結論からお伝えすると、故人の収入が国民年金・厚生年金・企業年金などの「公的年金等」だけで、その収入の合計が400万円以下、かつ年金以外の所得が20万円以下なら、準確定申告は原則不要です。国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係
ただし、外国の年金を受け取っていた場合は不要制度そのものが使えず、医療費控除などで税金が戻るケースでは、あえて申告した方が得になります。申告が必要なときの期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
| 原則不要 | 公的年金等の収入400万円以下 + 年金以外の所得20万円以下 |
|---|---|
| 必要 | 公的年金等の収入が400万円超/年金以外の所得が20万円超/源泉徴収されない外国の年金がある |
| 任意(得になる) | 医療費控除・生命保険料控除などで源泉徴収された所得税が戻る |
| 期限 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内 |
ご家族が亡くなられた後は手続きがたくさんあって大変ですよね。この記事では、年金受給者の準確定申告が必要になる場合・不要になる場合を、源泉徴収票の見方や書き方のポイント、申告しないとどうなるかまで含めてご説明しますね。
準確定申告とは?亡くなった方の最後の確定申告
まず、準確定申告がどういうものか簡単にお話ししますね。準確定申告とは、亡くなられた方(被相続人)の、その年の1月1日から亡くなった日までの所得と所得税を計算して、相続人が代わりに申告・納税する手続きのことです。いわば、故人の最後の確定申告のようなものですね。
準確定申告が必要になる主なケース
基本的に、故人が生きていたら確定申告をする必要があった場合に、準確定申告が必要になります。例えば、以下のようなケースが当てはまります。
- 個人事業主やフリーランスだった
- 不動産を貸していて家賃収入があった(不動産所得)
- 給与の年間収入金額が2,000万円を超えていた
- 2か所以上から給与を受け取っていた
- 給与所得や退職所得以外に、合計20万円を超える所得があった
これらのケースに当てはまる場合は、年金収入の有無にかかわらず準確定申告が必要です。
準確定申告が原則不要になるケース
一方で、準確定申告が不要になるケースもあります。特に年金を受け取っていた方に関係が深いのが「確定申告不要制度」です。これについては、次の章で詳しく見ていきましょう。年金以外も含めた不要パターンの全体像は、準確定申告が不要な場合の判定基準でまとめてご説明しています。
申告の期限と申告する人
準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行う必要があります。通常の確定申告よりも期限が短いので注意が必要ですね。申告は、相続人全員が連名で行うのが原則です。もし相続人が複数いる場合は、代表者を決めて手続きを進めることが一般的です。誰が申告義務を負うのかは、準確定申告は誰が申告する?で詳しくご説明していますね。
年金受給者の準確定申告|必要か不要かの判断基準
それでは、本題である「国民年金と企業年金を受け取っていた場合」の準確定申告について見ていきましょう。多くの場合、年金収入だけなら申告は不要ですが、いくつかのボーダーラインがあります。
原則不要!「公的年金等の確定申告不要制度」
年金を受け取っている方には、「公的年金等の確定申告不要制度」というものがあります。これは、以下の2つの条件を両方とも満たす場合に、確定申告(準確定申告)が不要になるという制度です。
- 公的年金等の収入金額の合計が400万円以下であること
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下であること
つまり、故人の収入が年金だけで、その合計額が年間400万円以下であれば、準確定申告は原則として必要ありません。ただし、これはあくまで所得税の申告が不要になる制度です。所得税の申告が不要でも住民税の申告は別に必要になる場合があり、亡くなった年の所得にかかる住民税の通知が後から届くこともあります。住民税・事業税の扱いや相続税の債務控除については、準確定申告後の住民税・事業税はいつ?で詳しくご説明していますね。
国民年金と企業年金は「公的年金等」
「公的年金等」には、国民年金や厚生年金はもちろん、確定給付企業年金(DB)のような多くの企業年金も含まれます。したがって、「国民年金と企業年金を受け取るくらい」という場合は、これらの合計額で400万円のボーダーラインを判断することになります。
個人年金保険・外国の年金は扱いが違います
一方で、生命保険会社の個人年金保険は「公的年金等」には当たりません。個人年金保険の所得は、400万円の枠ではなく「年金以外の所得(20万円の基準)」の側で判定します。
また、外国の制度に基づく年金のうち源泉徴収の対象とされないものを受け取っていた場合は、公的年金等の確定申告不要制度が適用できません。海外勤務の経験があり外国の年金を受け取っていた方は、金額にかかわらず準確定申告が必要かどうかを確認してくださいね。
年金の「所得」は収入から公的年金等控除を引いた額
400万円の基準は年金の収入金額(源泉徴収票の支払金額)で見ますが、税金の計算では、収入から公的年金等控除額を差し引いた雑所得を使います。例えば、65歳以上で年金収入が350万円、ほかの所得が1,000万円以下の場合は、次のようになります。
ここから医療費控除などの所得控除を差し引いて税額を出し、すでに源泉徴収された所得税と比べて精算する、という流れです。控除の計算式は年齢と収入の区分ごとに決まっています。
【ケース別】準確定申告が必要になる2つのパターン
では、年金を受け取っていた方でも準確定申告が必要になるのはどのような場合でしょうか。主に次の2つのパターンです。
パターン1:公的年金等の収入が400万円を超える場合
