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経営承継円滑化法の民法特例とは?事業承継の株式評価方法を優しく解説

2025-02-02
目次

会社の未来を後継者に託す事業承継。しかし、その過程では相続トラブル、特に「遺留分」が大きな壁となることがあります。この問題を解決するために作られたのが経営承継円滑化法の民法特例です。この特例を上手に活用することで、後継者が安心して経営に専念できる環境を整えることができます。この記事では、民法特例の仕組み、特に重要となる株式評価方法について、わかりやすく解説していきます。

経営承継円滑化法と民法特例の基本をおさらい

まずは、事業承継をスムーズに進めるための強力な味方である「経営承継円滑化法」と、その中核をなす「民法特例」の基本について見ていきましょう。なぜこの法律が必要なのか、どんな問題を解決してくれるのかを知ることが、理解への第一歩です。

そもそも経営承継円滑化法ってどんな法律?

経営承継円滑化法は、中小企業が次の世代へスムーズに事業を引き継げるように、国が支援するための法律です。この法律には、大きく分けて3つの支援策があります。1つ目は、贈与税や相続税の負担を軽くする「事業承継税制」。2つ目は、事業承継に必要な資金の融資をしやすくする「金融支援」。そして3つ目が、今回テーマとなる相続トラブルを防ぐための「遺留分に関する民法特例」です。これらを活用することで、事業承継に伴う様々なハードルを乗り越えやすくなります。

事業承継の壁「遺留分」とは?

遺留分」とは、兄弟や配偶者など、法律で定められた相続人が最低限受け取れる遺産の割合のことです。例えば、先代経営者が「会社の株式はすべて後継者である長男に譲る」という遺言を残したとしても、他の兄弟(相続人)は自身の遺留分を主張し、後継者に対して金銭などを請求できます。この請求に応じるために、後継者が会社の資金を使ったり、株式を手放したりすることになれば、会社の経営が不安定になるリスクがあります。これが事業承継における大きな壁となっているのです。

民法特例で遺留分の問題を解決!

そこで役立つのが民法特例です。この特例には「除外合意」と「固定合意」という2つの方法があり、これらを活用することで遺留分に関する将来のトラブルを未然に防ぐことができます。後継者に贈与した自社株を遺留分の計算から外したり、その評価額をあらかじめ固定したりできるため、後継者は遺留分をめぐる心配をすることなく、安心して経営に集中できるようになります。ただし、この特例を利用するには、後継者を含む推定相続人全員の合意が必要です。

民法特例の核心!「除外合意」と「固定合意」

民法特例の具体的な中身である「除外合意」と「固定合意」。この2つの制度は、遺留分問題を解決するための重要な選択肢です。それぞれの制度がどのような効果を持ち、どんな状況で役立つのかを詳しく見ていきましょう。

特例① 除外合意:株式を遺留分の計算から外す

除外合意とは、後継者が先代経営者から生前贈与された自社の株式などを、遺留分を計算するための財産の価額から除外するという合意のことです。この合意が成立すれば、他の相続人は、贈与された株式について遺留分を主張することができなくなります。これにより、会社の経営権の象徴である株式が分散してしまうリスクを根本からなくし、経営の安定性をがっちりと守ることができます。

特例② 固定合意:株式の評価額を贈与時の価値で固定する

固定合意とは、遺留分を計算する際に、贈与された自社株式の評価額を、相続人間の合意時点での評価額で固定するというものです。通常、遺留分を計算する際の株式評価額は、相続が開始した時点(先代経営者が亡くなった時点)の時価が基準となります。しかし、この特例を使えば、例えば贈与時の評価額で固定できます。後継者が一生懸命経営努力をして会社の価値が上がっても、その上昇分は遺留分の計算に影響しません。これにより、後継者の頑張りが将来の遺留分請求額の増加につながらないため、経営への意欲を削がれることなく事業に打ち込めます。

【重要】民法特例における株式評価方法

民法特例、特に「固定合意」を利用する上で、避けては通れないのが「株式の評価」です。この評価額が、将来の遺留分額を左右する重要な基準となります。では、この評価額は一体どのようにして決められるのでしょうか。その具体的な方法について解説します。

評価額はどうやって決めるの?

固定合意における株式の評価額は、当事者である推定相続人全員が合意した価額となりますが、その前提として客観的な時価を算定する必要があります。この評価額は、恣意的に低く設定することはできず、後々のトラブルを避けるためにも、税理士や公認会計士といった専門家が、公平な立場で算定するのが一般的です。客観的な根拠に基づいた評価額を提示することが、相続人間の円満な合意形成につながります。

合意時の評価額の算定方法

上場していない会社(非上場会社)の株式価値を算定するには、国税庁が定める「財産評価基本通達」の評価方法が用いられることが一般的です。会社の規模に応じて、主に以下のような評価方式が使われます。

会社の規模 主な評価方式
大会社 類似業種比準価額方式(事業内容が似ている上場企業の株価などを基に評価)
中会社 類似業種比準価額方式純資産価額方式の併用
小会社 純資産価額方式(会社の総資産から負債を差し引いた純資産額を基に評価)を原則とし、類似業種比準価額方式との併用も選択可能

これらの方式を適切に用いて、会社の状況に合った評価額を算出します。

専門家への相談が不可欠な理由

ここまで見てきたように、非上場株式の評価は非常に専門的で複雑です。会社の財務状況や業界の動向など、多くの要素を考慮しなければならず、知識のない方が正確に算定するのは困難です。評価額をめぐって相続人間で意見が対立することも少なくありません。だからこそ、事業承継に精通した税理士などの専門家に相談することが不可欠です。専門家が客観的な評価を行うことで、相続人全員が納得しやすくなり、スムーズな合意形成とトラブルの防止につながります。

