会社が役員のために社宅を用意すると、節税につながることがありますよね。でも、そのためには「賃料相当額」という、役員から最低限いただく必要のある家賃を正しく計算しないといけません。この計算、実は社宅の「床面積」によって方法が変わるため、床面積の判定がとても大切なんです。特にマンションのような一棟ビルの場合、「お部屋の広さだけでいいの?」「それとも共用部分も関係あるの?」と迷われる方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな役員社宅の床面積の判定方法について、わかりやすく解説していきますね。
役員社宅の税務ルールと床面積の重要性
役員社宅が節税になるのは、会社が支払う家賃と役員からいただく家賃の差額を、会社の経費(損金)にできるからです。そして、役員から一定額以上の家賃(賃料相当額)を受け取っていれば、その差額は役員の給与として課税されないというメリットもあります。この「賃料相当額」をいくらに設定するかが、節税の大きなポイントになるんです。
「賃料相当額」とは?
「賃料相当額」とは、税金のルールで定められた「役員から最低限これだけは家賃として受け取ってくださいね」という金額のことです。会社がこの金額以上の家賃を役員からきちんと受け取っていれば、会社が負担している家賃分は役員の給与とはみなされず、所得税がかかりません。もし受け取る家賃が賃料相当額より少ないと、その差額分が役員への給与として課税されてしまうので注意が必要ですよ。
なぜ床面積の判定が重要?
賃料相当額の計算方法は、社宅が「小規模な住宅」に当てはまるかどうかで大きく変わります。そして、この「小規模な住宅」かどうかを判断する基準が、まさに「床面積」なんです。床面積の判定を間違えてしまうと、賃料相当額の計算も間違ってしまい、思わぬ税金がかかってしまう可能性もあります。だからこそ、床面積を正しく把握することがとても大切なんですね。
豪華社宅には注意が必要
ちなみに、床面積が240平方メートルを超える場合や、プールが付いているなど社会通念上一般的ではないと判断される物件は「豪華社宅」とみなされることがあります。豪華社宅に該当すると、これまで説明した賃料相当額の計算は使えません。この場合は、会社が支払っている家賃の全額が賃料相当額とみなされることが多く、節税メリットがなくなってしまうので、こちらも頭の片隅に置いておいてくださいね。
役員社宅の規模を判定する「床面積」の基準
それでは、賃料相当額の計算の分かれ道となる「小規模な住宅」の基準について見ていきましょう。この基準は、建物の法定耐用年数と床面積によって決まります。
「小規模な住宅」の基準とは?
役員社宅が「小規模な住宅」に該当するかどうかは、以下の表の通りです。建物の種類によって法定耐用年数が違うので、どちらの基準に当てはまるかを確認しましょう。
| 建物の法定耐用年数 | 床面積の基準 |
| 30年以下 | 132平方メートル以下 |
| 30年を超える | 99平方メートル以下 |
法定耐用年数の目安
建物の法定耐用年数は、その構造によって定められています。例えば、一般的なマンションで多い鉄筋コンクリート造は47年なので、「30年を超える」場合の基準が適用されることが多いですね。
| 建物の構造 | 法定耐用年数 |
| 木造 | 22年 |
| 鉄骨造(骨格材の厚さ4mm超) | 34年 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 47年 |
【本題】床面積の判定方法:専有部分?共用部分も?
さて、ここからが今回の本題です。先ほどの基準となる「床面積」をどうやって判定するのか、一戸建てとマンションのような区分所有建物とで考え方が異なりますので、それぞれ見ていきましょう。
一戸建ての場合
一戸建ての社宅の場合、床面積の判定はシンプルです。建物の登記簿謄本などに記載されている実際の床面積(総床面積)で判断します。特に難しい計算はありません。
マンション(区分所有建物)の場合
マンションやオフィスビルの一室を社宅にする場合、注意が必要です。この場合の床面積は、お部屋の中の面積である「専有部分」の面積だけでは判定しません。廊下や階段、エントランスといった「共用部分」の面積を、持分割合に応じてあん分計算し、専有部分の面積に加えた合計面積で判定する必要があるんです。つまり、お部屋の面積が95平方メートルで「99平方メートル以下だからセーフ」と思っていても、共用部分を加えたら100平方メートルになってしまい、「小規模な住宅」に該当しなくなる、というケースも十分にあり得ます。
共用部分を含めた床面積はどうやって調べる?
