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無償返還届出で権利金の認定課税は回避?低い地代の贈与リスク解説

2025-12-27
目次

法人が土地を誰かに貸すとき、通常は「権利金」という一時金を受け取ります。もし、権利金をもらう慣習があるのに受け取らなかった場合、「権利金を贈与した」とみなされて、思わぬ税金がかかってしまうことがあります。これを「権利金の認定課税」といいます。しかし、ある手続きをすれば、この認定課税を避けることができます。それが「土地の無償返還に関する届出書」の提出です。では、この届出書を提出して、相場より安い地代を設定した場合、本当に税金の問題はクリアになるのでしょうか?実はそこには別のリスクが潜んでいます。この記事では、「土地の無償返還に関する届出書」を提出した場合の税金の取り扱いについて、特に地代が低いケースに焦点を当てて、わかりやすく解説していきます。

権利金の認定課税とは?

まずは、そもそもの大前提である「権利金の認定課税」について、基本から確認しておきましょう。なぜ権利金を受け取らないと課税されてしまうのか、その仕組みを理解することが大切です。

権利金の認定課税が発生する仕組み

法人が土地を貸して、借主がそこに建物を建てる場合、借主にはその土地を利用する強い権利である「借地権」が発生します。地主からすると、一度土地を貸すと長期間自由に使えなくなるため、その対価として契約時に「権利金」という一時金を受け取るのが一般的です。しかし、例えば社長個人が経営する会社に土地を貸すような同族間での取引では、「身内だから」という理由で権利金を受け取らないケースがよくあります。税務上は、たとえ身内であっても、本来受け取るべき権利金を受け取らなかった場合、「借主は権利金相当額の利益を無償で受け取った(贈与された)」と判断します。この無償で得た利益に対して課税されるのが、権利金の認定課税の仕組みです。

権利金の相場はどれくらい?

では、課税の基準となる「権利金相当額」とは、いくらくらいなのでしょうか。一般的に、権利金の額は次の式で計算されます。

権利金の額 = 土地の更地価額 × 借地権割合

借地権割合は、土地の利用価値によって地域ごとに定められており、30%から90%まで様々です。商業地や都心部など、利便性の高い場所ほど割合は高くなります。ご自身の土地の借地権割合は、国税庁のウェブサイトで公開されている「路線価図」で確認することができます。例えば、更地価額が5,000万円で借地権割合が60%の土地であれば、権利金相当額は3,000万円にもなります。この金額が課税対象になる可能性があると考えると、決して無視できない問題ですよね。

認定課税されるとどうなる?

もし権利金の認定課税が行われると、土地を借りた側(借地人)に税金が課されます。借地人が法人か個人かで、課される税金の種類が異なります。

借地人の属性 課税内容
法人 権利金相当額が「受贈益」として法人の利益に加算され、法人税の課税対象となります。
個人 原則として、権利金相当額が「贈与」とみなされ、贈与税の課税対象となります。地主との関係によっては、一時所得や給与所得として扱われる場合もあります。

権利金の認定課税を回避する2つの方法

高額な税負担につながりかねない権利金の認定課税ですが、これを合法的に回避する方法が2つ用意されています。それぞれの方法の特徴と違いを見ていきましょう。

方法1:相当の地代を収受する

一つ目の方法は、権利金を受け取らない代わりに、相場よりも高い地代を受け取る方法です。この特別な地代を「相当の地代」と呼びます。
「相当の地代」の年額は、原則として「その土地の更地価額のおおむね年6%」とされています。例えば、更地価額5,000万円の土地であれば、年間の地代は300万円(月額25万円)にもなります。この相当の地代をきちんと受け取っていれば、権利金の授受がなくても認定課税は行われません。ただし、貸主・借主ともに毎年の負担が大きくなるというデメリットがあります。

方法2:「土地の無償返還に関する届出書」を提出する

二つ目の方法が、今回のテーマである「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する方法です。これは、「将来、契約が終わったら、この土地は無償で返還します」ということを、貸主と借主が連名で税務署に約束する書類です。この届出書を提出することで、「この契約では借地権の価値は実質的に発生しない」とみなされ、権利金を受け取らなくても認定課税が行われなくなります。権利金も高額な相当の地代も支払う必要がないため、多くのケースでこの方法が選択されます。

「土地の無償返還に関する届出書」と地代の関係

「土地の無償返還に関する届出書」を提出すれば、権利金の認定課税はクリアできます。では、地代はいくらに設定しても良いのでしょうか?ここが最も重要なポイントです。

届出をしても「地代の課税リスク」は残る

結論から言うと、無償返還の届出をしても、地代が低すぎると別の課税問題が発生します。国税庁のルールでは、この届出書を提出した場合において、実際に受け取っている地代が「相当の地代(更地価額の年6%)」よりも少ないときは、その差額を貸主から借主へ贈与したものとして取り扱う、と定められています。つまり、権利金の認定課税は回避できても、今度は「地代の認定課税」というリスクが出てくるのです。

例えば、「相当の地代」が年300万円の土地で、実際の地代を年60万円に設定したとします。この場合、差額の240万円分が貸主から借主への利益供与(贈与)とみなされる可能性があるということです。

「相当の地代」と「通常の地代」

ここで、地代の種類を整理しておきましょう。税務上、特に重要になるのが「相当の地代」と「通常の地代」です。この違いを理解することが、適切な地代設定の鍵となります。

地代の種類 内容と目安
相当の地代 権利金の代わりに収受する高額な地代。
目安:土地の更地価額 × 6%
通常の地代 権利金を収受する場合や、無償返還の届出を提出した場合に、最低限収受すべきとされる地代。
目安:その土地の固定資産税・都市計画税の合計額の2~3倍程度

