか?税金はどうなりますか?
A.はい、可能です。贈与を受けた法人は、その財産の時価相当額を受贈益として法人税の課税対象とします。贈与した個人にも、含み益のある資産であればみなし譲渡所得として所得税がかかります。
Q.個人から法人へ時価より著しく低い価格で財産を譲渡するとどうなりますか?
A.時価の2分の1未満の対価で譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなされ、個人には時価をもとにした譲渡所得課税が行われます。法人は時価と譲渡価格の差額が受贈益として法人税の対象になります。
Q.法人から個人へ贈与はできますか?税金はどうなりますか?
A.はい、可能です。この場合、贈与税ではなく所得税の対象となり、贈与を受けた個人は一時所得として確定申告が必要です。ただし、役員や従業員が受け取った場合は給与所得となります。
Q.法人から個人へ時価より著しく低い価格で財産を譲渡するとどうなりますか?
A.時価と譲渡価格の差額が、実質的な贈与とみなされます。個人はその差額分が一時所得または給与所得として所得税の対象になります。
Q.法人から役員や従業員へ贈与した場合の税金はどうなりますか?
A.受け取った役員や従業員には、給与所得として所得税と住民税が課税されます。贈与した法人側は、従業員への給与であれば原則として損金に算入できますが、役員への臨時の支給は損金に算入できない場合があります。
Q.親族経営の会社に個人が贈与した場合、税金で注意すべき点はありますか?
A.法人は受贈益として法人税を負担しますが、あわせて会社の株式価値が上昇するため、他の株主が贈与を受けたものとみなされて贈与税が課される可能性があり注意が必要です。
Q.国や公益法人に財産を寄附した場合もみなし譲渡所得課税はありますか?
A.国や地方公共団体への寄附は手続きなく非課税です。公益を目的とする事業を行う法人への寄附も、一定の承認要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは非課税になりますが、寄附の日から4か月以内などの期限内に申請書を提出する必要があります。


