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役員報酬の未払金、放置は危険?税務上の論点と解消法を解説

2025-04-15
目次

会社の資金繰りが厳しく、ご自身の役員報酬を支払えず「未払金」として計上している経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。役員報酬は会社の経費(損金)にできるため、未払いでも計上したい気持ちはよく分かります。しかし、その未払金を長期間そのままにしておくと、税務調査で思わぬ指摘を受ける可能性があります。この記事では、役員報酬の未払金に関する税務上の論点、放置するリスク、そして具体的な解消方法まで、わかりやすく解説していきます。

役員報酬の未払金とは?

まずは「役員報酬の未払金」がどのようなものか、基本的な部分から確認していきましょう。なぜ発生するのか、似たような勘定科目である「役員借入金」との違いも整理しておきましょう。

役員報酬未払金の基本的な考え方

役員報酬は、原則として毎月同じ日に同じ金額を支払う定期同額給与というルールに則って支給されます。このルールを守ることで、支払った役員報酬を会社の経費(損金)として計上できます。
しかし、会社のキャッシュフローが悪化し、株主総会で決めた役員報酬を支払うためのお金が足りなくなることがあります。このような場合に、会計上は支払う義務があるものとして、貸借対照表の負債の部に「未払金」や「未払役員報酬」として計上します。つまり、役員報酬の未払金とは、会社が役員に対して支払うべき報酬のうち、まだ支払えていない金額のことを指します。

なぜ役員報酬の未払金が発生するのか?

未払金が発生する最も一般的な理由は、会社の資金繰りの悪化です。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 売上が急激に減少した
  • 大きな仕入れや設備投資で手元の現金がなくなった
  • 売掛金の回収が遅れている

また、会社設立時や事業年度の初めに、節税を意識して役員報酬を高めに設定したものの、思ったように利益が出ず、結果的に支払えなくなってしまうというケースも少なくありません。役員報酬は事業年度の開始から3ヶ月以内に決めると、その後1年間は原則変更できないため、計画と実績のズレが未払金を生む原因となります。

未払金と役員借入金の違い

未払金と混同されがちな勘定科目に「役員借入金」があります。どちらも会社と役員とのお金の貸し借りですが、お金の流れる方向が全く逆です。この違いをしっかり理解しておくことが重要です。

勘定科目 内容
役員報酬未払金 会社が役員に支払うべきお金(会社から見れば負債、役員から見れば債権
役員借入金 役員が会社にお金を貸している状態(会社から見れば負債、役員から見れば債権だが、発生原因が異なる)

簡単に言うと、未払金は「会社が役員への支払いを待ってもらっている状態」、役員借入金は「役員が会社の資金不足を補っている状態」です。どちらも会社の負債ですが、その性質は大きく異なります。

役員報酬の未払金に関する税務上の論点

役員報酬の未払金を計上する上で、税務上はどのように扱われるのでしょうか。特に重要となる「損金算入」「源泉徴収」のタイミング、そして長期間放置した場合の問題点について見ていきましょう。

損金算入のタイミングはいつ?

法人税法上、費用の計上タイミングは「債務確定主義」という考え方が基本です。これは、実際に支払ったかどうかではなく、支払う義務が確定した時点で経費として認識するというルールです。
役員報酬の場合、株主総会で報酬額が決定され、支給日が到来すれば支払う義務(債務)が確定します。そのため、たとえ資金不足で支払いができていなくても、その事業年度の損金として計上することが可能です。これにより、会社の利益を圧縮し、法人税の負担を軽減する効果があります。

源泉徴収のタイミングと納税義務

次に、役員報酬から天引きする源泉所得税の扱いです。所得税法では、源泉徴収は「現実に支払った時」に行うのが原則です。したがって、役員報酬が未払いの間は、会社に源泉徴収義務は発生しません。
未払いであった報酬を後日支払った際に、その支払額に応じた源泉所得税を計算し、支払い月の翌月10日までに税務署へ納付することになります。
ただし、注意点として、法人が役員報酬の支払いを遅らせている場合でも、その役員の役員報酬以外の債務(例えば、役員借入金の返済など)を支払っている場合には、その支払った金額が役員報酬の支払いとみなされ、源泉徴収義務が発生することがあります。

長期間未払いのままだとどうなる?

