相続税対策としてよく聞く「生前贈与」。でも、亡くなる直前の贈与は、せっかく贈与したのに相続税の対象になってしまうことがあるってご存知でしたか?それが「生前贈与加算」という制度です。2024年からの税制改正でルールが大きく変わり、さらに重要性が増しています。この記事で、生前贈与加算の基本から改正内容、注意点まで、一緒に確認していきましょう。
生前贈与加算とは?基本をわかりやすく解説
生前贈与加算とは、亡くなった方(被相続人)が亡くなる前の一定期間内に行った贈与を、相続財産に足し戻して相続税を計算する制度のことです。せっかく生前に財産を渡して相続財産を減らしても、この制度によって贈与がなかったことにされてしまうイメージですね。この制度があることで、亡くなる直前に急いで贈与をして相続税を不当に安くすることを防いでいます。
生前贈与加算の目的は「駆け込み贈与」の防止
もしこの制度がなかったら、どうなるでしょうか?例えば、余命宣告を受けた方が、亡くなる直前に持っている財産のほとんどを子どもたちに贈与してしまえば、相続税がかからなくなってしまいます。これでは、コツコツと計画的に生前贈与をしていた人や、何もしなかった人との間で不公平が生まれてしまいますよね。そういった「駆け込み贈与」による相続税逃れを防ぎ、税の公平性を保つために、生前贈与加算というルールが設けられているんです。
年間110万円以下の贈与も対象になる?
「暦年贈与なら年間110万円までは贈与税がかからないから大丈夫」と思っていませんか?実は、そこが大きな注意点です。生前贈与加算では、贈与税がかからなかった110万円以下の贈与であっても、加算の対象期間内に行われたものであれば、相続財産に足し戻されてしまいます。例えば、亡くなる1年前に子どもに100万円を贈与した場合、贈与税はかかりませんが、その100万円は相続財産に加算して相続税を計算する必要があるんです。
贈与税を払っていても二重課税にはならない
「加算対象の贈与で贈与税を払っていた場合、相続税もかかるなら二重課税じゃないの?」と心配になるかもしれませんね。でも、ご安心ください。その点はしっかり配慮されていて、「贈与税額控除」という仕組みがあります。生前贈与加算の対象となった贈与について、すでに支払った贈与税がある場合は、その金額を算出した相続税額から差し引くことができます。これにより、同じ財産に贈与税と相続税が二重で課税されることはありません。
【2024年改正】生前贈与加算の期間が3年から7年に延長
これまで生前贈与加算の対象となる期間は「相続開始前3年以内」でしたが、令和5年度税制改正によって、この期間が「相続開始前7年以内」に延長されました。これはとても大きな変更点で、相続対策に大きな影響を与えます。いつから、どのように変わるのかを詳しく見ていきましょう。
具体的にいつからどう変わるの?
この新しいルールは、2024年1月1日以降に行われた贈与から適用されます。ただし、すぐに加算期間が7年になるわけではなく、段階的に延長されていきます。具体的には、亡くなった日(相続開始日)によって、加算される期間が変わります。
| 被相続人の相続開始日 | 加算対象期間 |
| ~2026年12月31日 | 相続開始前3年以内 |
| 2027年1月1日~2030年12月31日 | 2024年1月1日から死亡の日までの間(最大でも4年~7年弱) |
| 2031年1月1日~ | 相続開始前7年以内 |
つまり、2027年以降に相続が発生すると、3年より前の贈与も加算の対象になり始め、2031年以降の相続では、完全に過去7年分の贈与が対象になる、ということです。
延長された4年間には100万円の特別控除がある
期間が7年に延長されたことで、納税者の負担が急に増えすぎないように、少しだけ配慮がされています。新しく加算対象となった相続開始前3年超~7年以内の4年間に行われた贈与については、その期間の贈与額の合計から100万円を差し引いた金額を相続財産に加算することになります。相続開始前3年以内の贈与にはこの控除はなく、全額が加算対象となるので注意してくださいね。
生前贈与加算の対象になる人、ならない人
生前贈与加算は、加算期間内に贈与を受ければ誰でも対象になるわけではありません。対象になるかどうかは、「相続や遺贈で財産を受け取ったかどうか」が重要なポイントになります。
対象になる人
生前贈与加算の対象となるのは、「相続または遺贈によって財産を取得した人」です。具体的には、次のような方々が当てはまります。
| 対象になる人の例 | 具体的な内容 |
| 法定相続人 | 亡くなった方の配偶者、子ども、親、兄弟姉妹など、法律で定められた相続人です。 |
| 受遺者 | 遺言によって財産を受け取った人のことです。相続人でない孫や子の配偶者、友人なども含まれます。 |
| みなし相続財産の受取人 | 生命保険金や死亡退職金など、民法上の相続財産ではないものの、税法上は相続財産とみなされる財産を受け取った人です。 |
対象にならない人
反対に、加算期間内に贈与を受けていても、「相続や遺贈で財産を一切取得しなかった人」は生前贈与加算の対象にはなりません。
代表的な例は、相続人ではないお孫さんです。お孫さんが遺言で財産を受け取ったり、生命保険の受取人になっていたりしない限り、亡くなる直前に贈与を受けていても、その財産は相続財産に加算されません。また、相続人であっても相続放棄をした場合も、財産を取得しないことになるため対象外となります(ただし、生命保険金などを受け取った場合は対象になるので注意が必要です)。
生前贈与加算の対象になる財産、ならない財産
すべての贈与が生前贈与加算の対象になるわけではありません。特に、贈与税の非課税特例を利用したものは対象外となることが多いので、しっかり区別しておくことが大切です。
