ご家族が亡くなられ、相続手続きを進めなければならない時、相続人のお一人がベトナムに住んでいると、「手続きはどう進めればいいの?」「必要な書類は日本と同じなの?」と不安に思われるかもしれませんね。国際的な手続きが絡むと、どうしても複雑に感じてしまいます。でも、ご安心ください。一つひとつのステップをきちんと理解すれば、スムーズに手続きを進めることができます。この記事では、相続人がベトナムに居住している場合の相続手続きについて、分かりやすく解説していきます。
国際相続の基本ルール:どの国の法律が適用される?
相続手続きでまず大切なのが、「どの国の法律に基づいて進めるか」という点です。これを「準拠法」といいます。相続人がベトナムに住んでいるからといって、必ずしもベトナムの法律が適用されるわけではありません。日本の法律では、「相続は被相続人(亡くなった方)の本国法による」と定められています。つまり、亡くなった方が日本国籍であれば、たとえ相続人がベトナムに住んでいても、日本の民法に基づいて相続手続きが進められます。この記事では、被相続人が日本国籍であることを前提として解説を進めていきますね。
ベトナム在住の相続人が日本で用意すべき重要書類
日本の相続手続きでは、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要になる場面が多くあります。しかし、ベトナムに住んでいる場合、日本の市区町村で印鑑登録ができないため、印鑑証明書を取得することができません。その代わりに、在外公館(在ベトナム日本国大使館や総領事館)で取得できる特別な書類が必要になります。
署名証明書(サイン証明)
署名証明書(サイン証明)は、印鑑証明書の代わりとなる最も重要な書類です。これは、本人が在外公館の職員の目の前で遺産分割協議書などに署名し、その署名が本人のものであることを証明してもらうものです。この証明書を遺産分割協議書に添付することで、実印の押印と印鑑証明書と同じ効力を持つと認められます。不動産の名義変更(相続登記)や金融機関での手続きに必須となります。
在留証明書
在留証明書は、ベトナムのどこに住んでいるかを証明する書類で、日本の住民票の代わりとして使われます。不動産の相続登記手続きなどで、相続人の住所を証明するために必要となります。これも署名証明書と同じく、在外公館で発行してもらえます。
ベトナム在住の相続人が準備する書類一覧
手続きをスムーズに進めるために、必要となる主な書類をまとめました。実際のケースによって追加で書類が必要になることもありますので、専門家や手続き先に確認してくださいね。
| 書類の種類 | 主な役割・取得場所 |
| 署名証明書(サイン証明) | 印鑑証明書の代わり。在ベトナム日本国大使館・総領事館で取得。 |
| 在留証明書 | 住民票の代わり。在ベトナム日本国大使館・総領事館で取得。 |
| 戸籍謄本 | 被相続人との関係を証明。日本の本籍地役場で取得(日本在住の親族に代理取得を依頼することが多いです)。 |
具体的な相続手続きの流れ
必要書類がわかったところで、実際の相続手続きがどのように進んでいくのかを見ていきましょう。主な流れは、日本にいる相続人と大きくは変わりませんが、書類のやり取りに時間がかかることを考慮しておく必要があります。
遺産分割協議と遺産分割協議書の作成
まず、相続人全員で遺産の分け方について話し合う「遺産分割協議」を行います。ベトナム在住の相続人とは、電話やWeb会議などを利用して話し合いを進めるのが現実的です。全員が合意したら、その内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成します。作成した協議書をベトナムに郵送し、現地で署名証明書を取得しながら署名してもらい、日本へ返送してもらう流れが一般的です。
金融機関(預貯金)の手続き
銀行などの預貯金を解約・名義変更する際には、金融機関所定の書類に加えて、相続人全員の戸籍謄本や遺産分割協議書、そしてベトナム在住の相続人の署名証明書が必要になります。金融機関によっては独自の書式や追加書類を求められることもあるので、事前に電話などで確認しておくと安心です。
不動産(土地・建物)の相続登記
