ご家族が亡くなられた後の相続手続き、本当にお疲れ様です。手続きを進める中で、保険会社から「未収配当金」という言葉が記載された通知が届き、「これは何だろう?」と戸惑っていませんか?死亡保険金とは違うの?相続財産になるの?税金はかかるの?など、たくさんの疑問が浮かんでくるかと思います。この記事では、そんな「保険会社からの未収配当金」について、相続での扱いや税金のことを、できるだけ分かりやすく、丁寧にご説明していきますね。
そもそも保険会社の「未収配当金」とは?
まず、この「未収配当金」が一体どういうものなのか、基本から見ていきましょう。言葉は少し難しく聞こえるかもしれませんが、仕組みはシンプルですよ。
配当金がもらえる保険の仕組み
生命保険の中には「配当金付き」というタイプの商品があります。これは、保険会社が契約者の方から預かった保険料を運用し、予定していたよりも多くの利益(剰余金といいます)が出た場合に、その一部を契約者に還元してくれる仕組みです。この還元されるお金が「配当金」です。
この配当金は、保険会社が「予定していた死亡者の数」より実際の死亡者が少なかったり、「予定していた運用利回り」より実績が良かったりした場合に発生します。いわば、保険料の運用がうまくいったお礼のようなものですね。
なぜ「未収」になるの?
では、なぜ「未収」、つまり「まだ受け取っていない」状態になるのでしょうか。それは、配当金を受け取る権利は確定していたものの、実際に支払われる前に契約者の方が亡くなられてしまったためです。
例えば、年に1回、3月末に権利が確定し、6月に支払われる配当金があったとします。もし契約者の方が4月に亡くなられた場合、3月末時点で配当金をもらう権利は持っていますが、まだ受け取っていませんよね。この状態のお金が「未収配当金」となるわけです。
「未収配当金」と「死亡保険金」は別物?
はい、この二つはまったく別の性質を持っています。死亡保険金は、被保険者が亡くなったことを理由として、保険契約に基づいて受取人に支払われるお金です。一方、未収配当金は、亡くなった方が生きていた間の契約に基づいて発生した、いわば「故人の財産」そのものです。
多くの場合、死亡保険金を請求すると、この未収配当金も一緒に振り込まれるため混同しがちですが、相続手続きにおいては明確に区別して考える必要があります。この違いが、後ほどご説明する税金の扱いでとても重要になってくるんです。
未収配当金は相続財産になるの?
ここが一番気になるポイントかもしれませんね。結論からお伝えすると、保険の未収配当金は相続財産に含まれます。亡くなった方が生前に受け取る権利を持っていたお金なので、預貯金や不動産などと同じように扱われるんですよ。
「本来の相続財産」として扱われます
未収配当金は、亡くなった方が保険会社に対して持っていた「配当金を請求する権利(債権)」です。そのため、法律上は「本来の相続財産」として扱われます。これはつまり、遺言書で特定の誰かに遺す旨が書かれていない限り、相続人全員でどのように分けるかを話し合う「遺産分割協議」の対象になるということです。特定の相続人が勝手に受け取って自分のものにして良いわけではないので、注意が必要ですね。
死亡保険金との大きな違いを整理しましょう
先ほども少し触れましたが、死亡保険金と未収配当金の相続における扱いは大きく異なります。この違いは相続手続きを進める上で非常に重要なので、しっかり押さえておきましょう。
| 項目 | 死亡保険金 |
| 財産の性質 | 受取人固有の財産(亡くなった方の財産ではない) |
| 遺産分割 | 原則、対象外(受取人が単独で受け取れる) |
| 項目 | 未収配当金 |
| 財産の性質 | 被相続人(故人)の財産 |
| 遺産分割 | 対象(相続人全員で分割方法を協議する) |
このように、死亡保険金は受取人のもの、未収配当金は相続人みんなのもの、と覚えておくと分かりやすいかもしれません。
未収配当金に相続税はかかる?
未収配当金が相続財産である以上、残念ながら相続税の課税対象になります。他の預貯金や不動産などと合算した遺産の総額が、相続税の基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合には、相続税の申告と納税が必要になります。
相続税を計算するときの評価額は?
