海外赴任や海外移住などで日本を離れて暮らしていると、「日本の税金はどうなるの?」と疑問に思うことはありませんか。先に結論からお伝えしますね。
- 非居住者でも、日本国内で生じた「国内源泉所得」があれば確定申告が必要です(代表例:日本の不動産の家賃収入、日本の不動産の売却益、内国法人の役員報酬)。
- ただし、源泉徴収だけで課税関係が終わる所得しかない場合や、そもそも国内源泉所得がない場合は申告不要です。
- 申告する場合は、原則として日本国内の「納税管理人」を選任し、税務署へ届け出て手続きを進めます。
- 期限は居住者と同じく、原則として翌年3月15日です。
知らずに手続きを忘れてしまうと、無申告加算税などのペナルティが課されることもあります。この記事では、申告が必要になるケースと不要になるケースの見分け方、そして海外からの手続きの進め方を、順番にご説明していきますね。
海外在住者の確定申告、ポイントは「居住者」か「非居住者」か
海外に住んでいる方が日本で確定申告をする必要があるかどうかは、日本の所得税法で定められている「居住者」と「非居住者」のどちらに当てはまるかによって変わってきます。まずは、この基本的な違いから見ていきましょう。
「居住者」と「非居住者」の違いとは?
「どこに住んでいるか」という単純な話ではなく、「生活の本拠がどこにあるか」という観点で判断されるのがポイントです。それぞれの定義と、課税される所得の範囲を下の表にまとめました。
| 区分 | 定義 |
|---|---|
| 居住者 | 日本国内に「住所」があるか、または現在まで引き続いて1年以上「居所」がある個人 |
| 非居住者 | 「居住者」以外の個人 |
| 区分 | 課税される所得の範囲 |
|---|---|
| 居住者 | 日本国内で得た所得も、海外で得た所得も、すべての所得(全世界所得)が課税対象です。 |
| 非居住者 | 日本国内で発生した「国内源泉所得」のみが課税対象です。 |
「住所」とは、生活の中心となっている場所のことです。住民票の有無だけでなく、職業や家族の状況などから総合的に判断されます。例えば、1年未満の海外出張のように、すぐに日本に戻ることが明らかな場合は「居住者」とみなされることが多いんですよ。
海外にいても「居住者」として扱われるケース
海外で生活していても、日本の所得税法上「居住者」に該当する場合があります。例えば、海外への滞在が1年未満の予定である場合や、ご家族が日本で暮らしていて生活の基盤が日本にあると判断される場合などです。この場合、海外で得た給与なども含めたすべての所得を日本で申告する必要があります。
「非居住者」でも確定申告が必要なケース
海外での生活が長くなり「非居住者」に該当する場合でも、日本国内で得た所得、つまり「国内源泉所得」があれば、その所得について日本で確定申告をする必要があります。こちらが、国外居住者が確定申告をする主なケースになります。
非居住者が確定申告すべき「国内源泉所得」とは?
では、具体的にどのような所得が「国内源泉所得」にあたるのでしょうか。海外にお住まいの方が関わる可能性の高い代表的なケースを3つご紹介します。
日本国内にある不動産を貸している(不動産所得)
海外赴任中に、もともと住んでいた日本の家を誰かに貸している場合、その家賃収入は不動産所得として国内源泉所得に該当します。この不動産所得がある場合は、日本で確定申告が必要です。家賃収入から、固定資産税や修繕費、管理費などの必要経費を差し引いて所得を計算します。
日本国内にある不動産を売却した(譲渡所得)
日本に所有していた土地や建物を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)も国内源泉所得となります。この場合も確定申告が必要です。不動産の所有期間によって税率が変わるなど、計算が少し複雑になることもあります。不動産を売却した場合、原則として買主が売却代金の10.21%を源泉徴収して税務署に納める決まりになっていますが、確定申告をすることで税金の還付を受けられる場合もあります。
日本企業から役員報酬などを受け取っている
海外に住みながら日本の企業の役員を務めていて、その報酬を受け取っている場合も、その報酬は国内源泉所得とみなされ、日本での課税対象となります。報酬が海外の口座に振り込まれていても、その支払元が日本であれば課税の対象となるので注意が必要ですね。
非居住者でも確定申告が「不要」になるケース
「海外に住んでいるけれど、自分は申告しなくてよいのでは?」と気になる方も多いと思います。非居住者の方で確定申告が不要になるのは、主に次の3つのケースです。
そもそも国内源泉所得がない
日本国内に不動産も収入源もなく、給与も勤務地である海外の会社から受け取っているだけ、という場合は、日本で課税される所得がありませんので確定申告は不要です。海外の支店などに1年以上の予定で転勤した方が現地で受け取る給与は、たとえ日本の本社から支払われていても、勤務地が国外であれば原則として日本の所得税は課税されません。