「土地の無償返還に関する届出書」を提出する場合、少なくとも「通常の地代」程度の地代は受け取っておくことが、税務上のリスクを減らすだけでなく、後述する相続時の評価においても重要になります。

低い地代に設定した場合の具体的な課税関係

それでは、「相当の地代」より低い地代を設定した場合、差額は具体的にどのように課税されるのでしょうか。これは、貸主と借主がそれぞれ個人か法人かによって取り扱いが変わります。

ケース1:貸主が個人、借主が法人の場合

社長個人が自分の会社に土地を貸している、という最も一般的なケースです。この場合、会社(借主)は、「相当の地代」と「実際の地代」との差額について、社長から贈与を受けたとみなされ、会計上「受贈益」として利益計上します。一方で、会社は「相当の地代」全額を支払ったものとして経費(損金)に計上することができます。結果として、「受贈益(益金)」と「損金」が同額で相殺されるため、法人の所得は増えず、追加の法人税は発生しないことがほとんどです。貸主である個人にも、特に課税は行われません。

ケース2:貸主が法人、借主が個人の場合

法人が所有する土地を、その役員や従業員個人に貸すケースです。この場合、借主である個人が受けた経済的利益(「相当の地代」と「実際の地代」の差額)は、所得とみなされます。

  • 借主が役員や従業員の場合:差額は「給与所得」として扱われ、所得税・住民税の対象になります。
  • 借主が第三者の場合:差額は「一時所得」として、所得税の対象になる可能性があります。

また、貸主である法人は、この差額分を役員への賞与や寄附金とみなされ、経費(損金)として認められない可能性があるため、注意が必要です。

届出書を提出するときの注意点

最後に、「土地の無償返還に関する届出書」を提出する際に、押さえておきたい注意点を3つご紹介します。

提出期限は「遅滞なく」

この届出書の提出期限は「土地を無償で返還することが定められた後、遅滞なく」とされています。非常に曖昧な表現ですが、実務上は、賃貸借契約を締結した事業年度の法人税の確定申告期限までに提出するのが一つの目安です。税務調査などで指摘される前に、早めに手続きを済ませておきましょう。

賃貸借契約書への記載が必須

届出書を提出する大前提として、当事者間で交わす土地の賃貸借契約書の中に、「本契約が終了した際には、借主は土地を無償で貸主に返還する」という趣旨の一文を必ず記載しておく必要があります。この契約書の写しを届出書に添付して提出します。

地代の設定は相続も見据えて慎重に

地代を完全に無償にしたり、固定資産税程度の非常に低い金額にしたりすると、その契約は賃貸借ではなく「使用貸借(ただ貸し)」とみなされる可能性があります。使用貸借と判断されると、将来、貸主の相続が発生した際に、その土地の相続税評価額が減額される「貸宅地評価」の適用が受けられず、自用地(更地)と同じ100%の評価額で計算されてしまいます。相続税対策の観点からも、少なくとも「通常の地代(固定資産税等の2~3倍)」は受け取っておくことが望ましいでしょう。

まとめ

今回の内容をまとめると、以下のようになります。

  • 「土地の無償返還に関する届出書」を提出すれば、権利金を受け取らなくても「権利金の認定課税」は回避できます。
  • ただし、地代が「相当の地代(更地価額の年6%)」より低い場合、その差額が贈与とみなされ「地代の認定課税」のリスクが生じます。
  • 貸主が個人、借主が法人の場合は、地代の認定課税による法人税の追加負担は生じないことが多いですが、ケースバイケースでの判断が必要です。
  • 相続税評価の観点からは、地代を低くしすぎず、少なくとも「通常の地代(固定資産税等の2~3倍)」程度は収受することが推奨されます。

このように、法人が関わる土地の貸し借りは、権利金と地代という2つの側面から税務リスクを検討する必要があります。ご自身の状況に合わせて最適な地代設定や契約内容を判断するには、専門的な知識が不可欠です。不安な点がある場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

参考文献

土地の無償返還届と権利金の認定課税に関するよくある質問まとめ

Q. 法人が土地を貸すとき、権利金をもらわないとどうなりますか?

A. 権利金を受け取る慣行がある地域で権利金なしで土地を貸した場合、受け取ったものとみなされて法人税が課税される「権利金の認定課税」が行われる可能性があります。

Q. 権利金の認定課税を避ける方法はありますか?

A. はい、2つあります。1つは土地価額からみて「相当の地代」を受け取ること、もう1つは「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出することです。

Q. 「土地の無償返還に関する届出書」を提出すれば、権利金の課税は絶対にないと解釈して良いですか?

A. はい、その解釈で合っています。この届出書を提出すれば、地代が「相当の地代」より低くても、権利金の認定課税は行われません。

Q. 無償返還届を出した場合、地代が低いと何か問題はありますか?

A. はい、問題があります。地代が「相当の地代」より低い場合、その差額分は借地人への贈与とみなされ、借地人側で所得税(一時所得や雑所得)などが課税される可能性があります。

Q. 「相当の地代」とは、具体的にどのくらいの金額ですか?

A. 一般的には、その土地の更地価額(相続税評価額など)のおおむね年6%程度の金額とされています。個別の状況により異なるため、専門家への確認をおすすめします。

Q. 結局、「土地の無償返還に関する届出書」を提出する際の注意点は何ですか?

A. 権利金の認定課税は避けられますが、地代設定には注意が必要です。地代が低すぎると、今度は借地人(土地を借りた側)に思わぬ税金が発生するリスクがあることを理解しておく必要があります。

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