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相続トラブル回避!故人の預金引き出し事例と円満解決のコツ

2026-04-30
目次

ご家族が亡くなられた後、葬儀費用や未払いの入院費の支払いなどで、故人の預金を引き出したい場面は少なくありません。しかし、その行為がきっかけで、ご親族間で思わぬ相続トラブルに発展してしまうケースが後を絶ちません。良かれと思ってしたことが、なぜトラブルになってしまうのでしょうか。この記事では、預金引き出しに関する具体的な事例を交えながら、トラブルを未然に防ぎ、円満に解決するための方法を、わかりやすく丁寧にご紹介していきますね。

故人の預金、勝手に引き出しても大丈夫?

ご家族が亡くなられた後、その方名義の預金口座は一体どうなるのでしょうか。実は、金融機関が口座名義人の死亡を知った時点で、その口座は「凍結」されてしまいます。凍結される前であれば、キャッシュカードなどで引き出すことは物理的に可能ですが、それにはいくつかの注意点とリスクが伴います。まずは、基本的なルールから確認していきましょう。

金融機関が口座を凍結する理由

金融機関がなぜ口座を凍結するのかというと、それは故人の大切な財産を、そして相続人全員の権利を守るためなんです。もし口座が凍結されず、誰でも自由にお金を引き出せる状態だと、特定の相続人が勝手にお金を引き出して自分のために使ってしまったり、他の相続人の知らないうちにお金がなくなってしまったりする可能性があります。そうした相続人間の不公平やトラブルを防ぐために、金融機関は遺産の分け方が正式に決まるまで、口座を一旦ストップさせる措置をとるのです。

勝手な引き出しは罪になる?

「故人のお金をおろしたら、窃盗罪や横領罪になるの?」と心配される方もいらっしゃるかもしれませんね。結論から言うと、相続人がご自身の「法定相続分」の範囲内でお金を引き出す場合、直ちに刑事罰に問われる可能性は低いです。しかし、これはあくまで法律上の話。他の相続人の同意を得ずに預金を引き出す行為は、たとえ葬儀費用などの正当な目的であったとしても、後の遺産分割協議で「なぜ相談してくれなかったのか」「何に使ったのか」と大きな不信感を生み、深刻なトラブルの原因になりがちですので、慎重な対応が必要です。

引き出しで注意すべき「単純承認」

もう一つ、とても大切な注意点があります。それは「単純承認」です。故人の預金を引き出して、葬儀費用など故人のためではなく、ご自身の生活費や遊興費などに使ってしまうと、「相続を承認したもの」と見なされることがあります。これを単純承認といいます。もし故人に多額の借金があった場合、単純承認が成立すると、その借金の返済義務もすべて引き継ぐことになってしまいます。そうなると、後から「借金があるなら相続放棄したかった」と思っても、原則として認められなくなってしまうのです。預金の引き出しは、相続の意思表示と見なされるリスクがあることを覚えておいてください。

相続トラブルに発展!預金引き出しの典型的な事例

それでは、実際にどのようなケースがトラブルになりやすいのでしょうか。ここでは、よくある3つの具体的な事例をご紹介します。ご自身の状況と照らし合わせてみてくださいね。

事例1:葬儀費用として引き出したが…使途が不透明

喪主を務めた長男Aさんが、葬儀社の支払いなどのために、故人である父親の口座からキャッシュカードで300万円を引き出しました。もちろん、父親のために使ったつもりでしたが、忙しさのあまり領収書などをきちんと整理していませんでした。後日、他の兄弟から「葬儀費用は本当に300万円もかかったの?明細を見せてほしい」と言われた際に、明確な証拠を示せず、「Aさんが一部を自分のために使ったのではないか」と疑われてしまい、関係がこじれてしまったケースです。

事例2:自分の法定相続分を超えて引き出してしまった

故人である母親と同居し、身の回りのお世話をしていた次女Bさん。母親が亡くなった後、当面の生活費や家の維持費が必要だと考え、母親の口座から500万円を引き出しました。しかし、相続人はBさんの他に兄と姉がおり、Bさんの法定相続分は預金全体の3分の1、金額にすると300万円でした。遺産分割協議の際に、法定相続分を200万円も超える引き出しが発覚し、「Bさんだけが多くもらいすぎている」と兄姉から超過分の返還を求められ、争いになってしまったケースです。

