3年前にアパートを相続したけれど、事情があって売却することに。相続税の申告では障害者控除のおかげで税金を払わずに済んだけれど、今度は「譲渡所得税」がかかるかもしれないと聞いて、不安に思っていませんか?相続した不動産の売却は、税金の仕組みが少し複雑に感じられるかもしれません。この記事では、相続したアパートを売却したときの譲渡所得税について、相続税の障害者控除との関係も踏まえながら、わかりやすく解説していきますね。
相続税と譲渡所得税はまったく別の税金です
まず大切なポイントとして、「相続税」と「譲渡所得税」はまったく別の種類の税金だということを知っておきましょう。
相続税は、亡くなった方から土地や建物、預貯金などの財産を受け継いだときにかかる税金です。一方、譲渡所得税は、土地や建物、株式などを売却して利益(儲け)が出たとき、その利益に対してかかる税金(所得税・住民税)のことです。
ですから、「相続のとき、障害者控除を使ったから相続税は0円だった」という場合でも、その後にアパートを売却して利益が出れば、譲渡所得税の支払いが必要になる可能性があるんです。この2つは切り離して考えてくださいね。
アパート売却でかかる譲渡所得税の計算方法
では、具体的に譲渡所得税はどのように計算するのでしょうか。まずは利益である「譲渡所得」を計算することから始まります。計算方法は意外とシンプルですよ。
譲渡所得の計算式
譲渡所得は、以下の計算式で求められます。
譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)
この計算でプラスになれば、その利益に対して税金がかかります。逆にマイナス(損失)になった場合は、譲渡所得税はかかりません。それぞれの項目について、もう少し詳しく見ていきましょう。
「取得費」はどうやって計算するの?
「取得費」とは、そのアパートを手に入れるためにかかった費用のことです。相続したアパートの場合、亡くなった方(被相続人)がそのアパートを購入したときの価格や手数料などを引き継いで計算します。ご自身が相続したときの評価額ではないので、注意してくださいね。
もし、親御さんが建てた当時の契約書などが見当たらず、購入価格がわからない場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算することができます。例えば、3,000万円で売れた場合、その5%である150万円が取得費となります。
また、建物は時間とともに価値が下がっていくため、その価値の減少分を「減価償却費」として購入価格から差し引いて、現在の価値を計算する必要があります。
「譲渡費用」には何が含まれる?
「譲渡費用」は、アパートを売却するために直接かかった費用のことです。具体的には、以下のようなものが含まれます。
- 不動産会社に支払った仲介手数料
- 売買契約書に貼った印紙税
- 土地の測量費
- 建物の解体費(土地を更地にして売った場合)
- 立退料(入居者に立ち退いてもらうために支払った場合)
これらの費用をきちんと把握して、領収書などを保管しておくことが大切です。
相続した不動産を売却するときの特例
相続した不動産を売却する際には、税金の負担を軽くするための特例がいくつか用意されています。ご自身の状況に当てはまるものがないか、確認してみましょう。
相続税の取得費加算の特例
これは、相続税を支払った場合に、その税額の一部を「取得費」に上乗せできるという特例です。取得費が増えることで、譲渡所得を圧縮し、結果的に税金を安くすることができます。
ただし、この特例が使えるのは、相続税を納税した人だけです。今回のご相談のように、相続税の申告はしたものの障害者控除によって納税額が0円になった場合は、残念ながらこの取得費加算の特例は利用できません。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
これは、亡くなった方が住んでいた家(空き家)を売却した場合に、譲渡所得から最高3,000万円を控除できるという、非常に大きな特例です。一般的に「空き家特例」と呼ばれています。
この特例を使うには、「相続開始の直前まで亡くなった方が一人で住んでいたこと」や「昭和56年5月31日以前に建築された家であること」など、いくつかの厳しい要件があります。また、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。
今回のように相続した建物が「アパート」の場合、亡くなった方自身が住んでいた部分がなければ、基本的にこの特例の適用は難しいと考えられます。
アパートの所有期間で税率が変わる?長期譲渡と短期譲渡
譲渡所得にかかる税率は、売却したアパートの所有期間によって大きく異なります。この所有期間の考え方が、相続不動産ならではのポイントです。
所有期間の考え方
相続した不動産の所有期間は、ご自身が相続した日からではなく、亡くなった方がそのアパートを取得した日から計算します。
例えば、お父様が30年前に建てたアパートを3年前に相続して売却した場合、所有期間は「3年」ではなく「30年以上」となります。この期間によって、税率が約2倍も変わってくるので、とても重要です。
長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率
所有期間が売却した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかで、以下のように税率が変わります。
| 所有期間 | 税率(所得税+復興特別所得税+住民税) |
| 短期譲渡所得(5年以下) | 39.63% |
| 長期譲渡所得(5年超) | 20.315% |
亡くなった方の所有期間を引き継ぐことで、多くの場合が長期譲渡所得に該当し、税率が低くなる可能性が高いです。
障害者控除は譲渡所得税でも使えます
「相続税で使った障害者控除は、譲渡所得税でも使えるの?」という疑問をお持ちの方も多いと思います。結論から言うと、譲渡所得税の計算でも障害者控除は使えます。ただし、相続税のときとは少し仕組みが違うので、その点を解説しますね。
所得税の障害者控除とは
所得税における障害者控除は、アパートの売却で得た譲渡所得や給与所得など、その年のすべての所得を合計した「合計所得金額」から、一定の金額を差し引くことができる制度です。これを「所得控除」と呼びます。
所得から一定額を差し引くことで、課税対象となる金額が減り、結果として税金の負担が軽くなる仕組みです。
控除額はいくら?