未払金を長期間にわたって放置していると、税務調査で厳しくチェックされる可能性があります。税務署は「そもそも支払う意思がなく、利益操作のために架空計上しているのではないか」と疑いの目を向けるからです。
もし支払う意思がないと判断された場合、その未払金は損金として認められず、否認されるリスクがあります。損金性が否認されると、その分の利益が上乗せされ、修正申告と追徴課税(過少申告加算税や延滞税など)が必要になってしまいます。

役員報酬の未払金を放置するリスク

税務上の論点とも関連しますが、未払金を放置することにはいくつかの具体的なリスクが伴います。税務調査での指摘だけでなく、会社の信用問題にも関わってきます。

税務調査で指摘される可能性

税務調査において、役員報酬の未払金は重点的に確認される項目の一つです。特に、以下のような状況は指摘を受けやすくなります。

  • 未払金が毎年増え続けている
  • 数年間にわたって全く返済されていない
  • 役員報酬の金額が会社の業績や規模に見合っていない
  • 役員個人は他の収入で生活しており、報酬を必要としていないように見える

これらの状況から「報酬の請求権を放棄している(支払う必要がない)」または「実質的には役員賞与である」と判断される可能性があります。

役員賞与と認定されるリスク

未払いであった役員報酬を、例えば従業員のボーナス時期に合わせてまとめて支払うようなケースでは、その支払いが「役員賞与」と認定されるリスクが高まります。役員賞与は、事前に税務署へ届出をする「事前確定届出給与」などの手続きを踏まない限り、原則として損金に算入できません
過去の裁決例でも、毎月の役員報酬の一部を未払金として計上し、賞与の時期にまとめて支払っていたケースで、その支払いは実質的に役員賞与に該当するため損金不算入である、と判断されたものがあります。形式的に未払計上していても、実態で判断されるということを覚えておきましょう。

金融機関からの信用低下

税金の問題だけでなく、金融機関からの評価にも影響します。貸借対照表に多額の未払役員報酬が計上されていると、金融機関は「役員報酬も払えないほど資金繰りが厳しい会社」「負債が多く、返済能力が低い」と判断する可能性があります。
特に、未払金が原因で債務超過(負債が資産を上回る状態)に陥っている場合、新規の融資を受けることが非常に困難になります。会社の成長のために資金調達が必要な場面で、足かせとなってしまうのです。

役員報酬の未払金の解消方法

積み重なった未払金は、いずれ解消する必要があります。ここでは、代表的な3つの解消方法をご紹介します。

会社の資金繰り改善後に支払う

最も健全でシンプルな方法です。事業が軌道に乗り、キャッシュフローが改善した時点で、溜まっていた未払金を役員に支払います。この際、支払ったタイミングで源泉徴収を行うことを忘れないようにしましょう。一度に全額支払うのが難しい場合は、会社の資金繰りを見ながら分割で支払っていく計画を立てるのが現実的です。その計画を議事録などで残しておくと、税務調査の際に「支払う意思がある」ことの証明にもなります。

債務免除(役員から会社への贈与)

役員が会社に対して持っている報酬の請求権を放棄する方法です。これにより、会社の負債である未払金は消滅します。
ただし、注意点があります。会社側から見ると、返済するはずだった借金がなくなったことになるため、その金額は「債務免除益」という利益として扱われ、法人税の課税対象となります。会社の業績が赤字で繰越欠損金が多くある場合には、債務免除益と相殺できるため有効な手段となり得ます。

DES(デット・エクイティ・スワップ)の活用

DES(Debt Equity Swap)とは、会社の負債(Debt)を資本(Equity)に交換(Swap)する手法です。具体的には、役員が持つ会社への債権(未払役員報酬)を現物出資の形に代えて、会社の資本金を増やす手続きを行います。
この方法のメリットは、債務免除益のような課税が発生せずに、負債を減らし自己資本を増強できる点です。財務体質が大きく改善するため、金融機関からの評価も向上する可能性があります。ただし、手続きが複雑で、登記の変更なども必要になるため、実行する際は税理士や司法書士などの専門家への相談が不可欠です。

