医療費の自己負担割合はどうやって決まるの?
病院などでお支払いする医療費は、かかった費用の全額を支払っているわけではなく、一部を自己負担していますよね。特に75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度では、自己負担の割合が所得に応じて「1割」「2割」「3割」の3つに分かれています。この割合は、毎年8月1日を基準日として、前年の所得をもとに見直される仕組みになっているんですよ。
自己負担割合の3つの区分
まずは、3つの負担割合がどのような所得の方を対象としているのか、大まかな区分を見てみましょう。
| 負担割合 | 所得区分 |
| 1割 | 一般所得者・住民税非課税世帯の方 |
| 2割 | 一定以上の所得がある方 |
| 3割 | 現役並み所得者の方 |
このように、所得が高い方ほど負担割合が大きくなる仕組みです。今回は、この中でも「1割負担」になる条件について、詳しく見ていきますね。
判定の基準となる「住民税課税所得」とは?
負担割合を決める上でとても大切なのが「住民税課税所得」という言葉です。これは、いわゆる「年収」や「手取り額」とは少し違います。1年間の収入(売上や給料、年金など)から、必要経費や給与所得控除、公的年金等控除、さらに社会保険料控除や基礎控除といった様々な所得控除を差し引いた後の金額のことを指します。お住まいの市区町村から届く「住民税納税通知書」に「課税標準額」や「課税される所得金額」といった名前で記載されていることが多いので、確認してみてくださいね。
判定のタイミングはいつ?
自己負担割合は、毎年8月1日に、前年の所得に基づいて見直されます。例えば、令和7年8月1日から令和8年7月31日までの負担割合を知りたい場合は、令和6年(1月~12月)の所得から計算された「令和7年度の住民税課税所得」が基準になります。毎年夏頃に新しい保険証が届くのは、この見直しが行われるからなんです。
医療費「1割負担」になるための具体的な条件
それでは、本題の「1割負担」になるのは具体的にどのような場合なのかを見ていきましょう。大きく分けると、「住民税が非課税の世帯」と「住民税が課税されているけれど所得が一定以下の世帯」の2つのパターンがあります。
住民税非課税世帯の場合
まず、ご自身を含め、同じ世帯にいる方全員が住民税非課税の場合は、所得の金額にかかわらず自己負担割合は1割になります。この場合、所得区分は「区分Ⅰ」や「区分Ⅱ」に該当し、高額療養費の自己負担限度額なども低く設定されています。
住民税課税世帯の場合
住民税を支払っている方でも、1割負担になるケースがあります。これは、3割負担や2割負担の条件に当てはまらない方々です。具体的には、同じ世帯の後期高齢者医療制度の被保険者の中に、住民税課税所得が145万円以上の方がいないことが大きな条件となります。
所得区分「一般Ⅰ」とは
住民税課税世帯で1割負担となる方は、所得区分では「一般Ⅰ」と呼ばれます。この区分は、2割負担となる「一般Ⅱ」や3割負担の「現役並み所得者」に該当しない方を指します。ご自身の保険証に記載されている負担割合が1割であれば、基本的にはこの「一般Ⅰ」に該当すると考えてよいでしょう。
「課税所得145万円未満」の壁とは?
自己負担割合を分ける大きな境界線の一つが、「課税所得145万円」です。この金額は、3割負担となる「現役並み所得者」に該当するかどうかを判断するための重要な基準となります。
なぜ「145万円」が基準なの?
課税所得が145万円以上ある方は、現役で働いている世代と同程度の所得水準にあるとみなされ、医療費の負担も同じ3割をお願いします、という考え方に基づいています。そのため、同じ世帯の被保険者の誰か一人でも課税所得が145万円以上になると、原則として世帯全員が3割負担になります。
課税所得の計算方法を簡単に解説
課税所得がどうやって計算されるか、簡単な流れをご紹介しますね。
まず、年金や給与などの「収入」から、それぞれの収入に応じた控除(公的年金等控除や給与所得控除)を引いて「所得金額」を計算します。
次に、その「所得金額」から、社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除(43万円)といった「所得控除」を差し引きます。
この結果、残った金額が「住民税課税所得」となります。
「年収約370万円」の目安はどこから来ている?
