相続税の申告が終わって一安心…と思いきや、税務署から「税務調査に伺います」と連絡がきたら、誰でも不安になってしまいますよね。国税庁の発表によると、相続税の申告をした方のうち、約1割が税務調査の対象になっているのが現状です。「うちは大丈夫かな?」と心配になるのも無理はありません。しかし、税務調査は、事前にポイントを押さえてしっかりと対策をしておけば、決して怖いものではありません。この記事では、税務署がどのような点をチェックするのか、調査に入られやすいのはどんなケースなのか、そして私たちが事前にできる対策について、専門的な内容を優しく、わかりやすく解説していきます。
税務署が重点的に見る!申告漏れの典型的な6つのケース
税務調査と聞くと、何か特別なことのように感じるかもしれませんが、調査官が見ているのは「申告されるべき財産が、正しく申告されているか」という点です。特に、以下のような項目は申告漏れが起こりやすく、税務署も重点的にチェックしています。
名義預金:家族名義でも故人の財産?
「名義預金」という言葉を聞いたことはありますか?これは、口座の名義は配偶者やお子さん、お孫さんになっていても、実質的には亡くなった方(被相続人)が管理・支配していた預金のことを指します。例えば、専業主婦の奥様名義の口座に多額の預金があったり、お子さんやお孫さん名義の口座の通帳や印鑑を被相続人が管理していたりするケースがこれにあたります。たとえ家族の名義であっても、その原資が被相続人の収入であり、名義人が自由に使える状態ではなかったと判断されると、相続財産として申告漏れを指摘される可能性が非常に高いです。
直前の預金引き出し:使途不明金は要注意
亡くなる直前に、被相続人の口座から数百万円単位のまとまった現金が引き出されている場合、税務署はその使い道について詳しく確認します。もちろん、入院費用や葬儀費用など、正当な理由があれば問題ありません。しかし、領収書などで使途を証明できない「使途不明金」については、「手元現金として相続人が保有しているのではないか」と判断され、相続財産に含めるよう指摘されることがあります。
手元現金(タンス預金):なぜ税務署にバレるのか
「自宅に保管している現金、いわゆるタンス預金なら税務署にはわからないだろう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、税務署は「KSK(国税総合管理)システム」というデータベースで、被相続人の過去の所得税の申告状況や不動産の取引履歴などをすべて把握しています。これにより、生涯でどれくらいの収入があり、どれくらいの財産を築いているかを大まかに推計できるのです。その推計額に対して、申告された相続財産が著しく少ない場合、税務署は自宅に隠された現金の存在を疑い、調査に乗り出すのです。
生前贈与:証拠がないと相続財産に
相続税対策として行われる「生前贈与」も、税務調査で厳しくチェックされるポイントです。特に注意したいのが、贈与の証拠が不十分なケースです。例えば、贈与契約書を作成していなかったり、現金を手渡ししていたりすると、税務署から「それは贈与ではなく、単なる名義預金だったのではないか」と判断されるリスクがあります。また、相続が始まる前の一定期間内に行われた贈与は、相続財産に加算して計算する「生前贈与加算」というルールがあります。この期間は、これまで3年でしたが、2024年1月1日以降の贈与からは段階的に7年に延長されていますので、注意が必要です。
保険金・退職金:非課税枠の超過
被相続人が亡くなったことで受け取る死亡保険金や死亡退職金には、相続人の生活を守るという観点から、一定の金額まで税金がかからない「非課税枠」が設けられています。この非課税枠の額は「500万円 × 法定相続人の数」で計算されます。例えば、法定相続人が妻と子2人の合計3人であれば、1,500万円までが非課税となります。この非課税枠を超える部分については、他の財産と同じように相続税の課税対象となりますが、この計算を誤って申告漏れとなるケースが少なくありません。
不動産の評価:評価ミスは指摘の対象
相続財産の中でも、土地や建物などの不動産は評価が難しく、税務署との見解の相違が生まれやすい項目です。土地の評価は主に「路線価方式」が用いられますが、土地の形が不整形であったり、道路に面していなかったりする場合には、評価額を下げるための様々な補正計算が必要になります。この評価方法や補正計算が適切に行われていないと、評価額が本来より低すぎると指摘されることがあります。また、アパートなどの賃貸物件(貸家建付地)は評価額が下がりますが、その賃貸の実態が伴っているかどうかも細かくチェックされます。
税務調査が入りやすいのはどんな時?5つの要注意パターン