民法特例を利用するための手続きの流れ

民法特例は非常に有効な制度ですが、利用するためには法律で定められた手続きをきちんと踏む必要があります。ここでは、実際に特例を利用するための具体的なステップを、順を追って解説します。

ステップ1:推定相続人全員の合意

最も重要で、かつ最初のステップが、後継者を含む推定相続人全員の合意形成です。先代経営者が存命のうちに、後継者と他の相続人候補全員が集まり、除外合意や固定合意の内容について話し合います。なぜこの特例が必要なのか、会社の将来のためにどうしたいのかを丁寧に説明し、全員の理解と納得を得た上で、その内容を盛り込んだ合意書を作成します。

ステップ2:経済産業大臣の確認

全員の合意が得られ、合意書が作成できたら、次に経済産業大臣の確認を受ける必要があります。申請は、中小企業庁の財務課が窓口となっており、申請書や合意書の写しなどの必要書類を提出します。ここでは、対象となる会社が中小企業であるか、後継者が会社の代表者であるかといった要件を満たしているかなどが確認されます。この確認を受けることで、合意が事業承継を円滑にするためのものであるというお墨付きを得られます。

ステップ3:家庭裁判所の許可

経済産業大臣の確認を受けたら、その日から1ヶ月以内に、先代経営者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行い、許可を得なければなりません。家庭裁判所では、この合意が当事者全員の真意に基づいてなされたものであるか、合意内容が著しく不公平ではないか、といった点が審理されます。家庭裁判所の許可を得て、ようやく民法特例の効力が確定します。

民法特例を利用する際の注意点

メリットの大きい民法特例ですが、利用する際にはいくつか注意すべき点があります。計画を立てる前にこれらのポイントをしっかり理解しておくことで、後々の「こんなはずではなかった」を防ぐことができます。

推定相続人「全員」の合意が必要

この特例を利用するための最大のハードルは、推定相続人「全員」の合意が必要であるという点です。たった一人でも反対する人がいれば、この制度を利用することはできません。そのため、日頃から家族間でコミュニケーションを取り、会社の状況や事業承継の重要性について理解を深めてもらうことが大切です。一方的な決定ではなく、全員で会社の未来を考える姿勢が求められます。

手続きには時間がかかる

民法特例の手続きは、申請すればすぐに完了するものではありません。相続人間の話し合いによる合意形成から始まり、経済産業大臣の確認、そして家庭裁判所の許可まで、全体で数ヶ月から1年以上かかることもあります。事業承継を考え始めたら、できるだけ早い段階から計画的に準備を進め、余裕を持ったスケジュールで手続きに取り組むことが重要です。

遺留分以外の相続権はなくならない

この特例は、あくまで贈与された自社株式などに関する「遺留分」の計算についてのものです。そのため、他の相続人の相続権そのものがなくなるわけではありません。株式以外の預貯金や不動産といった財産については、通常通り遺産分割の対象となります。株式の問題だけが解決しても、他の財産で揉める可能性は残っているため、遺言書の作成など、総合的な相続対策を併せて検討することが大切です。

まとめ

経営承継円滑化法の民法特例は、事業承継の際に大きな障害となりがちな遺留分問題を解決するための非常に有効な手段です。特に「固定合意」を利用する際には、合意の基準となる株式評価を専門家と連携して適正に行うことが、円満な合意形成の鍵となります。この特例を成功させるためには、推定相続人全員の合意という高いハードルがありますが、会社の安定経営と後継者の未来を守るために、時間をかけてでも取り組む価値のある制度です。円滑な事業承継を実現するためには、早期からの計画的な準備、専門家への相談、そして何よりも家族間の丁寧な対話を心がけましょう。

参考文献

中小企業庁:遺留分に関する民法の特例

国税庁:取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等

経営承継円滑化法の民法特例に関するよくある質問

Q. 経営承継円滑化法の民法特例とは何ですか?

A. 後継者が先代経営者から贈与された自社株について、遺留分の計算対象から外したり(除外合意)、その評価額を贈与時などの価額で固定したり(固定合意)できる制度です。これにより、事業承継に伴う相続トラブルを未然に防ぐことができます。

Q. なぜ株式の評価が必要なのですか?

A. 「固定合意」を利用する際、将来の遺留分を算定する基礎となる株式の価額を、相続人間の合意に基づき客観的に決定する必要があるためです。この評価額が、後継者以外の相続人が主張できる遺留分額の基準となります。

Q. 株式の評価は誰でもできますか?

A. 非上場株式の評価は専門的な知識が必要なため、事業承継に詳しい税理士や公認会計士などの専門家に依頼するのが一般的です。客観的で公平な評価を行うことが、後のトラブル防止につながります。

Q. 家族の誰か1人でも反対したら特例は使えませんか?

A. はい、その通りです。この特例は、後継者を含む推定相続人「全員」の書面による合意がなければ利用することができません。そのため、家族間の丁寧な話し合いが非常に重要になります。

Q. 手続きはすぐに終わりますか?

A. いいえ、簡単には終わりません。相続人間の合意形成に始まり、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可というステップを踏む必要があり、全体で数ヶ月以上の時間がかかるのが一般的です。計画的な準備が求められます。

Q. この特例を使えば、他の相続人は財産を全くもらえなくなるのですか?

A. いいえ、そうではありません。この特例はあくまで贈与された自社株式などに関する「遺留分」の計算を調整するものです。株式以外の預貯金や不動産といった財産については、通常通り遺産分割の対象となり、相続権がなくなるわけではありません。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

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