国民年金と企業年金の合計額が年間で400万円を1円でも超えている場合は、準確定申告が必要です。
パターン2:公的年金等は400万円以下でも、他の所得が20万円を超える場合
例えば、年金のほかに個人年金保険の収入や、パート・アルバイト収入、不動産収入などがあり、それらの所得(収入から経費を引いた額)の合計が年間20万円を超える場合も、準確定申告が必要になります。
分かりやすく表にまとめましたので、確認してみてください。
| 故人の所得状況 | 準確定申告の要否 |
|---|---|
| 公的年金等の収入が400万円を超える | 必要 |
| 公的年金等の収入が400万円以下 + その他の所得が20万円を超える | 必要 |
| 公的年金等の収入が400万円以下 + その他の所得が20万円以下 | 原則不要 |
申告不要でもやった方がお得になる「還付申告」
「うちは申告不要のケースに当てはまるから安心」と思った方も、少しお待ちください。申告義務がなくても、あえて準確定申告をすることで、払いすぎていた税金が戻ってくる(還付される)ことがあります。これを「還付申告」といいます。
生前に多額の医療費を支払っていた
故人が亡くなった日までに支払った医療費の合計が、年間で10万円(または総所得金額等の5%のいずれか低い方)を超えている場合、医療費控除を適用できます。年金からは所得税が源泉徴収(天引き)されていることが多いので、この控除を申告することでお金が戻ってくる可能性があります。ただし、準確定申告で対象になるのは死亡の日までに故人が支払った医療費だけで、亡くなった後にご家族が支払った入院費などは含められないので注意してくださいね。国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
生命保険料や地震保険料を支払っていた
故人が生命保険料や地震保険料を支払っていた場合も、生命保険料控除や地震保険料控除が適用できます。手元に控除証明書が残っていないか探してみましょう。
扶養している家族がいた
故人が配偶者や親族を扶養していたにもかかわらず、その情報が年金の源泉徴収に反映されていなかった場合、配偶者控除や扶養控除を適用することで還付を受けられることがあります。「公的年金等の源泉徴収票」を見て、控除対象配偶者や扶養親族の欄が空欄になっていないか確認してみましょう。なお、扶養に入っていたかどうかの判定は、亡くなった日の現況で行います。
関連コラム準確定申告の還付金はいつ振り込まれる?期限と受け取り方を解説▸
申告対象になる年金・ならない年金
準確定申告を考える上で、どの年金が対象になるのかを正しく知っておくことも大切です。
申告対象は「故人が受け取る権利のあった年金」
準確定申告の対象となるのは、亡くなった日までに支給日が到来していた年金です。実際に故人の口座に振り込まれていなくても、支給日が過ぎていれば故人の所得として申告する必要があります。
申告対象外の「未支給年金」
一方で、故人が亡くなったために受け取れなかった年金(例えば、10月25日に亡くなった場合の10月・11月分の年金)は「未支給年金」と呼ばれます。これは、生計を同じくしていた遺族が請求して受け取るもので、故人の所得ではなく、受け取った遺族の一時所得となります。国税庁 No.1605 遺族の方に支給される公的年金等そのため、準確定申告の対象には含めません。未支給年金の相続税・所得税での扱いは、未支給年金は相続財産?で整理しています。
準確定申告の手続きと必要書類
もし準確定申告が必要になった場合や、還付申告をする場合の手順と書類を簡単に紹介します。
準確定申告の簡単な流れ
手続きは、①必要書類を集める、②申告書を作成する、③故人の住所地を管轄する税務署に提出する、という流れで進みます。相続人が複数いる場合は、全員の情報を記載した「付表」も一緒に提出します。
主な必要書類リスト
- 確定申告書(表題に「準確定」と追記)
- 死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(相続人が2名以上の場合)
- 故人の公的年金等の源泉徴収票
- 医療費控除の明細書や各種保険料の控除証明書など(控除を受ける場合)
- 申告する相続人の本人確認書類(マイナンバーカードなど)の写し
- 委任状(還付金を代表者がまとめて受け取る場合)
「公的年金等の源泉徴収票」が見当たらない場合は、年金事務所や年金相談センターで再発行の手続きができますよ。受給停止の届出など年金まわりの手続き全体は、年金受給者の死亡後の手続きにまとめています。
公的年金等の源泉徴収票の見方と書き方のポイント
年金のみの準確定申告では、故人の「公的年金等の源泉徴収票」が基本の資料になります。支払金額(収入)が400万円以下か、源泉徴収税額がいくらか、控除対象配偶者・扶養親族の欄が埋まっているかをまず確認しましょう。書き方のポイントは次のとおりです。
- 公的年金等の支払金額を「雑所得(公的年金等)」の収入欄に、源泉徴収税額を源泉徴収税額の欄に転記する
- 年金の支払元が複数ある場合(国民年金・厚生年金と企業年金など)は、源泉徴収票ごとの金額を合計する
- 相続人の氏名・続柄などを書いた付表を添付し、故人の死亡当時の納税地の税務署へ提出する
注意したいのが作成方法です。国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーでは準確定申告書を作成できず、e-Taxで提出する場合はe-Taxソフト等を使います。e-Taxでは相続人が1名でも付表の提出が必要です。国税庁 所得税及び復興特別所得税の準確定申告のe-Tax対応について
前年分の申告がまだだった場合
1月1日から3月15日までの間に、前年分の確定申告をしないまま亡くなった場合は、前年分の準確定申告も必要になることがあります。この場合の期限も、前年分・本年分とも相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
準確定申告をしないとどうなる?