相続税の申告をしたすべての家庭に税務調査が入るわけではありません。税務署は、限られた人員の中で効率的に調査を行うため、「申告漏れの可能性が高い」と判断した案件を優先的に選びます。以下のような状況に当てはまる場合は、調査対象に選ばれやすい傾向があると言えるでしょう。
相続財産全体に占める現預金の割合が大きい
相続財産に占める現金や預貯金の割合が大きいと、税務署の注意を引きやすくなります。不動産と比べて金額が明確であるため、申告漏れを発見しやすいからです。また、相続財産の総額が2億円を超えるような高額なケースでは、単純な計算ミスや評価誤りの影響も大きくなるため、調査対象となる確率が格段に上がると言われています。
生前贈与や家族間の資金移動が多い
生前のうちに、被相続人から家族へ頻繁にお金が動いている記録があると、それが適切な贈与であったか、あるいは名義預金ではないかといった点を詳しく調べるために調査対象となりやすいです。特に、収入の少ない専業主婦の配偶者や学生の子ども名義の口座に多額の残高がある場合は、その資金の出所について説明を求められるでしょう。
相続人の間で申告内容に食い違いがある
複数の相続人がそれぞれ別の税理士に依頼して申告した場合や、一部の相続人が申告内容に協力的でなかった場合などに、提出された申告書間で財産の評価額や内容に食い違いが生じることがあります。税務署はこうした矛盾点を見逃さず、事実確認のために調査を行うことがあります。
評価が難しい不動産がある
広大な土地や、複雑な形状の土地、あるいは多くの人が権利を持つ共有不動産など、評価が専門的で難しい不動産が含まれている場合も調査の対象になりやすいです。評価方法が適正であったか、専門家の視点で詳しく確認する必要があると判断されるためです。
相続争いの兆候がある、または相続人が疎遠である
相続人同士の関係が不仲であったり、遺産分割協議が難航しているようなケースでは、お互いの財産状況を正確に把握できていないことが多く、結果として申告漏れにつながりやすいと考えられています。また、他の相続人への不満から、税務署へ匿名で情報提供が行われることもあり、それが調査のきっかけになることも少なくありません。
税務調査当日に確認される主な書類・資料
税務調査の連絡があると、事前に準備すべき資料について指示があることが多いですが、一般的に調査官は申告内容の裏付けを取るために以下のような資料を確認します。スムーズに対応できるよう、あらかじめ整理しておくと安心です。特に預金通帳は、被相続人のものだけでなく、相続人全員分を求められることが多いのが特徴です。
| 資料の種類 | 確認されるポイント |
|---|---|
| 預貯金通帳・取引明細書 | 被相続人のものは過去5~10年分、相続人のものも過去3~5年分が目安。不自然な入出金、家族間の資金移動、名義預金の可能性などを確認します。 |
| 保険契約に関する書類 | 保険証券や支払通知書など。契約者、被保険者、受取人の関係や、非課税枠の計算が正しいかを確認します。 |
| 不動産に関する資料 | 登記簿謄本、売買契約書、固定資産税評価証明書、測量図など。評価額の根拠や、登記と申告内容が一致しているかを確認します。 |
| 生前贈与に関する資料 | 贈与契約書、銀行の振込記録など。贈与が確実に行われた証拠となるものを確認します。メモ書きなども重要な資料になり得ます。 |
| その他 | 被相続人の日記や手帳、エンディングノート、遺言書など。申告されていない財産の手がかりがないか確認します。 |
今からできる!税務調査を回避するための事前対策5選
税務調査の連絡が来てから慌てるのではなく、できれば調査対象に選ばれないようにしたいものですよね。そのためには、相続が発生する前から、そして申告書を作成する段階で、いくつかの対策を講じておくことが非常に有効です。ここでは、今日からでも始められる5つの対策をご紹介します。
資産の動きを記録し、説明できるようにしておく
被相続人の財産から大きなお金が動いた際には、「いつ、誰が、何のために、いくら使ったのか」を記録し、関連する領収書などを保管しておく習慣をつけましょう。例えば、高額な医療費の支払いや、家のリフォーム代金など、後からでもきちんと説明できるようにしておくことで、調査官に余計な疑念を抱かせずに済みます。
関連書類をきちんと保管しておく
預金通帳はもちろんのこと、不動産の売買契約書、保険証券、有価証券の取引報告書、高価な物品を購入した際の領収書など、財産に関する書類は一か所にまとめて大切に保管しておきましょう。いざ相続が起こったときに、財産の全体像をスムーズに把握でき、申告漏れを防ぐことにつながります。
贈与は契約書と振込で証拠を残す
家族に財産を贈与する際は、必ず贈与契約書を作成しましょう。難しいものではなく、「いつ、誰から誰へ、何を贈与したか」を明記し、双方の署名・捺印があれば十分です。そして、現金の受け渡しは避け、必ず銀行振込を利用してください。通帳に記録が残ることで、贈与があった事実を客観的に証明でき、名義預金と疑われるリスクを大幅に減らすことができます。
