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相続税の分割払い「延納制度」とは?4つの要件や期間を徹底解説

2025-11-27
目次

ご家族が亡くなられた後、考えなければならないのが相続税です。相続税は原則として「現金一括納付」が基本ですが、「相続財産が不動産ばかりで、手元に現金がない…」というケースも少なくありません。そんな時に頼りになるのが、相続税の分割払いを認める「延納制度」です。この記事では、延納制度の仕組みや利用するための条件、注意点などをわかりやすく解説しますので、ぜひ参考にしてくださいね。

延納制度とは?相続税の分割払いができる救済措置

延納制度とは、相続税を期限までに現金で一括納付することが難しい場合に、最長20年間の分割払い(年払い)が認められる制度のことです。相続税の納付期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は亡くなった日)の翌日から10ヵ月以内と定められていますが、この期間内に納税資金を準備できない方のための大切な救済措置と言えます。

なぜ延納制度が必要なの?

相続財産は、現金や預貯金だけとは限りませんよね。例えば、遺産のほとんどがご実家の土地や建物、あるいは会社の株式といった、すぐに現金化できない財産であるケースは非常に多いです。こうした財産を相続した場合、高額な相続税がかかるにもかかわらず、手元には納税のためのお金が足りないという状況が起こり得ます。無理に土地を売却しようとしても、買い手が見つからなかったり、希望の価格で売れなかったりすることも。延納制度は、このような納税者の事情を考慮し、大切な財産を無理に手放すことなく納税ができるように設けられた制度なのです。

延納と「物納」の違い

延納とよく似た制度に「物納」があります。これは、現金で納める代わりに、土地や建物などの財産そのものを国に納める方法です。両者の大きな違いは以下の通りです。

延納 あくまで現金で分割して支払う制度。財産は手元に残ります。
物納 財産そのもので税金を納める制度。その財産は国のものになります。

税金の納付方法としては、まず現金一括納付が原則です。それが難しい場合に「延納」を検討し、延納によっても納付が困難な場合に、最終手段として「物納」が認められるという順番になっています。

延納を利用するための4つの必須要件

延納制度は誰でも利用できるわけではなく、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。税務署による審査があり、一つでも満たせない場合は認められないため、しっかり確認しておきましょう。

要件①:相続税額が10万円を超えていること

まず、納付すべき相続税の額が10万円を超えていることが条件です。これは、相続人一人ひとりに対して判定されます。例えば、兄弟2人で相続し、兄の相続税額が15万円、弟の相続税額が8万円だった場合、延納を申請できるのは兄だけということになります。

要件②:現金での一括納付が難しいこと

「現金での納付が難しい」と認められるには、客観的な理由が必要です。具体的には、相続によって得た預貯金だけでなく、ご自身がもともと持っている預貯金などを使ってもなお、相続税を一括で支払えない状況でなければなりません。もちろん、当面の生活費や事業を続けるための運転資金まで支払いに充てる必要はなく、それらは手元に残すことが考慮されますが、単に「手元の現金を減らしたくない」という理由では認められません。

要件③:期限内に申請すること

延納を希望する場合は、相続税の納付期限(相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内)までに、「延納申請書」と後述する「担保提供関係書類」を所轄の税務署に提出しなければなりません。期限を1日でも過ぎてしまうと、申請を受け付けてもらえないので注意が必要です。

要件④:担保を提供すること

延納は、いわば国に対して税金を分割で支払う約束をするものですから、その支払いを保証するための「担保」を提供する必要があります。担保にできる財産は、国債や地方債、相続した土地・建物など、国が認めるものに限られます。
ただし、例外として、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下の場合には、担保は不要とされています。

延納できる期間と利子税について

延納制度を利用する上で最も気になるのが、「どのくらいの期間、分割払いができて、利息はかかるのか?」という点だと思います。支払いを先延ばしにできるメリットは大きいですが、その分コストも発生しますので、仕組みをしっかり理解しておきましょう。

延納期間は最長20年!財産内容で変わる

延納が認められる期間は、相続した財産全体のうち、不動産や非上場株式などの「不動産等」が占める割合によって変わります。不動産の割合が高いほど、現金化に時間がかかると考えられるため、より長い期間の延納が認められる傾向にあります。具体的には、以下の表のようになっています。

不動産等の割合 延納期間の上限
75%以上の場合 不動産等にかかる税額:20年
動産(現金等)にかかる税額:10年
50%以上75%未満の場合 不動産等にかかる税額:15年
動産(現金等)にかかる税額:10年
50%未満の場合 延納税額全体:5年

利息にあたる「利子税」の仕組み

延納期間中は、元金である相続税だけでなく、利息にあたる「利子税」をあわせて納付する必要があります。この利子税の割合(利率)も、延納期間と同じように、相続財産に占める不動産等の割合によって変わります。また、利率は金融情勢などによって変動します。
以下は、令和7年1月1日現在の延納特例基準割合(0.9%)を基にした特例割合の例です。