「共用部分のあん分面積なんて、どうやって調べるの?」と思いますよね。実は、建物の登記簿謄本(登記事項証明書)を見ても、専有部分の面積しか書かれていないことがほとんどです。一番確実なのは、市区町村から送られてくる「固定資産税の課税明細書」を確認する方法です。この書類には、固定資産税を計算するために、共用部分を含めた「現況床面積」が記載されていることが多いので、こちらを参考に判定するのが最も安心ですよ。
「小規模な住宅」の賃料相当額の計算式
無事に床面積を判定でき、「小規模な住宅」に該当することがわかったら、次の3つの式で計算した金額の合計が「賃料相当額」となります。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)× 0.2%
(2) 12円 ×(その建物の総床面積(平方メートル)÷ 3.3平方メートル)
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)× 0.22%
賃料相当額 = (1) + (2) + (3) の合計額
この計算で出てきた金額以上を役員から家賃として受け取っていれば、給与として課税されることはありません。
「小規模な住宅」に該当しない場合の計算式
もし、床面積の判定の結果、「小規模な住宅」の基準を超えてしまった場合は、計算方法が変わります。こちらは社宅が自社所有か、外部から借りているかで計算方法が異なります。
自社所有の社宅の場合
会社が所有している物件を社宅にする場合は、以下の計算式の合計額を12で割ったものが、1ヶ月あたりの賃料相当額になります。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)× 12% ※
(2) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)× 6%
賃料相当額 = { (1) + (2) } ÷ 12
※建物の法定耐用年数が30年を超える場合は、12%ではなく10%で計算します。
借り上げ社宅の場合
会社が大家さんから物件を借りて、それを役員に貸す「借り上げ社宅」の場合は、少し複雑です。次の2つの金額を比べて、どちらか多い方の金額が賃料相当額となります。
- 会社が大家さんに支払っている月額家賃の50%の金額
- 上記「自社所有の社宅の場合」で計算した金額
借り上げ社宅の場合は、少なくとも家賃の半額は役員から徴収する必要がある、と覚えておくと良いかもしれませんね。
まとめ
今回は、役員社宅の床面積の判定方法について詳しく見てきました。最後にポイントを振り返ってみましょう。
- 役員社宅の節税効果を正しく得るには、床面積の判定が非常に重要です。
- 一戸建ての床面積は、実際の総床面積で判定します。
- マンションなどの区分所有建物の場合は、専有部分の面積に、廊下や階段などの共用部分の面積を持ち分割合であん分した面積を加えて判定します。
- 共用部分を含めた正確な面積は、「固定資産税の課税明細書」で確認するのが最も確実です。
役員社宅の賃料相当額の計算は、床面積の判定をはじめ、少し複雑な部分があります。もし判断に迷われた場合は、自己判断で進めずに、税理士などの専門家にご相談されることをおすすめします。
参考文献
役員社宅の床面積判定に関するよくある質問
Q.役員に社宅を貸す際の「小規模な住宅」かどうかを判定する床面積は、どうやって計算するのですか?
A.床面積は、原則として登記簿に表示されている面積で判定します。マンションなどの区分所有建物の場合は、専有部分の面積に、廊下や階段といった共用部分の面積を按分して加えた面積で判定します。
Q.会社所有の一棟ビルの一部を役員社宅として貸す場合、床面積は実際の居住部分の面積で判定しますか?
A.いいえ、実際の居住部分の面積ではありません。その建物全体の床面積を、役員の持分割合など合理的な基準で按分した面積で判定するのが一般的です。土地の面積ではなく、建物の床面積を基に計算します。
Q.なぜ一棟ビルの場合は、実際の居住面積ではなく按分計算が必要なのですか?
A.役員社宅の賃貸料相当額の計算は、建物全体の固定資産税の課税標準額などを基に行われます。そのため、床面積の判定も建物全体を基準とし、合理的な割合で按分する方法が実態に即していると解釈されるためです。
Q.マンションを役員社宅にする場合、バルコニーや専用庭も床面積に含まれますか?
A.廊下や階段などの共用部分は床面積の計算に含まれますが、バルコニーやメーターボックスなど、専有部分と一体となっていても構造上独立している部分は通常、床面積の計算に含めません。
Q.床面積が非常に広い場合など、「豪華社宅」と判定されるとどうなりますか?
A.「豪華社宅」と判定された場合、会社が役員から徴収する賃貸料が、実際に会社が支払う家賃(時価)より低いと、その差額が役員給与として課税されます。床面積240㎡超などが一つの目安となります。
Q.役員社宅の床面積の判定を間違えると、どのようなリスクがありますか?
A.床面積の判定を誤り、賃貸料相当額の計算が正しく行われなかった場合、役員への給与として追徴課税される可能性があります。税務調査で指摘されるリスクがあるため、正確な判定が重要です。