事例3:引き出しを他の相続人に隠していた

長年、父親の介護を一身に担ってきた長女Cさん。父親の亡き後、「生前、父も感謝してくれていたから」と考え、介護の苦労への自分へのご褒美として、父親の口座から100万円を引き出しました。Cさんは少し後ろめたい気持ちもあり、そのことを他の兄弟に黙っていました。しかし、相続手続きの過程で取引履歴からこの引き出しが発覚。「黙って勝手にお金を引き出すなんてひどい」「他にも隠していることがあるんじゃないか」と兄弟たちの不信感を買い、家族の間に深い溝ができてしまったケースです。

口座凍結後でも大丈夫!合法的に預金を引き出す方法

「口座が凍結されてしまったら、もう1円も引き出せないの?」と不安になりますよね。ご安心ください。口座が凍結された後でも、葬儀費用や当面の生活費など、必要な資金を引き出すための公的な制度が用意されています。焦って無理な行動をとる前に、これらの正しい方法を知っておきましょう。

預貯金の仮払い制度を利用する

2019年7月の民法改正で新設された、とても便利な制度です。この制度を使えば、遺産分割協議が完了する前でも、相続人が単独で金融機関の窓口で手続きをすることで、一定額の預金を引き出すことができます。ただし、引き出せる金額には上限が設けられています。

対象 引き出せる上限額
各金融機関ごと (死亡時の預貯金残高)× 1/3 ×(仮払いを受ける相続人の法定相続分)、または150万円の、いずれか低い方の金額

例えば、預金残高が900万円で、相続人が配偶者と子供2人(法定相続分は配偶者1/2、子1/4ずつ)の場合、配偶者は最大で150万円(900万×1/3×1/2)、子供はそれぞれ最大で75万円(900万×1/3×1/4)を引き出すことが可能です。

家庭裁判所の「仮分割の仮処分」を利用する

仮払い制度の上限額(150万円)では、高額な入院費用の清算や故人の債務の弁済に足りない、というケースもあるかもしれません。そのような場合には、家庭裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」という申し立てを行う方法があります。これが認められると、必要と判断された金額を引き出すことが可能になります。ただし、この手続きは、すでに遺産分割の調停や審判が裁判所に申し立てられていることが前提となるなど、少し専門的な手続きが必要です。

遺産分割協議後に引き出す

最も確実で、トラブルのない王道の方法がこちらです。相続人全員で遺産の分け方を話し合い、その内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成します。この遺産分割協議書に相続人全員が署名し、実印を押印します。そして、金融機関所定の書類や戸籍謄本などと一緒に提出することで、口座の凍結が解除され、預金の解約や名義変更の手続きができるようになります。時間は少しかかりますが、全員が納得した上での手続きなので、後々のトラブルを完全に防ぐことができます。

もし、他の相続人が不正に引き出していたら?対処法を解説

もし、ご自身が知らない間に、他の相続人が故人の預金を勝手に引き出していたことがわかったら、驚きと怒りで冷静ではいられなくなるかもしれません。しかし、感情的になっても問題は解決しません。落ち着いて、適切なステップで対処していくことが大切です。

まずは話し合い(遺産分割協議)で解決を目指す

まずは、預金を引き出した本人と直接話し合いの場を持ちましょう。感情的に問い詰めるのではなく、「何のために、いつ、いくら引き出したのか」を冷静に確認することが第一歩です。もし、引き出したお金がその人の個人的な利益のために使われていた場合、その金額分をその人がもらう予定だった相続財産から差し引く(これを「特別受益」として遺産分割の計算に含める)ことで、他の相続人との公平性を保つことができます。この方法で全員が合意できれば、裁判などを起こさずに円満に解決することが可能です。

話し合いで解決しない場合は法的手続きを検討

話し合いをしても相手が応じない、嘘をついてごまかそうとするなど、当事者間での解決が難しい場合は、法的な手続きを検討することになります。まずは、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てるのが一般的です。調停では、調停委員という中立な第三者が間に入って、双方の言い分を聞きながら、話し合いによる解決を目指します。それでも合意に至らない場合は、「不当利得返還請求訴訟」や「損害賠償請求訴訟」といった裁判を起こして、法的な判断を仰ぎ、引き出されたお金の返還を求めていくことになります。

