ご自身の資産が増え続けて、将来の相続税が心配になっていませんか?特にアパートやマンションなどの収益物件をお持ちの場合、毎月の家賃収入でどんどん現金が増えてしまいますよね。そんなとき、有効な選択肢の一つが「収益物件を孫に生前贈与する」という方法です。この方法は、ご自身の資産増加を抑えるだけでなく、相続が発生した際の「貸家建付け地評価」という節税テクニックとも深く関わってきます。今回は、収益物件の贈与と相続について、メリットや注意点を分かりやすくお話ししますね。
収益物件を「孫」へ贈与する2つの大きなメリット
なぜお子さんではなく、「孫」への贈与が注目されるのでしょうか。それには、相続税対策として非常に効果的な理由が2つあります。ただ渡すだけでなく、将来を見据えた賢い資産移転の方法として考えてみましょう。
将来の相続財産の増加をストップできる
収益物件を持っていると、何もしなくても毎月家賃収入が入ってきます。これは嬉しいことですが、同時にご自身の預金、つまり相続財産が自動的に増え続けていることになります。将来の相続税は、この増えた財産にも課税されてしまいます。そこで、収益物件そのものを早めに孫へ贈与してしまえば、それ以降の家賃収入は孫のものになります。これにより、ご自身の資産がそれ以上増えるのを防ぎ、結果として将来の相続税負担を抑えることにつながるのです。
世代を一つ飛ばして効率的に資産を移せる
通常、財産は「祖父母→親→子(孫から見て)」という順番で2回相続されます。相続は発生するたびに相続税がかかる可能性があるため、2回相続するということは、同じ財産に2回課税されるリスクがあるということです。しかし、祖父母から孫へ直接贈与を行えば、「親」の世代をスキップできます。これにより、相続の回数を1回減らすことができ、長期的に見て大きな節税効果が期待できるのです。これを「世代飛ばし贈与」と呼び、効率的な資産承継の方法として知られています。
贈与と相続で知っておきたい不動産の評価方法
「1億円の現金を贈与する」のと「1億円で買った収益物件を贈与する」のでは、実は税金の計算方法が全く異なります。不動産は現金と違って、贈与や相続の際には特別な評価額が使われるため、ここに節税のポイントが隠されています。
贈与・相続時の不動産評価額は時価より低い
不動産の贈与や相続で税金を計算するとき、その不動産の評価額は売買価格(時価)ではなく、国が定めた基準で計算されます。これが大きなポイントです。
| 財産の種類 | 評価方法 |
| 土地 | 路線価(時価の約80%が目安) |
| 建物 | 固定資産税評価額(建築価額の約50%~60%が目安) |
例えば、5,000万円の現金を贈与すれば、評価額はそのまま5,000万円です。しかし、時価5,000万円(土地3,000万円、建物2,000万円)の収益物件を贈与する場合、評価額は土地が約2,400万円、建物が約1,100万円、合計で約3,500万円となり、現金に比べて評価額を低く抑えることができます。評価額が低いということは、それだけ贈与税や相続税の負担も軽くなる可能性があるということです。
相続時に最大の効果を発揮する「貸家建付け地評価」
収益物件を持っていることの最大の相続税メリットが、この「貸家建付け地(かしやたてつけち)評価」です。これは、人に貸している土地の評価額を下げてくれる特例で、店子(入居者)がいる限り適用されます。
貸家建付け地の評価額はどう計算する?
人に貸している土地(アパートの敷地など)は、次の計算式で評価額が減額されます。
自用地としての評価額 × (1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
少し難しく見えますが、中身はシンプルです。
- 借地権割合:地域ごとに定められており、路線価図で確認できます(例:60%)。
- 借家権割合:全国一律で30%と決まっています。
- 賃貸割合:アパートの部屋がどれだけ埋まっているかの割合です。満室なら100%です。
例えば、借地権割合60%の地域で、満室のアパートが建っている土地の場合、1 – (60% × 30% × 100%) = 0.82となり、土地の評価額が18%も減額されることになります。1億円の土地なら8,200万円で評価されるため、非常に大きな節税効果です。
なぜ評価額が下がるの?