役員報酬の見直しも検討しよう

未払金の解消とあわせて、根本的な原因である役員報酬の金額そのものを見直すことも非常に重要です。

会社の現状に合った報酬額への変更

未払金が常態化しているということは、設定されている役員報酬額が会社の支払い能力を超えている証拠です。見栄や過去の実績にとらわれず、現在の会社の利益水準や資金繰りに見合った、無理なく支払える金額に見直しましょう。
役員報酬の変更は、事業年度開始の日から3ヶ月以内に行う必要があります。このタイミングを逃すと、次の事業年度まで変更できなくなるため、決算が終わったら速やかに来期の役員報酬について検討することが大切です。

報酬減額と未払金返済の組み合わせ

有効な対策として、役員報酬の月額を減額し、その減額によって会社に残るようになったキャッシュを、過去の未払金の返済に充てるという方法があります。
例えば、月100万円の役員報酬を月70万円に減額し、浮いた30万円を未払金の返済に充てる、といった形です。この場合、役員個人の手取り額は、社会保険料や所得税の負担が減ることで、あまり変わらない、あるいは増える可能性さえあります。会社としては負債を着実に減らすことができ、役員個人の負担も少なく済む、一石二鳥の方法と言えるでしょう。

まとめ

役員報酬を払う原資がなく未払金として計上し続けることは、短期的には損金算入による節税メリットがあります。しかし、長期間放置してしまうと、税務調査での損金否認や役員賞与認定といった税務リスク、さらには金融機関からの信用低下など、多くのデメリットを抱えることになります。
もし未払金が溜まってしまっている場合は、この記事でご紹介した解消法を参考に、できるだけ早く対策を講じることが重要です。同時に、自社の収益力に見合った役員報酬額に見直すことで、将来の未払金の発生を防ぎ、健全な会社経営を目指しましょう。

参考文献

国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

役員報酬の未払金に関するよくある質問

Q. 役員報酬が未払いでも損金にできますか?

A. はい、可能です。法人税法では、実際に支払ったかどうかではなく、支払義務が確定した時点(債務確定主義)で損金に算入できます。したがって、資金繰りの都合で支払いができていなくても、その事業年度の損金として計上することができます。

Q. 未払いの役員報酬の源泉徴収はいつ行いますか?

A. 源泉徴収は、原則として「現実に報酬を支払った時」に行います。未払いの間は源泉徴収義務は発生しません。後日、未払いであった報酬を支払った際に、その支払額に対して源泉徴収を行い、翌月10日までに納付します。

Q. 未払金を長期間放置するとどうなりますか?

A. 税務調査で「支払う意思がない」と判断され、損金算入が否認されたり、「役員賞与」と認定されて損金不算入となるリスクがあります。また、金融機関からの信用が低下し、融資が受けにくくなる可能性もあります。

Q. 役員報酬の未払金を役員の退職金に充当できますか?

A. はい、可能です。役員が退職する際に、未払役員報酬と役員退職金を相殺することができます。ただし、退職金の金額が不相当に高額だと認められない場合があるため、適正な金額の範囲内で行う必要があります。専門家への相談をおすすめします。

Q. 役員報酬の未払金を放棄(債務免除)した場合、税金はかかりますか?

A. 役員が報酬請求権を放棄すると、会社側では返済義務がなくなるため、その金額が「債務免除益」という利益として認識され、法人税の課税対象となります。ただし、会社に繰越欠損金があれば、それと相殺することができます。

Q. 役員報酬の未払金と役員借入金はどう違いますか?

A. お金の流れが逆になります。「役員報酬未払金」は、会社が役員に支払うべきお金が未払いになっている状態です。一方、「役員借入金」は、役員が会社にお金を貸し付けている状態を指します。どちらも会社の負債ですが、発生の原因が異なります。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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