対象になる財産
生前贈与加算の対象となるのは、原則として「暦年課税制度」を利用して行われた贈与です。加算する金額は、相続時の評価額ではなく、贈与を受けた時点での評価額で計算します。たとえ贈与後に価値が上がったり下がったりしても、贈与時の金額で持ち戻すルールになっています。
対象にならない財産(非課税特例など)
以下のような贈与税の特例を使って贈与された財産は、生前贈与加算の対象外となります。これらの特例は、相続税対策としても非常に有効です。
| 対象外となる主な贈与 | 内容 |
| 相続時精算課税制度を適用した贈与 | この制度で贈与された財産は、贈与の時期にかかわらず全て相続時に精算(加算)されるため、暦年課税の生前贈与加算とは別のルールで扱われます。 |
| 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与) | 婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産などを贈与した場合に使える控除額(最大2,000万円)の部分は加算対象外です。 |
| 住宅取得等資金の贈与の非課税額 | 父母や祖父母から住宅購入資金の贈与を受けた際の非課税枠(最大1,000万円)の部分は加算対象外です。 |
| 教育資金の一括贈与の非課税額 | 父母や祖父母から教育資金の贈与を受けた際の非課税枠(最大1,500万円)の部分は加算対象外です。 |
| 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税額 | 父母や祖父母から結婚・子育て資金の贈与を受けた際の非課税枠(最大1,000万円)の部分は加算対象外です。 |
改正後の生前贈与で注意すべきポイントと対策
加算期間が7年に延長されたことで、これまで以上に計画的な生前贈与が求められるようになりました。最後に、改正後の注意点と対策について見ていきましょう。
対策①:できるだけ早く贈与を始める
最もシンプルで効果的な対策は、できるだけ早くから生前贈与を始めることです。加算期間が7年になったということは、亡くなる7年以上前に行った贈与であれば、相続財産に持ち戻されることはありません。贈与する方がお元気なうちから、長期的な視点で計画を立てることが、これまで以上に重要になります。
対策②:加算対象外の人(孫など)への贈与を検討する
先ほども触れましたが、相続人や受遺者にならない人への贈与は、生前贈与加算の対象外です。そのため、お孫さんなど、財産を遺したいけれど法定相続人ではない方へ贈与することは、非常に有効な相続税対策になります。ただし、お孫さんが代襲相続人になる場合や、遺言で財産を受け取る場合は対象者になってしまうので、状況をよく確認しましょう。
対策③:相続時精算課税制度の活用を検討する
暦年課税の生前贈与加算を避けたい場合、相続時精算課税制度の活用も選択肢の一つです。特に2024年からは、この制度にも年間110万円の基礎控除が新設され、この110万円以下の贈与であれば相続財産に加算されず、申告も不要になりました。将来値上がりしそうな財産を早めに贈与したい場合などに有効です。ただし、一度この制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与では暦年課税に戻れないという大きなデメリットもあるため、慎重な検討が必要です。
まとめ
生前贈与加算は、亡くなる前の一定期間の贈与を相続財産に持ち戻す制度で、2024年以降の贈与からは対象期間が最大7年に延長されました。年間110万円以下の贈与も対象になりますが、相続人でない孫への贈与や、各種非課税特例を活用した贈与は対象外です。期間が延長されたことで、相続税対策はより長期的で計画的に行う必要が出てきました。ご自身の状況に合わせて、どの対策が最適かを見極めることが大切ですが、制度が複雑で判断が難しいと感じることも多いでしょう。そんなときは、税理士などの専門家に相談してみることをお勧めします。
参考文献
国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
生前贈与加算のよくある質問まとめ
Q. 生前贈与加算とは、どのような制度ですか?
A. 亡くなる前の一定期間内に行われた生前贈与を、相続財産に持ち戻して相続税を計算する制度です。これにより、相続税の課税逃れを防ぐ目的があります。
Q. 生前贈与加算の対象となる期間はどのくらいですか?
A. 2024年1月1日以降の贈与については、亡くなる前7年以内の贈与が対象となります。それ以前は亡くなる前3年以内でした。
Q. 誰への贈与が生前贈与加算の対象になりますか?
A. 相続や遺贈によって財産を取得した人が、被相続人(亡くなった方)から受けた贈与が対象です。財産を相続しなかった人への贈与は原則として対象外です。
Q. 年間110万円の非課税枠内の贈与も加算対象ですか?
A. はい、加算対象期間内であれば、年間110万円の非課税枠内の贈与であっても加算の対象となります。ただし、加算された贈与のうち、亡くなる前3年を超える4年間の贈与については、合計100万円まで控除できます。
Q. 生前贈与加算と相続時精算課税制度の違いは何ですか?
A. 生前贈与加算は「暦年課税」における制度です。一方、相続時精算課税制度は、贈与時に特別控除を使い、相続時にその贈与財産を相続財産に加算して精算する、別の選択制の制度です。
Q. 生前贈与加算を避ける方法はありますか?
A. 加算対象外の人(例:財産を相続しない孫など)へ贈与する方法や、贈与税の非課税特例(配偶者控除、教育資金贈与など)を活用する方法があります。ただし、各制度には要件があるため注意が必要です。