ご家族が亡くなられた後の相続手続きは、戸籍謄本の収集から遺産分割協議、金融機関での手続きや不動産の名義変更など、やることがたくさんあって本当に大変ですよね。「仕事が忙しくて時間が取れない」「手続きが複雑でよくわからない」といった理由で、誰かに代わってもらえたら…と感じる方も少なくないのではないでしょうか。実は、相続手続きは代理人に依頼することができます。この記事では、相続手続きを代理人が行うケースについて、誰に依頼できるのか、費用はどれくらいかかるのか、注意すべき点は何か、といった疑問にわかりやすくお答えしていきます。
相続手続きの代理人にはどんな種類があるの?
相続手続きを代わりに行う「代理人」には、その権限の発生の仕方によっていくつかの種類があります。ご自身の状況に合わせて、どの代理人が関わるのかを知っておくことが大切ですよ。
任意代理人とは
任意代理人とは、ご本人の「この手続きをお願いします」という意思(委任)に基づいて選ばれる代理人のことです。特別な資格は必要なく、ご家族や信頼できる親族のほか、法律や税金の専門家である弁護士、司法書士、税理士、行政書士などに依頼するのが一般的です。どの専門家に依頼するかは、手続きの内容によって変わってきます。
法定代理人とは
法定代理人は、法律の規定によって代理権が与えられている人のことを指します。例えば、相続人が未成年者である場合の親権者や、判断能力が不十分な方のために家庭裁判所が選任する成年後見人などがこれにあたります。本人が有効な意思表示をすることが難しい場合に、その方の利益を守るために手続きを代行する重要な役割を担っています。
特別代理人とは
少し特殊なケースですが、特別代理人という代理人が必要になることもあります。これは、法定代理人と本人の利益が対立してしまう(これを「利益相反」といいます)場合に、家庭裁判所によって選任される一時的な代理人です。例えば、お母さんと未成年の子どもが同時にお父さんの財産を相続する場合、お母さんが自分の取り分を多くしてしまうと、子どもの利益が損なわれてしまいますよね。このような利益相反を防ぐために、子どものためだけに動いてくれる特別代理人が選ばれるのです。
相続手続きを代理人に依頼した方がよいケース
ご自身で相続手続きを進めることももちろん可能ですが、代理人への依頼を検討した方がスムーズに進むケースも多くあります。具体的にどのような場合か見ていきましょう。
手続きが複雑でご自身で進めるのが難しい場合
相続は、ケースバイケースで手続きの複雑さが大きく異なります。以下のような場合は、専門家の力を借りることをおすすめします。
・相続人が多い(兄弟姉妹や甥姪など)
・相続財産の種類が多い(預貯金、不動産、株式、ゴルフ会員権など)
・不動産の相続登記(名義変更)が必要
・相続税の申告が必要になる可能性がある
これらの手続きには専門的な知識が必要な場面も多く、書類の不備などで何度も役所や法務局に足を運ぶことにもなりかねません。
相続人同士でトラブルになっている、またはなりそうな場合
「遺産の分け方で意見が合わない」「遺言書の内容に納得できない」など、相続人同士で揉めてしまっている、あるいはその可能性がある場合は、弁護士に代理人として間に入ってもらうのが最善です。当事者同士だと感情的になってしまいがちな話し合いも、法律の専門家が冷静に法的な観点から交渉を進めることで、円満な解決につながりやすくなります。
仕事などで忙しい、または相続人が遠方に住んでいる場合
相続手続きは、平日の日中に市役所や金融機関、法務局などに出向く必要があります。お仕事などで忙しく時間が取れない方や、相続人がそれぞれ遠方に住んでいて集まるのが難しい場合などは、代理人に依頼することで時間的・物理的な負担を大幅に減らすことができます。
誰に依頼できる?代理人になれる専門家とそれぞれの役割
相続手続きを依頼できる専門家はいくつかあり、それぞれ得意分野が異なります。ご自身の状況に合わせて、最適な専門家を選びましょう。
弁護士
弁護士は、法律の専門家であり、相続トラブルの交渉や代理を行うことができます。遺産分割協議がまとまらない場合の調停や審判といった裁判所での手続きの代理人になれるのは弁護士だけです。相続人同士で争いがある、またはその可能性がある場合は、まず弁護士に相談するのがよいでしょう。
司法書士
司法書士は、登記の専門家です。相続財産に不動産が含まれる場合の相続登記(名義変更)は、司法書士の主な業務です。また、遺産分割協議書の作成や、裁判所に提出する書類の作成なども依頼できます。不動産の相続がメインで、特に争いがない場合には司法書士への依頼が適しています。
税理士
税理士は、税金の専門家です。相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納税が必要になります。相続税の計算は非常に複雑で、特例の適用などで納税額が大きく変わることもあるため、相続税申告が必要な場合は税理士に依頼するのが一般的です。
行政書士