「課税所得145万円」という基準は分かりましたが、「年収約370万円」という目安はどこから来たのでしょうか。これは、課税所得145万円以上でも、収入額によっては負担が軽減される例外措置が関係しています。
「収入」で判定する例外措置とは
課税所得が145万円以上で3割負担と判定された場合でも、年間の「収入」額が一定の基準より低い場合は、申請することによって負担割合が2割または1割に引き下げられる「基準収入額適用申請」という制度があります。この制度があるため、課税所得だけでなく年収額も重要になってくるのです。
収入基準による例外措置の金額
具体的な収入基準は以下のようになっています。キーワードにある「年収約370万円」は、単身世帯の基準である「383万円」に近いことから来ていると考えられますね。
| 世帯の状況 | 収入基準額 |
| 後期高齢者医療制度の被保険者が1人の世帯 | 収入383万円未満 |
| 後期高齢者医療制度の被保険者が2人以上いる世帯 | 収入合計520万円未満 |
| 被保険者1人で収入383万円以上でも、同じ世帯に70~74歳の方がいる場合 | 被保険者とその70~74歳の方の収入合計520万円未満 |
この「収入」とは、経費などを引く前の金額(年金収入や給与収入そのもの)を指しますので、所得金額とは違う点に注意してくださいね。
自分の負担割合を確認する方法
ご自身の負担割合が何割なのかを正確に知るための、確実な方法をいくつかご紹介します。
「後期高齢者医療被保険者証」を確認する
一番簡単で確実な方法は、お手元にある「後期高齢者医療被保険者証(保険証)」を見ることです。保険証の表面に「一部負担金の割合」という欄があり、そこに「1割」「2割」または「3割」とハッキリ記載されています。
「住民税納税通知書」で課税所得をチェック
今後の負担割合の目安を知りたい場合は、毎年6月頃に市区町村から送られてくる「住民税納税通知書」を確認してみましょう。その中の「課税標準額」や「課税される所得金額」という項目が、ご自身の住民税課税所得にあたります。この金額が145万円未満かどうかを一つの目安にすることができます。
わからない時は市区町村の窓口へ
保険証を見てもよく分からなかったり、収入の状況が変わって今後の見通しが気になったりする場合は、お住まいの市区町村の後期高齢者医療担当の窓口に相談するのが一番です。専門の職員さんが丁寧に教えてくれますので、安心して問い合わせてみてください。
まとめ
今回は、医療費の自己負担が1割になる方の条件について詳しく解説しました。ポイントをまとめると、負担割合は主に「住民税課税所得」によって決まり、課税所得145万円未満が一つの大きな目安となります。ただし、課税所得が145万円を超えても、年収額によっては負担が軽減される例外措置もあります。ご自身の正確な負担割合は、まず保険証で確認し、不明な点があれば市区町村の窓口で相談することが大切です。制度を正しく理解して、安心して医療サービスを受けられるようにしましょう。
参考文献
自己負担割合の見直し(2割負担)|東京都後期高齢者医療広域連合公式ウェブサイト
医療費1割負担の所得基準に関するよくある質問まとめ
Q.医療費の自己負担が1割になるのはどのような人ですか?
A.75歳以上の方(後期高齢者医療制度の被保険者)などで、同じ世帯の被保険者全員の住民税課税所得が145万円未満の場合、自己負担は原則1割です。ただし、年収によっては2割負担になる場合があります。
Q.「課税所得145万円未満」とは具体的にどういう意味ですか?
A.収入から給与所得控除や公的年金等控除、基礎控除などの各種所得控除を差し引いた後の、税率をかける前の所得金額が145万円未満であることを指します。住民税を計算する際の基準となる金額です。
Q.「年収約370万円」という基準は何を指していますか?
A.課税所得が145万円以上で「現役並み所得者(3割負担)」と判定された方でも、年収が一定額未満(例:単身で383万円未満)の場合、「一般」区分(1割または2割負担)に変更されることがあるため、その判定基準の一つとなる年収の目安です。
Q.医療費の負担割合は、いつの所得で決まるのですか?
A.毎年8月1日から翌年7月31日までの医療費の負担割合は、前年(1月~12月)の所得をもとに判定されます。そのため、毎年8月に見直しが行われます。
Q.自分の課税所得を確認する方法はありますか?
A.お住まいの市区町村から毎年6月頃に送付される「住民税課税(納税)証明書」や「住民税決定通知書」で確認できます。「課税標準額」や「課税される所得金額」といった項目をご確認ください。
Q.年の途中で所得が減った場合、負担割合はすぐに変わりますか?
A.いいえ、負担割合は前年の所得で判定され、原則として8月1日から1年間は固定です。ただし、所得の更正(修正申告など)があった場合などは、さかのぼって負担割合が変更されることがあります。