評価額が下がる理由は、「土地の所有者であっても、入居者がいる限りは自由にその土地を使えないから」です。例えば、土地を売りたいと思っても、入居者にすぐに出て行ってもらうことはできませんよね。このような利用上の制約があるため、更地に比べて価値が低いとみなされ、評価額が減額されるのです。この特例を受けるためには、相続が発生した時点で入居者がいることが絶対条件です。
孫への収益物件贈与で注意すべき3つのポイント
メリットの大きい孫への収益物件贈与ですが、実行する前に必ず確認しておきたい注意点もあります。計画を立てる際は、これらのリスクも十分に考慮しましょう。
高額な贈与税と不動産取得税
収益物件は高額な資産ですから、基礎控除(年間110万円)だけでは到底カバーできず、多額の贈与税がかかることがほとんどです。贈与を受ける孫が、その納税資金を準備できるかどうかが大きな課題となります。また、贈与税とは別に、不動産の名義変更に伴う不動産取得税や登録免許税もかかります。これらの諸費用も合計するとかなりの金額になるため、事前にしっかりとシミュレーションしておくことが不可欠です。
相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される
税制改正により、2024年1月1日以降の贈与から、相続開始前7年以内に行われた贈与は、相続財産に持ち戻して相続税を計算するルールになりました。(※段階的に適用期間が延長されます)つまり、贈与してから7年以内にご自身が亡くなってしまうと、せっかく贈与した物件が相続税の対象となり、贈与による節税効果が薄れてしまう可能性があります。この制度を考えると、生前贈与はできるだけ早く、お元気なうちから計画的に進めることが重要です。
入居者の変動リスクと経営の手間
収益物件を贈与するということは、賃貸経営そのものを引き継ぐということです。空室が増えれば家賃収入は減りますし、建物の修繕や入居者トラブルへの対応など、経営には手間もかかります。贈与する前に、孫が賃貸経営について理解し、責任を持って引き継ぐ意思があるかどうかを、しっかりと話し合っておくことが大切です。もし経営が難しい場合は、信頼できる管理会社に委託するなどの対策も合わせて検討しましょう。
まとめ
収益物件を孫に贈与することは、ご自身の資産増加を抑え、将来の相続税負担を軽減するための非常に有効な手段です。特に、世代を一つ飛ばすことで、長期的な節税効果も期待できます。一方で、相続対策として「貸家建付け地評価」も非常に強力な制度です。この評価減を受けるためには、入居者がいる状態で相続を迎える必要があります。
すべての物件を贈与するのではなく、一部を贈与して資産の増加を抑えつつ、残りの物件は所有し続けて貸家建付け地評価のメリットを活かすなど、ご自身の資産状況やご家族の状況に合わせたバランスの良い対策が重要です。
生前贈与には高額な税金や様々な手続きが伴いますので、実行する前には必ず税理士などの専門家に相談し、ご自身にとって最適なプランを立てるようにしてくださいね。
参考文献
収益物件の贈与・相続に関するよくある質問
Q.収益物件を孫に贈与する一番のメリットは何ですか?
A.祖父母様の資産が家賃収入で増え続けるのを防ぎ、将来の相続税負担を抑えられる点です。また、親の世代を飛ばして直接孫に資産を移せるため、課税の回数を一回減らせる効果もあります。
Q.贈与するときの不動産の評価額はどう決まりますか?
A.土地は時価の約8割が目安の「路線価」、建物は建築費の5〜6割が目安の「固定資産税評価額」で評価されます。現金で贈与するよりも評価額を低く抑えられるため、贈与税の節税につながります。
Q.「貸家建付け地評価」とは何ですか?
A.アパートなど人に貸している土地は、所有者でも自由に使えないため、相続時の評価額が更地より低くなる制度です。通常、更地の評価額から約15%〜21%減額されます。
Q.孫に贈与すれば、必ず相続税対策になりますか?
A.必ずしもそうとは限りません。贈与者が亡くなる前7年以内に行われた贈与は相続財産に加算されます。また、高額な贈与税や不動産取得税がかかるため、全体のバランスを見て判断する必要があります。
Q.贈与税以外にかかる費用はありますか?
A.はい、あります。不動産の名義変更時に、国に納める「登録免許税」と、都道府県に納める「不動産取得税」がかかります。これらも事前に計算しておくことが大切です。
Q.店子(入居者)がいると、なぜ相続で有利なのですか?
A.入居者がいることで、その土地が「貸家建付け地」として評価され、土地の相続税評価額が減額されるからです。入居者が一人もいない空室状態だと、この評価減は適用されません。