控除額は、障害の程度によって異なります。
| 区分 | 控除額 |
| 障害者 | 27万円 |
| 特別障害者 | 40万円 |
| 同居特別障害者 | 75万円 |
相続税の控除との違い
ここで注意したいのが、相続税と所得税での控除の違いです。
- 相続税の障害者控除:計算された相続税額そのものから直接控除額を差し引く「税額控除」です。そのため、控除額が大きければ税金が0円になることもあります。
- 所得税の障害者控除:税金を計算する前の所得から控除額を差し引く「所得控除」です。税額が直接減るわけではないため、相続税の控除に比べると節税効果は穏やかになります。
このように、同じ「障害者控除」という名前でも、税金の種類によって仕組みと効果が異なることを覚えておいてくださいね。
まとめ
今回は、3年前に相続したアパートを売却した際の譲渡所得税について、障害者控除との関係を中心に解説しました。最後にポイントを振り返ってみましょう。
- 相続税と譲渡所得税は別物。相続税が0円でも、売却益が出れば譲渡所得税がかかる可能性があります。
- 譲渡所得税は「売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)」で計算した利益にかかります。
- 取得費や所有期間は、亡くなった方がアパートを取得した時点から引き継いで計算します。
- 相続税を納税していない場合、「取得費加算の特例」は使えません。
- 譲渡所得税の計算でも障害者控除は利用できますが、これは「所得控除」であり、相続税の「税額控除」とは仕組みが異なります。
相続不動産の売却に関する税金計算は、特例の適用条件などが複雑で、ご自身で判断するのが難しい場合も少なくありません。もし少しでも不安な点があれば、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。安心して手続きを進めるためにも、ぜひ専門家の力を頼ってみてくださいね。
参考文献
- 国税庁 タックスアンサー No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
- 国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 国税庁 タックスアンサー No.1160 障害者控除
- 国税庁 タックスアンサー No.4167 障害者の税額控除
相続アパート売却と譲渡所得税のよくある質問まとめ
Q.3年前に相続したアパートを売却しました。相続税は障害者控除で0円でしたが、譲渡所得税はかかりますか?
A.はい、かかります。相続税と譲渡所得税は別の税金です。アパートを売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して譲渡所得税が課税されます。
Q.相続した不動産の取得費は、どう計算するのですか?
A.亡くなった方(被相続人)がそのアパートを購入したときの価格と費用を引き継ぎます。購入時の契約書がない場合は、売却価格の5%を概算取得費とすることも可能です。
Q.相続して3年での売却ですが、税率は変わりますか?
A.所有期間は亡くなった方の取得日から引き継いで計算します。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり、税率が約39.63%と高くなります。
Q.支払った相続税は、譲渡所得税の計算で経費になりますか?
A.「相続税の取得費加算の特例」により、支払った相続税の一部を取得費に加算できます。ただし、相続開始から3年10ヶ月以内の売却などの要件があります。
Q.相続税の障害者控除は、譲渡所得税に関係しますか?
A.いいえ、直接の関係はありません。相続税の障害者控除は、譲渡所得税の計算には影響しません。譲渡所得税の計算では、売却にかかった仲介手数料などを経費にできます。
Q.アパートを売却したら、確定申告は必要ですか?
A.はい、必要です。アパートを売却して利益が出た場合、売却した翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行い、納税する必要があります。