預金引き出しで揉めないための予防策

相続トラブルは、一度こじれてしまうと、お金の問題だけでなく、大切な家族の絆にまで深い亀裂を入れてしまいます。そうした悲しい事態を避けるために、事前にできる予防策をしっかりと行っておきましょう。

引き出す前に相続人全員に連絡・相談する

これが最も重要で、最も基本的なルールです。たとえ1万円でも、たとえ葬儀費用という誰もが納得するような理由であっても、故人の預金に手をつける前には、必ず他の相続人全員に連絡をしましょう。「葬儀費用の支払いのために、〇〇銀行の口座から150万円を引き出そうと思うのですが、よろしいでしょうか?」というように、目的と金額を具体的に伝え、全員の了承を得てから行動に移す。この一手間が、後のトラブルを防ぐ最大の防御策になります。

使途がわかる領収書やメモを必ず保管する

相続人の代表として預金を引き出し、葬儀費用や医療費、公共料金の支払いなどを行った場合は、必ずその支払いを証明する領収書や請求書を保管しておきましょう。そして、そのコピーを他の相続人とも共有することが大切です。「何にいくら使ったのか」が誰の目にも明らかになっていれば、疑いの目を向けられることもありません。透明性を保つことが、信頼関係を維持する鍵となります。

生前のうちに話し合っておく(遺言書の作成)

究極の予防策は、ご本人(被相続人)が生前の元気なうちに準備をしておくことです。特に「遺言書」の作成は非常に有効です。遺言書の中で、「私の葬儀費用や入院費用の未払い分は、〇〇銀行の預金から支払うこと」といった一文を具体的に書き記しておけば、残されたご家族は迷うことなく手続きを進めることができます。誰が何をするのか、費用はどうするのかを生前に決めておくことで、ご家族が争うことを防ぐことができるのです。

まとめ

故人の預金引き出しは、葬儀費用などやむを得ない事情がある場合でも、他の相続人への配慮を欠いてしまうと、大きな相続トラブルに発展するリスクをはらんでいます。大切なのは、相続人全員で情報を共有し、手続きの透明性を保つことです。預金を引き出す前には必ず全員に相談し、何に使ったのかがわかる証拠をきちんと残す。この2点を徹底するだけで、多くのトラブルは未然に防ぐことができます。もし、すでに関係がこじれてしまったり、ご自身での対応に不安を感じたりした場合は、一人で抱え込まずに、弁護士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。大切なご家族との絆を守るためにも、正しい知識を持って、慎重に行動していきましょう。

参考文献

法務省:自筆証書遺言書保管制度

国税庁:共同相続における預金債権の法律関係

相続トラブル時の預金引き出しに関するよくある質問

Q.親が亡くなった後、口座が凍結される前に預金を引き出しても良いですか?

A.原則として、相続人全員の同意なしに引き出すべきではありません。後の相続トラブルの原因となります。葬儀費用など緊急の場合は、預貯金の仮払い制度を利用して正規の手続きで引き出すことをお勧めします。

Q.他の相続人が勝手に預金を引き出してしまいました。どうすればいいですか?

A.まずは引き出した相続人と話し合い、遺産分割でその分を考慮するよう求めましょう。応じない場合は、不当利得返還請求や遺産分割調停などの法的手続きを検討する必要があります。

Q.故人の口座から葬儀費用を引き出すことはできますか?

A.はい、可能です。「預貯金の仮払い制度」を利用すれば、金融機関ごとに一定額(上限150万円)まで相続人が単独で引き出すことができます。必要な書類を金融機関に確認してください。

Q.金融機関に死亡の連絡をしたら口座が凍結されました。どうすれば解除できますか?

A.口座の凍結を解除し、預金を引き出す(名義変更する)には、遺産分割協議書や遺言書、相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書など、金融機関が指定する書類一式を提出する必要があります。

Q.遺産分割協議が終わる前に、当面の生活費を引き出すことは可能ですか?

A.「預貯金の仮払い制度」を利用すれば、遺産分割前でも法定相続分に応じた一定額を引き出すことが可能です。ただし、引き出した額は遺産を先にもらったものとして扱われ、最終的な相続分から差し引かれます。

Q.亡くなった親のキャッシュカードでATMからお金を引き出すのは問題ありますか?

A.他の相続人の同意なく引き出す行為は、後で横領などを疑われ、深刻なトラブルに発展する可能性があります。たとえ正当な目的であっても、正規の手続きを踏むことを強くお勧めします。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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