不動産等の割合 利子税の割合(年率)
75%以上の場合 不動産等にかかる税額:0.4%
動産(現金等)にかかる税額:0.6%
50%以上75%未満の場合 不動産等にかかる税額:0.4%
動産(現金等)にかかる税額:0.6%
50%未満の場合 延納税額全体:0.7%

※利率は毎年見直される可能性があるため、申請時には必ず最新の情報を国税庁のホームページなどでご確認ください。

延納申請の手続きの流れ

延納を申請してから許可が下りるまでには、いくつかのステップがあります。手続きは専門的で複雑な部分も多いため、税理士などの専門家と相談しながら進めるのが一般的です。

STEP1:必要書類の準備

まずは、延納申請に必要な書類を揃えます。主に以下の3種類の書類が必要です。

  • 相続税の延納申請書:延納したい税額や分割払いの計画などを記入します。
  • 金銭納付を困難とする理由書:なぜ一括で納付できないのか、財産状況や収支状況を詳しく説明する書類です。
  • 担保提供関係書類:担保として提供する財産の登記事項証明書や固定資産税評価証明書など、財産の種類に応じた書類が必要です。

STEP2:税務署への申請

準備した書類一式を、相続税の申告書と一緒に、納付期限までに被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に提出します。この期限を守ることが非常に重要です。

STEP3:税務署の審査と許可・却下

書類を提出すると、税務署が延納の要件を満たしているかどうかを審査します。審査期間は、原則として申請から3ヵ月以内です。審査の結果、要件を満たしていると判断されれば「延納許可通知書」が届き、分割での納付がスタートします。もし要件を満たしていないと判断されると、申請は却下されてしまいます。

事前にできる!相続税の納税資金対策

延納は便利な制度ですが、利子税の負担や手続きの手間を考えると、できれば利用せずに済ませたいものです。そのためには、相続が発生する前からの準備、つまり「生前対策」が非常に重要になります。

財産状況を把握する

まずは、ご自身の財産が「現金・預貯金」と「不動産など」で、それぞれどのくらいの割合になっているかを確認することから始めましょう。相続税がいくらくらいかかりそうか、そしてそれを支払うための現金が足りているかを把握することが、対策の第一歩です。

生命保険を活用する

生命保険の死亡保険金は、「500万円 × 法定相続人の数」までの金額が非課税になります。また、保険金は受取人固有の財産として、遺産分割協議を待たずに受け取れるため、納税資金として非常に有効です。納税資金の準備として、生命保険への加入を検討するのも良いでしょう。

生前贈与を検討する

元気なうちに、計画的に財産を次の世代に贈与しておく「生前贈与」も有効な対策です。暦年贈与(年間110万円まで非課税)などを活用して、将来の相続財産を減らしておくことで、相続税そのものの負担を軽くすることができます。

まとめ

相続税の延納制度は、現金一括での納付が難しい方にとって、とても心強い制度です。しかし、利用するには厳しい要件があり、利子税という追加の負担も発生します。また、担保の準備や複雑な書類作成など、専門的な知識が必要な場面も多くあります。

「もしかしたら延納が必要になるかもしれない」と感じたら、まずは相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。専門家であれば、延納申請のサポートはもちろん、そもそも延納しなくて済むような遺産分割の方法や、相続税評価額の引き下げなど、さまざまな角度から最適な解決策を提案してくれるはずです。一人で悩まず、ぜひ専門家の力を借りて、円満な相続を実現してくださいね。

参考文献

国税庁 No.4211 相続税の延納

国税庁 相続税・贈与税の延納の手引

相続税の延納制度に関するよくある質問まとめ

Q.相続税が期限までに払えない場合、どうすればいいですか?

A.相続税の現金一括納付が難しい場合、一定の要件を満たせば最長20年間の分割払いが認められる「延納制度」を利用できる可能性があります。

Q.相続税の延納を利用するための条件を教えてください。

A.主に「相続税額が10万円を超えている」「現金での納付が困難な理由がある」「納付期限までに申請する」「原則として担保を提供する」という4つの要件をすべて満たす必要があります。

Q.延納制度を利用すると、利息はかかりますか?

A.はい、延納期間中は元本の他に「利子税」という利息を支払う必要があります。利率は延納する財産の種類や期間によって異なります。

Q.延納の担保はどんな財産でも認められますか?

A.いいえ、担保にできる財産は国債や土地、建物などに限られます。ただし、延納税額が100万円以下で延納期間が3年以下の場合は、担保は不要です。

Q.延納の分割払いは最長で何年まで可能ですか?

A.最長で20年です。期間は相続財産に占める不動産の割合によって異なり、5年、10年、15年、20年のいずれかになります。

Q.延納の申請をすれば必ず認められますか?

A.いいえ、申請には税務署の審査があり、要件を満たしていないと判断されると却下される可能性があります。手続きが複雑なため、専門家への相談をおすすめします。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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対応責任者
税理士 島本 雅史

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