不動産を相続した場合、法務局で所有権移転登記(相続登記)を行います。この手続きにも遺産分割協議書が必要です。ベトナム在住の相続人については、印鑑証明書の代わりに「署名証明書」、住民票の代わりに「在留証明書」を添付して申請します。2024年4月1日から相続登記は義務化されており、相続の開始を知った日から3年以内に申請する必要があるので注意しましょう。
忘れてはいけない相続税の申告と納税
相続人が海外に住んでいる場合でも、日本の財産を相続した場合には、日本の相続税が課税される可能性があります。税金の手続きは特に複雑なので、しっかり確認しておきましょう。
相続税の納税義務者
相続人が海外に住んでいる場合、日本の相続税の課税対象は、原則として「日本国内にある財産のみ」です。ただし、被相続人(亡くなった方)か相続人のどちらかが、相続開始前10年以内に日本に住所を持っていた場合は、海外にある財産も課税対象になることがあるので注意が必要です。ご自身の状況がどちらに当てはまるか、国税庁のウェブサイトなどで確認するか、税理士に相談することをおすすめします。
納税管理人の選任が必要
日本に住所がない相続人が相続税の申告・納税を行う場合、「納税管理人」を定める必要があります。納税管理人とは、本人に代わって税務署からの書類を受け取ったり、税金を納付したりする代理人のことです。親族や税理士などに依頼するのが一般的で、「納税管理人届出書」を所轄の税務署に提出することで選任できます。
相続税の申告期限
相続税の申告と納税の期限は、国内にいる相続人と同様、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。海外との書類のやり取りには時間がかかるため、早め早めに準備を進めることが大切です。
手続きをスムーズに進めるためのポイント
国際相続は、時間も手間もかかりがちです。少しでもスムーズに進めるために、以下のポイントを心掛けてみてください。
専門家への早めの相談
相続人が海外にいるケースは、通常の相続よりも手続きが複雑です。必要書類の取得方法や法的な解釈など、専門的な知識が必要な場面が多くあります。国際相続の経験が豊富な司法書士や税理士に早めに相談することで、手続きの見通しが立ち、安心して進めることができます。
相続人同士の密なコミュニケーション
物理的な距離があるからこそ、相続人同士のコミュニケーションがより一層重要になります。手続きの進捗状況や必要書類について、こまめに連絡を取り合い、認識のズレがないようにしましょう。特に、書類の郵送には時間がかかるため、スケジュールを共有しておくことがトラブルを防ぐ鍵となります。
まとめ
相続人がベトナムに居住している場合の相続手続きは、「署名証明書」や「在留証明書」といった特別な書類を用意し、「納税管理人」を選任する、という点が大きなポイントです。一見、難しそうに感じるかもしれませんが、一つひとつの手続きを丁寧に進めていけば、必ず完了できます。時間的な余裕を持って、専門家の力も借りながら、円満な相続手続きを目指しましょう。
参考文献
ベトナム在住の相続手続きに関するよくある質問まとめ
Q. 相続人がベトナムに住んでいます。日本の法律とベトナムの法律、どちらが適用されますか?
A. 亡くなった方(被相続人)が日本国籍であれば、相続人がどこに住んでいても、日本の法律(民法)に基づいて相続手続きを進めます。
Q. ベトナム在住なので印鑑証明書がありません。どうすればいいですか?
A. 在ベトナム日本国総領事館などで「署名証明書(サイン証明)」という書類を取得します。これが遺産分割協議書などに添付する印鑑証明書の代わりになります。
Q. 遺産分割協議は日本に行かないとできませんか?
A. 必ずしも日本に行く必要はありません。遺産分割協議書を郵送でやり取りしたり、Web会議で話し合ったりすることで、ベトナムにいながら協議に参加できます。
Q. 日本に住んでいなくても相続税はかかりますか?
A. はい、日本国内にある不動産や預貯金などの財産を相続した場合は、日本の相続税の課税対象となります。
Q. 相続税の申告や納税はどうすればいいですか?
A. 日本国内に住む親族や税理士などを「納税管理人」として選任し、その人を通じて税務署への申告や納税手続きを行うのが一般的です。
Q. 手続きが複雑で不安です。誰に相談すればいいですか?
A. 国際相続は専門的な知識が必要なため、国際相続の経験が豊富な司法書士(登記手続き)や税理士(相続税申告)などの専門家に相談することをおすすめします。