親などが亡くなり、証券会社の口座にある株式や投資信託を相続することになったとき、「故人と同じ証券会社に口座を作らないといけないの?」「自分が使っている証券会社に直接移せないの?」といった疑問が出てきますよね。手続きが複雑そうで不安に感じる方も多いと思います。この記事では、証券を相続する際の口座開設の必要性や、証券の移管について、わかりやすく解説していきます。
証券の相続、まず何から始める?基本的な流れ
証券の相続手続きは、預貯金とは少し違う点があるので、まずは全体の流れを把握することが大切です。亡くなった方(被相続人)の証券を、相続人が受け継ぐためのステップを一緒に見ていきましょう。
ステップ1:証券会社への連絡と残高確認
まず初めに、被相続人が口座を持っていた証券会社へ連絡し、亡くなったことを伝えます。この連絡をすると、被相続人の口座は凍結され、取引ができなくなります。同時に、相続手続きに必要な書類を案内してもらえます。また、どのくらいの資産(株式や投資信託など)があるかを確認するために、「残高証明書」の発行を依頼しましょう。相続税の申告や遺産分割協議で必要になります。
ステップ2:必要書類の準備と提出
証券会社から案内された必要書類を準備します。一般的に必要となる書類は以下の通りですが、遺言書の有無や遺産分割協議の内容によって変わるため、必ず証券会社に確認してくださいね。
| 書類の種類 | 説明 |
| 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本 | 法定相続人を確定するために必要です。 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 現在の戸籍を確認します。 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 発行から6ヶ月以内のものを求められることが多いです。 |
| 遺産分割協議書 | 遺言書がなく、相続人同士で遺産の分け方を決めた場合に必要です。 |
| 遺言書 | 遺言書がある場合に提出します。(公正証書遺言以外は家庭裁判所の検認が必要な場合があります) |
ステップ3:証券の移管手続き
書類がすべて揃ったら、証券会社に提出し、相続手続きを進めます。書類に不備がなければ、被相続人の口座から相続人の口座へ、株式や投資信託などが移管(名義変更)されます。手続きが完了するまでには、書類提出後、数週間から1ヶ月以上かかることもあります。
故人と同じ証券会社に口座開設は必要?
ここが一番気になるポイントかもしれませんね。結論から言うと、原則として、被相続人が利用していた証券会社に、相続人名義の口座を開設する必要があります。なぜなら、証券の相続は「被相続人の口座」から「相続人の口座」へ資産を移す形で行われるからです。
なぜ新しい口座が必要なの?
銀行の預金であれば、解約して現金で受け取ることもできますが、証券の場合は少し違います。株式や投資信託は、それ自体を管理するための「受け皿」となる口座が必要です。被相続人の口座は亡くなった時点で凍結されてしまうため、そのままでは売却もできません。そのため、相続人が資産を受け継ぐための専用の口座を、その証券会社内に用意する必要があるのです。
すでにその証券会社に口座がある場合は?
もし、あなたが被相続人と同じ証券会社にすでに自分の口座を持っている場合は、新たに口座を開設する必要はありません。その既存の口座に、相続した証券を移管してもらうことができます。手続きの際に、ご自身の口座番号などを伝えればスムーズに進みますよ。
自分が使っている別の証券会社に直接移せる?