源泉徴収だけで課税関係が終わる所得しかない(源泉分離課税)
非居住者の国内源泉所得のうち、日本国内に支店などの「恒久的施設」を持たない方が受け取る利子・配当・使用料などは、支払われる際に源泉徴収されるだけで課税関係が完結する(源泉分離課税)のが基本です。この場合、あらためて確定申告をする必要はありません。主な源泉徴収の税率は次のとおりです。
| 国内源泉所得の種類 | 源泉徴収の税率 |
|---|---|
| 土地等の譲渡対価 | 10.21% |
| 不動産の賃貸料等 | 20.42% |
| 利子等 | 15.315% |
| 上場株式等の配当等 | 15.315% |
| 給与その他人的役務の提供に対する報酬 | 20.42% |
※所得税および復興特別所得税の合計税率です。
家賃収入・売却代金は源泉徴収されていても確定申告が必要
注意していただきたいのが、不動産の賃貸料と土地等の譲渡対価です。これらは源泉徴収の対象ですが、源泉徴収だけでは課税関係が終わりません。不動産所得・譲渡所得として確定申告を行い、源泉徴収された税額を精算する必要があります。逆にいえば、経費や取得費を差し引いた結果、源泉徴収された税額が納めるべき税額を上回っていれば、確定申告によって還付を受けられます。「源泉徴収されているから何もしなくてよい」と思い込んで、払い過ぎたままになっているケースは少なくありません。
なお、不動産の賃貸料のうち、借主が自分や親族の居住用に借りている個人である場合は源泉徴収されません。土地等の譲渡対価も、買主が自分や親族の居住用に購入した個人で、対価が1億円以下であれば源泉徴収は不要です。この場合でも、賃貸や売却をした非居住者側の確定申告義務はなくなりませんのでご注意くださいね。
非居住者の確定申告手続き、どう進める?
日本に住所がない非居住者が確定申告を行うには、特別な手続きが必要です。ご自身で直接行うのは難しいため、代理人を立てるのが一般的です。
「納税管理人」の選任が必須です
非居住者が日本で確定申告を行う場合、自分に代わって申告書の提出や納税、還付金の受け取りといった税務手続き全般を行ってくれる「納税管理人」を選任し、税務署に届け出る必要があります。納税管理人は、税務署からの書類を受け取る窓口の役割も担います。
納税管理人は誰に頼める?
納税管理人には、特別な資格は必要ありません。日本国内に住所がある個人または法人であれば、誰でもなることができます。そのため、ご家族や親しい友人、あるいは勤務先の会社などに依頼するケースが多いです。ただし、税務に関する手続きは専門的な知識が求められるため、安心して任せたい場合は税理士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
納税管理人の届出方法
納税管理人を決めたら、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」という書類を作成し、出国する日までに、ご自身の納税地を管轄する税務署へ提出します。この手続きを忘れてしまうと、申告がスムーズに進まなくなってしまうので、海外へ出発する前に必ず済ませておきましょう。
申告先の税務署(納税地)と提出期限
海外から申告する場合、「どこの税務署に出せばよいのか」で迷いやすいところです。所得税の確定申告書は、提出時の納税地を所轄する税務署長に提出することになっています。納税管理人の届出をしている場合は、その届出書に記載した納税地(一般には出国前の住所地や、国内にある不動産の所在地など)を所轄する税務署が窓口です。判断に迷うときは、届出書を提出した税務署に確認するのが確実ですよ。
提出期限は居住者と同じで、原則として翌年の3月15日です。ただし、納税管理人を定めずに出国する場合は、出国の時までにその年の1月1日から出国の日までの所得について確定申告(準確定申告)をする必要があります。出国前にバタバタしないためにも、納税管理人の選任は早めに済ませておくことをおすすめします。
非居住者の確定申告に関する注意点
非居住者の確定申告には、居住者の場合と異なる点がいくつかあります。事前に知っておきたい注意点をまとめました。
e-Tax(電子申告)は原則として利用できない
「海外からならオンラインで申告できるのでは?」と思うかもしれませんが、非居住者は原則としてe-Taxを利用した確定申告はできません。というのも、海外へ転出する際に住民票を抜くと、マイナンバーカードに搭載されている電子証明書の効力が失われてしまうためです。そのため、納税管理人を通じて書面で申告するのが基本となりますが、納税管理人が税理士の場合は、その税理士がe-Taxによって、非居住者の確定申告書を代理送信をすることが出来ます。
適用される所得控除に制限がある