行政書士は、官公署に提出する書類作成の専門家です。遺産分割協議書の作成、自動車の名義変更、戸籍謄本など公的書類の収集代行などを依頼できます。ただし、登記申請の代理や税務申告の代理、紛争の交渉代理などは行えません。トラブルがなく、書類作成を中心にお願いしたい場合に適しています。
代理人に依頼する際の手続きと必要書類
専門家などに代理を依頼する際には、正式な手続きが必要です。特に重要なのが「委任状」です。
委任状の作成は必須
代理人に手続きを依頼する場合、あなたが「この人に、この手続きを任せます」という意思を公的に証明するための委任状が必ず必要になります。この委任状があることで、代理人は金融機関や役所などで、あなたに代わって手続きを行うことができるようになります。
委任状の書き方と注意点
委任状に決まった形式はありませんが、以下の項目は必ず記載しましょう。
| 記載項目 | 内 容 |
| 委任者の情報 | 住所、氏名、押印(実印が望ましい)、生年月日 |
| 代理人の情報 | 住所、氏名、生年月日 |
| 委任する内容 | 「被相続人〇〇の相続手続きに関する一切の件」など、何をどこまで任せるのかを具体的に記載します。 |
| 作成年月日 | 委任状を作成した日付を記載します。 |
【注意点】
・白紙委任状は絶対に避ける:委任内容を空欄にしたまま署名・押印すると、悪用される危険性があります。
・委任する権限の範囲を明確にする:預貯金の解約手続きだけを任せるのか、不動産の名義変更まで任せるのかなど、範囲を具体的に書きましょう。
その他の必要書類
委任状の他に、手続きによっては以下の書類が必要になることがあります。
・委任者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内など有効期限がある場合があります)
・代理人の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
・委任者と代理人の関係を証明する戸籍謄本など
代理人に依頼する場合の費用相場
専門家に依頼する場合、どれくらいの費用がかかるのか気になりますよね。依頼先や依頼内容によって費用は大きく異なりますが、一般的な相場をまとめました。
| 依頼先 | 費用相場の目安 |
| 弁護士 | 相談料:30分5,000円~1万円程度。着手金として20万円~、成功報酬として得られた経済的利益の10%~16%程度が一般的です。 |
| 司法書士 | 不動産の相続登記で5万円~15万円程度。戸籍収集や遺産分割協議書作成などを含む「遺産承継業務」として依頼すると20万円~が目安です。 |
| 税理士 | 相続税申告の報酬は、遺産総額の0.5%~1.0%が相場です。ただし、最低報酬額が30万円程度から設定されていることが多いです。 |
| 行政書士 | 遺産分割協議書の作成で5万円~10万円程度、相続人調査(戸籍収集)で3万円~が目安です。 |
※上記はあくまで目安であり、財産の内容や相続人の数など、事案の複雑さによって費用は変動します。依頼する前に必ず見積もりを確認しましょう。
まとめ
相続手続きは、心身ともに負担が大きいものです。そんなとき、代理人に依頼することは、その負担を軽減し、手続きを正確かつスムーズに進めるための有効な手段です。特に、相続人同士で揉めている場合や、手続きが複雑な場合には、専門家の力を借りることを強くおすすめします。
誰に依頼すればよいか迷ったときは、まず無料相談などを利用して、ご自身の状況を話してみてはいかがでしょうか。この記事が、あなたの相続手続きを円満に進めるための一助となれば幸いです。
参考文献
相続手続きの代理に関するよくある質問まとめ
Q.相続手続きは、代理人にお願いできますか?
A.はい、可能です。相続人が多忙、遠方に住んでいる、手続きが複雑で難しいといった場合に、代理人が手続きを行うことができます。
Q.相続手続きの代理は誰に依頼できますか?
A.他の相続人や親族のほか、弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの専門家に依頼することが可能です。依頼する手続きの範囲によって適した専門家が異なります。
Q.代理人に手続きを依頼する際に必要な書類は何ですか?
A.一般的に、本人(相続人)が代理人に手続きを委任したことを証明する「委任状」が必要です。委任状には、本人の実印の押印と印鑑証明書の添付が求められることが多いです。
Q.相続手続きを代理人に依頼するメリットは何ですか?
A.時間的・精神的な負担を大幅に軽減できる点が最大のメリットです。また、専門家に依頼すれば、複雑な手続きを正確かつスムーズに進めることができ、書類の不備なども防げます。
Q.専門家に相続手続きの代理を依頼した場合、費用はどのくらいかかりますか?
A.依頼する専門家や手続きの範囲、遺産総額によって費用は大きく異なります。事前に複数の専門家から見積もりを取り、サービス内容と費用を比較検討することをおすすめします。
Q.相続人が海外や遠方に住んでいる場合でも、代理手続きは可能ですか?
A.はい、可能です。遠方にお住まいの方こそ、代理人を立てるメリットは大きいと言えます。国内にいる他の相続人や専門家に依頼することで、移動の手間や費用をかけずに手続きを進められます。