税理士法人プライムパートナーズ

借入3億の収益物件相続、配偶者居住権で円満解決するコツ

2024-12-03
目次

「時価5億円、借入3億円の収益物件。現金はないけれど、妻には安心して住み続けてほしいし、子供たちには資産として物件を遺したい。でも、売却はしたくないし、共有名義で揉めさせたくない…」
こんな、一見すると解決が難しそうな悩みを抱えていませんか?大切なご家族のために、ご自身の資産を理想の形で引き継いでもらいたい、そう願うのは当然のことです。実は、いくつかの制度を正しく組み合わせることで、この複雑なご希望を叶える道筋を描くことができます。この記事では、その具体的な方法をステップごとに優しく解説していきます。

現状の課題整理 – なぜこのままでは難しいのか

まずは、なぜご希望の実現が難しいのか、現状の課題を一つひとつ確認していきましょう。問題を正しく理解することが、解決への第一歩になります。

資産は不動産のみ、現金がない問題

一番大きな課題は、相続財産が5億円の不動産のみで、すぐに使える現金がないということです。もし相続税が発生した場合、納税資金をどうやって用意するのかが大きな問題になります。また、奥様やお子様たちに「現金を渡したい」というご希望も、このままでは叶えることができません。遺産分割で揉めてしまった場合に、調整役となるお金がないのも難しい点ですね。

借入金(債務)の存在

次に、3億円という大きな借入金の存在です。これも「マイナスの財産」として相続の対象になります。誰がこの多額の債務を引き継ぐのか、そして、収支がトントンの中で返済を続けていけるのか、という現実的な問題があります。不動産というプラスの財産だけでなく、この債務をどう引き継ぐかもしっかりと計画を立てる必要があります。

相続税はいくらかかる?

では、相続税は一体いくらかかるのでしょうか。今回のケースで計算してみましょう。相続税は、プラスの財産からマイナスの財産(債務)を差し引いた金額を元に計算します。

項目 金額
収益物件の相続税評価額 2億円
借入金(債務) -3億円
課税遺産総額 -1億円

上記の通り、相続財産の評価額が借入金を下回っているため、課税対象となる遺産はマイナス1億円となります。したがって、他にめぼしい財産がない限り、今回のケースでは相続税はかからない可能性が非常に高いです。これはとても大きな安心材料ですね。

希望を叶えるためのキーワード「配偶者居住権」とは?

今回の複雑なご希望を叶えるための切り札、それが「配偶者居住権」です。2020年4月の民法改正で新設されたこの制度、一体どんなものなのでしょうか?

「住む権利」と「所有する権利」を分ける制度

配偶者居住権とは、とても簡単に言うと、建物の権利を「生涯そこに住み続けることができる権利(配偶者居住権)」と、「所有者としての権利(負担付所有権)」の2つに分けることができる制度です。これを利用することで、奥様は「住む権利」を、お子様は「所有する権利」をそれぞれ相続する、という形が可能になります。これにより、奥様は住まいを失う心配なく、安心して暮らし続けることができるのです。

収益物件にも設定できるの?

「収益物件にも使えるの?」と疑問に思うかもしれませんね。配偶者居住権を設定するための大切な条件が一つあります。それは、「被相続人が亡くなった時に、配偶者がその建物に住んでいたこと」です。

したがって、今回ご所有のRC一棟物件に、ご夫婦が実際に居住している部分があることが大前提となります。もし、ご自宅は全く別の場所にあり、この物件は純粋な投資用として貸し出しているだけ、という場合には配偶者居住権を設定することはできません。この先の解説は、ご夫婦がこの物件の一部に居住している、という前提で進めていきますね。

【具体的ステップ1】遺言書で意思を明確にする

ご自身の希望を確実に実現するためには、元気なうちからの対策、つまり生前対策が何よりも重要です。その中でも最も効果的で確実な方法が「公正証書遺言」を作成することです。

遺言書に記載すべき内容

遺言書には、「誰に」「どの財産を」「どのように相続させるか」を具体的に、そして明確に記す必要があります。今回のケースでは、特に以下の内容を盛り込むことが重要です。

  • 妻に、この収益物件の「配偶者居住権」を遺贈する。
  • 子供のうちの一人(例:長男)に、この収益物件の「負担付所有権」を相続させる。
  • 同じく、子供(例:長男)に「借入金3億円の債務」も相続させる。

不動産の共有は将来のトラブルの種になりやすいため、所有権は子供の一人に集中させるのが理想です。その分、もう一人のお子様には別の財産で配慮する必要がありますが、今回は現金がないため、次のステップで解説する方法と、ご家族での十分な話し合いが不可欠になります。

なぜ遺産分割協議だけではダメなのか

もちろん、相続が起こった後で、相続人全員(奥様とお子様2人)の話し合い(遺産分割協議)で合意ができれば、配偶者居住権を設定することも可能です。しかし、現金がなく、多額の債務も絡む複雑な分割は、いざ相続が始まってからでは感情的な対立も生まれやすく、話がまとまらないリスクが高まります。ご自身の明確な意思を「遺言」という形で残しておくことで、残されたご家族の負担を大きく減らし、スムーズな相続の道筋をつけてあげることができるのです。

【具体的ステップ2】現金を生み出す方法を考える

「妻と子供に現金を渡したい」というご希望を叶えるためには、どこかから現金を用意する必要があります。物件を売却せずに現金を生み出す、現実的な方法を見ていきましょう。