「故人が使っていたのはA証券。でも私はB証券をメインで使っているから、直接B証券の口座に入れてほしい…」そう思うのは自然なことですよね。しかし、残念ながら、被相続人のA証券口座から、相続人のB証券口座へ直接証券を移管することは、ほとんどの証券会社で対応していません。
移管の基本的なルール
証券の相続手続きは、あくまで「被相続人が口座を持っていた証券会社内」で完結させるのが基本ルールです。つまり、一度はその証券会社に開設した相続人自身の口座で資産を受け取る必要があります。
自分の証券口座に移すための「2ステップ」
どうしても自分が普段使っている証券会社で管理したい場合は、少し手間がかかりますが、以下の2段階のステップを踏むことになります。
- ステップ1:被相続人が口座を持っていた証券会社で相続手続きを行い、相続人名義の口座に証券を移管してもらう。
- ステップ2:相続手続きが完了した後、その口座から、自分がメインで使っている別の証券会社の口座へ「株式移管(出庫)手続き」を行う。
この「株式移管手続き」には、証券会社によっては手数料がかかる場合があります。例えば、1銘柄あたり1,100円(税込)など、金融機関ごとに定められていますので、事前に確認しておくと安心です。
相続した証券はどうすればいい?3つの選択肢
無事に証券の相続手続きが完了したら、その資産をどうするかを決めましょう。主に3つの選択肢があります。
そのまま保有し続ける
相続した株式や投資信託を、そのまま資産として持ち続ける方法です。将来の値上がりを期待したり、配当金や分配金を受け取ったりすることができます。特に投資に興味がある方や、故人の思いを引き継ぎたい方に選ばれることが多いです。
売却して現金化する
相続した証券を売却し、現金にする方法です。複数の相続人で遺産を分ける場合、公平に分割しやすいというメリットがあります。例えば、株式を100株相続しても、相続人が2人いると50株ずつに分けられないこともあります。現金化すれば、1円単位で正確に分けられますよね。ただし、売却して利益が出た場合は、譲渡所得税がかかる点に注意が必要です。
他の証券会社へ移管する
先ほども触れましたが、資産管理を一本化したい場合などに、ご自身がメインで利用している他の証券会社へ移管する方法です。手数料や手間はかかりますが、複数の口座を管理する煩わしさから解放されます。
知っておきたい注意点
証券の相続には、いくつか注意しておきたいポイントがあります。スムーズに手続きを進めるために、ぜひ押さえておきましょう。
NISA口座の相続はできない
被相続人がNISA(少額投資非課税制度)口座で保有していた証券は、NISA口座のまま相続することはできません。相続手続きを行うと、NISA口座から課税口座(特定口座や一般口座)に払い出され、相続人が引き継ぐことになります。その際の取得価額は、被相続人が亡くなった日の時価となるため、覚えておきましょう。
相続税の評価方法
相続税を計算する際の上場株式の評価額は、以下の4つのうち、最も低い価格を選んで申告することができます。これは相続人にとって有利な仕組みなので、ぜひ活用してください。
| 評価時点 | 価格 |
| ①相続開始日(亡くなった日) | その日の終値 |
| ②相続開始があった月の毎日の最終価格 | 月間平均額 |
| ③相続開始があった月の前月の毎日の最終価格 | 月間平均額 |
| ④相続開始があった月の前々月の毎日の最終価格 | 月間平均額 |
どの価格が一番低いかは、証券会社に依頼すれば計算してもらえることが多いですよ。
まとめ
今回は、証券を相続する際の口座開設の必要性や、証券の移管について解説しました。ポイントをまとめますね。
- 証券を相続するには、原則として被相続人と同じ証券会社に相続人名義の口座が必要です。
- 自分が使っている別の証券会社へ直接、証券を移管することはできません。
- 自分の口座で管理したい場合は、相続手続き完了後に、別途「移管手続き」が必要になります。
- 相続した証券は、そのまま保有する、売却して現金化する、他の証券会社へ移管するといった選択肢があります。
証券の相続は少し複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつのステップを証券会社に確認しながら進めれば大丈夫です。この記事が、あなたの不安を少しでも解消できたら嬉しいです。
参考文献
証券の相続手続きに関するよくある質問
Q.亡くなった家族と同じ証券会社に口座を開設しないと、株や投資信託を相続できませんか?
A.はい、原則として、まずは被相続人(亡くなった方)と同じ証券会社に、相続人名義の証券口座を開設する必要があります。その口座に相続する証券を移管(振替)してから、その後の手続きに進みます。
Q.相続した株を、自分が普段使っている別の証券会社の口座に直接移すことはできますか?
A.直接移すことはできません。一度、被相続人と同じ証券会社で開設した相続人名義の口座に証券を移してから、ご自身が利用している証券会社へ移管(出庫)手続きを行うのが一般的な流れです。
Q.なぜ被相続人と同じ証券会社に口座を作る必要があるのですか?
A.証券の相続手続きは、まず被相続人の口座から相続人の口座へ証券を振り替える形で行われるためです。これにより、どの証券を誰が相続したかを明確に管理することができます。
Q.相続手続きのために新しく作った証券口座は、ずっと使い続けなければいけませんか?
A.いいえ,その必要はありません。相続した証券をすべてご自身のメイン口座に移管したり、売却したりした後は、その口座を解約することも可能です。
Q.相続した証券をすぐに売却したい場合も、一度自分の口座に移す必要がありますか?
A.はい、必要です。証券を売却するには、その証券がご自身の名義の口座に入っている必要があります。被相続人の口座から相続人名義の口座へ移管手続きを完了させた後で、売却手続きが可能になります。
Q.複数の相続人がいる場合、口座開設はどうなりますか?
A.遺産分割協議に基づき、証券を相続する相続人全員が、それぞれ被相続人と同じ証券会社に口座を開設する必要があります。その後、協議内容に応じて各相続人の口座へ証券が振り分けられます。