生前に財産の棚卸しを行い、財産目録を作成して家族と共有する
元気なうちに、ご自身の財産を一覧にした「財産目録」を作成しておくことを強くお勧めします。預貯金、不動産、有価証券、保険、借入金などをすべてリストアップし、どこに何があるのかを家族と共有しておきましょう。これにより、相続人が財産を探し回る手間が省け、申告漏れという最大のリスクを防ぐことができます。
申告前に税理士へ相談し、誤りを防ぐ
相続税の申告は非常に専門性が高く、複雑です。特に不動産の評価や特例の適用などは、専門家でなければ判断が難しい部分が多くあります。申告書を提出する前に、相続税に詳しい税理士に相談し、内容をチェックしてもらうことで、計算ミスや解釈の間違いを未然に防ぎ、調査のリスクを大きく下げることができます。日頃から資産の動きを整理し、証拠を残しておくことが、最大の防御策となるのです。
もし申告漏れを指摘されたら?ペナルティについて
万が一、税務調査で申告漏れを指摘され、追加で税金を納めることになった場合、本来納めるべきだった税金に加えて、ペナルティとしていくつかの税金が課されます。どのようなペナルティがあるのか、知っておきましょう。
| ペナルティの種類 | 内容と税率 |
|---|---|
| 延滞税 | 納税が遅れたことに対する利息のようなものです。納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて課されます。税率は年によって変動します。 |
| 過少申告加算税 | 申告した税額が本来より少なかった場合に課されます。税率は原則として、追加で納める税額の10%です。(税務調査の通知前に自主的に修正申告すれば課されません) |
| 無申告加算税 | 期限内に申告をしなかった場合に課されます。税率は原則として、納めるべき税額の15%です。 |
| 重加算税 | 意図的に財産を隠すなど、悪質なケースに課される最も重いペナルティです。過少申告の場合は35%、無申告の場合は40%もの高い税率が課されます。 |
このように、申告漏れには重いペナルティが伴います。だからこそ、最初の申告を正確に行うことが何よりも大切なのです。
まとめ
今回は、相続税の税務調査について、税務署がチェックするポイントや調査に入られやすいケース、そして私たちが事前にできる対策について詳しく解説しました。税務調査は、決して特別なことではなく、申告内容に不明な点があれば誰にでも行われる可能性があります。しかし、その核心は「財産を正しく申告しているか」という一点に尽きます。日頃からご自身の資産状況を整理し、家族と共有しておくこと。そして、贈与などの資金移動は必ず証拠を残しておくこと。こうした地道な準備が、いざという時にあなたとご家族を守る最大の対策となります。もし少しでも不安な点があれば、一人で悩まずに、専門家である税理士に相談してみてくださいね。
参考文献
相続税の税務調査に関するよくある質問
Q. 相続税の税務調査はいつ頃に来ますか?
A. 相続税の申告期限から1年~2年後の、8月から11月頃に行われることが多いです。これは税務署の人事異動が7月にあるため、新しい担当者が引き継ぎを終えてから調査を開始するためと言われています。
Q. 税務調査にはどれくらいの時間がかかりますか?
A. 一般的には1日で終わることがほとんどです。午前中に聞き取り調査、午後に通帳などの現物確認という流れが一般的です。ただし、財産内容が複雑な場合などは、2日間にわたることもあります。
Q. 家族名義の通帳も調べられますか?
A. はい、調べられます。税務署は名義預金や不自然な資金移動がないかを確認するため、亡くなった方の通帳だけでなく、配偶者やお子さんなど相続人全員の過去数年分の通帳の提出を求めることが一般的です。
Q. 申告漏れを指摘されたらどうなりますか?
A. 追加で発生した相続税を納める「修正申告」を行う必要があります。それに加え、ペナルティとして「延滞税」や「過少申告加算税」などが課されます。財産隠しなど悪質な場合は、さらに重い「重加算税」の対象となります。
Q. 税理士に頼めば税務調査は来ませんか?
A. 税理士が関与した申告は信頼性が高いため、調査対象となる確率は下がりますが、ゼロにはなりません。ただし、相続税に詳しい税理士に依頼することで、申告内容の精度が上がり、調査のリスクを大幅に減らすことが可能です。
Q. タンス預金はなぜバレるのですか?
A. 税務署は、亡くなった方の過去の収入や納税記録から、生涯で築いたおおよその財産額を把握しています。申告された財産がその推計額より著しく少ない場合、自宅に現金(タンス預金)が隠されていると疑い、調査の対象とします。