生命保険の活用

最も有効で、多くの方が活用されているのが生命保険です。ご自身を被保険者(保険をかけられる人)、保険金の受取人を奥様やお子様たちに設定しておきます。

生命保険金は、亡くなった時に支払われると「受取人固有の財産」となり、遺産分割協議の対象外となります。つまり、遺言の内容に関わらず、受取人に指定された人が直接現金を受け取れるのです。さらに、相続税の計算上、非課税になる枠があるのも大きなメリットです。

項目 内容
生命保険金の非課税限度額 500万円 × 3人(法定相続人の数) = 1,500万円
メリット 奥様の当面の生活費や、お子様たちへの資金として確実に現金を残せます。受取人がすぐに現金化できるのも強みです。

物件を担保に追加融資(リファイナンス)を検討

これは少し専門的な方法になりますが、選択肢の一つとして知っておくと良いでしょう。物件の時価は5億円、借入残高は3億円ですから、差し引き2億円の価値(担保余力)があります。この余力を利用して、金融機関に借り換え(リファイナンス)や追加融資を相談し、現金を手元に作るという方法です。ただし、物件の収支がトントンであるため、金融機関の審査は厳しくなる可能性があります。また、将来の返済負担が増えることになるため、実行には専門家を交えた慎重な判断が必要です。

理想的な相続プランの全体像

ここまでのステップを踏まえて、ご希望を叶えるための理想的な相続プランをまとめてみましょう。

誰が何を相続するのか

このプランを実行した場合、ご家族が受け取る財産と権利、そして負債は以下のようになります。

相続人 相続する財産・権利・債務
・物件の配偶者居住権(生涯住み続ける権利)
・生命保険金(現金)
子供A ・物件の負担付所有権(所有者としての権利)
・借入金3億円の返済義務
・(必要に応じて)生命保険金(現金)
子供B ・生命保険金(現金)

このプランのメリットと注意点

【メリット】

  • 大切な収益物件を売却せずに済みます。
  • 奥様は住み慣れた家に生涯住み続けられ、生活資金となる現金も手にできます。
  • お子様は将来にわたり価値のある不動産という資産を引き継げます。
  • 不動産の所有権を一人に集中させることで、共有名義による将来のトラブルを避けられます。

【注意点】

  • 配偶者居住権を設定するには、その物件に奥様が居住していることが絶対条件です。
  • 物件の所有権と3億円の債務を引き継ぐお子様Aの負担は非常に大きくなります。建物の維持管理費や固定資産税の支払いも発生します。
  • 不動産を相続しないお子様Bとの間で不公平感が出ないよう、生命保険金の額などで十分な配慮が必要です。
  • 何よりも、このプランはご家族全員の深い理解と協力があって初めて成り立つものです。生前のうちからしっかりと話し合いの場を持つことが大切です。

まとめ

多額の借入がある収益物件で、手元に現金がないという複雑な状況でも、諦める必要はありません。「遺言書」「配偶者居住権」「生命保険」という3つの大切なツールを上手に組み合わせ、生前のうちに対策を講じることで、ご家族それぞれのご希望に沿った円満な相続を実現する道筋は見えてきます。特に、ご自身の想いを法的に有効な形で残す遺言書の作成は、残されるご家族への最大の思いやりと言えるでしょう。物件を引き継ぐお子様の将来の負担も考慮しながら、ご家族でよく話し合い、必要であれば税理士や司法書士などの専門家にも相談しながら、ご家族にとって最善のプランを立てていきましょう。

参考文献

国税庁 : No.4666 配偶者居住権等の評価

「収益物件の相続対策、現金なし・借入あり」ケースのよくある質問まとめ

Q.現金がないのに、どうやって家族に現金を渡せますか?

A.生命保険の活用や、物件を担保に新たな融資(リファイナンス等)を受けることで、納税資金やご家族に渡す現金を準備する方法があります。ただし、返済計画を慎重に立てる必要があります。

Q.収益物件全体に「配偶者居住権」は設定できますか?

A.いいえ、できません。配偶者居住権は配偶者が「居住」していた建物が対象です。もし収益物件の一部にご夫婦で住んでいた場合、その居住部分にのみ設定が可能です。

Q.借入金が不動産の相続税評価額より多い場合、相続税はかからないのですか?

A.相続税評価額(2億円)から借入金(3億円)を引くとマイナスになるため、この不動産だけでは相続税はかかりません。ただし、団体信用生命保険(団信)に加入している場合、借入金がゼロになるため、評価額2億円が課税対象となり、相続税が発生する可能性が高いです。

Q.物件を売らずに相続税の納税資金を用意する方法はありますか?

A.被相続人を被保険者とした生命保険の活用が有効です。死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税となり、納税資金に充てられます。また、物件を担保にしたローンで資金を準備する方法もあります。

Q.子供たちの間で不動産を共有させずに相続させるにはどうすればよいですか?

A.遺言書で、特定の子供一人に物件を相続させる旨を指定するのが最も確実です。他の子供には、生命保険金やローンで準備した現金を代償金として渡すことで、公平性を保つ「代償分割」という方法があります。

Q.このような複雑な状況で、まず何から始めるべきですか?

A.まずは団体信用生命保険の加入状況を確認し、相続税額がいくらになるか専門家と試算することが重要です。その上で、遺言書の作成、生命保険の加入、資金調達の検討など、ご家族の希望に合わせた総合的な対策プランを立てることをお勧めします。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

\ 相続の不安、専門家にまずは無料相談 /
士業の先生向け専門家AI
士業AI【税務】
\ 相続の不安、専門家にまずは無料相談 /