未収配当金の相続税評価額は、原則として、亡くなった日(相続開始日)時点で未払いとなっていた配当金の額面金額そのものです。ただし、もし配当金の支払い時に所得税などが源泉徴収される場合は、その税額を差し引いた手取り額が評価額となります。
評価額 = 未収配当金の額面金額 - 源泉徴収される所得税・復興特別所得税など
通常、保険会社から送られてくる「支払明細書」などに記載されている金額をそのまま計上すれば問題ありません。
【重要】死亡保険金の非課税枠は使えません
ここが最も注意すべきポイントです。死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という生命保険金の非課税枠が設けられていますが、未収配当金にはこの非課税枠を適用することはできません。
なぜなら、この非課税枠はあくまで「みなし相続財産」である死亡保険金等に適用される特例だからです。未収配当金は「本来の相続財産」であるため、この特例の対象外となってしまうのです。この違いを理解しておかないと、相続税の計算を間違えてしまう可能性があるので、十分にご注意ください。
| 項目 | 死亡保険金 |
| 非課税枠 | 適用できる(500万円 × 法定相続人の数) |
| 根拠 | みなし相続財産(相続税法第3条) |
| 項目 | 未収配当金 |
| 非課税枠 | 適用できない |
| 根拠 | 本来の相続財産 |
死亡保険金と一緒に支払われるその他のお金
相続が発生した際には、死亡保険金や未収配当金の他にも、保険会社から様々なお金が支払われることがあります。これらも相続税の扱いで混同しやすいので、ここで整理しておきましょう。
非課税枠が「使える」もの
死亡保険金と性質が似ており、実質的に保険金の一部とみなされるものは、非課税枠の対象になります。
- 割戻金:JA共済や県民共済などの共済契約における配当金のようなものです。死亡共済金と一緒に支払われる場合、非課税枠の対象となります。
- 前納保険料:将来の保険料を前払いしていた場合、亡くなった時点での未経過分の保険料が返還されます。これも保険金と一体のものとして非課税枠が使えます。
非課税枠が「使えない」もの(本来の相続財産)
未収配当金と同じく、亡くなった方の財産として扱われ、非課税枠が使えないものです。
- 特約還付金:主契約が死亡により終了したことに伴い、特約部分の積立金などが返還されるお金です。これも本来の相続財産です。
- 未収の生存給付金:一定期間生存していることでもらえるお祝い金などで、受け取る前に亡くなった場合の未請求分です。
そもそも相続税の「対象外」となるもの
中には、相続税とは別の税金の対象になるものや、税金がかからないものもあります。
- 入院給付金:亡くなる前の入院に対して支払われる給付金です。受取人が誰かによりますが、被相続人(故人)が受け取る契約だった場合は相続財産になります。配偶者や子などが受取人だった場合は、その受取人固有の財産となり、相続税も所得税もかかりません。
- 遅延利息:保険金の支払いが保険会社の都合で遅れた場合に支払われる利息です。これは相続財産ではなく、受け取った人のその年の「雑所得」として所得税の対象になります。
未収配当金の手続きはどうすればいい?
では、実際に未収配当金を受け取るにはどうすれば良いのでしょうか。手続きは、通常、死亡保険金の請求手続きと一緒に行うことができます。
保険会社への連絡と必要書類
まずは、保険証券を手元に用意し、契約者である家族が亡くなったことを保険会社へ連絡します。その際に、死亡保険金の請求手続きとあわせて、未収配当金があるかどうか、またその金額を確認しましょう。
手続きには、一般的に以下の書類が必要になります。
- 保険会社所定の請求書
- 亡くなった方の死亡が確認できる戸籍謄本(または除籍謄本)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人代表者の印鑑証明書
- 遺産分割協議書(相続人間で合意した内容を証明するため)
必要書類は保険会社や契約内容によって異なる場合があるので、必ず事前に確認してくださいね。
誰が受け取るのかを明確にしましょう
未収配当金は遺産分割の対象となる財産です。そのため、相続人全員で「誰が、いくら受け取るのか」をしっかりと話し合って決める必要があります。話し合いがまとまったら、その内容を**遺産分割協議書**に明記しておくと、後のトラブルを防ぐことができますし、金融機関での手続きもスムーズに進みます。
まとめ
最後に、この記事の重要なポイントをもう一度振り返ってみましょう。
- 保険の未収配当金は、亡くなった方が生前に受け取る権利を持っていた、まだ支払われていない配当金のことです。
- 未収配当金は「本来の相続財産」であり、預貯金などと同じように遺産分割協議の対象になります。
- 相続税の課税対象になりますが、死亡保険金に適用される「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠は使えません。
- 死亡保険金とは性質が全く異なるため、相続手続きや税金の計算では、明確に区別して扱う必要があります。
相続手続きは専門的なことも多く、大変だと思います。もし未収配当金の扱いや相続税の申告で分からないこと、不安なことがあれば、一人で抱え込まずに保険会社や税理士などの専門家に相談してみてくださいね。
参考文献
保険の未収配当金と相続に関するよくある質問まとめ
Q.そもそも保険の未収配当金とは何ですか?
A.生命保険の配当金のうち、まだ受け取られていないお金のことです。保険会社が予定より多くの利益を得た場合に契約者に還元されるもので、保険契約者が亡くなった時点で未払いの配当金がこれにあたります。
Q.未収配当金は相続財産になりますか?
A.はい、相続財産になります。被相続人(亡くなった方)が受け取るべき権利だったお金なので、預貯金などと同じように相続税の課税対象となり、遺産分割の対象にも含まれます。
Q.未収配当金は死亡保険金と一緒に受け取れるのですか?
A.はい、通常は死亡保険金の請求手続きを行うと、保険会社から死亡保険金とあわせて支払われます。保険会社から送られてくる「支払通知書」などで内訳を確認することができます。
Q.未収配当金を受け取った場合、確定申告は必要ですか?
A.いいえ、未収配当金は相続財産として相続税の対象となるため、受け取った相続人が所得税の確定申告をする必要はありません。死亡保険金と同様の扱いです。
Q.未収配当金の金額はどのように確認できますか?
A.保険会社に問い合わせることで確認できます。死亡保険金の請求手続きの際に、未収配当金の有無や金額についても合わせて確認するとスムーズです。また、支払通知書にも記載されます。
Q.相続放棄をした場合、未収配当金だけ受け取ることはできますか?
A.いいえ、できません。未収配当金は相続財産の一部です。そのため、未収配当金を受け取ってしまうと、相続を承認した(単純承認)とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があるので注意が必要です。