一年を通じて非居住者であった年の確定申告では、受けられる所得控除の種類が限られます。具体的には、雑損控除、寄附金控除、基礎控除の3つのみが適用対象となります。医療費控除や生命保険料控除、配偶者控除などは適用できない点に注意が必要です。ただし、年の途中で居住者から非居住者になった場合は、居住者であった期間に支払った保険料などは控除の対象になります。
申告・納税が遅れるとペナルティが発生
これは居住者の場合と同じですが、申告が必要であるにもかかわらず期限(原則として翌年の3月15日)までに申告しなかったり、納税が遅れたりすると、ペナルティが課せられます。本来の税額に加えて、無申告加算税や延滞税を追加で納めなければならなくなる可能性がありますので、必ず期限内に手続きを済ませましょう。
まとめ
海外に住んでいるからといって、日本の税金と無関係というわけではありません。特に、日本国内に不動産をお持ちの方や、日本企業から収入を得ている方は、非居住者として確定申告が必要になる可能性が高いです。手続きの鍵となるのは、出国前に「納税管理人」を選任し、税務署に届け出ておくことです。国際的な税務は複雑な部分も多いため、不安な点があれば、税務署や税理士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。ご自身の状況をしっかり確認して、忘れずに手続きを行ってくださいね。
この記事を読んだ方へ
Corporate Tax
法人の税務顧問・法人税申告のご相談
判断に迷ったら、まずは税理士にご相談ください。オンラインでも対応しています。
法人のお客様へ
Contact
税理士に無料で相談する
フォームは24時間受付。1営業日以内にご返信します。
無料相談フォームへ
参考文献
- 国税庁 No.2875 居住者と非居住者の区分
- 国税庁 No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合
- 国税庁 No.1923 海外勤務と納税管理人の選任
- 国税庁 No.1932 海外勤務中に不動産を売却した場合
- 国税庁 No.2873 非居住者等に対する課税のしくみ
- 国税庁 No.2878 国内源泉所得の範囲
- 国税庁 No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率
- 国税庁 No.2029 確定申告書の提出先(納税地)
- 国税庁 No.1929 海外で勤務する法人の役員などに対する給与の支払と税務
- 日本税理士会連合会 税理士(法人)が納税管理人となっている場合
国外居住者の確定申告に関するよくある質問
Q.海外に住んでいれば、日本の確定申告はしなくても良いですか?
A.いいえ、必ずしも不要ではありません。日本の所得税法上の「居住者」に該当する場合や、「非居住者」であっても日本国内で発生した所得(国内源泉所得)がある場合は、確定申告が必要です。
Q.非居住者とはどのような人ですか?
A.日本の所得税法上、国内に「住所」がなく、かつ現在まで引き続き1年以上「居所」を有しない個人のことを指します。一般的に、1年以上の予定での海外赴任や海外移住などがこれに該当します。
Q.納税管理人とは何ですか?
A.納税管理人とは、日本に住所がない非居住者に代わって、確定申告書の提出や納税、税金の還付手続きなど、一切の税務手続きを行う代理人のことです。
Q.納税管理人は誰でもなれますか?
A.日本国内に住所を持つ個人または法人であれば、特別な資格は必要ありません。ご家族やご友人、または税務の専門家である税理士などに依頼することが一般的です。
Q.海外からe-Tax(電子申告)で確定申告はできますか?
A.原則としてできません。海外への転出届を提出すると、マイナンバーカードに搭載されている電子証明書が失効するため、e-Taxを利用した本人確認ができなくなるからです。納税管理人を通じて書面で提出するのが一般的です。
Q.確定申告を忘れてしまったらどうなりますか?
A.申告期限までに確定申告をしなかった場合、本来納めるべき税金に加えて、ペナルティとして「無申告加算税」が課されます。また、納税が遅れると「延滞税」も発生しますので、ご注意ください。
Q.非居住者でも確定申告が不要になるのはどんな場合ですか?
A.日本国内に収入源がなく国内源泉所得がない場合や、利子・配当・使用料のように源泉徴収だけで課税関係が完結する(源泉分離課税の)所得しかない場合は、確定申告は不要です。ただし、日本の不動産の家賃収入や売却益は源泉徴収だけでは終わらず、確定申告で精算する必要があります。
Q.海外に住んでいる場合、確定申告書はどこの税務署に出すのですか?
A.提出時の納税地を所轄する税務署に提出します。納税管理人の届出をしている場合は、その届出書に記載した納税地を所轄する税務署が窓口になります。判断に迷うときは、届出書を提出した税務署にご確認ください。