申告義務があるのに期限内に申告しなかった場合は、無申告加算税や延滞税がかかる可能性があります。一方、年金のみで申告不要の範囲に収まっている場合は、申告しなくてもペナルティはありません。ただし、還付を受けられたはずの税金は戻ってきません。
また、準確定申告で納めた故人の所得税は、相続税を計算するときに債務として遺産総額から差し引くことができます。相続税の申告が必要なご家庭では、準確定申告の結果が相続税にもつながる点を覚えておいてくださいね。国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務
関連コラム準確定申告の期限4ヶ月を過ぎた・知らなかったらどうなる?ペナルティと対処法▸
まとめ
国民年金や企業年金を受け取っていた方の準確定申告について、ポイントを振り返ってみましょう。
- 故人の公的年金等の収入が年間400万円以下で、かつその他の所得が20万円以下であれば、準確定申告は原則不要です。
- 上記の金額を超える場合や、源泉徴収されない外国の年金がある場合は、準確定申告が必要です。
- 申告が不要な場合でも、医療費控除などを適用できるなら、還付申告をすると税金が戻ってくる可能性があります。
- 準確定申告の期限は相続開始を知った日の翌日から4か月以内と短いため、早めに確認を始めましょう。
手続きが複雑で不安な場合や、相続税の申告も関わってくるような場合は、税理士などの専門家に相談するのも一つの方法です。慌ただしい時期かと思いますが、落ち着いて一つずつ進めていきましょう。
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参考文献
- 国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係
- 国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
- 国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
- 国税庁 No.1605 遺族の方に支給される公的年金等
- 国税庁 所得税及び復興特別所得税の準確定申告のe-Tax対応について
- 国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務
国民年金と企業年金の準確定申告に関するよくある質問まとめ
Q. 国民年金と企業年金だけが収入ですが、準確定申告は必要ですか?
A. 公的年金等の収入が400万円以下で、かつ、それ以外の所得が20万円以下の場合、所得税の確定申告は原則不要です。ただし、住民税の申告が必要な場合や、還付を受けるために申告した方が有利な場合があります。
Q. 「年金収入400万円以下」の対象に企業年金は含まれますか?
A. はい、含まれます。申告不要制度の対象となる「公的年金等」には、国民年金や厚生年金だけでなく、企業年金も含まれます。これらの合計額で400万円を超えるかどうかを判断します。
Q. 外国の年金を受け取っていた場合も400万円以下なら申告不要ですか?
A. いいえ。源泉徴収の対象とされない外国の年金を受け取っていた場合は、公的年金等の確定申告不要制度を適用できません。金額にかかわらず準確定申告が必要かどうかを確認してください。
Q. 準確定申告が不要でも、申告した方が得になるケースはありますか?
A. はい、あります。医療費控除や生命保険料控除などを受けたい場合や、源泉徴収された所得税の還付を受けたい場合は、準確定申告をすることで税金が戻ってくる可能性があります。
Q. 準確定申告書は確定申告書等作成コーナーで作れますか?
A. 国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーでは準確定申告書を作成できません。紙の申告書で提出するか、e-Taxソフト等を使ってe-Taxで提出します。e-Taxの場合は相続人が1名でも付表の提出が必要です。
Q. 企業年金は源泉徴収されていますか?
A. はい、多くの企業年金は支払い時に所得税が源泉徴収されています。年金の支払元から送付される「公的年金等の源泉徴収票」で具体的な金額を確認できます。
Q. 準確定申告とは何ですか?通常の確定申告との違いは?
A. 準確定申告とは、年の中途で亡くなった方の所得税の申告です。相続人が、亡くなった方の1月1日から死亡日までの所得を計算し、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告します。手続き内容は通常の確定申告とほぼ同じです。
Q. 準確定申告をしないとどうなりますか?
A. 申告義務があるにもかかわらず期限内に申告しなかった場合、無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。税金の還付を受けられる申告(還付申告)の場合はペナルティはありませんが、還付は受けられません。


